九話 森林の狩人、トストプの狩猟
「おい、あのパーティーだぜ。厳重注意になたって話だぜ」
「可哀想に。やっぱりあの赤髪が原因だろうな。俺のパーティーにも来たんだけどよ、早急に突き放して正解だったな」
「しかも、銀髪も増えてるじゃねぇか。魔法が使えるって事に期待しちまったんだろうな……。あの男、可哀想に……」
哀れむ言葉を送る先は、集会所の片隅にひっそりと居座る、三人組のパーティー。その内、一人の男は泣きそうな顔をしている。
「……。お前ら解雇していい?」
「してもいいけど、あることないこと言い散らすよ?」
こういう女だよコイツは。
逃げ道を完全に断たれた俺、絶望した顔で頭を抱える。
「今後とも、よろしくお願いしますね」
「くそう……何でリーダーが全責任を負うんだよ……悪いのセリスだけじゃねぇか」
「でも、私の魔法の凄さがよく分かりましたよね?」
「地味すぎるうえに、効果が渋いんだが。なんで徐々に弱まるんだよ」
セリスはションボリしてしまった。
空のコップを人数分持ってきた銀髪の彼女は、不満顔をしながら掌をコップにかざし、流れる水を発生させた。
「…………は!? お前今何した!?」
それぞれのコップに注がれた水を飲む女性二人は、怪奇現象にさほど疑心を抱いていない。
「何って……水魔法ですけど」
「使えるなら言えよ! もしかして他の魔法も使えるとか!?」
「使えますよ。炎、水、風、雷、土、全部」
「そっちを自慢しろよ!」
「すげぇな。普通だったら一つか二つ、奇才でも三つしか操れないのにな」
「でも、普通の魔法は全く使えないんですよ。炎魔法は威力が完全にランダムで、水魔法はさっきみたいな超低火力。風魔法はハリケーン並の威力しか出せず、調整が出来ません。雷魔法は軌道操作が出来ず、あらぬ方向へ飛んでいき、土魔法はベチョベチョした泥を生み出す程度です」
最後の土魔法はなんか嫌だな……。
このパーティー、外観だけなら美女の、いわゆるハーレム的な構成になっている。でも、今のところ問題しかない。他のパーティーの男どもは既に察しており、羨ましいという嫉妬の心は一つも無い。
そういえば、なんでこんな所にいるんだろう。冒険者に成ることは夢だったが、何かあった気が……。
……ルイシュ? 何故か分からないがルイシュの顔が浮かんだ。
思い出した。ルイシュからは『世界を守れ』的な事を言われたな……。
ここで一つ頭に過る。
「……そうだセリス。古の龍がどうのこうのって話、教えてくれ」
セリスに出会った時に、彼女が切羽詰まったように訴えていたことだ。今の気分を紛らわせるためには、少しでも興味のある話題が欲しかった。
「あれはですね、なんかこう、ビビッと来たんですよ」
「……は?」
「趣味の占いをやってたんですよ。それで、百枚のカードを直感で選んだんですね。そしたらなんと! 災い、古の龍、目覚めの三枚を連続で引いたんですよ!」
占いでも何でもねぇ。浅すぎる。
俺はルイシュに『世界を守れ』と宣告されたため、もしかしてその古の龍が関係していると推測したが……この具合では、一切関係無さそうだ。
「アイシャ、依頼って何にした?」
「ちょっと! 私の勘は十中八九当たるんですよ!」
勘じゃねぇか。
待ってましたと言いたげに、依頼を決めたアイシャは、掲示板から剥がした一枚の紙を、机の中央に滑らせた。
紙の半分を占める絵。そこには、なんとも言い難い怪物の姿が。
「次の依頼はコレ、[トストプの討伐]。報酬金は一匹毎に二千ジル、出来る限り討伐して欲しいんだとよ。場所は、さっき銀髪がやらかした草原の近くの森」
「討伐は無しだと言ったが?」
「そうと決まれば、早速出発しましょう! 私の初陣です!」
一番張り切ってるけど、ついさっきの失態を忘れてないだろうな?
ー森ー
道中、ストンロクスの足跡がくっきりと残っていた。土が掘り返されており、その足腰の強靱さが窺える。
今回の討伐対象は『トストプ』という怪物。来る途中、アイシャによる解説が始まった。
一言で言えば、肉食動物。
フクレテッポウの様なシルエットをしているが……全くの別物。
頭部から尾先にかけて小さな棘が生え揃い、鋭く発達した牙と鉤爪を持つ。フクレテッポウより頑丈な顎は可動域が広く、噛み付いた獲物を易々と逃がさない。集団で生活する習性があり、狩りも集団で行うらしい。
群れには一匹、普通のトストプより数段大きなボスがいる。
人間を襲うことも稀ではない。繁殖期にはより凶暴になる。安全に産卵を行うため、卵を産むメスを中心に、大きく円を描くようにオスが見張りをする……。
と、いう風に淡々と解説が為された。俺は相槌を打つことしか出来なかった。
「つまり単独行動はするなって事。分かったか後輩?」
「なるほどよーく分かった」
「いざとなったら、私が魔法で蹴散らしてやりますから……うわっ蜘蛛の巣が」
「私がいれば危険など無いぜ? 安心していろ……うわっ窪みが」
ははは、こいつは頼もしい。とても不安だ。
突き進むこと数十分後……。
未だにトストプ気配が無い。というか、トストプどころか中型の怪物すらいない。景色は変わらず、四方八方は木と草のみ。
太い根っこが這い出ていたり、地面が隆起していたりと、非常に歩きづらい。
「なあアイシャ、本当にいるのか?」
「いなかったら依頼を出さないだろ。……しゃーない。本当はやりたくなかったが……私に『作戦』がある」
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