桜の王子様Ⅱ 9
『調子に乗ってんじゃねぇよ!』
「っっ!」
ハッとして目を開けると、
真っ暗な天井が見えた。
「はあ、はぁ、はぁ・・・」
・・・あれ?
俺、今殴られるところだったのに。
ああ、そうか。
夢だったんだ。
「はあ・・・っ」
背中が汗でびしょびしょに濡れている。
すごく、気持ちが悪い。
・・・イヤだな。
また、思い出して怯える日々が続くんだ。
「いっ、つ・・・」
起き上がろうとしただけで、体中が痛む。
寝る前に痛み止めの薬を飲んだはずなのに。
ということは、
朝までこの気持ち悪さと痛さを我慢しなきゃいけないんだ。
「・・・那智」
急に低い声が聞こえて、心臓が跳ね上がった。
隣を見ると、寝ているはずの桑野くんの目が開いていた。
焦点の定まっていない眼差し。
もしかしたら、俺のせいで目が覚めちゃったのかも。
「ごめんね、桑野くん。起こしちゃったよね」
「いや、起きてた」
起きてた?
「あ・・・」
桑野くんの手が、俺のおでこを包む。
「お前、うなされてたから。・・・すげぇ汗」
桑野くんの手・・・気持ちいい。
優しくて、ひんやりしていて、
胸が熱くなる。
「時間空いてねぇから薬は飲めないな。
・・・タオルと着替え、どこだ?」
「あ・・・」
場所を伝えると、桑野くんは起き上がってそれらを持ってきてくれる。
そして、俺を着替えさせてくれた。
ようやく、あの気持ち悪さから解放されたんだ。
「桑野くん」
「あ?」
「・・・ありがとう」
微笑むと、桑野くんが複雑そうな顔をして、
俺の頭を優しく撫でる。
「く、桑野くん?」
「身体痛ぇのに、寝れんのか?」
「・・・それは」
確かに、桑野くんの言うとおり、まだ痛い。
身体も、心も。
・・・あ、
桑野くんが、少し俺に近づく。
そして背中に手を回して、
ゆっくりと擦り始めた。
「何も考えるな」
囁かれた瞬間、
何かがぐっと込み上げてきた。
目頭が熱くなって、
自然と涙が零れる。
まるで、固まった恐怖心を溶かすかのように。
「・・・・・・うん」
俺は桑野くんの手の感触を味わいながら、
目を閉じた。