感染症
進級して早くも一週間が過ぎ、二週間の休みへと差し掛かっている。部活動紹介は残り一週間といったところ。俺達の部活は内容こそショボく、グダグダになりそうな感じではあるがそこは問題なかった。恐らくはどの部活動もそれなりに内容は決まって、通常通りの練習だか日常に戻っている。
そして、彼女の問題だが。正直に言えば特に進展はない。それよりも少し面倒な事になりつつあるとさえ思えた。
「ねぇ、ねぇ。聞いた?今年の新入生に裏口入学してきた生徒がいるらしいよ。」
「え?マジ?何それ?最低じゃん、ソイツ。」
などという噂話が廊下。教室。トイレ。様々な場所で囁き始めたのはつい先刻のこと。広がった理由など知らないし、興味もない。だが、コレは風邪のようなものだ。源が存在すれば何もせずとも広がり、拡散する。全くもって恐ろしい。
「ゆうちゃん‥。」
「あぁ。」
隣にいる桜木が俺の袖を引っ張る。目こそ合わせていないがその顔は想像できた。
「とにかく部室に急ごう。気分悪ぃ。」
「‥うん。」
そんな思いで足を急がせる。だが、部室に行く道中。その囁き声が途切れる事はなかった。よく言う。人の噂は七十五日。実際はもっと短いだろうがそんな時間を待っていられる程に人間の精神は強くわない。
彼女は。刈谷 楓香ちゃんは今、どんな気持ちでここにいるのだろうか?それとももう‥
「大丈夫だよ。彼女は強い。大丈夫。大丈夫だよ‥ね?」
「あ、あぁ。‥悪い。」
俺がこんな気持ちを抱いてしまったら余計な人物にも不安を持たせてしまう。とにかく早急に手を打つしかない。まだ間に合う。だが、勝負の頃合にはもう少し時間が必要なのだ。残りの時間をどう埋めるか?
それが今日の議題になりそうだ。
そんな考えを頭に浮かばせ、俺達はこの胸糞悪い廊下を歩き向かった。
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「なんなのよ!アレ!!ここ三日間、気分さいあくっ!!!」
部室の扉を開く。そしてまず始めに耳に入った声はそんな騒々しい甲高い声だった。その声の主は言わずもがな、先に部室へと向かわせた蔓実。
「気持ちは分かるが落ち着け。お前が騒いでどうこうなる問題じゃねぇ。」
気持ちは分かるどころか同感。シンクロしているとさえ思えたが、俺は蔓実の気を抑える。まさか、こんな形で初めて彼女とシンクロできるとは。あまり来て欲しくはなかったな。
「で、でも‥」
蔓実はそれでも気が気でないのだ。恐らく、楓香ちゃんの事が他人の問題だとは思えないのだろう。蔓実も下手をすればそうなっていたから。それを考えると蔓実、波瀬は本当に運が良かったと言わざるを得ない。
「そうだよ。香澄。私達が気を荒立てても仕方がない。今は私達にできる事をしよう。」
「で、でも麗香‥」
親友である波瀬にそんな事を言われたからだろうか?蔓実の声は小さく、情けないものとなった。
「今は楓香ちゃんの精神をどうにかしなくちゃ。ねっ?」
「え?」
波瀬はウインクを片目、俺に顔を向けた。いや、何なの?確かに言っている意味は正しいとは思うけど‥。同意とか求められてもね‥。
などと悩んでいる時間は短く終わった。波瀬が俺にウインクをよこしたのはそういう意味だったのだ。
「‥し、失礼します‥」
オドオド。ビクビク。まるで何かから逃げてきたみたいな小動物のような生き物。弱々しく、涙声を必死に隠しているような声音。
そう。今、学校中の噂の的である楓香ちゃん。その本人が俺達の前へ現れたのだ。
「はいはい。どうぞ。今日はお茶菓子とか買ってきたから座って。座って。」
怯え、震える彼女にそう声を掛けたのは波瀬である。よく見れば合わさっている机は一つ増え、五つになっている。さらに、合わさる机の中央には今日に限って、クッキーが袋開けられて置かれていた。
どうやら波瀬は今日の朝から彼女をここに呼ぼうと考えていたみたいだ。それならそうと一言、言ってくれれば俺も協力したのに。まぁ、お菓子買って、机一つだけ増やして、楓香ちゃんに声を掛けるだけの事、協力もいらんだろうが。
「ほら、新戸君。何、ボケっとしてるの。」
「あ、あぁ。」
いつの間にやら皆は皆。四つ合わせた机に腰掛けていた。どうやらその一席。一つ飛び出した前同様の空いている席を勧めているのだ。
悪い。悪い。待たせたね。
などという謝罪の言葉を心中で言いながらその一席に向う。
のだが。
「ん?何してるの?新戸君が向かう場所はここじゃないでしょ?」
「はい?」
椅子の背もたれに手を掛けた瞬間。波瀬に何故か指摘を受ける。椅子に座るなということか?波瀬さん怒ってんの?
「お茶菓子があるんだから飲み物も必要でしょ?あっ、私ミルクティーね。」
「あ、あぁ‥」
にっこり笑顔でお金を渡されれば文句があっても何も言えるまい。てか、茶菓子買ったのに飲み物は買わないとか波瀬さん。やっぱ、怒ってんの?
…いや、この人は俺をからかいたいだけなのだろう。全く、こういう女の子とは結婚とかしたくねぇな。尻に引かれる未来しか見えない。
「はぁ~ぁ。」
ため息を口から溢し、俺は残り三人にそれぞれ欲しいものを訊ねた。
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五つの缶と残り半分を切ったクッキーが並ぶ机上。その残り少ないクッキーに俺はまたも手を伸ばす。
「で、本当に大丈夫なのか?別に無理して学校来ることはねぇんだぞ?」
「あっ、はい‥。でも、家に篭るよりもここに来た方が楽なので‥」
「そうか‥」
そのやり取りはもう何度目だろうか?楓香ちゃんをここに呼んだ。それは別にいい。彼女の今を見れただけでも心の重荷は軽くなったし、彼女の精神ケアにも繋がる。だが、問題が一つ。
俺達では役者不足だという点だ。
「あ、あのさ。楓香ちゃん。楓香ちゃんはどんな部活に興味があるの?もう直ぐ、部活動紹介あるし。その後は直ぐだよね。仮入部?」
俺には任せてられない。そう判断したのだろう。それまで黙っていた桜木が急遽。話に加わる。
「部活ですか?‥そ、そうですね‥。今は何も‥」
まぁ、そうだろう。今、彼女にそんな余裕はない。質問した桜木もそんな事は分かっていた筈だ。この話題はあくまで重く沈んだこの空気を変える為のもの。誰のせいでこうなったのかという話なのだが‥。ほんと、すんません。
「そっか。そっか。なら、僕達の部活に入りなよ。僕達は楓香ちゃんならいつでも歓迎するから。ね?」
「‥あっ。‥ありがとうございます。」
何の裏表もない笑顔と言葉。それは今の彼女にどれだけの効果があるか。思わず拍手を送りたくなった。さすがは桜木。新入生勧誘に加え、楓香ちゃんが欲しがっている言葉をそれとなく掛ける。重く沈んだ空気は確かに軽くなっていた。
「そ、その‥私なんかの為に皆さん。‥本当に‥ほんとに‥」
その先は言葉になっていなかった。我慢していた感情が桜木のさっきの言葉で緩んだのだろう。涙を流し、嗚咽を零す彼女の姿はとても小さく、弱い。けれど逃げずに戦った。そんな勇敢な女の子だった。
「何、言ってんのよ。私達は楓香ちゃんが好きだから放っておけないの。楓香ちゃんは可愛いんだから自分をそんなに安く見なくてもいいのよ。」
パクリッ。クッキーを齧りながらそう言う蔓実を初めてかっこいいと思えた。
「なっ、何よ?べ、別にいいでしょ?あんたの方がもっと恥ずかしい台詞言ってんだから!なんならあんたの恥ずかしい台詞まとめた本とか作ってあげようか?」
何を勘違いしたのか。蔓実は顔を真っ赤に染めて恥ずかしがった。本当にかっこいい。それだけの思いで直視していただけなのに。というか恥ずかしい台詞まとめた本ってなんだよ!
まぁ、その照れ隠しも彼女らしいといえば彼女らしい。笑って見過ごしてやろう。
と、そんな気持ちで頬を緩ませていたら火に油を注いだようで、ものすっごい眼光が俺の心臓を射つ。ほんと、コイツの目はなんなん?兵器にも優るよ。いや、さすがに冗談ですけどね。
「‥ふふ。」
「ん?」
俺が蔓実に睨まれ、更に手まで出されそうになっていたところ。どこからか小さな笑い声が聞こえた。今の状況があまりに滑稽だったのだろうか?
「あっ‥。す、すみません。そ‥その、皆さん仲がいいな‥って‥」
涙に長い睫毛を濡らし、恥ずかしげに口にしたのは楓香ちゃんだった。
その台詞は本当?本心?俺が蔓実に殴られそうになってるとこ見て笑ったんじゃないんだよね?信じていいんだよね?
などと可愛い後輩に男らしからぬ場面を笑われたかどうかを口には出さず、問いていると、どこか嬉しそうな声音が発せられた。
「うん。そうだよ。僕達、仲良しだよ。ね?」
いや、そんな同意を求められましても…。ねぇ?
まるで疑う心を知らんとばかりに振り向かれた顔と、声。だが、俺も含め三人はその問いに素直になれない。それが、事実。桜木が言った言葉通りだったとしてもだ。
「あっ!そんなことよりあの子‥えっと名前なんだっけ‥?あの猫背で気の弱そうな‥」
気恥ずかしさを誤魔化そうと考えたのだろう。だが、唐突に出てきたモノは曖昧。波瀬はう~んと、考えるポーズをとっていた。
「そ、それって柿宮君のことですか?」
「そう!それだ!」
楓香ちゃんが恐る。恐る口にした名前に波瀬はズビシッ!!と、指差す。楓香ちゃんはその行動にあわわ。たじたじ。何だか可愛い動きで困惑している。
「で、アイツがどうしたんだ?」
困惑する楓香ちゃんを見てても和みはしたが、もたもたしていたらまた桜木が口を開く恐れがある。俺は波瀬へとその先を訊ねる。
「あぁ。うん。別にあの子、あれからどうしたんだろうなぁ?って。」
「あぁ。」
まぁ、確かに気になる点ではある。今の状況。きっとクラスでも。どこでも楓香ちゃんは独りだ。そんな状況で声を掛ける者がいたらそいつは勇者とさえ思える。たとえ好意を抱いている人物でも人間という生き物は数には勝てない。だから、あのチキンでヘタレなアイツがあの後、どんな行動をとったのか?助言的なモノをしておいた分際だ。多少は気になる。
「えっ‥と。柿宮君は‥」
口を開いた楓香ちゃんは何だかあまりいい雰囲気ではない。目は逸れてるし、言う言葉も言いにくそうだ。
「まさかアイツ、変な事したんじゃないだろうな?」
言ってはみたものの、その可能性はほぼ無いとは思った。だってアイツ、ヘタレでチキンだし‥。
が、様子を見れば必ずしも無いとは思えなかった。やけくそになっておかしな行動をとったのではなかろうか?
人間、どうもできなくなったら何するか分からないからな。心中、不安でいっぱいだ。
「あっ、いえ。別に変なことは‥」
「本当か?」
否定する彼女だったが様子は変わっていない。 不安要素が全く拭いきれなかったのは言わなくても分かろう。
「ほ、本当です!本当です!ただ‥」
「ただ?」
波瀬も俺と同じ心境を抱いたのだろう。ずいっ、と体を前に乗り出しその先を求めた。
「はい。ただ、何でか最近、柿宮君やたらと私に話し掛けてきて‥。ちょっと、どうしたのかなって‥」
「お、おぉ‥」
思わず声が出てしまった。アイツはちゃんと俺との約束を実行していたのだ。ヘタレやらチキンやら言っていたが撤回してやらねばなるまい。アイツはちゃんとした男だった。
まぁ、その成果は何とも言えないが。うん。嫌われてはないとは思うが、うっとしがられてはいるっぽいな。うん。
「へー。彼、やるじゃん。あっ、でも楓香ちゃんには迷惑だった?だったら私達からも声掛けておくけど?」
軽い微笑みを口元に刻み、俺が口には出さなかった言葉を波瀬は口に出した。
「あっ!いえ、迷惑とかではないです‥。た、ただ‥そのせいで柿宮君も皆から疎遠になってるといいますか‥。止めて欲しいのは確かです‥。」
吐かれた言葉は寂しそうであった。自分のせいで他者に迷惑が掛かる。その心が分かるなどとは言わない。だが、彼女を見れば理解はできた。
「まぁ、それは気にするな。きっとアイツもそういうのは覚悟の上で楓香ちゃんに話し掛けてる。だから、楓香ちゃんが本心で嫌じゃなかったら言葉に答えるくらいはしてやってくれ。アイツもそれを望んでる筈だから。」
「‥はい。」
頷く彼女だったが顔は相変わらず。刈谷楓香ちゃんは優しい女の子なのだ。そしてアイツも然り。
全く、反吐が出るくらいに優しい世界だ。まぁ、その優しさは互いのメリットにはなっていないのだが‥。
「あっ。では、私はこの辺で‥」
話題が尽きたのを察してか。単純に時間的な問題か。楓香ちゃんは席を立ち、律儀に頭なんかを下げた。沈黙の時間に耐え切れなかったのは皆、同じ。俺達は素直に彼女の申し出に言葉返す。
「うん。急に呼んで悪かったね。」
「いえ‥いい気分転換になりました。誘って頂きありがとうございました。」
「僕達はいつでも待ってるからね。」
「‥はい。」
結局、彼女は最後まで浮かない表情を浮かべていた。俺達、四人の力ではこの程度が限界なのだ。上っ面だけの中身のない会話。そんなもので彼女の傷をどうこう出来る筈がなかったのだ。
今更ながら自身の力不足に握る拳が硬くなっているのに気付く。
「あっ、楓香ちゃん。」
「はい?」
このまま行かせては駄目だ。そんな思いからか俺は既に扉へ手を掛けていた彼女の動きを止めた。
「あ‥いや。」
止めたのはいいが言う言葉など考えてもいなかった。必死に何かを考えるも天パった頭では良い考えなど出てくる筈もない。
「‥例の為に勉強頑張れよ。」
「あっ‥はい。そうですね。ありがとうごいます。」
ペコリ。小さく頭を下げた彼女は今度こそ扉を横にスライドさせて、姿を消した。
「・・・・。」
何とも表現しにくい暗い空気。その原因を作ったのは俺だ。
最後の最後の言葉掛け。あんな事が言いたかった訳ではない。もっと何か‥何か違う言葉。彼女のあの表情を変えれるような言葉が言いたかった。
のに。言葉はついぞ出なかった。あの表情のまま楓香ちゃんを帰してしまった。
「ゆ、ゆうちゃん?」
「あぁ。悪いな。変な空気にして。」
時刻も時刻。暗くなったのは何も空気だけではない。暖かな温度だけが唯一の救いとさえ思えた。
「ううん。それより、さっきので分かったよ。」
「は?何が?」
一体、さっきので何が分かったというのだ?最後の最後に空気を最悪にできる男。新戸 優一を分かったのか?
などと本気で頭、悩ませていると。
「ゆうちゃんがこの問題に‥ううん。今までも。独り、悩んでいる人達に掛ける想い。労力。それはきっといいこと。だけど‥。だけど本当にそれだけ?」
「‥それだけって?」
桜木の視線は本気のソレだった。だから、困る。冗談など言えないし、誤魔化せれるとも思えない。
だが、自分自身。桜木の問い掛けに思い当たることがない。俺が彼。彼女ら。そして今の楓香ちゃんを放っておけなかった理由。そんなのは人として当然な事をしたまで。それだけなのだ。それ以外に理由など‥。
「ゆうちゃんは気付いてないかも知れないけど、それは普通じゃない。普通の人間はこうも時間。体力。名誉。大切なモノ。それらを賭けはしない。それが見返りを求めてとかだったら話は別だけど。ゆうちゃんはそうじゃない。今の件に関してもそうだけど。ゆうちゃんは自分を犠牲にしてでも他者を救おうとしている。それも何も求めずに。最初は優しさだけだと思った。けど‥」
差し掛かっていた雲は太陽から退き、部室を明るく照らした。だから、桜木の不安いっぱいな顔が。潤む瞳が嫌でも目に入った。そしてその桜木の台詞は続く。
「‥けど、それは違うと思った。ゆうちゃんのソレは偽善でも善者のソレでもない。ゆうちゃんのソレは責任。やっと僕にも分かったよ。ゆうちゃんは僕達を救って。自分を傷付けて。何を満足しているの?そんなゆうちゃん。僕は‥僕は怖い。」
瞳を潤ませ、体を震わせる桜木の言葉が理解できない。責任?満足?俺がいつそんな事を思った?
なら、否定すればいい。いつもみたいに苦笑を浮かべ、つまらない台詞を添えて。
だが、それをしようとは思えない。何故か?それも分からない。ただ、桜木の台詞を聞いて思った事が確かにあった。
何で俺はこんなにも必死になってるんだ?それも他者の事に。自身、一人が関わって何かが変わる筈もないと思える問題に。何で首を突っ込むんだ?
分からない。分からない。分からない。分からない‥
「‥新戸君。」
ふっと声が掛かる。俺はその方向に目をやった。
「大丈夫?凄い顔してたけど?」
「え?あ、あぁ。」
見やればそこには波瀬の不安げな顔が。俺は息を大きく吸って、気持ちを落ち着かせた。
自分自身、気付かなかった。いや、自分では気付かぬ振りをしていたのだ。桜木が言うその事実に。じゃぁ、何で桜木は気付いた?他の二人には恐らく見抜かれていなかったというのに。どうして?
「あっ‥。」
そうか。そうなのだ。コイツは俺を。俺なんかをずっと見ていた。だから気付いたのだろう。俺という人間に。どんどん堕ちていく俺の姿に。気付いた。
今にも泣きそうな桜木の視線を受けて俺は改めて理解する。桜木雲雀という人物はどんなジャンルに関しても超人だったという事に。
「あっ‥あのさ。その話は後日にして、もう帰ろうよ?下校時間、とっくに過ぎてるよ。」
この空気に耐え切れなかったのか。どうなのか?蔓実の気遣うような声がそう提案付ける。
「うん。そうだね。もう、今日は解散しよ。さっ、二人共帰るよ。」
重く、沈みそうな空気を二人が必死に修正しようとしてくれていた。このままこの話を続けてはマズイ。そう判断したのかもしれない。
そして、その二人の気遣いは俺にとって吉となったのか凶となったのか。
ただ、どうしようもない虚無感だけが胸を苦しめた。
「わ、悪い。今はお前の質問には答えられない。だから、今日は‥」
今日は?その言葉を口に出し、頭で思う。なら、いつなら俺はその理由とやらをコイツに。コイツ等に話せれるのだろうか?自分自身、分からない問題に。
「‥うん。そうだね。帰ろっか。ごめんね。変な事、訊いて。」
「あっ、いや‥。」
俺の気持ちにも気付かず。いや、気付いてたかもしれない。けれど桜木はしつこくは訊いてこなかった。それに救いを感じていたならそれは愚かな感覚だ。俺は気付いていた。話さなくてはならない。俺に隠している事があるのならコイツ等にだけは。どうしても‥
そんな事を思うが時間は永遠ではない。そして今現在、抱えている問題も決して軽いものではない。考え、思い出し、まとめ。決意する時間。そこまでするのにどれだけの時間を要するか。
春は来た。だが、来たのはそんな期待もクソもあったもんではない。厄介な問題が多大。溜息吐くだけではとてもじゃないがやっていけない。本当にどうしたものか?
滅茶苦茶な思考回路を。未来を。どう修正したものか?
そんな事を独り、悩んでいる俺に。誰一人、手を差し出してくれる者はいない。いや、俺が求めればきっとコイツ等は手を差し出してくれるだろう。
だが、それはしたくない。俺の問題だけは自分でどうにかしなければ。
下らないプライドが口を堅く閉ざす。
「あっ、ゆうちゃん。今日の事は気にしないでね。僕も何だか変だった。だから。ねっ?明日もよろしくね。」
別れ道。気まずくても帰り道は一緒であるから仕方がない。適当な言い訳をして帰り道を変えることもできたが、逃げたみたいで何か嫌だった。
「あぁ。別に気にしてない。それと明日は休みだ。明日からじゃない。月曜からだ。」
「えー?明日は構ってくれないの?えー?」
「‥はぁ~。気が向いたらな。」
さっきまでの重苦しい空気はどこぞやに消えていた。いや、消した。いつも通りに似せた。それに気付かない程、俺達は鈍くない。
だが、それにとやかく言う事はしなかった。今、俺達がバラバラになってしまえば楓香ちゃんの問題がどうなるか?
それが分かっていたから。だから、偽りの日常を続行する。
「じゃぁね。ゆうちゃん。」
「あぁ。またな。」
普段通りの別れの挨拶。だが、どこか違う。
外に出て感じた空気は暖かくも、冷たくもなく温かった。
次回の投稿は少し遅れるかもしれません。 週一の投稿を心掛けたいと思っていますが遅れた時はすみません。
これからも多くの方に目を留めて頂けるよう筆を動かす所存ですのでよろしくです




