人は常に何かを求めている
黄昏時。屋上で出会ったちょっと訳あり少女を部室に連れてきたのは遂、先刻。まず一に浴びさせられたものはゴミを見るようなじっとりとした視線。
そして開いた口から出てきた言葉も同じようなものだった。
「あんた何、そんな可愛い子泣かしてんのよ!馬鹿?馬鹿なの?てか、死になさいよ!」
「いや、コレは‥」
便宜の言葉も口にできず、更に声は続く。
「新戸君?部活、サボってその子に何してたのかなぁ~?」
「いや、だから‥」
波瀬の笑顔って何でこんなに怖いん?笑顔っってこんなんだっけ?
「もう、ゆうちゃん!いっつも、いっつも!何でそんな、女の子ばっか連れてくんの!浮気者!浮気者のゆうちゃんなんてもう知らない!」
「おいおい、お前は何怒ってんだ?大体、この子が泣いてるのは俺のせいじゃない。」
桜木の怒涛の言葉攻め。人をラブコメの主人公みたいに言うの止めてくんない?そもそもラブコメハーレム主人公の定義って主人公に好意持った人物が主人公に寄り添ってくるんであって俺の場合は違うから。うん。断言するけど。
そもそも桜木、男だし。
「‥あっ、あの?」
三人から俺が意味分かんないことで攻められていると不意に袖を引っ張られる。
「あぁ、ごめん。ごめん。こいつら悪い奴らではないから安心してくれ。というか俺よりかは話やすいと思う。」
そもそも男の俺よりも同性の方が話かろう。
「‥は、はい。」
それでも返ってきた言葉はオドオドしていて怖がってる風に見える。まぁ、無理もないんですがね。
「と、まぁ。新戸君をいじるのもこの辺にして本題に入ろうか?取り敢えず、その子。中入れたら?」
オイッ!
というツッコミを喉手前で飲み込み。波瀬の提案に従う。
「そうだな。えっと‥楓香ちゃんだっけ?手厚い歓迎はできないけど中、入りなよ。」
そんな台詞を口に、俺は彼女を中へ案内した。何か変な勧誘でもしてるようで良い気分ではない。
彼女も彼女であんまりいい表情ではないし。まぁ、それでも中に入ってくれたのはせめてもの救いか。いや、彼女が救いを求めてるんだな。
「まぁ、座りなよ。お茶とか茶菓子は出せないけど。」
中に入れた彼女を四つ合わせた机の一席に座らす。俺は新たに机を近くから持ってきてその四つの机に合わせる。これで皆座ることができる。なんか俺のポジションおかしいけど。何で社長ポジション?何で仕切るようなポジション?何で一人だけ頭出てんの?
とかいうのはどうでもいい。
「で、えっと‥。やっぱ俺いない方がいいか?」
せっかく机も新たに持ってきて何だがやはりここは女の子同士の方がいいのかもしれない。まぁ、一人違う奴も混ざってるがそれはそれとしてだ。
「あっ‥いえ。別に構いません。い、いてください‥」
早々、席を立とうとしていたのだが彼女のそんな台詞に浮いていた腰を止めざるを得ない。状態は空気椅子状態。少しキツイ。
「で、本当にあんた、この馬鹿に何か変な事とかされてないのね?」
「え?は、はい。別に何も‥」
蔓実の迫力に押されてか、楓香ちゃんは萎縮気味に首を縦に振るう。本当に何もしてないのに何かしたっけ?と思い返してしまった。蔓実から送られる横目はさることながらの迫力だし。鋭すぎんだよ。目が。
「まぁ、とにかくだ。下校時間まで後、僅かしかない。早々に話を聞こうぜ。」
これ以上、この子を怖がらせない為。俺に対する評価が落ちない為にも早く話へと移行する。席のポジションもさることながら普段、絶対にしないであろう進行役を担ってしまった。
「は、はい。‥ですが、その本当にいいんですか?楽しい話ではないかと思いますよ?」
ここに来る前はそんなこと気にしてなかった。というよりも気付いていなかったのだろう。彼女は少し落ち着きを取り戻したのだろう。ようやく事の状況に目がいった。
モジモジ。もにょもにょ。話す口が自由に動きそうにもない。
「気にすんな。俺達は別に話を聞いてどうしようってことはない。ただ、泣くほど辛い事があった。そんな悩みを持つ人間を放ってはおけなかった。それだけだ。」
本人の気持ちを楽にさせようと思ったのだが大分、恥ずかしい事を言ってしまった。だが、そうだよね?皆も考えは同じだよね?俺だけではないよね?
それでさっき言ったことがどうこうなるわけではないが、皆に確認。拡散することでこの羞恥を少しは軽くできる。そう信じて残り三人に視線を送る。
のだが、分かっていましたとも。三人が三人。打ち合わせでもしたん?って程のシンクロ。以心伝心で笑いを堪えている。
「ゴホンッ。とにかくだ。話して損することはないだろ?独りで抱えるよりも他者にぶちまけた方が気が楽になる。ソースはここにいる者、皆。だから、本当に楽に喋ればいい。」
咳払いを一つ。若干、頬を赤に染め、俺はもう一押し。彼女の背中を押してやった。
「そうだよ。ゆうちゃんの言う通り。事情は置いといて、独りで抱えるよりかはよっぽどいいと思うよ。僕達もそれは経験済みだからさ。ね?」
尚もまだ下向き、口は動かない彼女に桜木は自身の手を彼女の手の上に添え、笑い掛けた。そのお陰か彼女の表情がほんの少しだが和らいだ気がした。
改めてコイツってすげぇと思った瞬間でもある。
「‥そ、それなら。す、すみません。こんな私の話を聞いて貰えますか?」
時間は三分といったところだろうか?そんな長くも短くもない沈黙の時間の後、楓香ちゃんはようやくその重い口を動かし、開いた。
俺達、四人。その言葉に否を訴える者などいる筈ない。ほとんど同時に首を縦に動かし、彼女の更なる言葉を待った。
「‥ふー。」
よっぽど緊張しているのだろう。気持ちは分かる。見ず知らずの四人。そんな者等に自身の闇とも思えるモノを投げかける。そんなこと、俺だったらできると思えない。
だが、放ってもおけなかった。放って置いたら一生後悔する。そう思った。まぁ、その性格のせいで今の現状になっているし、こんな部活にも所属する羽目にもなったのだが‥。
楓香ちゃんは大きく息を吸い。それを吐くと意識を固め、顔を前に真剣に向けた。俺達にもその緊張が伝わり自然、背筋を伸ばしていた。
そして、口が開く。
「わ、私の入学した事実。それが今日、四人の同級生にバレたんです。」
「‥入学した事実?」
言葉に出したのは蔓実。だが、俺達四人も同じ心境を抱いていた。何のことやら?それを確かなものにするべく、俺は彼女に更なる詳細を訊ねる。
「悪い。言ってる意味がイマイチ分からん。詳しく訊いても?」
「‥は、はい。そ、その‥」
頷きはしたものの彼女の視線はまたも机下に注がれた。それだけではなく体も小刻みに震え、吐く息も少し荒い。そんな彼女の姿を見れば誰だって分かるだろう。
彼女が抱えるその問題。それはかなり大きなモノだという事が。
「大丈夫。誰も楓香ちゃんを攻めはしないから。落ち着いてゆっくり話して。」
「‥あっ。は‥はい。」
震える彼女に桜木はさっきと同様。手を置いて、微笑みかけた。それで楓香ちゃんの状態も少し和らぐ。本当に何なのか?桜木の持つスキルは通常人では考えられない。
「‥じ、実は私‥」
何かそんなタイトルの漫画あったけな?そんな悠長な事を頭に思う時間は短かった。何故なら、次の彼女の言葉。それはきっと誰も予想していなかった筈だから。‥いや、その彼女の隣に座る者。桜木だけはその言葉を予想していたのかもしれない。言葉を聞いても何一つ動じていなかったのが何よりの証拠と言えよう。
とは言え、彼女。楓香ちゃんは言ったのだ。
「じ、実は私‥裏口入学したんです。」
****************
いつも流れている音楽は今日はなく、妙に静か。いつも賑わっている訳ではないがあるものが無いというだけでここまで変化を感じるものなのだ。
そんな事を机上に乗る一杯の香り高いコーヒーを口に持っていきながら思った。
「今、お前失礼なこと考えていただろ?」
「うっ‥ゴホッ‥。ゴホッ。」
ビビった。口に含んだコーヒー余すことなく全部吹き出すところだった。
「んだ。図星か。ったくお前という奴は。」
そう言ってここのマスターは俺の向かいの席へ腰を下ろした。
「ちがっ、違います。別にここにいつも客がいないなんて誰も思ってませんって。普段も静かだなぁ。なんて思ってません!」
「そうか。まぁ、そうだな。」
何か振りだったのかな?と思って敢えて、正直な事を口にしたのだがアリ?何だ?この反応。マジで落ち込んでしまってる?
「あぁ、冗談です。冗談です。てか、マスターのコーヒーの味は俺が一番、よく知ってますから。なんなら俺、偉くなってこの店支援しますから!」
ただでさえこんな夜遅く。営業時間過ぎに来店しているのに落ち込ませては俺の良心?とにかく心にチクリ刺さるものがある。早口にロクに考えもしない補足の言葉を口に。
「ふふ。こっちの方こそ冗談だ。相変わらず優一は面白いな。」
大人っぽい笑い声を口に、マスターは自身が注いだコーヒーカップを傾ける。
「で、今日は何の用だ?」
何も変わらないのにマスターの言葉はその場の雰囲気。空気を少し堅くさせた。俺、個人の感想であるがマスターはそういう人なのだ。だから、俺はここに来た。
「まずはこんな夜分にすみません。どうしても今日、マスターとお話したいと思ったので。」
俺はその場。座ったままの状態で軽く頭を下げた。
「それはいい。さっき聞いたしな。それより、本題はなんだ?また、面倒事ならごめんこうむりたいのだがね。」
そう言ってマスターは再度、カップを傾ける。最後の台詞は本心か。はたまた冗談かは知らないが、本当に申し訳ないとは思う。今度、菓子折り持って礼を言いに来よう。
「それは本当に申し訳ないです。けれど俺には頼れる人間がいない。だから‥。その‥」
上手い言葉が出てこない。自分の語彙力の乏しさのせいなのか?それとも今日、突きつけられた問題に頭が混乱しているせいなのか?多分、両方だと思う。
「まぁ、落ち着け。」
「はい。」
俺は素直にマスターの言葉を受け取った。受け取り、すっかり冷めてしまったコーヒーの入ったカップを傾ける。思った通り。冷めていた。が、苦味はそのまま。お陰で頭は少しだけすっきりした。
「で、今度はなんだ?」
マスターの言葉は容赦ない。だが、その為にここに来たのだ。桜木の件。波瀬。蔓実の件もだが、俺はこの人頼りで何とかできていた。だから、今回もこの人を頼ろうと思った。今回の件は尚更。俺一人では手に負えない。
「はい。実は今日、出会った女の子が裏口入学した事が同級生の。それもクラスメートにバレて脅されているそうなんです。」
楓香ちゃんはあの後、怯えた顔で洗いざらい俺達に悩みをぶちまけた。せめてもの幸いがバレたのは四人。それも全員が女子生徒だったという点だ。これが男子だったら楓香ちゃんの危険度は増す。あの子、容姿も性格もトップクラスで可愛かったし。
「そうか。またお前は‥」
「すみません。」
飽きられても無理はない。前回もそうだが俺には何か厄介事。それも下らなくも、小さな問題でもない大きな厄介事に巻き込まれる何か呪いみたいのが掛けられているのかもしれない。
「別にお前が謝る事ではないだろ?まぁ、それをここに持ち込むのはどうかと思うけどな。」
仰る通り。マスターが溜息を大きく吐き出すのは嫌でも理解できる。
「で、お前はどうしたい?」
「どうって‥それは。」
そう言えば俺はどうしたいのだ?楓香ちゃんを助けたい?護りたい?それとも間違ってると理解させたい?
改めて問われ、俺は自分がこの件をどうしたいのか分かっていなかった。
「まぁ、まだ頭が追いついていないんだろ?優一。お前が抱える問題は何もソレだけではないのだろ?頭が追い付かないのも無理はない。取り敢えず、糖分だな。少し、待ってろ。冷蔵庫にチョコプリンが冷やしてあった。生クリームたっぷり乗せて持ってきてやる。」
「あっ、いえ。それは‥何か申し訳ないというか‥」
「気にすんな。どうせ余り物だ。処分するよりかは大分いい。」
相変わらずエスパー級の読心術。その技量に素直に感服する。まぁ、俺がただ単に分かりやすいだけなのかもしれないが。それはそうとその気遣いはありがたいし、助かる。
「抱える問題‥。」
マスターが厨房にプリンを取りに行って静かになった店内。俺は独り。そんな事を呟いた。確かに俺が抱えるモノはソレだけではない。
ソレは言わずもがな。始めに背負った桜木の事。後は‥
「ほらよ。糖分増し増しのスペシャルサービスだ。まずはコレ食って脳を正常に動かせ。」
待って数分。厨房からマスターが一個は普通のチョコプリン。もう一個はもうソレ生クリームだろ!って程に生クリームしか乗っていないモノを持って登場した。
「あっ‥ありがとうございます。」
本人に悪気はないのだ。むしろ気を遣ってくれた結果がコレだ。文句を言うどころかお礼を言うのが人間としての礼儀というもの。
だが、しかしよくこんなに生クリーム乗っけれたな。プロの技術、恐るべし。
「でだ。その子。えっと‥名前なんてったけ?」
「‥え?」
生クリームから中身のプリン君。はたまたプリンちゃんを救出しているところ、不意のマスターからの問い掛け。
「だから、裏口入学してソレがバレた奴の名前。」
「あぁ。楓香ちゃんです。」
ほんと、疲れてるのだろうか?プリンに夢中になってここに来た目的を忘れていた。‥いや、コレはただ単に俺がプリンの誘惑に負けただけなのだが。
「そうそう。その楓香ちゃんって子が今回は悪いだけだろ?」
「へ?」
こっから何かアドバイス的な何かをくれるのでは?などと期待なのか?よく分からないがそんなものをしていたのに言われた台詞は全く違う。思わず、スプーンを口に、首を斜めに傾けてしまった。
「そうだろ?何がどうであれその子は裏口入学をした。その事実は変わらないし、変えれない。社会的に悪とみなされるのはその子の方だ。」
「‥はぁ。まぁ、そうなりますかね。」
俺は曖昧な返答をやっと中身が見えてきたプリンを目に口にした。
「なんだ。あまり納得していないようだな?まさかお前はまた、その子を助けたいなどと言おうとしていたのではないだろうな?」
マスターは最後に呆れたというように溜息を口から吐き出す。
「いえ、そういうことではなく。俺は楓香ちゃんの悩みを解決してあげたいと思ってるんです。第一、楓香ちゃんは被害者なんです。楓香ちゃん自身は裏口入学を望んではいなかったんです。」
「解決だ?それは言葉が違うだけで‥まぁ、いい。で、その子が被害者?どういうことだ?」
マスターは呆れたという感情を無くさず、その詳細を俺に求める。
「はい。楓香ちゃんは親に強制的に裏口入学させられた。まぁ、そんな感じなんです。」
「親に?」
「はい。」
俺は楓香ちゃんが洗いざらい話した言葉をそのまま伝える。あの後、楓香ちゃんが滝の流れのように話した内容は以下の通りだった。
「私、実は頭がそんなに良くはなくて‥。両親はそんな私を酷く嫌っていました。ですが、体裁。世間体というものがあります。私の家はお母さんが弁護士。お父さんが検事とまぁ、そういう家ですからその娘が無知無能というのは認めたくなかったのでしょう。ですから、私をこの学校に無理やりにでも入れた。方法はよく分かりませんが雇われた家庭教師が試験当日までその日、試験で出る問題だけを私に教えました。私はそれを聞くしかありませんでした。親にここまでされて無駄にできる筈もなく、私はほぼ満点でこの学校に入学しました。」
「― と、そういうことです。」
だから彼女が悪くないという訳ではないが、彼女だって選択肢がなかったのだ。それだけは俺には分かった。
「成る程。事情は分かった。」
話し終えるとまず始めにマスターはそう口にした。それから空になった皿を机に音たてると続きを話し始めた。
「だが、私の意見は変わらんな。その子には悪いがそれが社会のルールだ。どんな理由であれ人を殺せば罪になる。そうだろ?」
「そ、それは‥。」
その言葉の意味は勿論、俺には分かっていた。マスターが誰の事を言っているのか。その人等。彼女等の事は。
だが、それでも俺は納得ができない。楓香ちゃんは確かに悪い事をした。その罰は受けるべきなのかもしれない。それでも、彼女は‥。彼女は泣いていたのだ。そして、俺にはその理由が少し分かっていた。
「彼女自身、分かってはいると思います。だから、彼女は一人でどうにかしようとしていた。最後に彼女、言ったんです。やっぱ、自分がここを辞めるしかないんですかね。そしたら私、家にもいられない。どうしよう。って。」
その時の彼女の顔。声は笑っていた。あれだけ泣いていた彼女が最後は笑ったのだ。俺を始めとする残り三人も同じ想いを抱いた筈だった。
悪いのは彼女ではないと。
社会のルール。モラルに秩序。そんなものは関係ない。俺は‥。俺達は彼女に学校を辞めて欲しくはないと本気で思ったのだ。
「それで。だから、お前はまた女の子を救い、王子様になりたいと?」
「いや、そういう訳では‥」
またっていつ俺が王子様役に抜擢されたのだか‥?
「だがな。世の中はそんなに甘くない。全てを救える人間も。選択もこの世にはないんだ。お前自身、それは分かってる筈だ。これまで関わった彼女。彼。三人をお前は救ってはいないのだから。」
「・・・・・・。」
図星だった。マスターはやはり凄い。俺の想うこと全てを言い当てる。王子様と言ったがアレはマスターなりの誘導だったのかもしれない。
俺にその事実と向き合わす為の。
「まぁ、そう暗い顔するな。お前は確かに誰も救ってはいないが三人にとってお前という存在は鎮静剤みたいなモノにはなっている。少なくともお前は彼女。彼らをレールに戻しはしたんだ。」
「‥鎮静剤。」
「そうだ。今、あいつらが普通の学生が送るような生活ができているのはお前のお陰だ。」
マスターの言葉は一々、意味深だ。そしてそれが分かるから俺は黙る。
「それで、もう一度問うがお前はその子をどうしたいんだ?救いたいのか?それともその子の背中を押してやりたいのか?それともその子の重荷をまた背負うつもりなのか?」
最後の言葉にドキリッとさせられる。ここに今日、来た理由。それはマスターにアドバイスを貰いたかったから。それともう一つ。俺は多分、ここに確認しにきたかったんだ。
最後にマスターが言った言葉が本当に当っているかどうか?それをしてどうなるか?それを聞きたかったのだ。俺自身、今の今まで気付かなかったが多分、そうなのだ。きっと、俺はそうする気でいたから。
「その反応を見れば最後か‥。はぁ~。」
察しのいいマスターはさすがの一言に尽きる。それが吉なのか凶なのかは分からないが言う手間が省けたのはありがたい。
「その問題をどうするか。最終的に決めるのは優一。お前だ。だから、私は何も言わない。ただ、忠告はしとく。その選択をし続けていたらお前はきっと後悔する。荷物を分け合うことは何もソレが無くなる訳ではない。いつか、お前は自分の背負う荷物ではないソレ等に潰される。そしてその終着は―」
「わかってますよ!!」
静かな空間に大声を発す。似合わない。滅多にしない。いや、初めてだったかもしれない。俺は大声を上げ、自身の気持ちをさらけ出した。
「‥分かってるんだ。そんなこと‥。俺はただの人間でヒーローでも、ましてやどこぞやの主人公でもないってことは‥。だけど。けど‥」
けれど放ってはおけない。
「はは。ようやくお前自身、吐き出したな。そうだ。お前はもっと頼れ。無論、本心。お前自身の事をだ。頼る相手がいないならその役目は面倒だが私が担おう。」
「‥ま、マスター?」
酷く情けない声が出た。思えば俺は誰かにこうした感情を表に出したことはなかった。クールな男子は人気高い。そんな理由ではなく、感情を表に出す術を封印していたのだ。理由はもう忘れたが。感情を出せば情けないと思ったから。弱いと思ったから。
だが、もう限界だった。背負ったモノに押し潰されそうだった。
「お、俺はどうしたら‥いいんですか?」
情けない声。涙に滲んだ目。そんな表情。声を綺麗でかっこいい大人な女性に見せる。そんなこと、通常時の俺では絶対にしない。恐らく、後で羞恥で死にたくなる。けど、今はそんなの構わない。
俺の荷物もマスターに預けたい。
「どうしたらか‥?そうだな。始めに言ったが私は社会のルール上。その子の意見を主張したい。だが、お前はソレを認めたくない。なら、仕方がないか‥。」
マスターは一人、呟くと面倒臭そうに溜息を一つ吐く。そして情けない表情をした俺にこう言ったのだ。
「優一、お前‥。いや、お前達には後戻りできない行動を取ってもらうがそれはいいか?」
「‥へ?」
「だから、お前達はヒーローでも主人公でもない。言うところの敵。悪役になって貰うがそれでも構わないか?」
「・・・・。‥はい。それで全て、丸く収まるなら。」
言っている意味は分からない。だが、意味もなくマスターがそんな訳の分からない事を言うはずがない。だから、俺は頷く。
「そうか。なら―」
俺の行動と顔。それを見たマスターも頷く。そしてそれらの事を俺に伝える。俺はその言葉をしっかりと聞いて、最後に礼を口にし、店を出た。
空は真っ暗。春の肌寒さが身を引き締める。
だが、そんなことより。俺の頭に流れていた言葉は一つしかなかった。マスターが最後に口にした言葉。
「本物の悪を引き出すにはこっちが悪にならないとな。」




