四十七話 防衛/復讐に駆る、森の道化師
─深夜の森─
魑魅魍魎、有象無象が大胆不敵に跋扈する時刻となった。日中に活動を停止していた怪物らが支配する、暗殺者の時間帯。
実際に、旅商人やら運送業者やらが被害を被るのは、深夜が多い。人間は暗視する能力に長けていない。火元を確保しなければ体力も奪われ、隙を見計らった怪物たちの猛襲が始まる。
今だけは、混沌たちの領域。弱者は跪き、身の程をわきまえ、強者に道を譲るべきなのだ。
「相棒! 肉焼け肉!」
「馬鹿野郎、臭いに釣られて怪物が来たらどうすんだよ」
「もう手遅れだろそんなん。オレたちがいる時点で、怪物が襲ってくるのは確定なんだよ。昨日だってそうだろ?」
「やっぱり! 怪物が襲ってきてたんじゃんか!」
不安を煽らないように、誤魔化す方針で進めていったつもりだったんだが。この鬼人は口が緩いな。
「お嬢ちゃん、怪物が来ても、物音立てずに追っ払うから安心して寝てていいからな」
「寝れるわけないでしょ! 起こしてよ? 絶対起こしてよね!?」
数十分後……。晩餐は終わり、焚き火を継続させながら休憩する。あれだけ怪物云々、報告云々と心残りしていた店主さんは、真っ先に寝息を立てていた。
今晩は、絶対に寝ないぞ。寝たら死ぬとかじゃなくて、もう一人の見張り役が要注意だからだ。勿論、店主さんの身の安全が最優先であるが。
「ロンゴ、寝るときは一声掛けてから寝てくれよ? 寝てるかどうか分からんから」
「あ? 寝てるかどうかって……見りゃすぐ分かんだろ?」
「それがな、分からないんだよ」
「……? 相棒も勝手に寝るんじゃねぇぞ? 対応が遅れてたからな」
互いを監視し合うような発言をかました。まあ薄気味悪いのでそんなことは御免だが。
…………。
……………………。
「……なあロンゴ、お前ちゃんと身体洗った───」
「……………………」
永遠の眠りにつかせてやろうかこの野郎。なんなの? そこまで殴られたいの? それが望みなら喜んでぶん殴るよ? 自分の発言に責任を持てよ?
隣で眠る店主さんを起こさぬよう、ゆらりと立ち上がり、舐め腐った鬼人の頭頂部目掛けて拳を振りかぶる……
「……ん?」
前に、異様な光がチラついた。
二つの真円。それは、俺たちを偵察しているようであった。真円は発光しているのではなく、硝子のように光を反射させている。
正体は掴めた。あれは生物である。
だが、心霊的な要素が重複し、心臓の鼓動が加速する。
キキキッ……
「ひっ……お、おい起きろロンゴ! 怪物が来たぞ!」
「んが……起きてる……って、またアイツか……」
「アイツ……? もしかして昨日のか?」
アイツ。昨夜交戦した、あのトロールだ。天狗鼻で頬が落ちた、仏頂面の怪物。
「相棒……武器を構えろ。一暴れしようぜ……!」
「仕方ねぇ……いや店主さんは起こすなよ?」
ロンゴは背中に斜め掛けされた棍棒を、俺は腰に差した剣を引き抜いた。
執念深い奴だ。ここで決着と行こうじゃねぇか!
キキッ!




