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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
2章 青春かくれんぼ
18/59

癒えない傷

着いた生徒会には、やはり今日も会計・庶務の方々がいない。これでは本当はいないんじゃないのか?と、疑いの目を向けざるを得ない。生徒会選挙も半分、寝てたからなぁ~。その真実も曖昧だ。


 と、今日はそんな神隠しにあったであろうお二方の所在を確認しに来たわけではない。


 「んで、今日は何の用だ~?ってか~、ここは交番じゃねぇんだから勘違いすんなよ~?あぁ、ダルイ。」


 ノックを二回程、開けた扉の先の人物に一言、二言、挨拶を交わした後に言われた台詞がそれだった。

まぁ、その台詞には頷くしかないんですけどね。えぇ。


 「ですが、会長?今の時期、私らに仕事はこれと言ったものもないじゃないですか?困った生徒に協力するのも生徒会の大事な責務だと思いますよ?」


 今日も眼鏡がよく似合う副会長の麻凛さんはいいと言ったにも関わらずお茶を出してくれ、口を動かす。

 因みに今日のお飲み物はハーブティーのようだ。

正直、あんまり好みではないんだよなぁ…


 「はぁ~、麻凛は真面目だな~。大体、そういう事は奉仕部?ボランティア部?あぁ、確か名探偵部とかいうのもあったな~。自分で名探偵とか言うおかしな部活~。そういう奴らに頼めばいいだろ~?どうせ、あいつらも暇してんだろうし~。」


 今日も小さな生徒会長。ご自慢の無気力。ダラダラ感が半端ない。

 今日の学園も平和な事、この上ない。


 「いえ、この件に関しての問題は生徒会のお力が必要不可欠なんです。」

 

「あぁ~、何でだよ~?」


珍しく行動的な俺に対して、いつも通り?(付き合いが殆どないから分からん。)机の上でダラーンとしている会長の姿。

 乗り気ではないのが嫌でも伝わる。副会長もこんなに苦く、熱い紅茶なんかを振舞ってくれたわけだし、その実は俺達を帰らせたいんじゃねぇのか?

 心中、不安で一杯であります。


 「いえ、その。アニ研部の部長。蔓実香澄さんの事をですね‥」


 生徒会でも知らないと言われたその問題を全て告白していいものかと口を開いて半分のところ、気付く。

 だが、その事は教師には訊けない。教師の次に生徒の情報を把握、収集している場所はここしかないのだ。

 だからと言って全てを話すというのもどうかと言える。強姦にあったなど彼女の黒歴史をホイホイ口にしたくもない。

 ならば、俺がここで言うべき言葉は多少の捻りが必要となる。全てを言わずに且つ、得たい情報を獲得する。

 そんなトーク術、俺には無いとは思えるがやるしかない。


 「ん?どうしたんです?急に口を止めて?」


 向かいに座る副会長が急に言葉を切った俺を不審に思ってか、そう訪ねてくる。


「いえ、別に‥少し訊くことを整理していて‥はは。」


 誤魔化しきれたとは到底、思えないがこれが俺の出せる限界。


 「そうですか?」


 副会長は首を捻る動作を見せるもそう言ってくれる。生徒会長に至ってはさっきの話すら聞いてないように見える。

 まぁ、いいんですけどね。


 「で、その・・」


 微妙だが納得を頂いたのだ。早速、会話。ここへ来た目的を果たす。


 「アニ研ってのはその‥本来は四人いたって事でしたよね?」


 「はい。そう記載されていましたね。」


 耳横に掛かる眼鏡を上げ、言う副会長の言葉は早い。


「では、その‥その部員の事とかって訊いても大丈夫ですか‥ね?」


 本来、この学校に通う生徒の個人情報は各担任の教師が保管・把握している。だが、例外もいる。

 問題を起こした生徒がそれ。

 勿論、その生徒の処罰・処置等は教員によって決められることだがその始めとして生徒会に送られる事となっている。

 生徒会に送られる目的は単純。問題を起こした生徒を生徒会で把握。収納する為だ。

 生徒数の多いこの学校ならではの方針だ。


 「何故でしょうか?」


 個人情報という事もあってか副会長は直ぐには頷かない。それもその筈なのだが。


 「えっとですね。約束の期日。その期日が迫っている現状、俺達にはその当てがないんです。ですから、最終手段として元部員である方々をまた戻そうかと思って‥」


 そうは言ったが事実、アニ研の部長にあんな行為を行った連中だ。部員としての勧誘など絶対にしない。 


「‥成る程。ですがそんな事をするよりも他の生徒を勧誘した方がずっと楽だと思いますよ?」


「いや、それはそうなんですが‥」


 確かに一度、抜けた者をまた戻すなど骨が折れる。それならばアニメに興味がある生徒をポスターやら学校掲示板などを使って集める方がずっと楽だし確実とも言える。

 だが、俺がここに訪れた目的は言葉の通りではない。


 「一応、その生徒に声くらいは掛けたいなと思いまして‥駄目ですか?」


 「いや、駄目という事は‥会長はどう思いますか?」


 しっかり者の副会長だ。生徒の個人情報。それも問題が記載されているであろう者の情報をホイホイ教えては生徒会に汚名が付くとでも思っているのだろう。

 実際、そうなのだが。副会長は真面目だけではない。優しい面もあるから即、首を横には振れないのだ。

 ん?てか、問題が記載されている筈なのに何で生徒会はアイツ等の問題を知らなかったんだ?惚けていただけ?いや、そんな風には見えなかったが‥。


 「ん~?別んいいんじゃねぇ~?めんどくさいし~。どうせ、そいつらも与えないと帰んないだろうしな~。」


 「会長がそう言うのなら仕方がありません。」


 頭でボンヤリ。そんな事を考えていると会長と副会長の会話は進み、終わっていた。

 ってか、会長!そんな感じでいいのかよ!

 いや、助かりますけども。


 「では、少し待っていて下さい。」


 会長に了承の意を受け取った副会長は一言、言って席を立つ。そしてそのまま右隅にある棚に向かい、分厚い青色のファイルを手に取る。

 何枚か捲り、目的の物が見つかると副会長は一瞬だけ、眉根を寄せた。だが、少ししてその二枚を素早く抜き、こちらへと戻ってきてくれる。

 

 「お待たせしました。どうぞ。」


 「あっ、ありがとうございます。」


 あの表情の意味を尋ねるべきか迷ったが俺は礼を一言だけ言ってその用紙を受け取った。


 まず始めに目に入った生徒の写真。眼鏡を掛けたヒョロっとした男子。どっかのオタク街にいそうだ。

そして二枚目。

 こちらの生徒は肉付きもよくスポーツ系の部活をやっていそうな感じが見てとれた。笑うその顔に光る白い歯は写真からでも輝きを感じる。


 俺はそんな彼等の写真を一目、その横に書かれてあった名前・生年月日・血液型などの情報も流し見。下へと視線を移行した。

 ここで俺が求めるべき情報は今、現在のコイツ等のクラス。それと住所などだ。顔は必要なモノの一つだったのでしっかりと脳に焼き付かせたが。


 「は?」


 思わず声が出た。いや、だってそこに書かれている文字はおかしい。


 「ん?どうしたの?ゆうちゃん?」


 俺の声を聞いて隣の桜木が訊ねてくる。

 が、今の俺にはそれに返答してやれる余裕はない。


 「あの‥これって?」


 「はい。私もさっき知ったばかりです。」


 桜木を差し置いて訊いた問。副会長はゆっくりと首を振った。


 「じゃぁ、これは間違いないと?」


再度の質問。これが事実なのであれば俺には打つ手がない。完全にやるべき事を見失う。残りの日数は今日、合わせても三日しかない。しかも今日はもう終わろうとしている。

 記載ミスだと信じてそんな言葉を祈り、投げた。


 「はい。恐らく‥その通りだと思います。ですが、何故こんな‥。前、見た時はこう書かれていなかった筈ですが‥」


 首を捻る副会長だが、俺にはその謎が大体、予想ついていた。

 彼達のやった事を知っている者ならそんな事は容易く予想できるであろう。彼達はこの学校では特別な存在なのだと。


 と、まぁ。そんな事は今はどうでもいい。ソレが事実と言うならば完全に手詰まり。打つ手無し。彼女を鳥籠から飛び立たせてあげられない。

 そう思うと一気に力が抜けた。

 

 「もう、ゆうちゃん?どうしたの?」


 さっきの事を根にもってか隣の桜木の声が今度は大きく耳に入る。

 だが、俺には何も言えない。


 「んもうっ。」


 何の反応もない俺に桜木は一つ鼻から息を吐き、諦め、机上に放った二枚の用紙を手に取った。

 

 「‥えっ?」


 二枚の用紙を眺めて数秒。桜木はさっきの俺同様の声を短く上げる。その後、無言で俺の方に目を。そして向かいに座る副会長の方へと視線を泳がせた。


 そんな桜木の視線に答えるよう。副会長はゆっくり、首を動かす。

 

「はい。彼等はもう―」


 副会長が発したその後の二文字が俺の耳に大きく響く。

 アニ研の部長。蔓実香澄はその事を知っていたのだろうか?なら、あの格好はただの理想を追い求めただけの姿ではないとさえ思えた。彼女は決して悪くない。

 悪いのは犯行を及んだ彼ら。

 だと言うのにその彼らはもう‥


 「死んでいます。」


 その言葉を聞いて、俺は奥歯を噛む事くらいしか出来なかった。


 ***************


上空に浮かぶ大きな夕日は赤々と道を。俺達を照らしていた。その光だけで本来の気温よりも温かくしているようにも思える。

 が、そんな事はない。気温は一桁台。周りに漂う冷たいモノは絶対零度。


 生徒会を後にして俺達は終始無言で帰路を歩いていた。その理由はまぁ、言わなくてもいいだろう。 


二枚の用紙に記載されていた男子生徒、二名の名は須藤(すどう) (まこと)石神(いしがみ) 真夜(しんや)。眼鏡を掛けたヒョロッとした方が前者でさわやか系男子が後者だ。

 用紙に記載されていたのは名前に血液・生年月日。それと住所に前年度のクラスと死亡の二文字だった。

 須藤も石神も俺と同学年。廊下や全校集会の場などで顔くらいは見合わせただろうが接点もなければ、その記憶も曖昧だ。

 だが、同学年の生徒が二名死んだのだ。学校側が何も言わないのはおかしい事態。普通は全校集会‥はなくても学年集会くらいは開く。黙想し、教師からの話なんかを聞くくらいはする。それなりに仲の良かった者もいた筈だし‥。

 だが、俺の記憶が正しければそんなものはされていない。その理由も何となくは分かっていた。俺にも分かるくらいだ。桜木も察してはいるだろう。


 死因についての詳細はなかったが恐らくは自殺。動機に関しての心当たりも大体は予想済み。

 つまり、二人の死を公表すれば学校側に多大なダメージが課っせられるという事だ。

 それは知名度そこそこで今、現在その勢いを増している俺達の学校としては非常によろしくない。だから学校側はそれを伏せた。

 教師は知ってはいるだろうが生徒には何一つ知らされていない。二人の生徒が同じ時期に消えたというのに噂一つないのがその証拠とも言えるだろう。


 両方の親にとっても強姦をした息子がその罪に耐えられなく自殺なんてのは知られたくはないだろう。当方の意見が合えば隠す事など簡単だ。これは俺の推測に過ぎないが二人の葬儀は遠方の地域でひっそり、こっそり行われたのだろうと思える。


 と。まぁ、そんな推測を脳内で再生させてはみたがそれが合ってるという確率もないし、仮に合っていたとしてもどうしようもならない。

 結局のところ二人の死は絶対で変わらないのだから。


 「あっ、僕。こっちだから。」


 気付けばいつもの別れ道。桜木の遠慮がちな声が耳に届く。


 「あっ、あぁ。」


 ろくな言葉が出てこない。それほどに今日、俺達が知った事は重大でどうしようもなかった。


 「明日も生徒会に行くんだよね?」


 「ん?あぁ、そうだな。」


  あの後、生徒会(主に副会長だけだが)は二人の生徒の存命か否かを調べてくれると言ってくれた。だから明日はその報告を聞く事となっている。まぁ、期待はできないが何も手出しが出来ないと言うならば足を運ばないわけにはいかない。


 「そっか‥そうだね。」


 「あぁ。」


 俺達はその道で足を止めていた。誰かがそうしろと言ったわけではいが。話す内容があったわけではないが何となく足が動かなかった。


 数秒の気まずい沈黙。一台の車が横を過ぎった。

 

 「‥あっ、あのさ。」


 車の音が遠ざかると桜木は言いにくそうだが言葉を発した。


 「蔓実さんのこと‥僕は諦めたくないよ。」


「え?」


 桜木の言葉に思わず驚いてしまう。コイツの事だからまた背負い過ぎるなとか。諦めようよとか。そんな台詞を口にするかと思った。


 「その‥蔓実さんの受けた傷は僕にはよく分かんないけど・・。それでも一人で悩んで、苦しむのはさ辛いから‥」

 

 始めの勢いから段々と弱くなっているのは言ったはいいがその方法が分からない。と、まぁそんな感じだろう。

 

 「あぁ。そうだな。人ってのは一人じゃ立てないからな。その支える奴が俺一人なら無理の一言だが、お前もいる。大丈夫だ。」


 「うん。」


 照らす夕日はやっとその温度を俺達に伝えてくれた。お陰で桜木の髪色が眩しい。‥いや、その全てかな?


 「じゃぁ、また明日ね。」


 「あぁ。じゃぁな。」


 言って俺達はやっと動き出す。変わったモノは何もない。それよりも更に悪くなった。蔓実香澄を動かす方法は未だに策無し。残り日数はもう二日となる。

 

 知って後悔する真実。問題。誰かが言ったその言葉が三度(みたび)頭に過る。


 だが、思う。知らなくては変わらない。知らなくては動けない。戦えない。だから俺は後悔なんかしていない。あの時、桜木の過去を知ったその時も。今も。俺は後悔などしていない。


  その言葉を言った誰か。いや、あの学校の教師は皆。戦わないのだ。それは分かるし、俺も出来ればそうしたい。

 現実を長く生きた人間は夢を捨て、感情を殺す。

 引きこもりの生徒に熱を注ぐ教師もいなければ気に掛ける生徒もいない。


 それは当たり前な事なのだ。誰もが自分が生きる事だけで必死で自分に利益のある優しさしか振るわない。

 優しい人間にも悪の心はある。逆に悪い人間でも善の心はある。そうやって出来ているこの世界。


 蔓実香澄という存在は誰にも利益にならない。いや、始めは気に掛けた友人もいただろう。

 だが、彼女の心はそんな優しさだけでは動かせれなかった。


 エゴイストでは彼女を救えない。


だから彼女は教室の。学校の影となった。誰も彼女を気に掛けない。誰も彼女には触れない。


 そして考えた。俺にとって彼女はプラスになるのかと。


 結果は分からなかった。

 彼女がアニ研に入れば俺にとってはプラスとなるだろう。だが、その為の労力がマイナスとも言える。

 損得を考えて生きている訳ではない。そんな事を考えるのは家事だけで十分だ。

 だが、考えた。考えてしまった。そして結果は分からない。


 「ふっ。なんだそれ。」


 何故か笑みが溢れる。


 分からない問題。そんな問題に遭遇した時、俺はどうしてるか?これはテストの話だ。

 まずは考える。それでも分からないときたら適当な答えを解答欄に入れる。


 適当な解答。


 言い方が悪い。考えたなりの最適な答えだ。


 足は自宅前。どうせ、今日はろくな事が出来ない。現状は最悪。だが、行動は決まった。

 打つ手が無ければ立ち止まるのではなく。敵が見えなくなったら諦めるのではない。ゴチャゴチャ考えるのはもう止めだ。


 あの日。とある珈琲店のマスターに言われた。俺は俺なりに動けばいい。

 

 行動目的?


 そんなのは彼女の顔に笑顔を取り戻す。それだけで十分だ。


 

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