二十一話 四月三十八 《セント・フォース》
「「「「誠に申し訳ございませんでした!」」」」
襲撃から一夜明けて僕らクランメンバーは全員揃って屋敷の応接室で昨日の襲撃者と顔を突き合わせていた。
「誤解が解けて何よりです。まぁあの状況を知らない人が見たら誤解されても仕方がないかと....」
「ははは、その通りだな。俺が騎士を扱き過ぎたのも勘違いを深めたのかも知れん」
僕らの向かいの席で机に額を擦り付けながら謝罪をする彼らは昨日の襲撃者もとい、冒険者パーティー《セント・フォース》と名乗る四人だ。
「そんな!我々がしでかしたことは冒険者資格を剥奪され財産を全て没収されても仕方のないこと!」
「そうじゃ!お主達は我らを害する攻撃もして来ず誤解だと訴えていたのにワシらは話も碌に聞かずに攻撃を.....本当にすまんかった!」
真ん中のどこかの騎士のような出立ちで桃色の髪をした青年は昨日僕と打ち合っていたギルと名乗る冒険者で、ギルさんに続いて太い腕が傷だらけで顎髭を三つ編みにしているこちらのドワーフはドグルさんと言う、昨日フォーさんと接近戦をしていた人物。
ドグルさんが机に手を突き、頭を下げる度に隣のギルさんとダークエルフの女性ローサさんに肘が当たっているのだが、机が壊れる勢いで頭を打ち付けるので机が壊れないかそちらの方が気になって仕方がない。
「特に私達二人はあなた方二人と剣を交えて言葉も交わしていたのに決め付けで話を聞かずに本当に申し訳ない!」
「わかりましたから、もうそろそろ頭を上げて下さい」
「あぁ、俺の方も久方ぶりに実践的な対人訓練が出来てちょうど良かった」
あの状況では仕方がないと話しているのに隣のフォーさんは少し論点のズレたことを言っている。というか高ランクの冒険者との戦闘に満足している様子だった。
「ちょうど良かったって.....確かに剣を交えてすぐ、勝つのは難しいと感じていましたが....」
確かにあの時のフォーさんは高ランク冒険者を相手に三対一を強いられていたのになぜか拮抗した戦いを繰り広げていた。聞けばこの人達は皆さん三星級上位でギルさんが四星級になったばかりなのだとか。
アル達だって毎日訓練と依頼をこなしてもう少しで二星級か?くらいのなのに人族でまだ二十五歳だと聞きどんな修行をして来たのか正気を疑ったのが昨日だ。
「しかし、私達がしでかしたことはそう簡単に許される事ではない。償いの機会を頂けないだろうか!」
「償いのですか.....」
そんな事を考え部屋の隅に視線を移すとそこには何とも言えない表情を浮かべたアル、ロベル、エレナが横一列に椅子を並べて座っている。
ロベルは眉を下げて嘆息したまま話の行く末を見守り、アルとエレナは未だに怒りを感じる表情でセントフォースさん達を睨んでいた。
そんな三人は昨日、他の冒険者に嵌められてワイバーンに出くわしたのだが、このセントフォースさんに救って頂いたらしい。だからこそ僕らを襲ったことが余計に悲しかったのだろう。
一方セントフォースさん達も三人をチラチラ見るがその度に申し訳なさそうに頭を下げ続けていた。
何とも居た堪れんない雰囲気のまま何度も許す度に謝罪を受ける。
◇
「あの、少し疲れて来ましたね」
「....え?」
「何度も言っていますがこちらとしては謝罪を受け入れますし、アル達を救って頂いた方々に賠償を要求する気もありません」
「しかし!−−−」
「少し気分転換に屋敷を案内しますよ」
「...え?」
「せっかく来てくださったんです。ここがどんな場所なのか一度見てもらいましょう」
「そうだな、流石に俺も疲れて来たからなぁ」
僕が提案して席を立つと巨人のフォーさんも立ち上がりその四腕を大きく伸ばしてついてくる。
「!待って−−−」
後ろでギルさんの声がしたがゾロゾロと立ち上がり後に続くクランメンバー。その後を戸惑いながらもついてくるセントフォースの面々。
歩き始めてすぐに子どもたちと教師の声が聞こえてくる。
「ここからは少し静かにお願いしますね」
後ろを振り返りギルさん達に向けて人差し指を立てて知らせるとセントフォースさん達は慚愧に堪えない面持ちのまま首を縦にうなづく、それを確認して笑みを返して先を進む。
「ここでは今読み書きの練習をしていますね」
部屋の前までくると教師をする使用人さんの声と元気に答える子どもたちの声が聞こえてくる。
扉の中央にガラスが嵌め込んであるのでそこから中をそっと確認するセントフォースの面々。
セントフォースさん達は扉の前に立ち何を思っているのかさらに苦しそうな顔を深めていた。
隣の部屋に行くと今度は一段と静かな部屋、ん?今日は何をしているんだっけ?と思い扉に指を差すとウェアウルフ種のフラミルさんが隣に来て耳を立てた。
「ん?カチャカチャ食器の音が聞こえるな?あと少しパンの匂いがするぞ!」
静かに様子を伺ってた筈なのに食べ物の匂いにテンションを上げて答えるフラミルさんに慌ててシー!とポーズをとる。
フラミルさんはあっ!と戯けたようにした後同じくシーのポーズで後ろに下がる。
「ふっ、今日は食事のマナーを練習しているみたいですね」
フラミルさんの一連の行動に吹き出しそうになりながらもギルさん達に部屋で何をしているのかを説明する。
またもや順番に部屋の前に立ち中の様子を伺うギルさん達。
屋敷を出て広い庭にやって来た。僕のクランメンバーはみんな揃って大きく伸びをし出した。
「ここは昨日戦うことになってしまった場所なんですけど本当は午後から希望する子供達に護衛術や剣術を騎士さん達が教えてくれています。まぁ、日暮時には騎士さん達がフォーさんに鍛えて貰っていて気合いが入り過ぎて帰る頃にはいつもフラフラになっているんですけどね」
屋敷の日々を教えつつなぜあんな状況だったのかを説明した。
「聞いても良いだろうか?」
「はい!何ですか?」
後ろの方で控えていたケンタウロスのヴォルドさんが一歩前に出た。
「あの後ギルドで聞いた。ここは孤児を集めているそうだが、その真意は!」
真剣な表情で確かめるように尋ねるヴォルドさんに向き直り口を開いた。
「ここはな!『困っている人を見捨てない』とヴィリが言い出して出来たクラン兼孤児院だ!」
と僕が声を発する前に横から声高らかに宣言するのは仕事人のフラミルさんだ。
ある意味この人発端でこの人数になったのだがその行動に否とは答える気はない。
「ちょっとフラ!あんまり勝手な事しないでよ!」
フラミルさんの双子の妹のエフティルさんがフラミルさんの手を引き後ろに消えていく。
「まぁ、そう言うことなんですけど別に無理強いはしていません。孤児や難民で困っている人を見たら楽しく旅が出来ないじゃないですか、見捨てることなんか出来ないので保護してゆくゆくは自分達で生活していけるようにと色々学んでもらっているんです」
僕が旅がしたくてと言う部分もしっかり説明して屋敷の存在理由を答えた。
ギルさんは拳を強く握りしめて俯いている。昨日の失態を思い返して自分を責めているのだろうか。
「一つ提案がございます!」
ギルさんが、気になり見つめていると質問していたヴォルドさんが改まってさらに一歩前に出た。ケンタウロスのヴォルドさんは前足を折り跪く様な姿勢をとった。
「賃金は不要、一教師として私をここで雇って頂けないだろうか!」
「え!?どうしたんですか急に!」
畏まった物言いに謝罪をまた聞くと思いきや働きたいとは?どうして⁈
「我が種族は人を教え、育て、守る事が至上の喜びであり使命と思っております。この横にいるギルとは旅の途中に知り合い成長見守っておりましたがすでに守る側の一角の人物となっております。此度の失態の罪滅ぼしとしてここで働かせて頂けないだろうか」
家臣の礼をとりつつ捲し立てるように告げるヴォルドさんに面をくらい固まっているとまたしてもフラミルさんが近づいていた。
「何だあんた!元々先生だったのか⁉︎ちょうど良いじゃないか!」
「良いのか⁉︎」
フラミルさんはすでに受け入れますと言わんばかりにヴォルドさんの肩を抱きバンバンと叩いている。
叩かれるヴォルドさんもフラミルさんの言葉を鵜呑みにして喜んでいる。
先ほどエフティルさんに連れて行かれたはずなのに!と思い保護者を探すと後ろの方、片手で目元を覆い溜息を付くエフティルさんが見えた。
「いやいや!待って下さい!そんな勝手に.....ギルさん達は良いんですか⁉︎」
慌てて残りのセントフォースさん達に水を向ける。
こうなる事の予想が付いていたのかヴォルドさんを見据えて苦笑を浮かべていた。
「はい、ヴォルドとは長らくそういった話をしていましたから.....寂しくはありますが覚悟もしていました」
なんと残りのセントフォースさん達もお別れムードを醸し出している。
その様子に僕はどうしたものかと頭の中で考えを巡らせていた。誤解からの襲撃、謝罪を受けていたかと思えば教師の志願。確かに教師も従業員も人手はいたら嬉しいが渡りに船過ぎて動揺の方が優っていた。
「....ぇっと、ヴォルドさんは本当にここで働きたいのですか?」
とりあえずもう一度ヴォルドさんの話を聞こうと思い跪いたままのヴォルドさんに近づく。
「はい!私が教えられることは何でも教えます!この屋敷の守護もお任せ下さい!」
やる気満々で何でも任せろと胸を張るヴォルドさんと隣に立ったまま今だに肩を組むフラミルさんは満面の笑みだ。
「ならまとめてウチに来るってのはどうだった?」
不意の発言に振り返ると僕の後ろに立つフォーさんが顎髭を扱きながらセントフォースさん達に提案していた。
「私達を...ですか?」
「あぁ、お前さんらも仲間と離れるのは寂しいだろ?」
「......しかし、私達はあなた達に誤解し刃を向けてしまった…そんな言葉を投げかけて頂く資格がない」
フォーさんの提案にやはり昨日の失態を悔やんでいるのか苦虫を噛み潰したよう表情で答えるギルさん。
「あぁ、別に気にしてないと言っただろ、それにここにくる騎士もお前さんらと同じように襲撃して来たが今は反省してここで子供達と過ごしている。それに今の言葉をそのままお前さんらの仲間のヴォルドに向かって言えるのか?」
自分を許せないのだろうギルさんは侵した罪を自らを責める様な言い方で固辞したが、その言葉は見過ごせなかったのか、フォーさんはヴォルドさんを視線で差して仲間への配慮のない言い方をしたギルさんに少し強めに諭すように話した。
「それにお前さんらも困っている人を助ける旅をして来たんだろ、志も同じ同士じゃねーか」
フォーさんが言うように彼らもまた同じく人助けをして来たようなのだ。今日の話し合いの中でどう言った目的でこのエイドル商業都市にきたのかを聞いていた。彼らは各地で旅をしつつ魔獣被害に遭った依頼などを率先して受けては街まで護衛したり防衛戦をしたりして来たのだとか。
「実際はどうなんだよ?」
「....どうとは?.....」
尚も煮え切らないギルさんに業を煮やしたのか頭を掻きながら先を促すフォーさん。
「俺達と一緒になってやって行かねぇのかって聞いてんだよ!」
我慢するように尋ねるフォーは少しだけ怖かったが怒るところは見たことがないので多分怒っている訳ではないのだろう。
どう答えるのかと様子を見ているとギルさんは両隣のドグルさんとローサさんに視線を向けてうなづきあっている。そしてヴォルドさんの隣に同じく膝を着き頭を下げた。
「許されるのならここで挽回の機会を頂きたい!そして共に明日をも知れず怯える人々を救いたい!」
「よし!これからは仲間だ、よろしくな!」
「「「「はい!」」」」
少し強引な気もしたけどフォーさんが頼もしくてしばらく黙っているうちにクランのメンバーが増えてしまった。
「おおぉー!ありがとうございます!」
「よかったな!あたしはフラミルってんだよろしくな!」
「フラミル殿!貴女の口添えに感謝を!」
喜ぶヴォルドさんと自己紹介をして硬く握手を交わすフラミルさん、やはりこの人は仕事が早すぎる台風の目なのだと再確認し歓迎ムードの皆なを見て笑みをこぼす。
そんなこんなで今日新たにクランに入ることになったセントフォースの面々と改めて自己紹介と怖い思いをさせた子どもたちに謝罪をしたいと言うので謝罪をして回った。
始めは子どもたちも怖がって居たのだがフォーさんとフラミルさんがセントフォースの面々を揉みくちゃにして戯れるうちに子どもたちとも打ち解けていた。
夕暮れ時には騎士さんに混じって子どもたちに急かされるまま指導をさせられるギルさん達、セントフォースの面々にも笑顔が浮かんでいて、そのまま夜は盛大な歓迎会を開いたのだった。




