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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
2章 青春かくれんぼ
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17/59

青春には傷が付き物

 月曜日。俺にとってその曜日は憂鬱この上ない曜日である。始まりはわくわく。ドキドキなのだがそんな心になる筈もない。ある雑誌の発売日というくらいにしか楽しみもない。ほんと、もう帰りたい。


 「ふ~ん。で、優ちゃんは僕が家でお客さんに挨拶ばかりしている時、あの女の子とデートしてたんだ?」


 「待て。待て。そこじゃないだろ?大体、あれはデートじゃねぇ。和君もいたし。」


 毎朝恒例、朝の通学途中。俺は昨日の事を桜木に話した。彼女の問題は俺だけでは重荷。協力者は多い方がいいのだ。

 だから報告したというのに‥。


 「違くない!女の子とファミレスなんて行って、デートじゃないわけないじゃん!弟さんとも仲良くなってもう完全に狙ってるじゃん!」


 プンスカ怒る桜木は点で話しを聞いてくれない。本当に憂鬱だ。


 「いや、狙ってねぇし、話を聞け。俺が言いたい事は俺一人ではアイツの傷を癒し、治す事は出来ない。だから、お前も協力してくれって言いたかったんだ。」


 桜木の大声のせいで道行く通学者の視線が痛い。控えめな声で俺はそう言った。


 「・・・・。ふ~ん。でも、僕じゃぁ、戦力外だと思うけど?僕、人見知りだし。彼女とは話すら出来ないと思うよ。」


 じーっと視線を向けてきて数秒。桜木は嘆息の後、口を開いた。


 「まぁ、それでもだ。俺にないモノをお前は持ってるだろうし、一人より二人の方がいいに決まってんだろ?」


 「うっ、まぁ。それは‥」

 

 口ごもる桜木がそれ以上何かを言う前にと俺は口を続けて動かす。


 「とかかく、今日はまた帰りに生徒会行くぞ。彼女が抱えている問題。それを知らなければどうも出来ないからな。」


 「うん。分かった。」


 月曜日は始まりだ。そしてその週が終わればまた始まりがある。そしてこの週が終われば本当に全てが終わる。生徒会から約束された期日は残り、四日。

 月・火・水・木。金で全てが終わる。それはアニ研という一つの部活が終わり、無くなるだけではない。あのツインテールの。そして俺達の学園生活の青春たるものが終わるのだ。

 次の月曜の憂鬱が今日とは違うものであると望み、俺は学校までの道を桜木と歩いた。


 *************


 蔓実(つるみ) 香澄(かすみ)。一年。春に中学から仲の良かった男友達二人。それと女友達一人で部を設立。活動目的は曖昧なままだったが部として認められ、その部長を務める。が、三ヶ月という短い月日でその一人が脳梗塞で入院。それから一ヶ月後に何故か部員が部室に足を運ばなくなり、幽霊部としてその存在を噂させた。


 との事を生徒会の副会長にさっき聞いた。


 「でも、良かったね。脳梗塞の人、無事に退院できたみたいで。」


 「あぁ、そうだな。それより、俺はある問題ってのが気になってならない。」


 生徒会を後にして歩く廊下。スリッパの底を弾ませながら俺達二人は会話を進めていた。


 ある問題。その問題に関しては生徒会の会長・副会長共に首を振るばかり。庶務も会計もいなかった為に俺達は次、行く場所へと足を勧めているというわけだった。


「で、次は職員室かぁ。」


「あぁ。」


 生徒会が駄目だったのだ。恐らくはどの生徒に聞いてもそれといった情報は求められない。となれば生徒の上に立つ者に訊くしかない。

 との考えで訪れた場所だったのだが何故か桜木の声がどことなく陰鬱だ。

 確かに職員室なんて快く入りたい生徒はいないだろうが。


 「どうした?お前くらいの優等生は別にビクビクする必要なんてないだろ?」


 「あっ、いや‥うん。」


 俺に問われ、桜木は曖昧な返事を返す。


 「いや、僕。昔っから職員室って苦手でさ。なんて言うか…何でだろうね?」


 「いや、俺に言われてもな‥」


 まぁ、職員室は別段、悪い事をしていなくても緊張するもんだ。それは街中で悪いこともなにもしていないのに警察に声を掛けられるその感じに似ている。

 ほんと、自転車の盗難登録とかで声掛けてくるの止めて欲しい。ちゃんと仕事してるのは分かってるんですけどね。えぇ。


 「まぁ、いいや。とにかく入るぞ。」


 「うん。」


 とにもかくにも入らなければ何も聞き出せない。時間がない以上、こんな所でグダグダしている暇はないのだ。

 

 「失礼します。」

 「‥失礼します。」


 スライド式の扉を横にずらして一声、挨拶を口にする。中に入ると仄かな暖房の風が俺達の髪を微かに揺らす。

 

 「…ねぇ、ねぇ。ゆうちゃん。」


 「あっ、あぁ。」


 横袖を引っ張られ小声で声掛けられる。

 俺はその言葉の意味が分かったので皆まで聞かず、適当に相槌を打つ。


 考えてみれば全授業も終わった放課後。 部活動の多いこの学校でこの時間、職員室に人が居るわけがないのだ。殆どの教員がそれぞれが担当する部活に顔を出しているところだろう。


 「ん?どうしたんだい?君達?」


 殆ど人がいないとは言ったが全くいないわけではない。カタカタとノートPCを叩く音が鳴り止むと、小じわと白髪頭が目立つここの教頭が声を掛けてくれた。

 

 「あっ、いや。俺達‥じゃなくて僕ら椚(くぬぎ)先生に用があって来たんですけど‥」


 言うが見れば分かる。ここにいるのは教頭ただ一人。居るわけがない。


 「あぁ、椚先生。今、出て行ったばっかだからどうだかなぁ~。三十分位、待てば来ると思うけど?なんなら放送で呼ぶ?」


 人の良さそうなその顔立ちに似合い、生徒からも人気高い教頭先生は俺達にそう提案してくれる。


 「あっ、いや。別に急ぎではないのでいいです。」


 「そう?ならいいんだけどさ。」


 正直のところを言えば急ぎの用ではあるのだが、わざわざ放送掛けてまで呼んで頂く程ではない。いないと言うならば明日、昼放課でも使って出直せばいい。それこそ昼食時に失礼極まりないのだが仕方あるまい。


 「ところで君達、新戸君に桜木君だよね?」


 「あっ、はい。そうですけど‥」


 突然、名前を呼ばれて少し驚く。桜木はともかくとして俺なんかの存在が教員の頭に入っていたとは‥。


 「君達、何か大変みたいだね。変な噂も流れてるみたいだし。桜木君もそんな格好をいつまでもしてちゃ駄目だよ?」


 「…はい。」


 言葉こそ温和だがそこには確かな指導的なものも含まれている。下向く桜木を見ればそれをコイツも理解しているのは明白だった。

桜木が職員室を嫌ってる理由が何となくだが分かってしまう。


 「じゃぁ、俺達はこれで。」


 収穫がないと言うならばこれ以上の長居は不要だ。桜木の事もあるしここは早々に退出した方がよかろう。


 「あっ、待った。待った。」


 「はい?」


 早速、その行動に移ろうとした俺に教頭先生の焦った声が背中に届く。


 「椚先生に用事があったんならその言伝は伝えとくから。」


 「あぁ‥」


 とは言われてもどうしたものか?正直に話す事はここでは吉なのかどうか?ましてやその相手が教頭とあっては…

 悩むも断る事も出来ずに口を開く。


 「あっ、えっとですね。椚先生って一年五組の担任なんですよね?」


 「ん?あぁ。そうだね。色々と問題あるクラスだけどね。頑張ってやってるよ。」


 問題があるクラス。それは彼女の事を指しているのか?ならば話は早い。


 「教頭先生。その問題ってのをご存知で?」


 生徒会から聞いた彼女のクラスとその担任。担任なら詳しくその問題たるものを知っていると考えたのだが、別に担任限定ではない。話を知っているというならば誰でも構わない。


 「あぁ、その事で椚先生に会いに来たのか?」


 飲み込みが早い教頭先生は一つ頷くとフムと呟き、手に顎を乗せた。


 「だが多分、教えてはくれないと思うよ。」


 「え?」


 数秒間、何かを考える仕草を見せた教頭先生は続けてこう言う。


 「あの事はプライバシーに関わるし、なんせ学校側も伏せておきたい問題だからね。その話はよした方がいいよ。勿論、探る事もね。」


 教頭先生は決して止めろとは言わない。けれどそこには確かなものがある。知っては後悔するぞ。探っても傷付け、苦しめるだけだ。

 その言葉にはそんなような言葉が含まれているみたいだ。


 「分かりました。ご忠告どうもです。」


 俺は会釈なんかをして教頭先生の言葉に返す。だが、その言葉と行動とは逆で俺が止めるわけがない。後悔も苦痛も覚悟の上でこうして行動しているのだ。


 「私は言ったからね。」


 去り際のその時、教頭先生のそんな言葉が微かに耳に入る。さすがは教頭。さすがは教師と言ったところでよく見ている。それでも止めなかったのきっと止めても無駄だと知っているからなのだろう。どんなに止めても結局、最後は本人の意思が関与されるのは間違いのない事実なのだから。


 「…困った。」

 

 職員室を出て直ぐ、俺はもう手がない事を知る。

 生徒会も知らぬ存ぜぬ。教師には訊くことを許されない。となればもう訊ける人間がいない。情報は無いわけではないが肝心な情報(もの)が欠けているとなれば話にならない。


 「ゆうちゃん?」


 俺の心情を察した桜木が心配そうな顔を向ける。


「何、心配すんな。まだ手がないわけではない。」


「いや、そうじゃなくて。」


心配させまいと気休めの言葉を吐くがどうも桜木は違う事に心配してるらしい。


 「なんだ?」


 「うん。その‥」


 問うと桜木は指をもじもじ、下を向いて小さく口を開く。


 「ゆうちゃんはさ、その子の事、す、好きなの?」


 「は?」


 問われた言葉に進んでいた足を止めてしまう。それに合わせ、桜木の足も止まり、俺達は共にこの寒い廊下に立ち止まる形となっていた。


 「だから、その…アニ研の部長さんの事が好きなの?」


 再度、そんな事を言われても反応に困る。いつものコイツなら顔を真っ赤にしてプンスカ怒って言う台詞なのだが、今は違う。真剣な眼差しと表情でそう訊いてきている。

 

 「いや、別にそんなんじゃねぇけど‥」


 好きという言葉は不確定な言葉だ。アイドルを好きとかアニメキャラを好きとか言うのも好きの部類に含まれ、、友を好き。ペットを好きというのもそれに値する。勿論、好きな人。愛する人物に言う好きも好きであり今、コイツが言った好きとはどの部類の好きなのか?俺には測り知れなかった。


「なら、ゆうちゃんはその子の事をどうしてそんなに想ってるの?」


「いや、だから。想うとかそんなんじゃなくてだな‥単純に救いたいって思ってるだけだ。」


「それが想ってるってことなんじゃないの?」


「いや、まぁ‥」


 照らしていた太陽が雲に隠れ、廊下は本当に薄ら寒い所へと変貌する。


 「じゃぁ、仮に俺がアイツの事を好きと言ったらどうするつもりなんだ?」


 沈黙した空気を流した後に口を開く。今、コイツと喧嘩やら別れ話?なんかをしている時間はないというのに俺はそんな事を言ってしまう。


 「そ、それは‥」


 桜木は数歩だけ後ろに足を後退させてからまたその足を前へと戻した。


 「それは嫌だけど僕はゆうちゃんに協力する。ゆうちゃんがその子を好きだって言うんなら僕はゆうちゃんの気持ちに応えるし、力を貸すよ。」


 意を決して言ったその台詞は至極、真面目だった。だから、俺もその言葉に似合った表情を顔に表す。


 「そうか。それはありがたいな。」


男ではない女の恋人を作れる。桜木が協力してくれるというならばその可能性もかなり期待、出来る。

 そう思えば多少問題があるあの彼女でも好きと言ってしまえばいいのではないと思えた。顔はかなりレベル高かったし‥。


 が、それでもだ。


 「だが、今はそんなつもりは無いよ。アイツの事を気に掛けているのは言っただろ?アニ研を復活させたいその為だけだ。そしてそのアニ研の部長がアイツ。それだけだ。」


 コイツとのゴッコ関係が終わるというならばそんな魅力的な話はない。時間は掛かるだろうが噂は消えるだろうし。

 だが、それでも俺はまだ終わらせてはいないのだ。終わらずして逃げるのは素直に嫌だ。

 アニ研を復活させたい目的。それは俺の為では決してない。部活をやりたいと言い出したのはコイツだ。

 俺はその要望に応えているだけ。‥ではないな。俺は可能性に惹かれているだけだ。


 部活は青春の根源なんかでは決してない。だが、それでも光注がれるものはそこには確かにあるのだ。追い求める光。それを俺はコイツと一緒に掴みたい。

 

だから。


 「悪いがアニ研以外は考えられないし、その部長もアイツ以外は考えられない。その為にはアイツを部長に戻さなければならないんだ。」


 俺にとっての青春は桜木がいなければ成立しない。そしてそれを実現できるのも限られている。分かっちゃいた。覚悟も何もかもがある。

 だが、それでも俺一人では‥


 「分かったよ。ゆうちゃんも部活やりたかったんだね。僕達のようなはぐれ者と一緒に。」


 それまで黙って俺の話に耳を傾けていた桜木が息を吐き出し、会話を始める。  


「あぁ。」


 はぐれ者。除け者。この学校でそう呼ばれる奴はどのくらいいるのだろうか?虐めという言葉はこの学校ではあまり聞かないがそれでも孤独に悩む者は多い。初めはそんな自分をかっこいいとさえ思ってはいたが、それは違う。

 独立という言葉はあれど、それでも人間は一人では生きれない。立てない。そんな人間はもう機械だ。生きる上で心は汚れるし醜くもなる。憎悪は募り、悩みは溢れる。

 だから人は誰かに頼る。愚痴を零す。

 折れた足は誰かの手で立たせてもらえばいい。汚れた心は誰かに磨いてもらえばいい。一人では背負えない重荷は誰かに分ければいい。

 ましてや俺達はまだ子供だ。映画料金が大人扱いだろうが公共の乗り物の乗用料金が大人だろうと、それでも俺達、高校生はまだ子供だ。


 だから背負うのだ。はぐれ者同士。除け者同士。


 「俺達もあいつの悩みを受け取ろう。」


 隠れていた太陽が光を俺達に再度と照らしてくれる。冷えた廊下はほんの少しだけ暖かく感じた。


 「…分かった。じゃぁ、一日待って。」


 「は?何が?」


 黙考の後、桜木が言った言葉に首を捻る。だが、桜木は俺の疑問には答えない。答えだけを真面目な表情で言うのだ。


 「僕が彼女の過去を調べて上げる。絶対に。」

 

 その言葉。彼の言ったその言葉を俺は信じる以外の事は考えれなかった。絶対にはめる事は困難と思えたピースの合わさる音が微かに聞こえたような気がした。


 ****************


 翌日。今日もいつも通りの変わらぬ日々。外は寒いし、学校は面倒。おまけに眠い。

 それでもこうして学校の机でうつ伏せになっているのだ。俺は偉いよ。いや、普通だ。いや、それ以下か?


 「ゆうちゃん?ゆうちゃん?」


 とてとて小走りにやって来たのは言うまでもない。こんな濡れ雑巾が日光浴してるみたいな人物に話し掛けてくる奴など一人しかいない。


 「んだ?」


 俺は付けていた顔を上に、ついでに体も起こし、伸ばしで桜木へと声を返す。


 「んだじゃないよ。ゆうちゃん、授業中も寝てたでしょ?そんな事、してると今度からはノート見せて上げないよ?」


 プンスカそう言う桜木ではあったがその手からはノートが差し出されている。

 

「あぁ。悪いな。昨日は白熱した戦いから抜け出せれなくてな。気付いたら三時だった。」


 出る欠伸を盛大に披露してノートを受け取る。自身の睡眠時間を削っても強敵を倒すというその心意気に行動、怒られるよりも感服の域では?


 「また、ゲーム?程々にって言ってるじゃん。」


 「いや、だが。あれだぞ。俺があそこで眠りに付いてしまったらあの世界は救われないんだぞ?」


 「そんな世界はいいから、今日は早く寝てよね!」


 「あっ、はい。」


 そんな世界とは‥。仮想世界は俺の世界だというのに。全く酷い話だ。


 「と、そんな話をしに来たんじゃないだろ?」


 昼放課。皆が購買やら食堂やら席をくっ付けているこの長い時間、桜木が来た目的は言わなくても分かる。

 もう一人、とうの昔に朝は来たというのに仮想世界から抜け出ない者の話をしに来たのだ。


「うん。ここじゃぁ、なんだし場所、移動する?」


「あぁ、そうだな。今日は寒いが、あそこに行くか。」


今は購買やらトイレやらでいない生徒もいずれかはこの虫食いのように空いた教室に戻ってくる。こんな寒い日に外やら違う教室で冷えた飯は食べたくはないだろうし。

 俺達もいつもならこの暖房の効いた教室にいるのだが今日はそう言ってはいられない。人に聞かれたくない話をしなくてはならない。


 「うん。そう思って僕、今日は保温弁当作って来ちゃった。」 


 言って出されたのは二箱の弁当箱。冬に人気な商品が桜木の手にある。


 「あぁ、それはありがたいな。」


 いつもの俺ならそんなのいらん。と言うのだが今日は素直にそれが嬉しい。

 寒い部屋で寒い話をするのだ。そのお供。口にする物くらいは暖かい物でもいい筈だ。


 ―


 場所は言った通りの場所。職員室を隣に構える多目的室の冷え切った部屋。そこで俺達は二人、席を引っ付け、湯気立つ飯を食していた。


 「どう、どう?美味しいでしょ?」


 「おっ、おぉ。」


 三段に積み上げられた弁当箱。その一段目は湯気立つ白米。そして二段目に湯気立つ味噌汁。そして三段目には隙間も空けない程に詰められた湯気立つおかずの数々。

 湯気立ちすぎやろ‥。

 とは思うが暖かいのは助かるし、美味いのも確かなので文句などある筈もない。


 「と、それはいいとして話は?」


 寒いのだ。雑談をしたいとは思えない。せっかく温まっている体を冷やす前に全てを訊いておきたい。


 「‥あぁ。うん。」


 本題を迫られた桜木は言いにくそうに返事を返す。その返事も。桜木の表情も何となくは理解できる。職員が隠すような事だ。聞いて楽しいような事ではないのだろう。

 それでもパズルはピース全てが揃ってこその完成だ。一つたりとも欠けてはならない。


 辛抱強く暖かい料理を食しながら待っているとその口が開く。

 

 「先に言っておくけど彼女のコレは強敵だよ?」


 弁当の箸を置き、言う桜木の顔はどこか哀しみを帯びているようだった。戦いから逃げて。ゆうちゃんじゃ勝てない。そう言われているようでもある。

 だが、舐めるなである。


 「分かってる。」


 俺も桜木にならい、箸をその場に置き、頷く。

 桜木はそれを見て一度だけ息を吐き出し、肩を落とした。


 「そっか。そうだよね。分かったよ。」


 静かな部屋に響くは時計の針が鳴らすその音。遠くの方から聞こえる生徒達の笑い声やら話し声。

それ程の静寂を作り上げ、桜木は口を開いた。


 「あの子は強姦にあったんだよ。それも同じ部活仲間の二人に。」


 「…なっ‥」


 声が出なかった。言葉が理解出来なかった。桜木は今、なんと言った?


 「‥悪い。もう一回言ってくれ?」


 息を整え、身をただし、もう一度その言葉を訊ねる。そんな事、ある筈がないと心で祈りながら。


 「だから、彼女は二人の男子生徒に性的な被害を受けそうになったんだよ‥」


 桜木の声は小さく、感情を殺しているようなものだった。桜木も分かってはいるのだ。それがどんな事なのかどうかが。


 「・・・・・・・・・。」


 何かを言いたいが何を言っていいのかが分からない。それ程に彼女の抱える悩みは大きく、そしてその受けた傷も深い。

 桜木が始めに言った言葉。強敵。

 昨日、教頭先生が言った言葉。真実を知れば後悔する。 

 俺達では。俺ではそれをどうこうする事は‥一緒に背負う事は出来ないのではないか?


 「…ゆうちゃん?」


 「あっ、あぁ。」


 気付けば俺は下に俯き、机に乗せた拳を強く握り締めていた。それは血が滲む程に。


 「ゆうちゃんがそんな、背負う必要はないんだよ?」


 桜木の声はこれまで聞いたどの声よりも温かく、優しみを含んでいた。正直、その声に救われた。


 「‥あぁ。」


 確かにそうだ。それは俺個人の問題なんかではない。彼女を仲間として迎えたいとは言ったがそれを無しにする事は可能だ。無理ゲーなんてやる意味もない。

 だが、これは本当に無理ゲーなのか?


 「…あっ、その。彼女はその‥全部はやられてないんだよな?」


 桜木は言っていた筈だ。やられそうになったと。


 「…うっ、うん。パパに聞いた話ではそうだよ。」

 

 成る程。桜木のお父さんの権力、もしくはこの学校のトツプと通じての情報と。それは信憑性はお墨付きだろう。さすがっす。桜木パパ。


 「…そうか。」


 俺は呟く。負った傷は深いけど、それでも無理と諦め、コントローラーを放り出すのはまだ早いのではないか?

 負った傷は心だ。体はまだ綺麗なまま。


 それなら。


 「桜木、今日の業後に生徒会行くぞ。」


 「え?でも‥」


 そう言う桜木の気持ちは分からなくもない。

 だが、それでも俺は諦めたくないと思った。

 俺はそんな経験はないし、女の子の手さえ握った事もない。だから、その行為の意味もいまいち分からない。

 よく言う、男は飢えた狼だ。

 確かにそうなのかもしれない。男は‥いや、人間はいつでも何かを求め、そして行動する。悪いことは悪いと知っておきながらも興奮するし、止められない。

 人間は単純で欲張りでそして馬鹿な生き物だ。

 

 そして彼女に傷を負わせたのもその人間。

 

 だから、分かる。彼女が理想の鎧を着込んだその理由も、その真意も今ならよく分かる。


 俺も。そして桜木も同じだ。人間に恐怖し、身を震わせてこの世を生きている。人間は馬鹿で恐ろしい。

 だが、忘れてはならない。そんな恐ろしい人間は俺達もそうなのだ。

 同じ人間同士なら負ける筈がない。


 「俺達の敵は彼女の前にもう二人、いや、三人かな?いる。」


 「えっ‥それって。まさか‥」


 桜木は呑み込みが早くて助かる。まぁ、それでも乗り気ではなさそうだが。…いや、そうでもないな。

 酸素を一杯に吸い込み、閉じた目を見開いた彼(・)を見て俺は思う。


 「分かった。僕も言ったからね。ゆうちゃんの惚れた相手には全力で協力するって。」


 「いや、だから惚れてねぇって‥」


 冷えたこの部屋は気温的には一桁台の寒さだろう。だが、何故か?俺達に流れる闘志は?その空気は何よりも熱く、下でまだ尚、湯気立たせる弁当よりも沸騰していた。


 「まぁ、何だ。悪いな。」


 「ん?何で謝るの?」


 「ん?いや、きっとコレは俺達の評判を更に悪くさせると思うし、教師からの酷評だって免れない。‥筈だ。」


 俺の個人的な我儘にコイツを巻き込んでしまった事が素直に申し訳なさすぎる。

が、桜木は笑った。


 「なんだ。そんな事。」


 「いや、だが‥」


 桜木の家柄。そして今、抱かれている教師からの期待を知っていたから言った言葉なのだが桜木はそれをそんな事と言う。


 「大丈夫だよ。僕達は間違った事なんかしてないから。」


 にっこり。笑顔でそう言われては何も言えない。


 「…そうだな。」


 昨夜やったゲームの敵は強かった。それに比べれば今から挑む敵なんてのは雑魚中の雑魚。俺はレベルもショボく、防具も全然なそんなキャラだけど。目の前に映る仲間を見てそう思う。

 

 俺の彼女は最強だと。

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