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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
3章 来春
32/59

惹かれ 引かれる

 部活紹介内容。我が部。アニメ研究会は結局のところ一・二枚の紙面に調べた事柄をまとめ、それを見せ、適当な紹介を新入生諸君等に伝える。と、まぁ。そんな感じとなった。

 色々、ふわふわしてショボすぎるが期日も迫っていたので生徒会も了承の印を押してくれた。

 

 まぁ、その件に関しては別にいい。俺自身、そんな部員を増やしたい訳ではないし発表自体、面倒臭い。

だから簡潔で、早く終われるに越したことはないと思っている。

 だが、しかしだ。問題は別にあった。本当、気疲れは続く。参ったものだ。


 「はぁ~。」


 「どうしたの?朝からそんな溜息?」


 「あ、あぁ。」


 朝。今日も快晴。春爛漫と言った天気。桜の花びらはもう殆ど散ってしまったが‥。

 そんな天候の下。俺は今日とて桜木との登校を共にしていた。


 「いや。部活動紹介の順番がな‥」


 まぁ、提出したのが一番最後って時点で分かっているべきだったんだ。ほんと、何で気付かなかったんだ?俺?

 まぁ、気付いた時点でどうこうできる問題でもないのだが。


 「ん?順番?」


 「あぁ。まぁ。その一番最後になんだよ。ほんと、ショボイのにオオトリとか勘弁してくれだ。」


 再度、口から溜息が溢れる。当日、俺達の発表後。何か微妙な感じになるのは目に見える。感情のない拍手で締まる部活動紹介。生徒会には気を遣わせるだろうなぁ。


 「はぁ~。」


 そんなことを思うと溜息が出るのは自然だろう。しかも、俺達の前は華やかすぎる部活。バスケ部だというし。なんなん?新手の苛め?


 「何だそんなこと?別にいいじゃん?逆に一番最後って印象に残ると思わない?何をそんなに気にするの?」

 

 春風に髪を靡かせる桜木は本当にそんなこと、今吹く風同様にどうでもいいと言った感じだ。そんな相棒にまたも溜息が続く。


 「まぁ、だが。決まったものは仕方ねぇ。気に病むだけ無駄か。」


 「うん。そうだよ。そんなことよりもさ。僕達、二年生になったんだよね?」


 「あ?あぁ、そうだな?」


 俺から言わせればそれこそ、そんなことなのだが。まぁ、気が紛れるならば話に乗っかっておくのも悪くわない。


 「それがどうした?」


 「うん。何か、早いなって思ってさ。昨日、感じるべきだったんだけど今更、それを実感してさ。はは。」


 桜木は照れたような笑いを口に、ポリポリ頬を掻く。


 「あぁ。まぁ、そうだな。一年なんてあっという間だな。多分、、この一年もあっという間だ。」


 自分で言っておきながら俺はその言葉の意味をあまり理解していない。俺から言わせればまだ一年ある。

 だから、まだ大丈夫。まだコイツ。アイツ等と遊んでいられる。そう思っていた。


 「‥そうだね。」


 桜木は寂しそうに呟く。二年がくれば三年がくる。三年になれば直ぐに進路を考えなければならない。そして行く行くは社会の中に駆り出される。早い。早い。時間は止まってはくれない。 

 もし。もしも願いが一つだけ叶うのなら俺はリセットを願う。そうすれば全てを防げる。桜木の問題も。蔓実。波瀬の問題も。‥俺自身の問題も。 全てを防げる。

 だが、そんな願いは叶う筈もない。俺達は起きてしまった問題の上で生きる。それしかないのだ。


 後、二年。結果がどうであれその時は待ってはくれない。リセットなど叶わない。だから、この問題は。今、、背負ってる問題だけは‥。


 「そんな顔すんな。二年生になってまだ一日過ぎただけだ。」


 俺は辛気臭い顔をした桜木の髪をガシガシと乱す。


 「う、うん。そうだね。」


 桜木の顔がいつものものに戻る。それを見て俺の顔も普段に戻った気がした。今日も学校。明日も学校。面倒で疲れる毎日。

 だが、こうしてこんな想いを抱ける日々はいつ終わるのだろうか?


 そんな考えを頭に。俺は今日という日も学校へと赴くのだ。


 *******************


 春の夕時は一年で一番、心地いいと俺は思う。暖かな日差し。吹く風の心地良さ。見る景色。どれを取っても春のこの時間は気持ち良い。


 「ふー。」


 授業も終わり、本来なら部活に参加している時間。だが、俺の体はその部室にはない。加え、桜木の姿もどこにもいない。

 そう。ここは屋上。そこの設置されたベンチに俺は一人、腰掛けていた。今日のお供は桜木の代わりに缶コーヒーである。


 カーカーカー。


 近くで烏の鳴き声が聞こえた。だが、そんな鳴き声よりも響く生徒等の声。どの部活も運動部は気合の入り方が違う。

 そんなに頑張って。努力して。時間を無駄にして。何が報われる?何が得られる?

 俺はそんな想いを頭に、飲みかけの缶コーヒーを傾けた。


 「ふー。」


 また息を吐く。見上げた空は真っ赤に染まり、綺麗だった。

 

 「今日ももう少しで終わりか。」


 俺が桜木。後、二人の誘いを断ってここに一人で訪れた理由。それはこういう時間を作りたかったからだ。

 俺は気付かぬ内に逃げていた。逃げ、遊び、流され、有耶無耶(うやむや)にしようとしていた。

 だから、一人。この屋上で考えを改めたかったのだ。


 「‥空か。」


 再度、傾けた缶コーヒーの中身。その中には一滴も残ってはいなかった。俺はそっとその缶を傍らに置く。

 そして現実に向き合うことにした。


 ここで。この始まりの場所で。

 今の環境のままではアイツは何も変わらないから。だから考える。部活動紹介などよりもコッチの問題を考える。


 が。果たしてそれでいいのか?


 今の現状。何が不満だ?アイツは楽しい学園生活を送れている。俺もそれに同じ気持ちを抱き始めている。波瀬と蔓実。アイツ等も楽しそうだ。

 

 問題などあるのか?


 ここで一吹き。暖かな風が髪を揺らす。


 カランッ。


 中身の入ってない缶は音を鳴らし、地へ転がる。

 

 「‥あぁ。」


 転がっていく缶はその勢いを増し、俺がここへ来た時に通った道。即ち、扉へと向かっていた。


 「‥へ?」


 不意にそんなあどけない声がこの屋上へ扉の開放音と共に発せられる。


 「ん?」


 俺も気付き、顔をそこへ向ける。見れば制服姿。大きなリボンが頭上に目立つ目の大きな女の子が胸に手を当て、こちらを見ていた。何でか目がうるうるしている。


 「あぁ。ごめん。それ、俺のだ。」


 彼女の足元で動きをを止めた缶コーヒーはまるで俺では自分の主は務まらねえよ。とでも言うように彼女の足下にいた。

 まぁ、ゴミが欲しい訳ではないからいいのだが彼女もゴミなどいらんだろ。 

 だから、まぁ。席を立ち、俺は彼女の元へ向う。


 さぁ、そのゴミ返して貰おうか。

 などと馬鹿な台詞を胸内で言いながら。


 「あっ‥。うっ、ごめ‥ごめんなさぁぁい!」


 「え?」


 俺が彼女との距離、数メートルまで近付いたそこで涙声にも似たような大きな声がど派手に閉められた扉音と共に響く。

 無論、俺の頭ではクエッションが踊り狂ってるのは言うまでもなかろう。


 そ、そんなに俺って怖いのか‥?


 自分に自信があったわけじゃないが、見ず知らずの女子にいきなり大声で逃げられる程ではないとは思っていた。だが、案の定だよ。なんか自信無くなってきたよ。最近、女の子に囲まれている生活が当たり前になっていたから調子乗ってたのかな俺?

 うん。むしろありがとうだよ。そんな自分に気付かせてくれて。うんうん。俺はモテないんだ。見ず知らずの女の子に逃げられるほどなんだ。


 うぅ‥


 何だか考え事をしている気分でも無くなってきた。

 

 なのだが。


 落ちていた空き缶を拾い、俺はそれでもと前を向いた。向いた先には輝く夕日。そして輝かしい青春の声。俺にはどちらも眩しい。

 それでも俺はそれを求めた。求めた結果がコレだった。知っていた。今のコレはただの偽りだと。知っていた。俺達が。桜木と俺がやっていることは決して外に出ていないと。

 だから。外に出る。

 

 「‥言うか。」


 俺はそんな決意と共に手に握る空き缶を握りつぶした。

 昨夜の帰り道。朝の登校時。いや、ずっと頭にはあったんだ。俺達のこの時間は永遠ではない。だから早く正さなくてはならないのだ。早く正し、早くちゃんとした青春を歩む。

 ちゃんとした桜木雲雀と。真実の青春を俺は過ごしたい。

 そう思ったから。


 「‥まぁ、悪くはなかったけどな。」

 

 口から溢れたその台詞に思わず微笑を浮かべてしまう。


 「じゃぁな、桜木。」


 俺は静かに言葉を残し、前に閉まる扉を音たてる。

 

 あの日もこんな夕日が綺麗な日だったな。

 

 思った想いはどこか寂しく、俺自身、それはしたくなかったのかもしれない。

 だが、それでも。そうしなくてはならない。


 扉を閉める前に見た夕日。そこに映った過去の自分と桜木の幻影。俺はその人物等をそっと記憶に残すことにした。

 

 **************

 

 さて、どうしたものか?


 俺がそう思ったのは目の前である女子生徒が涙を流していたからだ。

 まぁ、本来の俺ならばそんな光景。見ても素知らぬ振りを装い、見事。華麗にその場を立ち去る。それはまるで空気のように。さすが俺!全く気付かれてない!暗部とかに向いてるんじゃない!とまで言われるレベルの歩行術を発揮する。いや、自前の影の薄さを発揮するのですがね‥。


 それはそうと。


 では何故、俺がこんな所で立ち尽くしているかと言うとだ。それはその女の子に見覚えがあった他に理由がない。それもつい先刻。


 回り道するか?


 俺の行く場所は二階。職員室近くに存在する我が部室。大回りにはなるが別の階段を使って行けなくもない。

 あんま横、通りたくないしな。うん。そうしよう。


 そう思い、足を回れ右。進行変更。‥しようとしたのだが。少し遅れた。


 「‥あ?」


 「お、おぉ‥」


 涙に目を潤ませた幼い顔立ちをした目前の彼女と目が合う。思わず半歩、身を引いてしまった。いや、女の涙はなんとやらだよ。ほんと、女ってすっげぇ武器持ってんのな。これ、世界狙えるわ。(美少女に限る)

 なんて言ってる場合ではない。


 「う‥あっ‥す、」


 俺の存在に気付いた彼女は一瞬、体をビクつかせ、その小さな口をモニョモニョ動かし始めた。


 まずい。このままではまた逃げられる。そうなってしまえば俺の評判がどうなるか?


 おい、新戸の奴。ホモの癖して女の子も泣かしたらしいぞ。うっわ、マジ最低。


 そんな根も葉もない噂話が学校中を巡るに巡る。いや、もうほんと。根も葉どころか種すらないからね。ホモじゃねぇし。


 しかし、人間は日々の話題に飢えている。そんな噂が飛び交うのは高確率と言ったところ。


 「ちょっ、待った。」


 「‥え?」


 逃げられる前に俺は彼女の腕を素早く掴んだ。その行動に彼女は驚き、その表情が何とも罪悪感を感じさせる。泣かせ、強引に動きを封じるとかやっぱ、俺クズ野郎なのか‥?畜生、仕方がないことなのに少し不安になってきたじゃねぇか。

 チラリ。それとなく周囲を確認。


 ふー。ひとまず安心。誰もいない。いや、何を安心してんだ。これでは犯罪を犯す前の犯罪者の心境そのものじゃねぇか!いや、知らんけど。


 「‥あ、あの?」


 そんな馬鹿な思考を巡らせ、焦っていると不意に下から声が掛けられた。


 「あっ、おっ。悪い。」


 潤んだ瞳。恥ずかし気に向けれた上目遣い。オドオドとしたそんな態度。怯える小動物。そんな生物が下にいた。思わず手を離してしまったのは人間‥男の本能として仕方がない。

 が、しまった。逃げられる!

 などと、暗い学園生活を一瞬で脳内に再生。そのまま卒業シーズンまで終わらすところだったのだが。


 「あっ、いえ。こちらも急に逃げようとして‥す、すみませんでした。」


 俺との距離を数キロ取った彼女はペコリ。小さな頭を下げる。

 

 「いや、俺が全面的に悪い。だから謝るのは俺だけだ。その‥すまん。」


 そもそもお互い悪い事などしていないとは思う。それでも下手に出る精神が染みに染み付いていた俺は素直に謝りの返しをすることに。人間、謝っときゃ大概はなんとかなる。コレ、俺自論な。


 「‥いえ。私の方が悪いです。こんな所で‥その、泣いていたわけですし。」


 そう小さな声を零した彼女は言った側から涙に声を含ませる。


 「‥その、何だ?俺でよければ話とか聞くけど?」


 状況が状況。そんなキザな台詞を吐ける時期が俺にこようとは。とは言え見ず知らずの小石同然の存在感を持つ俺。こんな学校のアイドルになりそうな女の子が話などしてくれる訳がない。

 言って後悔。言わずも後悔とは言ったものだ。ここは恥かく前に修正の言葉を補正しておくべきだろう。


 「あっ、いや。話たくないなら別に構わないんだ。まぁ、だが。気にすんな。俺は口は堅い方だから誰にも言わん。あっ、今。屋上誰もいないからそこ行くといい。夕日とか綺麗だぞ。」


 何か修正だころか更に穴広げた感しかしない。こんなシュチュエーション想定したことないからテンパり過ぎている。


 「‥です。」


 「え?」


 俺が馬鹿な台詞を頭グチャグチャ。早口で動かしてるところ。小さな声が耳を掠めた。俺は今度は口を閉ざし、その声に耳を集中させる。


 「‥終わったんです。」


 「終わったって何が?」


 まぁ、確かにもう夕刻。一日の終わり。今日は金曜日。長かった学校も終わり。今季のアニメとかは始まったばかりだな。うん。

 まぁ、だが。彼女が言った言葉がそんな馬鹿な意味を含めたモノである筈なく。


 「私の高校生活はもう終わったんです‥」


 その台詞を吐いた彼女はそれまで溜めていた感情。涙を一気に流した。見ず知らずの俺。いや、俺とか関係なく。そんな存在にこうも感情を顕にした。その意味が分からない程に俺は鈍感ではない。


 「‥そうか。ここじゃ、なんだ取り敢えず場所を移そう。」


 「‥へ?」


 膝を折ってその場に泣きじゃくる彼女。そんな彼女の泣き顔を見て俺は口を開く。


 「部室に少し行こう。俺なんかよりよっぽど頼れる奴がいる。今からじゃ、あんま時間ないけど‥」


 そして同時に思った訳だ。 屋上で掲げたあの決意。あれを口にするのは遅くなりそうだ。と。

 それはいいはずない。だとうのに‥。だというのに。俺は。どこか安堵していた。

 

 窓から差し込んだ眩しい紅い光り。そこに照らされるは一人の涙に顔を濡らす少女の姿。そんな彼女を目にいつか言われた言葉を思い出す。


 俺も目前の少女のように感情を表に出せれば何かが変われたのだろうか?


 そんな想いを胸と頭に。俺は彼女の手を引っ張り、部室へと足を運んだ。

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