84.跳び後ろ蹴り
「おはよう出雲」
「おはよう山門君」
雫のお母さんと話した次の日学校に行って山門君達と挨拶を交わす。
普通なら何気ない日常の一幕だが僕にはとても新鮮に思えた。
「お、やっと来たな出雲」
岡田君に声をかけられて視線を向けるとパンパンに物が詰まったリュックを捉える。
「それは?」
「ふふん、これはプロテクターだ」
僕の記憶ではプロテクターは格闘技の防具だと思われる。
「尚幸はボクシングとかよく見るんだよ」
「なるほど?」
「漫画と同じでやっぱり一番破壊力があるのは跳び後ろ蹴りなのか?」
「あー、威力だけで考えるならそうかも」
予備動作や後隙を考えないのであれば正拳突きや廻し蹴りなんかとは比較出来ないパワーだろう。
「ちなみに出雲君は跳び後ろ蹴りだっだけ?出来るの?」
「うん、出来ると思う」
使おうと思ったことがないから練習もしていないが後ろ蹴りは練習してるし可能だろう。
「男なら一回は喰らってみたいだろ」
岡田君は高笑いをしながらそう豪語する。
「ちなみに生身で受けたらどうなるの?」
不意に夜月さんに聞かれて僕は想像してみる。普段よりも何倍も勢いがついた後ろ蹴りをサンドバッグに放つ。
「……多分死ぬな」
「そ、そんな威力なんだ」
昨日の今日で気まずさがあるな。
「せっかくだし喰らってみたら?元不良さん?」
「遠慮しとくよ……」
「不良だったの近藤君?」
思わずそう聞くと近藤君は渋い顔で頭を掻く。
「俺が住んでる場所は治安がいいとは言えなくてさ。頭のおかしい奴が多くて巻き込まれることが多かっただけなんだ」
「喧嘩してたの?」
「してた、けど友達に手を出されたからだと弁明しておく」
「おお、なんか漫画みたいだね」
「出雲が言っちゃダメだろ」
近藤君は呆れた様子でそう口にする。
「本当は剛力もそうだったんだけどな」
「ちょっと湊!」
夜月さんが睨むと岡田君は、しまった。という顔をする。
「別に平気だよ。剛力君は全く恨んでないし」
「そ、そうなのか?」
「うん。僕が恨んでいるのは〈重力の勇者〉だけだよ」
「剛力君って結構手を出してたように思えたけれど?」
「……いろいろ事情があるんだよ」
「いじめをする事情なんてあるのか?」
「例えば家族のことだったりさ」
僕がそう言うと二人は顔を見合わせる。
「私達が思っている以上にあの件は単純じゃないのね」
「だから頼んでもいいかな近藤君」
何を?という言葉はなく近藤君は静かに頷いた。
「さて、準備も終わったし喰らってもらおうかな」
柔軟を終えた僕はそう言ってバックを抱えた岡田君と向かい合う。
「じゃあ、やるよ?」
「よし、かかってこい!」
僕は後ろにねじりながらの助走と向いた勢いを殺さずに小さく跳んで足の裏を勢いよく突き出す。
もちろん傷つける目的はないので加減はしたつもりだった。
「バァン!」
だが僕の思っていた以上の爆発音が鳴り響くと岡田君が引っ張られるように後ろに吹っ飛ぶ。
そのまま地面に転ぶと思ったが蜘蛛の糸のようなものに引っかかって静止する。
「……何してるの?」
全員が声の主の方に視線を向けると右手を前に出して困惑した顔のノエルがいた。
「助かったぜノエル」
「大丈夫?」
「へ、平気だよ」
岡田君はお腹を押さえながらそう答える。
「で、何があったの?」
怖い顔のノエルに聞かれて僕は事情を説明する。
「はぁ、後ろ蹴りでさえ当たったら終わりなのにそんなの撃っちゃダメでしょう」
「すみません。思ったより威力が出てしまいました」
「まあ、お互いの了承があるならいいんだけどね」
「それにしても凄い威力だったな。人が文字通り吹っ飛ぶなんて」
山門君が口にした通り僕にも予想外威力だった。
「もしかしたら案外使えるのかも」
そう思った僕は学校から帰った後使ってみると見事に返り討ちにあった。
そして一回目の日々とは違う意味で充実した一ヶ月を過ごした。
最初はどうなると思ったが前回よりノエルも笑う機会が増えて距離が縮まったように感じる。
「雫はどっちの日々を過ごした方がいいと思うかな?」
お見舞いに来た僕はそう言って眠っている雫に声をかける。
個人的には雫にも友達を作ってもらいたい。
僕が雫の高校生活の大半を奪ってしまった。
「まあ、起きたらじっくり話そう。ノエルの事も含めてさ」
僕はそう言って雫の頭を撫でる。
「今回も後をつける気配が出てきたんだ。そろそろ〈カメレオン〉と戦うと思う」
一回目の僕は出来れば〈カメレオン〉と関わりを持つのはダメだと思っていたが今回は違う。
僕自身が理解者になろうと思っている。
「それじゃあ、また来るね」
僕はそう言って明日に備える為に早めに家に帰った。




