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狂愛の魔王  作者: ラー油
3章:もう一人の勇者

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54.出雲大成の過去

 「あんまり理由になってない気がするがこんな感じだね」

 「そんな……そんな馬鹿な話信じれるわけない」

 僕が憧れていた世界はそんなに汚れた世界だったのか?

 僕の中にある何かが壊れていくのを感じる。

 「さてと、昔話はここまでにして終幕(フィナーレ)としようか」

 そんな声に顔を上げると悲痛な顔で両手で包丁を握る柊さんが視界に映る。

 「やだ、やだ、助けたいのに……身体が」

 柊雫の身体は紋章を出す程の無茶が出来ないぐらいに弱っている。

 そして〈機能の固定〉に動かされるまま包丁を僕に突き刺す。

 「そうだ!その表情だ雫!」

 そんな絶叫を耳にしながら僕は胸が焼かれる痛みを抱えて意識を失った。

 「……僕が憧れてたものって何だったんだ?」

 〈セーブ&ロード〉で再びベットの上で目が覚めた僕はそう呟いた。

 

 「っ!大成君!」

 再び意識を取り戻した私は飛び起きて名前を叫ぶ。

 「早く、早く行かないと」

 私が大成君が途方もない正義感を持っていることを一番知っている。

 正義の象徴である警察に対して神に近しい思いを持っていること知っている。

 「今度は私が救うんだ。大成君の正義は薄っぺらくないって伝えないと」

 私を何度も救ってくれた正義は決して薄っぺらくない。

 雪野愛華は拷問の後は私を精神的に追い詰めようとした。

 私がいじめられるのを救おうと真っ先に手を差し伸べてくれたのは大成君だけだった。

 もし大成君がいじめに加担したり傍観者になっていたら私はとっくに壊れていただろう。

 普通の人だったら傍観者に徹すればいい。それが一番賢い選択だからだ。

 でも大成君は違った、こっちが怖いと思うぐらい対処が手馴れていて決して見捨てなかった。

 だから雪野愛華は徹底的周りを調べ上げて檻を作った。

 それでも大成君は私を助けることを止めなかった。

 「撤回するよ雫。大成はあんたと同じくらい狂ってる」

 雪野愛華が出した結論はこうだった。

 「仕方ない、中学時代を調べるか」

 雪野愛華はそう言って私に大成君の記憶を見るように命令した。

 大成君の記憶は私が思っている以上に地獄だった。

 笑っている大成君の姿は一切なく、常に悟ったような表情だった。

 そして大成君の変わりたいの意味を正しく理解した。

 

 「こんにちは!転校してきた波動奈美(はどうなみ)です。能力は〈波動〉です。よろしくお願いします!」

 中学三年生になって少し経った頃ショートの髪を揺らした活発そうな明るい少女が転校してきた。

 僕にとってはどうでもいいことだったがクラスには違ったらしく男子の目と行動が見える形で変わった記憶がある。

 「見てろよお前ら!」

 〈ロックオン〉の能力者が周りを見ながらそう言って消しゴムをゆっくりとしたスピードで僕の腹部に向けて投げる。

 そしてもう一個の消しゴムをアンダースローで投げる。

 「っ!」

 僕はその軌道を見て両手を上げる。

 「パチ!」

 後に投げた消しゴムが斜め下から先に投げた消しゴムを押す形になって軌道が変わって首元に飛んできたのを反射的に受け止める。

 「あ?なに防いでんだ?」

 「ご、ごめん。つい……」

 僕は怖い顔で近づいてくるいじめっ子に呆然と謝る。

 「お前、最近調子に乗ってると思ったらこんな事してくるんだ」

 「違うんだ。ただいつもと違って寸前で軌道が変わったから驚いて手を上げたらたまたま防げただけなんだ」

 「そんな風には見えなかったけどなぁ!」

 苛立ちを剝き出しに無造作に振り上げられた拳をみぞおちに受けてその場に座り込む。

 「ゴホッゴホッ」

 既に痛みをあまり感じないが僕は大げさに咳をする。

 こうすれば相手が満足するからだ。

 「本当は苦しくないんだろ?」

 そう言って足が振り上げられた瞬間クラス中に大きな声が響き渡る。

 「ちょっと!何してるの!」

 声の主である波動さん怒った様子で僕達に近づいてくる。

 「無能にお仕置きしてただけだよ奈美ちゃん」

 「お仕置きって何?」

 波動さんがそう言うと騒がしかったクラスが静まり返った。

 もう僕がいじめを受けるのは当たり前の日常で誰も疑問を抱かない。

 だからクラス中が懐疑的な視線を向ける。

 「そっか、奈美ちゃんはまだ知らないか」

 いじめっ子がそう言うとクラスに嫌な空気が流れる。

 「この死んだ目の欠陥品は出雲大成って言って能力がない無能なんだよ」

 クラス中に聞こえる大きさでそんな声が響くとクスクスと笑いが起こる。

 「何それ?意味わかんない」

 たった一人軽蔑した表情の少女が声を低く呟く。

 「あなた達どうかしてるよ、何で人を傷つけて笑っていられんの?」

 「確かに大成が人だったらそうだけど無能は人じゃないからね」

 取り巻きがそう言うとは波動さんはさらに睨みつけるような表情になる。

 「どうしてそんな最低なことが言えるのよ」

 今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気の中爽やかな声が響く。

 「波動の言う通りだ」

 声の主である中学校から同じ学校になった〈肉体強化〉の能力を持つ一之瀬陽翔(いちのせはると)君だった。

 「お前らは出雲の立場で考えたことはあるのか?お前はたまたま〈ロックオン〉の能力を持って産まれただけで出雲はたまたま能力が無かった、ただそれだけの差だろう?」

 この発言は波動さん以外の驚いた視線を集めた。

 無論僕も例外ではなく、一之瀬君とは三年間同じクラスだが二年生の前期頃までいじめられていたからだった。

 最近はいじめられることをはなく、お互い不干渉だった。

 「……っち」

 クラス内でのリーダーのような立ち位置にいる一之瀬君に不満そうな瞳を向けていじめっ子達はトイレに向かって教室を出ていった。

 「大丈夫か出雲?」

 「う、うん」

 僕は動揺しながら差し出された手を取る。

 「……お礼くらい言ったらどうなの?」

 どうしていいか分からない僕に呆れた様子の波動さんがそう言う。

 「そ、そうだね、二人共ありがとう」

 僕はそう言って頭を下げる。

 一之瀬君はどうか知らないが波動さんは正義感で助けてくれたからだ。

 「お礼を言うのもそうだけど少しは抵抗したらどうなの?」

 「それに関しては俺も同感だな。抵抗出来るならするべきだ」

 「……それは無理だよ」

 僕は少し考えた後そう答える。

 僕が鍛えている理由は誰かを助ける為の力をつけるためだ。

 やり返す為の力じゃない。

 それに無能な僕が生物として劣っているのは事実だからだ。

 「最初から助けてもらう前提なわけ?あんたそれでも男なわけ?」

 波動さんのこの発言に少しイラッとした。

 そしてそんな自分を嫌悪した。

 「そんな考え方だからいじめられるのよ」

 「……そうだね」

 僕は小さくそう言って自分の席に座る。

 当時の僕は抵抗するのは無駄で愚かな行為だと身に染みて理解していた。

 自分を守る為に力を振るったら彼らと変わらないと知っていた。

 この日から僕の生活はあまり変わらないが波動さんの生活は大きく変わっていった。

 勝気な性格と一之瀬君が気にかけたことが女子にとって面白くなかったのだろう。

 土やボンドまみれの机がいつの日にか二つになっていた。

 「……やっぱりお前かよ無能」

 波動さんが転校してきて二週間が経った頃日課である机の清掃を終えて本を読んでいると〈土の生成〉の能力を持つプライドが高くて高飛車な高杉さんに声をかけられる。

 「こんな朝早くにどうしたの高杉さん」

 僕は笑顔でそう声をかけるが高杉さんは睨んだまま距離を詰めてくる。

 「少し助けてくれただけで惚れたわけ?」

 「言ってることがよく分からな――」

 僕が言い終わる前に胸倉を掴まれる。

 「何で波動の机がきれいなわけ?」

 「……やっぱり君がやったんだ」

 僕はそう言って椅子から立ち上がる。

 「私の邪魔しないで無能」

 「僕は邪魔をしているつもりはないよ」

 僕がそう答えると高杉さんはビンタを放つ。

 「君の目的は波動さんを傷つけることなのか一之瀬君を振り向かせることなのか、どっちなの?」

 僕は頬に手が当たる前に手首を掴んで止めてそう尋ねる。

 「離せ!気持ち悪――」

 「バチン!」

 僕は騒がれる前に右頬を引っぱたく。

 「……え?」

 理解出来ない声を出して赤くなった右頬を抑える高杉さんに次は左頬を叩く。

 「何を驚いているんだ?君がやろうとしていることはこういう事だろ?」

 僕は両手で肩を掴んでそう尋ねる。

 「は、離せ!」

 「離したら能力を使うだろう?」

 「わ、分かったから。何もしないから離して」

 僕はその言葉を信じて肩を離して席に座る。

 「……調子に乗りやがって」

 そんな小さな呟きに振り返ると右手を前に突き出しているのを視界に捉える。

 「約束と違うな」

 僕はそう呟いて椅子の背もたれを掴んで横に跳ぶことで雪崩のように迫りくる土を回避する。

 左手をこっちに向けたことを確認すると姿勢を低くして一直線に突っ込む。

 「バカが!」

 そんな声と同時に僕は視線を更に低くして土石流が地面に落ちる前に滑り込み下を取る。

 「一回で理解して欲しいものだけどな」

 僕は足払いをして転ばせた後今度は首を掴んでそう口にする。

 「何で……」

 「僕なら簡単に倒せると思ったのか?」

 そう言って少しだけ首に力を流すと怯えたような目を向けられる。

 「もうこんな事しないと誓うか?」

 「わ、分かったから、もうしないって」

 その言葉を聞いて僕は首から手を離して掃除ロッカーに向かう。

 「はい」

 「……はぁ」

 僕がほうきを手渡すと教室の惨状を見てしぶしぶ受け取られる。

 高杉さんの生成速度と生成量は申し分ない出力だった。

 もう少し土が落ちるのが早ければ倒れていたのは僕だった。

 「……ねえ、何でいじめられてるの?」

 「え?」

 話しかけられると思っておらず驚いた声を出してしまう。

 「別にあんた弱いわけじゃないでしょ?」

 「えっと……」

 「波動と同じこと言うのは嫌だけど何で抵抗しないのよ?遠くからは無理でも近づいたタイミングで倒すのは出来るんじゃないの?」

 〈ロックオン〉が無意味な距離で倒すのは可能だと断言できる。

 「僕は誰かを守る為に鍛えてきたんだ。だからそんな事に使わないよ」

 「何それ……自分はどうでもいいの?」

 「無能が劣ってるのは事実だからね」

 「その無能に負けた私は更に劣ってるってわけ?」

 小さくそんな呟きを聞き逃さずに否定する。

 「それは違うよ。高杉さんは単純に戦い方を知らないだけだと思う」

 「……どういうこと?」

 「〈土の生成〉の利点は物量の多さだと思うんだ。だから僕に向けて物量で攻めるのは正しいよ」

 長引けば足場も悪くなってジリ貧になっていくだろう。

 「後は姿勢が少し高かったのがダメだったかな」

 「姿勢?」

 「棒立ちの状態だったから土が地面に着く前に距離を縮められたけど低い姿勢だったらもう少し考えて動いてたと思うよ」

 僕は少し早口でそう言う。

 「もし姿勢を低くしてたらどうするの」

 高杉さんは姿勢を低くして右手をこっちに伸ばしてそう言う。

 「逃げ回ってからそのまま帰ってたかな」

 僕はほうきを長く持ち直してそう答える。

 「…………そう」

 これ以上能力を使っていたら一人じゃ処理出来ない規模になっていただろう。

 「……うん?」

 「まさか誰か来たの!?」

 「いや、誰も来てないよ」

 なんとなく気配を感じて教室の扉に視線を向けたが誰もいなかった。

 「こんなところ見られたら終わりよ」

 高杉さんはそう言って素早く片付けを終わらせた。

 「……こんな事毎日してるわけ?」

 「こんなに大変じゃないけどね」

 「それでもよく我慢出来るわね」

 高杉さんの他人事のような言い方に引っ掛かりを覚える。

 「……何よ?言いたいことがあるなら言えば?」 

 「高杉さんがやってたと思ってたんだけど……」

 僕がそう口にすると高杉さんは呆れた様子で否定する。

 「何で私があんたにこんな事しないといけないのよ」

 恐らく机を土まみれにしている本人に理由は無い可能性は高いが高杉さんに理由が無いのも事実だ。

 それにリアクションから見て違うと確信する。

 「ごめん、勝手に決めつけちゃって」

 そんなこんなで高杉さんが波動さんの机に嫌がらせすることはなくなった。

 僕の机は相変わらずだが。




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