タイムリープ ①
はじめに 新年あけましておめでとうございます
これからも できる限り書いていく次第ですのでどうぞボクっ娘彼女をよろしくお願いします
皆様のこの一年がよい年でありますようにm(_)m
春はもう半ば。桜の木々はとっくの昔に枯れ木に変わり、見る姿はみすぼらしい。だが、ここ中津川公園に人は絶えない。その理由はこの公園には象やら馬やら猿やらリスやらと動物園には劣るも数多くの動物が飼育されているからだ。理由は詳しくは知らないが、どこか金持ちの出来た人間がこの市のイメージアップとかでこの公園を建設したとかないとか。
まぁ、噂は噂でどこでどう大きくも小さくもなるか分からない。というよりもどうでもいいな。
と、まぁ。何故にそんな紹介をしたのかと言うとだ。今まさにその公園を俺が歩いているからだ。しかも付き人もおまけで。
「で、何でお前と二人で公園デートとかしなくちゃならないわけ?せっかくの休みなのに。」
俺は目前の象を見ながら同じく象を眺める人物に問いを投げた。
「おいおい。お前が呼んだんだろ?久々に会わねぇか?とか珍しく。」
「あぁ。そうだっけな。」
そう。今、俺の隣で象を眺める人物は桜木ではなく小学校からの友人。和明である。
「で、何だって今日は俺を呼んだんだ?まぁ、大した用事もないからいいけどよぉ。」
その台詞にどこか敵意が込められてるのはまぁ、気のせいでしょう。そうでしょう。無視して俺は象から目を外す。
「場所移そうぜ。」
「あ?別にいいけど、どこ行くんだよ?大体、何でここ?」
問われても特に理由などない。ここに来た目的は何となくだし。場所を移す理由もただ象の動きに飽きてきただけだし。
「はぁ~。何があったか知らんけど、俺に用がねぇなら悪いが帰るぜ。陰気な男と二人デートとか趣味じゃねぇし。」
何も答えず、その場を離れる俺を見て和明は溜息混じりの台詞を吐く。
「‥和明。」
「あ?」
俺がコイツを今日、ここに呼んだ理由。それは多分、確かめなきゃならないと思ったからだ。小学校から俺を知っているコイツに俺は確かめたいと思ったから。だから、俺はコイツを呼んだのだ。
その理由もどこか他人事めいた感じであるが。きっとそうなのだ。
「少し長くなると思う。それでも構わないか?」
自分でも思える程にしおらしい声だった。気にするなと言われたがそうもいかない。自分の問題を解決できず、何が他人の問題を解決するだ。
「はぁ~。いいぜ。その為に俺を呼んだんだろうし。ただ、条件がある。」
「条件?」
まぁ、コイツがタダで動いてくれるとは思っちゃいない。長い付き合いだ。それくらいは予想できていたこと。
「できる範囲内ならな。」
ボソリ。呟くと和明は大きく首を振って笑みを刻む。
「分かってる。分かってるって。何、ただ昼めし奢って貰うだけだって。店はどこでもいいぜ。値段も問わん。な?」
何がな?だ。俺の金銭状況を理解している癖に。
だが、まぁ。そのくらいは仕方がない。
「分かった。お前の善意を期待する。好きな店を選べ。」
「はは。こりゃぁ、ガチな話か?分かったよ。取り敢えず聞こうか?」
和明はようやく俺が抱える悩みの大きさを理解したようだ。軽く笑って、歩き始める。どうやら歩きながらの話を所望らしい。俺もその方が助かるから黙って彼に付くことにした。
「‥あ、あのさ。」
数分の沈黙後。痺れを切らした俺は始めに口を開いた。これまで和明が何も話してこなかったのはきっと気遣いの一種なのだろうと思えた。
「ん?」
これまでつまらなそうに枯れ木に目を移していた和明はその目を俺へと移行する。
「‥昔の俺ってどんなんだった?」
そんな質問。実に馬鹿げている。自分自身の過去を他人に訊くなんて。そんな話があったものか。だから、言うのに時間が掛かった。正直、他人にこんな事は訊きたくなかったから。
それでもいくら考えても。頭、悩ませても何も出てこなかったのだ。仕方がない。
「昔?それはお前が俺にいきなり給食の牛乳を渡してきた頃からの話か?」
「お、おぉ‥。そんなのが初めての出会いだったのか?てか、よく覚えてたな?」
リアルでの人との出会いなんてそんなものだ。劇的な出会い。ラブコメみたくのハプニング。そんなのはありえない。下らない出会い。普通の出会い。だから、声を漏らしはしたが疑いはしないし、それ以上は何も言わない。何も問わず。言わず。話を進める。
「まぁ。そうだな。お前と初めて出会った時からの俺と今の俺。お前から見たらどうだ?」
真剣な眼差しを彼に向ける。だが、和明はそんな俺とは目を合わせない。話しながら歩いているからだろうか。彼は前を向きながら。それでも答えを聞かせた。
「どうって言われてもな。そりゃぁ、昔と違って陰気になったというか。現実的になったというか‥。それでも根本的な性格は変わってねぇだろ?優一は優一で今も昔も同じだと思うぜ?」
「‥そ、そうか?」
初めてそんな事を言われて少し戸惑った。いつもチャランポラン‥言い直そう。自由に生きている和明がそんな事を思っていたとは驚きだ。質問した自分でさえ、ロクな答えは返ってこないと予想していたのに。
「あぁ?そうだろ?それより、ほんとどうしたよ?いつものお前以上に今日のお前は暗いぞ?まさかついに別れたのか?あの可愛い子と?」
何でそんな瞳を輝かせてんの?てか、別れるもなにもアイツ男だし。まぁ、言わんけど。これ以上、話をややこしくしたくないしこれ以上問題は増やしたくない。だが、何か腹立つ顔してんな。俺の悩み話より興味津々な顔してんな。コイツ。
「違う。そんなことじゃない。」
低い声でそう呟くと和明は本当に残念そうに肩を落とし、視線を外す。ほんと、ムカつくな。
「んだ。違うのかよ。こっちはまだ進展ねぇってのに。ソロプレイヤーだってのに。羨ましい限りですなぁ‥。」
「おい。だから、今日はそんな話をしたい訳じゃなくてだな。」
ったく。自分で振ってきて勝手にいじけるとか本当に自由だな。コイツ。
あぁー。何だかめんどくさくなってきたぞ。
と、まぁ。そんな事を言っても話を聞けるのはコイツくらいしかいない。溜息を心中、大きく吐き出してから和明に向き直る。
「頼むから真剣に聞いてくれ。昔、俺に何かなかったか?その‥困ってる奴を放ったとかそんなこと‥」
昨日、桜木に言われた言葉を思い出したせいか徐々に言葉が弱くなった。本当にそんな事があったならどうして俺はそんな大事な事を今の今まで忘れていたのか?そんな考えも言葉が弱くなった原因だろう。
「困ってる奴ね。う~ん。そうだな。まぁ、あるか。」
足はリスが飼育されている檻前で止まった。だが、それは何もリスが見たかった訳では断じてない。彼が先ほど言った言葉に足が止まったのだ。
「あるのか?」
「あ、あぁ。んだ?お前、忘れたのか?」
目を見開き、驚きの声を上げたせいだろう。和明の顔がこちらを向いた。ついで、檻の中のリスも餌を食べていた最中だったにも関わらず、どこか隅の方へ逃げてしまった。
「忘れたって何を‥?」
記憶喪失?俺が?そんな漫画みたいなこと。あるはずがないだろ?
自分自身にそう言い聞かせるも和明が嘘を言ってる風には見えないし、嘘を言う理由がない。ということは真実はただ一つ。俺が本当に忘れているだけなのだ。
「中一の秋だったか?お前、百合恵の事が好きだったろ?で、ついに想いを告げた日。お前は玉砕した。だが、その断った理由はお前が理由じゃなかった。百合恵の家庭。アイツ、そうとう追い込まれてたみたいで恋とかしてる余裕がなかっただけだった。で、まぁ。その‥なんだ‥」
和明は一気に舌を動かしていたがそこで一旦、釘を打った。いや、というよりもその先を言いたくない。そんな様子であった。
「なんだよ?それから。何かあったのかよ?」
正直、何一つ付いていけない話であった。だが、和明が勿体ぶる先が気になって仕方がない。
「あ、あぁ。本気で忘れちまったみたいだな。お前。」
和明は捨てられた子犬か。猫を見るような憐れむような視線を俺に向けると静かにこう言った。
「百合恵は死んだ。自殺したんだ。家庭に。学校に。世界に耐え切れずに手首切って。」
死んだ。
「‥え?」
出た言葉は小さく。それでいて普通の反応。それでも涙が頬を伝っていたのに気付く。
話を聞いた。思い出せてもいない。だが、それでも涙が流れた。
「‥百合恵?」
ゆりえ。ゆりえ。百合恵‥
何度もその名を呼んでみた。だが、駄目だった。何も思い浮かばない。何も出てこない。それでも涙だけは流れる。何で?どうして?
「その反応、思い出してはねぇな。まぁ、好きな奴がそんな最後を迎えたんだ。記憶を封印するのも分からなくはねぇ。」
和明はそう言う。寂しそうに。憐れむように。静かに。俺と目を合わせようとせず。リスの入った檻に目を向けて。
が。果たして本当にそうなのか?俺はそんな理由だけで記憶を完全に消したのか?いや、そもそもそんな器用なことが俺にできたとでも?
「‥違う。そんなんじゃない。」
気付けば俺はそう口にしていた。何も思い出せていないのに。何も分からないのに。ただ、自分の事だ。これだけは分かった。忘れたい記憶だけを消せるなんて芸当が俺にできる筈がないということだけは。
「違うって。事実はそうだろ?だからお前は俺にそんなことを訊いた。そうだろ?」
「あ‥あぁ。」
和明の言葉は正しい。そんなことは分かっている。けれどそれでもだ。
「じゃ、じゃぁ、その後は?その後に何かなかったのか?百合恵‥さんが死んだ後。特に俺に何かなかったか?」
彼女の名前を呼ぶのに若干の抵抗を隠せれず、それでも俺は和明に真相を訊ねる。
「その後?ん~。そうだなぁ~。」
彼はそう言って顎に手を置き、考える仕草を見せる。そして数秒。彼は何かを思い出した。
「あっ、そうだ。そうだ。お前、百合恵の葬式が行われた一週間前。いや、もっと長かったか?とにかくお前、長く休んでたわ。うん。間違いねぇ。」
「‥葬式が行われる前?」
和明が言ったその台詞に首を傾ける。実のところ全く、覚えがない。だが、疑問は生じた。
何で俺は彼女が死ぬ前に学校をそんな長く休んでたんだ?
「あぁ。今、思い出せば不思議だよな。普通は逆だろう。」
そう言って彼は檻のリスから目を外す。どうやら歩きながらの話を再開しようとのことだ。
「あぁ。そうだな。」
俺は歩き始めた彼の背中を追い掛け、隣に立つ。だが、そうなのだ。普通は逆。好意を抱いていた人物の突然の別れ。その事実に耐え切れず、家に引きこもる。普通の人間ならそうだろう。
「‥俺は普通じゃねぇってことか‥」
考え、導き出した答えはそんな単純なもの。勿論、ここでの意味はそんな厨二臭い意味合いではない。言葉通りの意味だ。精神が死んでいる。感情がない。もしくは他の理由の何か。とにかく俺は普通ではなかった。‥いや、それは現在進行形なのかもしれない。
「ん?あぁ、まぁ。お前は普通ではないかもな。なんつーーか、心が読めねぇーつーか。感情が乏しいっていうか。何か、生きてること自体が辛い感じ?悪い。自分で言ってよく分かんねぇ。」
頭をガシガシ。和明は髪を乱した後に、そんな謝罪の言葉を俺によこす。だが、彼が言いたいことは分からなくもなかった。それは俺自身、思っていたことだから。俺は生に関しての欲が乏しすぎる。世の中の物。事に興味が示せれない。それは何でか?自分でもいまいち分からなかった。
「あっ。そう言えばそうだ。お前、小学校の頃はけっこうやんちゃだったよな?まぁ、あの年頃のガキは皆そうだろうけど。今とは大違いだ。俺よかお前の方が先生や大人やらに叱られてたもんな。」
大きな柱時計が見える中央広場に出くわした時。和明はそんなことを手と手を合わせ、口にした。
「お、おぉ。‥そうなのか?」
言われた言葉に思い当たる部分が見当たらない。というか小学校の記憶など殆どない。飛んでいるトンボをマグレだろうが、素手で捕まえたという自己上位ランクの武勇伝くらいしか記憶に残っていない。
「あぁ。そうだよ。あの頃のお前が今のお前を見たらきっと驚くぜ。」
「そんなに違うのか?」
「あぁ。まるで別人だな。」
和明は何故か口元に笑みを浮かべながら大きく頷きを見せた。と、そこで俺の頭に彼の言ったその言葉が引っかかる。
「‥別人?」
小さい頃と大きく成長した頃。比べればそりゃぁ、性格は幾分か異なりを見せるだろう。だが、和明の台詞は言葉通りと思えてならない。即ち、俺は何らかの影響で自身の性格を一変させたと。
・・・・・・。
いやいや。それは考えすぎだ。それこそ器用すぎる。多重人格者じゃあるまいし有り得ない。
俺は自身で導いた妄想とも思える考えに首を振って打ち払う。
‥のだが。どうにも腑に落ちない。
どうにも心に引っかかる何かがある。
「‥悪い。少し考えさせてくれ。」
片手を上げて下を向く。俺のそんな行動と台詞に和明は無言で頷き、暇つぶしだろう。携帯を取り出し、弄り始める。
周りの音を。事を。全て遮断。俺は自身の世界に入り、考える。というか思い出す。
記憶の奥底にしまっただろう。小学校の記憶。そして中学校の記憶。集中力を最大限まで高め、思い出す。
‥のだが。どうしても思い出せない頃がある。中学一年の秋頃。和明が言った百合恵がこの世から去った頃合い。そこの記憶が殆ど‥いや、全く無い。
百合恵という人物はどうにか。まぁ、顔ははっきりと思い出せはしなかったが、思い出す事ができた。
だが、そこ(・・)だけの記憶が全く無い。
となると今からするべきことは一つ。
「なぁ、百合恵の家。お前、覚えてるか?」
顔を前に。やることはそれしかない。無い記憶はどうしても無いのだ。
「お、おぉ。覚えてない訳ではないが‥。その‥いいのか?」
和明は俺の台詞に驚きの表情を見せた後、控え目にそう訊ねてくる。
「あぁ。それが一番、手っ取り早い。今、現状ではどうしても無理だからな。」
「無理って何が?」
「消した‥。いや、逃げ、隠したモノを見付け、復活させること‥か。」
中一の秋。そこの記憶を思い出してどうにかなる訳ではない。それよか、思い出さない方がいいのだろう。あの時の俺はそれがいいと思ってそうしたのだから。
だが、時が経ち、周りも変わって。気持ちも。性格も変わった現在はどうだろう。
欠けた記憶。その記憶は何となく分かっている。良い思い出なわけがないことくらい承知済み。自責などのモノに押し潰されずにいられるかどうかも怪しい。
だが、それでも。それでも過去に向き合わなくてはならないのだ。
桜木も。波瀬も。蔓実も。楓香ちゃんも。過去に向き合っている。なのに自分だけはという訳にはいかない。
自分の問題をしっかり受け入れて、それで他者の問題をどうにかしたい。
それは自分自身の問題だ。別にそうしなくてもいいのだろう。それでも俺はそうしたいと思った。だからそうする。
知った上で自分がどうなろうと今はどうでもいい。何故なら今の俺には‥
「‥分かったよ。お前がそれでいいなら案内はする。だが、先に言っておくが俺一人ではお前をどうこうすることはできない。それでもいいのか?」
数分、考える仕草を見せた和明は不安そうな顔を目に見せ、口を開く。きっと、彼も気付いているのだ。俺が復活させようとしている記憶がどんなものなのかというソレを。何となくは。
「あぁ。構わない。それに今はお前だけじゃない。」
「は?‥あぁ。ノロケか。ちっ。」
いや、舌打ちするなよ。だが、まぁ。この時だけはそうなるのかもしれない。ノロケとは違うだろうが。
「まぁ、そんなようなものだ。俺を支えてくれる人間は昔よりか増えた筈。だから、きっと大丈夫だ。俺は俺でいられる筈だ。」
確証はないが確信はある。和明も含め、あいつらとならどんな真実でも受けいられる。だから‥
「だから、俺も前を向くわ。」
どこかで象の鳴き声が聞こえた。周りの音がやけに煩く聞こえる。あった心のモヤはどこかに吹き飛んでいた。まだ何も解決していないというのに。
「はは。お前、また変わったな。小・中・高。一つ上がる度にお前は変わるんだな。前だったらそんな台詞、言ってねぇもん。」
和明は笑う。そして俺は恥ずかしさを隠せれない。アイツ等にも言われたが俺の言う台詞はそんなに恥ずかしいものなのだろうか? 認識の射程圏内が知らず、知らずに拡散していたのだ。
「そ、そんなことはどうでもいいだろ。それより早く案内しろよ!」
誤魔化すような早口が口から零れ落ちる。だが、それは火に油。和明の表情は更に緩みを増した。
「はは。分かった。分かったって。それより先に飯にしようぜ。勿論、約束は覚えているだろうな?」
「お、おぉ。お前の優しさに期待してるぜ。」
すっかり忘れていた約束をここで言われ、動揺が行動に表れる。思わず後ろポケットに差し込んでいた長財布に手が伸びたのはバレただろうか?
「はは。近くのファミレスでいいって。お前の所持金くらい大体、予想できてるっての。」
「うっ‥それはそれでムカつくな。」
「ん?なら、高級店でいいのか?コースで出てくるレストランでも行くか?」
少しのプライドから出た台詞に和明は冗談混じりの言葉を繋ぐ。
「そんなとこ行くわけねぇだろ。大体、何でお前とそんな所行かなきゃなんねぇんだよ。」
「うわっ。出た。ノロケ。桜木さんと行くってか。はいはい。どうぞ。お幸せに。」
「いや、アイツとも行かねぇし‥」
さっきまでの雰囲気が嘘のような空気に一変。そんな空気を出せれてるのはきっとアイツ等のお陰だ。桜木に波瀬に蔓実。三人の問題に手を出し、一時的だろうがどうにかした。だが、それは俺自身にも言えたことだった。知らず知らず、自分自身も助けられていたのだ。
「まぁ、じゃぁ。行くか。」
「おう。」
そうして俺も前に向き合う。そこに地獄が待っていようと。忘れていい過去なんて無いのだから。




