63.調査結果
「コンコン、失礼します!」
「どうした芽衣?そんなに慌てて」
「報告します!廃墟で見つかった柊硬の遺伝子を検査したところ能力因子が大きく損傷しており〈強奪の勇者〉に殺されたと見て間違いありません」
「そうか!」
思わず声が大きくなった〈切断の勇者〉は事件の詳細に目を通していく。
「記憶は見れないか、まあ当然そうするよな」
そんな軽口がだんだんと言えなくなっていく。
「……これ、本当か?」
捜査結果を指差してそう尋ねる。
そこに記載されている文字は家族による関与は認められないこと。
出雲大成と同じ高校に通う実の娘である柊雫と出雲大成との接点はあまり多くない。
そして何より出雲大成による関与も認められないと書かれている。
「本当です。凄く不満そうな出雲君の記憶を私が無理矢理確認しましたが死亡推定時間内ではスマホで漫画を読んでいました。それも週刊連載で日付が変わったタイミングで更新される漫画です」
「おかしいだろ……」
思わずそう呟く。あまりにも都合がよい。
だがしかし、その事実はどうしようもなく白を証明している。
雪野愛華の件と違って今回は記憶を見ている。
雪野愛華が自殺したことは一目瞭然で遺伝子の検査を後回しにしていたら発覚したのは事件から一ヶ月が経っていた。
本来ならば殺人事件だけに義務付けられている遺伝子検査をしただけで幸運というほかない。
「これ本当に捜査した上での結果か?」
読み込んでいくにつれて苛立ちを隠せずそう発してしまう。
頭部には誰かに殴られた痕跡があり、死因は首への強い衝撃。
一撃で首の骨を砕いており道具を用いた可能性もあり。
これの問題はどこで行われたか、だ。
死亡推定時間は24時~25時の間。
夜の7時に駅前で監視カメラに映っていることを考えて柊硬は死亡推定時間には家にいた可能性が高い。
だが確定が出来ない。
家にいた娘である柊雫は帰宅したであろう八時頃には寝ていたらしい。記憶を見たから間違いない。
そして妻である柊由美も同様であった。
家に帰っていた場合家族による犯行である可能性が高いが確実に有り得ない。
仮に家に帰っていないとなったら捜査は困難を極める。
それに家に帰っておらず、〈強奪の勇者〉に殺されているなら意味不明だ。
これは相手の能力を理解した上での犯行だと思えたからだ。
背後から近づいて気絶させる。その後首への一撃を入れる。
そして即座に〈機能の固定〉の使い方を理解して死体のあった場所へと自身を目撃させずに移動する。
〈機能の固定〉だけでは曲がり角などに対応出来ない為犯人は別の能力を用いるなどして対応する必要がある。
何か簡単に移動させられる能力を所持している可能性もないわけではないが雪野愛華の能力が記憶の捏造をする能力だと仮定すると有り得ない。
この一連の動きを事前準備なしではたして可能だろうか?
俺の経験則から考えると不可能だと思われる。
「次に思いつくのは共犯者か」
そう思ったがあり得るだろうか?
逆に誰が共犯者になりえるだろう。
警察より先に〈強奪の勇者〉の存在を認知出来る人物。
少なくとも話を聞いただけでは出雲大成が誰かを信じることはないと思われる。
洗脳系の能力を使ったと言われた方が説得力がある。
「監視って言ってもあの二人がいるからなー」
思わず頭を抱える。
今の警察に響香先輩と正志先輩に気づかれない監視役が存在しない。
「それなんですけど二人がいらっしゃるなら心配いらないのでは?」
「若いなー芽衣は。あの二人だったら自分の息子が〈強奪の勇者〉って発覚したら自分達を殺させるような人だよ」
俺はお互いを想い合う二人の強さを知っている。息子なら尚更だ。
「二人の能力を奪われると話は変わってくる」
「私、二人の能力を知らないから言いますが不安な芽である出雲大成を始末したらいいと思います。万一復讐に来ても剣吾様なら勝てると思います」
この発言に思わず笑ってしまう。
「無理無理、あの二人を相手にしたら日本が消し飛んじゃうよ」
「そんなにですか?」
「だって二人は〈光の勇者〉を倒せるぐらいには強いんだから」
今の世界で〈光の勇者〉を倒せる能力者なんて三人ぐらいしかいない。
「納得出来ませんね。能力は何なんです?」
少しムッとした様子の芽衣に教えることに決める。
「〈操作の勇者〉と〈入れ替えの勇者〉だよ」
「……なるほど、確かに強そうに聞こえますね」
「勇者のマーキングは特別で触れる以外にもマーキングが付いた物が触れればマーキングを付けられるのね」
俺はそう言って山積みになっている書類の一番上の紙に触れた後指を鳴らすと全ての紙がバラバラに切断される。
「〈入れ替えの勇者〉には重量や大きさの制限が無くマーキングさえ付ければ人と物だろうが関係なく位置を入れ替えられるのね」
それに加えて〈操作の勇者〉によって無数の鉄球が向かって来たらどうだろうか?
どれか一つに触れただけで詰みなのにも関わらず響香先輩は生えている木を引っこ抜いて攻撃したりマンションをぶつけてきたりするのだ。
二人の連携は神業と言えるほど息ぴったりで本体への攻撃は避けられる。
正直に言って無理ゲーだ。
それを一人で完結されて強化系の能力でも奪われたら勝てるわけない。
「出雲が〈強奪の勇者〉だって言えないよなー」
頭を抱える。
何かとんでもないことが起こっているような気配。
99.99パーセントが覆されるような気持ち悪い不快感が纏わりつく。
「……どうなさいます?」
「解決方法は一つしか――」
「それなら協力出来ると思いまーす」
突如として扉が開かれたと思えば銀髪のおちゃらけた男が現れる。
「突然なんですか?」
芽衣がそう言うと男は襟元を触る。
「っ!」
芽衣が襟元を触ると盗聴器が見つかる。
「す、すみません」
芽衣も十分に訓練された人間だが気づかれることなく盗聴器を仕込むのは感心する。
「僕のことは鼠に狼で鼠狼って呼んでよ」
「鼠狼ね」
どっちも噓つきを意味する動物で鼠狼はイタチを意味する。
「お前は何者だ?」
「僕は警察の先陣を切る役割の特攻隊。能力は〈無敵〉で一切ダメージを受けないんだ」
鼠狼はかなりふざけた能力を口にする。
「仮にそうであるなら俺の耳に入らないはずないと思うが?」
「僕はあなたに興味がないですし、英雄になりたいと思えないので」
「何です?その言い方」
今にも詰め寄りそうな勢いの芽衣を制止する。
「目的は何だ?」
「あなたと同じですよ剣吾さん。僕も代償の極みに行きたいのですよ」
「なるほど、そういうことか」
俺は仲間だと言うことに気づく。
「僕は言付けを伝えに来ただけなので」
「席を外してくれ芽衣」
「……分かりました」
芽衣が外に出ると鼠狼はそう言うと言付けを話し始める。
「なるほどな、そいつは監視役にピッタリだな」
「彼女にかかればどんな能力を持っていようと関係ないですからね」
「これなら無理をする必要はなさそうだな」
日本のトップはそう言って監視役を決めた。




