3、こちょこちょの裁き
「しかしクソ真面目だな。お前も」
「クソ真面目じゃない。何というかこれが俺に課せられた義務だから動いているだけの様なもんだ」
「それをクソ真面目って言うんだが...まあお前らしいよ」
授業が終わってから智和がやって来た。
俺達は苦笑いを浮かべ合う。
しかしこいつのお陰で多少は気楽になった。
俺は智和を見ながら深呼吸する。
それから鞄から教科書を出す。
多少は俺の感情もマシになった気がする。
思いながらいると智和が横の空いている席に腰掛けた。
それからクラスを見渡す智和。
肩をすくめた。
「しっかしまあなんで浮気したんかねぇ」
「雪香が能無しのクズの馬鹿って事だろ。割とマジに」
「まあ確かにな。それは言える」
そうして会話していると教室のドアが開いた。
それから顔を見せたのは...七瀬だった。
俺は「よお」と言いながら笑みを浮かべて七瀬を見る。
七瀬は「...」となってから俺を見てくる。
「...先輩。大丈夫ですか」
「何がだ?...ああ。浮気の件か?」
「...それしかないですよね」
「まあ...もう仕方が無い部分もあるからな」
すると七瀬は拳を作った。
それからガバッと顔を上げた。
「私は許せないです。...だから私、復讐したいです」
「...それは駄目だって言っているだろ。アイツらが手を出したら良いけど」
「先輩。やられっぱなしですよ...こんなの」
「それは分かるがな」
俺は七瀬の手を握る。
それから七瀬の手を撫でた。
するとクラスの女子達が「キャーキャー」言い始める。
七瀬の手をお姫様の様に握る。
「気持ちは分からんでもない。...だけど落ち着け」
「...先輩...」
「...俺は復讐は望んでいるがまだ様子見で良いって思っているから」
「...分かりました。先輩がそう言うなら」
七瀬は俺の手を握ってくる。
すると「オイ」と声がした。
背後を見ると智和が爆炎を上げている。
「オイオイ。見せつけてくれるね。周りを見な。男子達は嫉妬の塊だぞ」
「と、智和...落ち着け。お前どっから噴いているんだその炎」
「童貞舐めんなよ...お前...」
「やっちまうか。立木」
「長谷をしばき倒すの手伝うぞ」
「そうだな...」
そして燃え上がるクラスメイト。
女子がドン引きしている。
パキパキと手を鳴らしながら俺を...つーか。
何をする気だコラ!!!!!
「お前は童貞逮捕罪で捕まえる。...死ね。仁」
「ふざけんなテメェ!!!!?」
「ふざけてないぜ?俺は...至って真面目だ...」
「み、皆さん落ち着いて...」
「落ち着いていますよ。七瀬さん。ただぶっ殺したいだけです」
「それ落ち着いてないからな」
そのまま俺はこちょこちょの刑に処された。
というかこれよく考えてみたら智和が配慮してくれたのかもな。
そう思いながら俺は爆笑していた。
☆
私の名前は七瀬奏という。
簡単な自己紹介だけど...私は茶髪にしているのは意味がある。
先輩が「お前の髪の毛は茶髪が似合うな」って言ったから。
だからずっと染めている。
髪が軋むけど...私はこの髪色が気に入っている。
だって好きな人から言われているのだから。
「止めてくれよ。七瀬」
「あはは。楽しいから良いじゃないですか」
「ったく」
目の前の大切な人を見る。
大切な人は乱れた服を直しながら私を見た。
私は「?」を浮かべて先輩を見る。
先輩は「飲み物を買いに行こうって思っていたんだ」と笑みを浮かべる。
「一緒行くか?」
「はい。一緒です」
「...オイ。長谷。お前見せつけてくれるな?」
「こちょこちょが足りん様だな」
「そうだな」
「しつこい奴らは嫌われるぞ」
先輩がそう言いながら私の手を握る。
それから一気に駆け出して行った。
私は赤面しながらその姿を見る。
そして先輩は私の手を握ったまま自販機の近くに来る。
「全く。アイツらという奴は」
「アハハ。先輩のクラスって賑やかですよね」
「賑やかすぎるっての」
「あは」
私は先輩の大きなゴツゴツした手を見る。
愛しい先輩。
私はその手をゆっくりと包み込む。
それから見上げる。
「何をしているんだ。七瀬」
「見て分かる通りです。握っています」
「...いやそれは分かるが...」
「先輩...その」
私はそこまで言ってから潤んだ瞳を向ける。
だが私がそれを言うのは今じゃない。
そう思ってから私は口を閉ざしてから笑みを浮かべる。
「すいません。何でもないです」
「...?...変な奴だな?」
「先輩。女の子に変とか言ったら駄目ですよ」
「いやまあそうだけど...」
「あ。先輩。私、汁粉が飲みたいです」
「いや待て。何でお前は智和と一緒の事を言うんだ...」
私は目をパチクリする。
あはは。
立木先輩と同じ事を言っているんだ。
だけど本当に汁粉が飲みたいのだ。
何だか先輩とねっとり熱くなりたい。
そう思えたしね。