表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女は…  作者: イスカンダル
2章 青春かくれんぼ
13/59

設立

 事はいきなり。いつも通りの帰り道を歩いていた時だ。隣に歩く桜木雲雀がこんな事を言い出した。


 「ねぇ、ねぇ。ゆうちゃん。もう二月で後二ヶ月もしたら僕達も二年生だよね?」


 「あ?あぁ、そうだな。で?」


 長いと思っていた冬休みも部屋でグダグダ。ダラダラしてたらあっという間に過ぎ、それからの学校生活も相変わらずで、もう二月の後半に差し掛かっている。桜木の言う通り、進級などあっという間だろう。

 

 「で?じゃないよ。もう、二年生だよ?高校生ももう終わっちゃうんだよ?」


 「いや、二年じゃまだ終わらんだろ?まだ一年あるし。はぁ~。まだ一年もあるのか?」


働きたくもないし学校も行きたくない。何もせずとも生きていけないだろうか?

 溜め息、吐く俺に構わず桜木は勢いに乗った声を続ける。


 「そうじゃなくて。僕達。僕達、やってない事があるでしょ?」


 「は?やってない事?」


 そんなのありすぎて何がなんだか?

 宝くじ買った事もないし。海外旅行とかも行った事がない。そういや、テストももう直ぐあるし勉強もしないとな。

 まだまだありそうだが取り敢えずやってない事を頭に浮かべてみた。 


「だぁーかーらぁ。僕達、部活やってないじゃん!」


「はい?」


 との事を桜木雲雀という人物は唐突に言いだしたのだ。


 「だから、部活だよ。部活。」


 「いや、だから何が?」


 そんな部活。部活など言われても対応に困る。一体、俺にどうしろと?

 

「やろうよ。部活。僕達もなんか。ねっ?」


いや、ねっ?とか言われても…。


 声には出さなかったが顔はきっとそれに生じた酷い顔になっているだろう。


「おいおい。いきなりすぎるだろ?大体、アレだ。こんな時期から入るとなるとかなり気まずいぞ?しかも俺達とあってはな‥」


 部活やる。やらないという問題は取り敢えず置いとくとして現状を桜木に教えてやる必要がある。

この時期。一年生も終わりに近付いているこの時期に部活に入ろうなど図太い神経の持ち主か、ドンが付く程の鈍い奴しかいない筈だ。

 桜木は鈍感ではあるが、それでも人の事はよく見ている。


 「ん?何か問題でもあるの?」


 頭抱える俺に桜木はキョトンと首を傾げる。

 

「考えてもみろよ。一年生も終盤。運動系。文化系。どこでもグループは出来上がってるだろ?それに二年ともあれば主戦力だ。三年生は夏で引退だし、一年生は初心者の者が多い。だから俺らみたいなのが入るスペースはないんだ。分かるだろ?」


 まぁ、文化系のよう分からん所はそうでもないだろうがここは桜木をどうやったら諦めさせるかの話をする。単純なる口論で桜木(こいつ)に勝てる気がしない。折れてんのはいつも俺だし。

 

 「うっ、まぁ。それはそうだけど‥。でも‥僕、もっとゆうちゃんと一緒にいたい。‥からしたいな?」


 正論に返す言葉がなかったのか桜木の勢いは大分弱まっていた。いや、弱まり過ぎていた。その瞳うるうるさせた下から視線は反則だ。

 

 「うっ‥だから。その‥」


 必死で顔を見ないように頑張るもテンパった思考が中々、回復してくれない。言葉は詰まり、顔は仄かな温かみを帯びていた。だから何でコイツは男なんだ!


 「あっ、そうだ!別に部活とかしなくてもマスターの珈琲店で話してればいいだろ?毎日は無理でも週に数回くらいは。なっ?」


 桜木と出掛けて見付けたとある珈琲店。そこは言っちゃ悪いが訪れる度に人がいない。そこのマスターは休日には常連さんが来るんだよ。とか言っていたが通い続けて五ヶ月程、俺はその人物に会ったことがない。ほんと、何で潰れないのかが不思議なくらい。

 と、そんな珈琲店。きっとマスターも快く‥はどうかは定かではないが了承してくれる筈だ。


 「ん~。それはいいんだけど‥やっぱ、僕は部活がしたい‥な?」


 何をそんなにこだわっているのか?青春の代名詞は部活だ!とでも言うように考えを曲げない。折れない桜木。 

 

 「じゃぁ、一応訊いといてやるが何かやりたい部活とかあんのか?」


 これ以上の話し合いは平行線しか続かないだろうと判断。桜木の話に乗っかりつつ、その線を乱していくという高度な作戦に移行することにした。


 「いや、別に‥。ゆうちゃんと一緒なら何でもいい。」


 照れ隠しの表現か?手をもじもじ。顔を俯かせている桜木はやはり性別、女だろ?絶対、間違いだ。このっ!

 と思ってしまう程にドキドキしてしまう。

勿論?とかいうのもおかしいが、今日も女物の制服。下はスカートの下に黒いストッキングを履いているから格好さながら死角なし。


 「何もないって。お前な‥。」


 これでは話にも乗っかれない。俺の考えではその話に乗っかり、その部活の苦なる事。如何に時間を無駄に使っているか(個人的な見解です)を棚に上げて否定していくつもりだったのだが‥。

 何もないとなると万策尽きたー。で、ある。


 「じゃぁ、何で部活がしたいんだ?」


 訪れた沈黙。それを破らんと言うばかりに俺は無理にでも口を開く。道はもう直ぐで別れ道。早々にこの話に終止符を打たなければこんな寒い空の下、立ち話をする羽目になる。


 「んと。やっぱ、僕達高校生だから?かな?」


 可愛く人差し指を頬に当て、顔を傾ける桜木。前髪をはじめとしたものが斜めに流れる。


 「僕、中学でも部活やってなかったし。実は結構、憧れてたんだよね?」


 元に戻した顔に、はにかんだ笑みを作り、そう言う桜木。その顔を見るからにはやはり今日もこっちが折れるしかないと思えざるを得ない。

 

 「はぁ~。」


 一つ溜め息。


「まぁ、確かに俺もゆるふわ。だらだらした部活には憧れた時期はあったからそれなら文句ねぇけどよ。」


 一度は憧れる部室とは名ばかりのお茶会ルーム。だが、それは可愛い女の子だから許される差別的な部活だ。


「ほんと!じゃぁ、そうゆうのでいこよ!早速明日、探してみようよ。」


「‥いや、ねぇだろ?そんなの?第一、あったとしても多分、俺達じゃぁ迎え入れ

て貰えないと思うぜ。」


「ん?どうして?」


「いや、どうしてって‥」


これだから鈍い奴は。ほんとは分かってるかもしれないが‥


 まぁ、だが。それは敢えて言うべき事ではない。俺達がこういう関係となって約五ヶ月。今では学校中にその噂は広まりつつある。だから、そんな奴等を迎え、受け入れてくれる所は無いのだ。

 

「いや、まぁ。アレだ。俺が求めるふわふわ。だらだらした部活は可愛い女の子が最低でも三人はいなくては成り立たない。だから、物理的に俺達では無理なんだ。入る余地なし。」


男二人。いや、まぁ。桜木(こいつ)に関しては女とみなしてもいいが。こいつ一人では無理があるだろう。基本、日常系部活ものアニメはそんな感じのが多い。男禁制。近寄るな汚物。みたいな扱いだ。

 それでも許される男はかわいい系の奴。俺ではその容姿に値しない。


 「いや、でも。探そうよ。きっと僕達を迎い入れてくれるところがある筈だよ。ねっ?諦めるよりも行動だよ。」


 道は分かれ道と到着。話も同じ。

 が、現実の道は寒いから嫌だが。話の方は別に構わない。 


「お前がそうしたいならそうしろ。それくらいなら付き合ってやるし。」


 俺はぶっきらぼうに言葉を吐いた。

 答えはまだ出さない。現実の道とは異なり、こっちの道は考える時間はある。立ち止まり、明日にでも答えを出せばいい。

 きっとその道は決まってるのだろうが。今はまだ言わない。


 「うん。じゃぁ、早速、学校の全部活を調べておくよ。それでよさそうな部活(ところ)があったら明日は直にそこに見学。それでいい?」


 「あぁ。了解。じゃぁな。」


本当は全然、乗り気はしない提案だったが寒い中、口論するのはゴメンだ。適当に返事を返し、片手を上げる。


 「うん。じゃぁ、また明日。」


 俺が背を向けて直ぐ。桜木も別れの言葉を口に足音を遠ざけた。


 「部活か‥。」


 上に羽織るコートのポケットに両手を突っ込ませ、俺はその一言を白い息と共に呟いた。

青春から逃げていたのでは自分自身であったのだ。


 ****************


翌朝。今日は珍しく桜木が先に学校に行ってるね。との事で一人の通学路を久々に歩いた。どうせ昨日の事で何かしてるんだろうと思い、学校に到着。教室のドアをスライドさせた。

 

 「ゆうちゃん、遅いっ!」


席に着いた瞬間、桜木に捕まる。予想は的中。腕に抱える資料はその短い腕では足りない程に沢山ある。

てか、それ何の資料?


 「ちゃんとHRには間にあってんだろ?」


 抱える資料を一瞥。机横にカバンを掛けて机の上に肘を置き、頬杖をつく。

 

「で、何の用だ?HRまであと三分もないぞ?」


時計をちらり。桜木へと声を通す。 


「んもうっ。誰のせいだと思ってんの!ゆうちゃんがもっと早くに来ていればちゃ

んと朝から話せれたのに!」


 「いや、じゃぁ。何で先に登校したんだ?歩きながら話せばいいだろ?」


見る資料はどうやらこの学校ホームページに記載されている部活案内を印刷したものだし、別に学校で待つ意味はないと思える。まぁ、抱えられている資料。それだけじゃないんですけどね。その部活に関してのものやらパンフやらまぁ、色々とあるんですけどね。 それでも朝の登校時で全然いい。


 「う~んと。話自体はその時で全然、構わなかったんだけど朝練とか見て見たかったから。」


「あぁ~。成る程。…ん?」


頷きはしたが途中で気付く。俺が入ってもいいと言ったのはだらだら。ふわふわした部活だ。そんな部活に朝練などない筈。

 

「おい、朝練って何の部活のだ?」


「ん?全部だよ?」


「お、おぉ。」


平然とそう言われては対応が思い付かない。全部の朝練を見るって。コイツは朝、何時に起きたんだ?


 「で、なんかよさげなのあったのか?」


「う~ん。よく分かんない。運動系の部活は皆、辛そうだったけど一生懸命で楽しそうだったし、文化系の部活も同じ感じかな?」


「あぁ~。」


 その言葉を聞く限りでは気になるものが見付かったとは思えない。部活とは単純に決めていいものではない。高校生活の半分は部活で左右はれると言ってもいい。練習。その後の付き合い。出来た友人との社交など殆どの時間が部活という範囲で出来たモノに染まる。

 だから部活選びとは難しく、俺は部活には入らなかったのだ。自分の時間を削られてまで能書きだけの青春切符は受け取らない。

人と付き合うのは好きじゃないし。


 「まぁ、その話は後にしようぜ。もう直ぐ、HRが始まるだろ?」


 「あっ、うん。じゃぁ、これは置いておくね。どうせ、また来るし。」


 桜木は言うと抱えていた幾数もの資料を俺の机へと広げ、去って行った。


 「あっ、おい。」


 どばさーっ。と置いて行かれた資料となる紙。それは小さな机の上では隙間を見せない程のもの。

 

 「ったく、どうすんどよ。コレ。」


 まぁ、持ってきたモノをまた持ってくるのは確かに効率悪いし面倒だとは思うけど‥。てか、こんなになんの資料だよ?

 試しに一枚、手に取ってみる。


 「これ、前あいつに見せた日常系のアニメじゃねぇか。」


 取った一枚の紙に映し出されていたのは部室めいた場所でダラダラと話しているヒロイン。主人公の画。

 そしてそのアニメの説明が書かれてある。

 

 アイツ真面目過ぎるからな‥

 その方向性は全く別方向のものとも思えるが。


 まぁ、こんだけ必死なんだ。付き合ってやる事ぐらいはしてやるか。


 が、俺は。いや、きっと桜木も朝練を見たと言っていたのだから、知っている筈だ。今の部活に俺達の居場所はない。構成されたグループは崩れることはない。同じ色の中に違う色が混ざればどうなるか?

ましてやそれが厄介な二色ともなれば。

 だから、部活選びとは難しく、迅速に決めなけらばならない。


 程なくして教室の扉が音を発て、担任の教師が顔を出す。

俺は急いで広がっていた資料を机の中へと突っ込んだ。

 日直の号令の元、HRは始まりを迎え、担任教師の言葉が耳に入る。

 その最後。担任の教師は「高一ももう一ヶ月ちょっとで終わりだ。残りの日数、気を抜かずに励めよ。特にテストな。はは」という台詞を残した。


 そう。もう、最後だというのに俺達は今更になってその最初にやる筈の部活選びをしようとしているのだ。

 

 チャイム音が鳴り響き、教室の扉が音を発て、担任教師が姿を消す。教室中は波紋のような現象を見せて声が埋める。

 そして俺の席にも一人。言わずとも分かる桜木の姿がこちらに向かっていた。


 はぁ~。コイツと一緒にやれる部活か‥。


 俺は心中、溜息を吐いて、机に眠らせた幾数もの紙を全てまとめ、握り締めた。

 こんなに調べ、集めてくれたのに悪いがそんな事で話し合う時間が勿体無い。桜木が集めてくれた資料の中で俺達が入っていいものなどないのだ。

 出来たモノは壊せないし、壊したくない。第一、きっと入れない。なら、方法は一つ。


 「よしっ。ゆうちゃん、話し合おう。って、ゆうちゃん?」


 にこやかな顔をして来てくれた桜木。俺はそんな桜木に一度、無言で目を向ける。そして仕方がないと溜め息を一つ。俺はこう言うのだ。

 

 「なぁ、俺達で部活作らないか?」


 *****************


この高校。改めて高校名を発表するが藍沢江高校(あいざわこうこう)はそれこそ部活動に盛んとまでは言わないにしろ、その種類は中々に豊富であった。

 その理由としては理事長の私情と聞いているがその真実はよく分からない。会った事とかないし‥。


 とは言えそんな中で新たに部活を作るとなるとそれは結構な難題。それを俺は改めて知ることとなった。



 「でだ。あらかた見学はしにいったのはいいが―」


 誰もいない業後の教室。そこで俺達。桜木と俺は二つの机を引っ付けて顔を向かい合わせて座っていた。言うまでもなく先刻、俺が言った事での話し合い的なものだ。


 「やっぱ、止めねえ?この学校、部活多すぎ。そんなに成績、優秀じゃないのに何でんなにもあるんだよ?」  


 「ちょっ、やだよ。何で、そんなに直ぐに諦めちゃうの?まだ、見に行っただけじゃん。」


 机の上にグデーと寝転んだ俺を桜木が必死になって揺らす。 だが、俺は起きない。さっきは決め台詞のようにあんな事を言ったが俺にタイムスリップの能力があったらあん時の俺を殺してやりたい。

 何を口走ってんだよお前は!って。


 「・・いや、だってよ。殆どあるじゃん。他に何の部活がある?」


のっそりと顔だけを上げ、桜木を見る。もう、俺は疲れたであります。

 

 「え?えっと‥ん~…」


 問われた桜木は一生懸命考える仕草を見せる。だが、それも無理はない。ここの高校の部活数を舐めていた。

 バスケ部。野球部。サッカー部といった主流なものは当たり前としてゴルフ部。スノボー部。セパタクロー(バレーとサッカーを合わせたようなスポーツ)部とかいうのもあった。

 文化部としてもその数は予想の範囲内を軽く飛び越えていた。軽音部。手芸部。囲碁部などなど。挙げれば霧がない。

 そう言えば春の部活紹介。実に三時間くらい掛けて紹介してたっけか?と後からフラッシュバックのように思い出す。


 「あっ、そうだ。ゲーム部は?なかったよね?」


 数分掛けて考えていた桜木。手と手をポンッと合わせて身を乗り出して俺に言ってくる。


 「ん?あぁ、そうだっけか?」


 もう、何があって何がないのかも分からない。この学校が作ってるホームページは部活紹介枠が前年度から改善されていなかった。

 だから、二時間くらいの時間を掛けてまで部室の扉を叩いたり、体育館の扉を開けたり、運動場、別館などの場に足を赴かせたのだ。


 「うん。僕、記憶力には自信あるから絶対だと思うよ。」


 「お、おぉ。そうか。」


 確かにコイツの記憶力は人間の比ではない。聞いたことはないが一年前の夕食とかも言えるのではなかろうか?

 

 「じゃぁ、決まりだね。ゲーム部でいこうよ。」


 よしっ。と言うように席を立つ桜木。だが、俺は桜木を席へと座らす。


 「いや、待て、待て。お前の記憶力を信じて訊くがその中でゲームに関する部活は幾つあった?」


 「ん~と。そうだなぁ。囲碁部に将棋部。チェス部にカードゲーム部。ネトゲ部にテレビゲーム部‥」


などとどんどん部活名を言っていく桜木。その記憶力に驚くもその数にも驚く。

 

 「うん。十五個かな?」


 言われた数。桜木も気付いたのか立ち上がっていた体を自ら席に着かせた。


 「まぁ、無理だわな。ゲーム部は‥」


 「うん。だね。」


 もういっその事、それらひとまとめにしてゲーム部でいいだろ!とは思うもそれをされたところで何かが解決するとは思えない。


 話は原点。俺達は差し込む夕日に当てられて黙考していた。窓の外から聞こえる運動部の掛け声やら指導の声。吹奏部の奏でる音。それらはやはり青春と言えた。

 俺はどうか。だが、桜木はそれに憧れているのだ。


と、そんな時だ。


 ぎゅるる~。

 

「腹減ったな~。」


 俺の腹が盛大なる音を上の音らを凌駕して鳴り響いた。時刻は五時過ぎ。もう直ぐで下校時間である。


「もうっ、真剣に考えてよ。」


「いや、いや。真剣に考えてもどうにも腹は減るだろ?」


「まぁ、そうかもだけど‥って、ゆうちゃん?」


 腹が減ってはなんとやら今日はこの辺でお開きだ。


 「これ以上、ここに居ても何もねぇだろ?」


 「‥そうかもだけど。」


 「なら、帰るぞ。帰りに何か食ってくか?」

 

 床に置いたカバンを手に、俺は教室の扉へと向かう。


「う~。仕方ないな。でも、明日にはちゃんと決めようね。」


机をガタゴト。くっ付けていた机を戻して俺の隣に付く桜木。


「あぁ。了解。」


きっと明日も決まんねぇんだろうな~。とは言えず、適当に返事を返す。

 と、そこで。


「あっ、ごめん。僕、お弁当箱忘れて来ちゃった。直ぐ、取ってくるから待ってて。」


「あぁ。」


 急ぎ足で教室に戻る桜木。その足音を何となく聞いて俺は近場の壁にもたれる。


 そう言えば今日アイツ、早起きにも関わらず重箱で弁当作ってきてくれたんだよな。いいって言ってるのにちょくちょく作ってくるもんな。アイツ。

 まぁ、家計的にも体的にも助かってるんだけど。だが、重箱って。さすがに二人じゃ食えんかったな。美味かったけど。


 と、桜木を待ってる間。そんな事を考えていると思い出した事があった。


 「そういえば。」


 「お待たせぇ~。ごめんね~。」


 パタパタ。ペタペタ。履くスリッパが地面を弾ませ、桜木が戻ってくる。そんな戻ってきたばかりの桜木に目を、口を開く。


 「なぁ、桜木。アニ研ってまだ廃部にはなってなかったよな?」


 「ん?そうだったと思うけど…どうして?」


 紺色の風呂敷に包まれた重そうな重箱を片手に持つ桜木は首を傾げる。


 「なら、今から生徒会室によるぞ。少し訊きたいことがある。」


 「え?今から?どうして?」

 

 訊いてきた桜木には何も答えずに俺は早足で廊下を進む。桜木も俺に続き、生徒会室へと足を一緒にした。


「ねぇ、何で?どうしたの?理由くらい教えてよ?」


生徒会室は三階。この学校の最上階となっている。そして俺達が今いる階は一階。そこそこに距離がある。

 その間に何で?どうして?を連呼されてはたまったもんじゃない。


 まぁ、別に勿体振るものでもないし隠す事でもない。正直、言ってもいい。‥のだが前回の失敗がある。決め台詞のように言った台詞。格好つけて大失敗なんて超カッコ悪い。

 第一、それと決まった訳ではないのだ。その為の確認だし。


 が。うるさいのも事実。


 「あぁ、もう。うるせぇな。アニ研の事、聞いて生徒会室に行くって言ってんだ。そんなの決まってんだろ?」


 「分かんないよっ!」


 ほんと、コイツは頭はいいのに何でこんなに鈍感なのか?溜め息、長く。俺は階段登る足を止めて後ろを振り向く。


 「アニ研に入る。今はそれが一番、簡単で得策だと思う。」


 「え?でも、部活作るんじゃ‥」


 「考えてみろ。万が一、この学校にない部活があったとする(だらだら、ふわふわとした)。だが、その後も問題があるんだぞ。俺達、二人じゃ部の申請は出来ない。最低、後一人は必要だ。」


 そう。部活を作るに当たって必要なのは人数。それと顧問やら部室。目先の問題だけが全てじゃない。

そして生憎、俺達にはそれに心当たりがあるわけでもない。だから、有るものに乗っかるのが一番楽なのだ。


 「でも、ゆうちゃん。アニ研の人達、僕達を迎い入れてくれるかな‥」


やはり桜木はその事に気付いていたらしく、しんなりとした声を絞り出す。


 「あぁ。だから。それを今から聞きに行くんだよ。部活の全てを統括してんのは生徒会だからな。」


 「あっ、うん。そういう事。」


 桜木は全てを理解したのか首を動かし、俺の横に並んだ。


 「じゃぁ、早く行こう!最終下校時間になっちゃう。」


 「いや、急いでた足を止めたのはお前‥まぁ、いいけど。」


 軽口を言おうとしたがその時間も勿体無いと思い、俺も足早に階段を駆け上がる。


 青春の全ては部活だけではない。

 活動を停止しているのかどうか。アニ研の部室とされる多目的室に人が入っているところを見たことがない。それとあそこは部室ではない。物がなく。あるのは机と椅子だけ。それではとても有るとは言えない。

 青春に逃げたのか。青春を諦めたのか。どちらにせよ人がいるのならその人となら気が合いそうだ。


 俺も。そしてコイツも青春という言葉に惑わされている放浪者なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ