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狂愛の魔王  作者: ラー油
4章:天敵

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85.紐解かれる

 「おはよう、出雲君」

 「おはよう、夜月さん。随分と早いね」

 「そっちもね」

 今の時刻は集合時間の15分前だ。

 前回と全く同じ日付だが違うのはノエルと二人ではない点だ。

 「いまいち待ち合わせとかしたことなくてさ」

 「遅刻しなければ何でもいいと思うわ」

 「そうだね。じゃあ夜月さんは何故早くに?」

 「……浮足立って」

 夜月さんには硬い印象があったが顔に出ないだけでかなり感情が豊富な人だ。

 「僕も浮足立ってるね。大勢で遊びに行くなんて初めてだし」

 「やっと皆の予定があったものね」

 部活の休みが嚙み合ったのがこの日だった。

 「ねえ、出雲君。柊さんは元気なの?」

 「うーん、平気だけど意識はないね」

 「それ平気なの?」

 夜月さんは定期的に雫の体調を聞いてくる。

 「昨日お見舞いに行った様子なら大丈夫だよ」

 僕がそう言うと夜月さんは安心した表情をした後難しい顔をする。

 「……柊さんってどんな人なの?」

 「え?」

 「えっと、私は強い人になりたいと思ってるの。だから参考にしようと思って」

 夜月さんは十分に強い人だと思うがそういう事ではないのだろう。

 だが雫の強い部分を説明しようとすると話せないという課題にぶち当たる。

 「えっと……メンタルが強い?」

 「一番最初に出てくるのがそれなの?」

 そんなこと言われても出てきてしまったものはしょうがない。

 「あとは敵わないとことか」

 「敵わないってメンタルが?」

 「それもあるけど、思考というか僕の考えを見透かされるみたいな」

 「なるほど、共感性が高いってことね」

 「そう、それ。僕の過去や雪野愛華のことを清算させてくれた人だし」

 「そう!そのことが聞きたいの」

 夜月さんは目を輝かせる。

 その目を見て僕は踏み込んでみることを決める。

 「僕の中学以前を理解してくれたのが大きいかな」

 僕はそう言って中学以前の話をする。

 包み隠さず話してみる。

 「……救いがないわね。それだけ今の出雲君にした柊さんがいい人なのね」

 聞き終えた夜月さんは暗い表情でそう口にする。

 「これを知ってるということは柊さんと知り合いだったの?」

 「……うん。知り合いだったよ」

 僕は少し迷った後そう答える。

 「なるほど、やっと少し疑問が解けた気がするわ」

 雪野愛華が黒幕という核心が言えない以上疑問が残るのはしょうがない。

 それでも知ってもらうことで距離を縮めていくことは出来る。

 人間関係というのはそういうものなのかもしれない。

 「私は小、中は能力もあってリーダーみたいな感じだったのよ」

 「確か〈踏み込み〉だったよね」

 夜月さんの能力は〈踏み込み〉で懐へ飛び込む一歩目が早いという能力者だ。

 一直線にしかいけないというデメリットがあるが少し静止すればすぐに使えるようになり戦闘ではかなり厄介な能力だと思う。

 「〈踏み込み〉は予備動作も少なくて体重を向けた方と逆にも行けるから汎用性も高い、静止の判定も緩いからかなり強い能力だね」

 「そ、そう。だから心のどこかで自分は特別だという認識があったのでしょうね。誰かが困っていれば私が助けるものだと思ってたの」

 でも現実は違った。

 「結城君の〈重力の勇者〉を目の前にした時私はどうしようもないほど怖くて恐ろしくて動けなかった。自分に向けられるのが怖かったの」

 「……そっか」

 「ねえ、どうしたら圧倒的恐怖に立ち向かえるの?」

 「一つは警察の人達みたいな家族や友達を守るために立ち向かう。大切な人を守るために限界を超えて戦うんだ」

 これが鬼門の開き方だ。

 「もう一つは昔の僕が立ち向かった方法で相手に対する怒りと自分の惨めさによる絶望とここで死んでもいいという心持ちの三つが揃った時人は化け物になれる」

 これが死門の開き方だろう。むしろこれだけじゃ生温い。

 僕が受けた何倍もの絶望が必要だ。

 「夜月さんはどっちの力で立ち向かいたい?」

 「……私は友達を守りたい」

 「うん、夜月さんなら大丈夫」

 何も全ての人を守る必要はない。

 ただ守りたい人は寿命を削ってでも守る必要があると思う。

 「お、二人共早いな」

 いつの間にか時間が経って次々と親しくなった友達が集まる。

 「おはよう剛力君」

 「お、おはよう出雲」

 「皆集まったことだし出発しようか」

 風間君がそう言うと皆頷いて歩き始める。

 そして時間が許す限りスポーツを楽しんだ。


 「今日は楽しかったね」

 「うん、本当に楽しかった」

 みんなと別れてノエルと帰っているとそんな会話をする。

 前回と違ってノエルの笑顔を見る機会が本当に増えたように思う。

 「いつの間にか千春と仲良くなったの?」

 「一ヶ月前から?」

 「はぁ、そんなこと聞いてないですわ」

 最近のノエルは素の口調で話すことが増えている。

 「昨日までは千春に気まずさがあったけど今日は無かったですわ。何をしたの?」

 「相談を聞いたぐらいだけど」

 「どんな相談?」

 「いや、それは言わないけど」

 僕がそう答えるとノエルは少し拗ねたような仕草をする。

 「それじゃあ、私の相談を聞いてくれない?」

 「う、うん。僕でいいなら」

 前回にはなかった展開に戸惑いつつ話を聞く。

 「私は大切な家族が十人いましたわ。同じ場所で過ごし、同じ物を食べて、同じ教育を受けてきた」

 「十人家族?」

 「そう、十人。血は繋がってたり繋がってなかったりなんだけど」

 血が繋がったり繋がってなかったり?

 その言葉に嫌な予感が走る。

 「私は長女で一番強かったんですの。だから完璧であろうとした、家族を守る為に強く美しく象徴であろうとしたんですの」

 「か、かぞ……完璧か、確かにノエルは運動も勉強も出来るもんね」

 家族は今どこに?と発するのを押さえてそう尋ねる。

 「そんなこと出来てもしょうがないってことを最近になって知りましたわ。お互いに足りないものを補い合う、理解し合う関係を目指すべきでしたわ」

 ノエルはどこか寂しそうにそう口にする。

 「転校した当初は大成にこんな話をするとは思いませんでしたわ。むしろ悪い印象を持ってた」

 ノエルはそう言うとどこか愛おしそうな目で一歩距離を縮める。

 「でもその印象はすぐに消えましたわ。大成は決して友達を見捨てるような人でも簡単に未練を消化出来る人でもないと」

 ノエルはそう言うとさらに距離を詰める。

 「そこで考えられる結論は雪野愛華は黒だってことですわ」

 あまりにも突然のセリフに僕は言葉を失って足を止めてしまう。

 「そのリアクションってことは本当みたいですわね」

 ノエルはそう言うと確信を得たように頷く。

 それにしてもノエルがここまで踏み込んでくるのは以外だった。

 「ねえ大成、私にも教えてくれない中学以前のこと。そして雪野愛華と何があったのか」

 「……聞いてたの?」

 僕がそう聞くとノエルは首を横に振る。

 「千春に聞いたら大成は中学以前の話をしてどうやったら恐怖に立ち向かえるかを聞いた。と答えてくれましたわ」

 ノエルはそう言うと自分の胸を両手で押さえる。

 「おかしい、本当におかしいですわ。まだ一か月の関係なのにもっと前から知っている気がするんですの。学校生活を、大成と一緒に帰る時間を繰り返せば繰り返すほど私の心からどんどんと溢れてくる

 僕は焦る気持ちが強くなって背中に汗を滲ませる。

 「まるで心の奥底に“封印"されていた気持ちが紐解かれるように」

 ノエルはそう言って大きく後ろに跳ぶと鎖を出しながらそのまま横に跳ぶ。

 すると空中に浮いた赤と折りたたまれたピンクを視界にとらえる。

 「っ!」

 僕は咄嗟に正面に前転するようにして舌の弾丸を回避する。

 「やっぱり――」

 僕がノエルに気を取られていたのもあるがここまで近づかれているとは思わなかった。

 「いい能力だな」

 「素晴らしい能力だな。かな?……少し違いましたわ」

 ノエルは僕の声に被せるようにそう口にする。

 「いい能力だと?これを見ても同じことが言えるか?」

 苛立った声が何もないところから発せられると〈カメレオン〉が姿を見せる。

 「うん、何度でも言おう。いい能力だよ」

 伝わるまで何度だって言おう。噓偽りない僕の気持ちを。

 「やっぱり本気で思ってるんだ。私はやっぱり醜いと思っていますわ。でもそれを恥じる気持ちが芽生えるのと同時にこの感情に懐かしさがありますわ」

 ノエルは心から湯水のごとく湧き出る自分のものとは思えない感情を口にする。 

 「あぁ、この感情はいったいどこから来たんですの?愛おしくて、触れたくて、胸が熱くなる。でもどこか諦めている私がいますわ。私はただこの感情が本物か知りたいですわ」

 ノエルは集中力を欠いた動きの鈍い僕を見ながらそう口にした。


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