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狂愛の魔王  作者: ラー油
3章:もう一人の勇者

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52.模擬戦と実践

 能育の日々は想像していた以上に軍隊のようで普通の高校生活とはかけ離れたものだった。

 授業では法律関係や応急処置などの授業が行われる。

 そして日々の大半は実習で能力を鍛える。

 「今日こそは勝ちたいね」

 「勝てるといいな」

 能育では一週間に一度クラス対抗の競技がある。

 一年生の前期は旗取り勝負で自分の陣地に設置された旗を守りつつ相手陣地の旗を奪うというものだ。

 能育のクラスは四クラスで戦力は基本的に平等で探知、戦闘、妨害などの能力者も偏ることなく在籍している。

 「そこは、勝つ!って言ってよ」

 由美にムスッとした表情でそう言われるが正直言って勝つのは難しい。

 「本気でこのクラスで勝てると思ってるのか?」

 このクラスは正直言って最低だ。

 直哉のクラスは既に直哉を中心に作戦が展開していて敵の能力に合わせたチーム編成が行われていて未だ無敗だ。

 逆に俺達のクラスは生徒の協力など皆無で未だに勝利したことはない。

 「最近はチームプレイも出てきてるしさ」

 仲良しグループ内での協力はあるがクラス規模のものはない。

 しかし俺の頭の中に勝利への道が微かに浮かぶ。

 「……由美は勝ちたいか?」

 試しにそう聞いてみると由美は目を輝かせて一気に距離を詰める。

 「もちろん!土曜日返上は嫌だからね!」

 この旗取りに負けたクラスは土曜日に能力強化の補修が行われる。

 その補修は頭がおかしい程ハードな内容のため生徒は本気でやっている。

 「今から俺が考えている作戦を言うけど倫理観をガン無視している」

 「それ大丈夫?」

 このクラスに〈爆弾の設置〉というマーキングした人を巻き込まない形で爆発を発生させる能力者がいた時から頭にあったことを話していく。

 「……なるほど、確かにこの作戦なら勝てるかも」

 「由美は囮だから頑張ってくれよ」

 俺は渋い顔をする由美にそう言って〈爆弾の設置〉の能力者に話を持っていく。

 「……柊君って鬼畜だね」

 「出来れば同罪になってくれると嬉しいのだが?」

 俺はそう言って握手を求める。

 「……分かった。多分これが僕の能力の最適解だと思うし」

 「ありがとう」

 俺達は硬い握手を交わした後由美の友達を交えて作戦を練る。

 「さてと、行こうか!」

 「うん!」

 気合の入った寄せ集めの六人はそれぞれの持ち場に向かう。

 「ちょ、ちょっと!勝手に行くな!」

 このクラスではお馴染みの声が上がると戦闘向きの能力者が勝手に敵陣に突っ込んでいる。

 そしてその後ろを〈爆弾の設置〉以外の五人でゆっくりと後を追う。

 「強くはなってるよね」

 「そうだね前までならもっと瞬殺されてるよね」

 自陣と敵陣を繋ぐ大きな廊下に横たわる生徒の少なさに皆がそう声を漏らす。

 最初の方はここでの戦闘が勝負を分けていたがクラスがまとまってくるとここを少数精鋭で止めてサイドから攻めるのがセオリーになった。

 俺のクラスには関係ない話だがある程度グループが出来て実力が向上したことで正面突破が出来てしまっている。

 「……そんなわけないな」

 そんな理由で直哉が後手に回るとは思えない。

 「前の状況はどうなってる?」

 俺は〈空間把握〉の能力を持った少女に尋ねる。

 「えっと……なんか霧がかかって、埋まって、揺れてる?」

 「なるほどな」

 〈柔化〉と〈振動波〉と氷系と水系の能力者で足止めしていることを理解する。

 これまた少数で止められて呆れてくる。

 「よし、準備は完了したから全員作戦開始!」

 俺は恐らく目くらましの役割を担ったと思われる三人の頭に触れてから合図をする。

 「それじゃあ地獄で会おうね硬!」

 由美は地面に手をつけて元気よくそう言うと俺は自陣に戻って残りの二人は由美を守るように構える。

 「っ!一人来る!」

 俺は〈空間把握〉の少女の声に背を向けて急いで自陣に戻る。 

 「通さないよ」

 〈反発〉の能力を持った一人の少女が手を前に伸ばして突っ込んで来た強化系の能力者を弾き飛ばす。

 「召喚(アポート)!」

 能力発動のインターバルが終わって足止めされていた強化系能力者を呼び寄せる。

 正直言ってこの展開はいつも通りだがここからは違う。

 「後はよろしく!」

 〈反発〉の少女を置いて二人は後退して多くの人の背中を追うように右サイドに向かう。

 「何とか持ちこたえているね」

 「もう正面突破は無理だと普通の人なら悟るからな」

 最近ではサイドに向かう人も少なくない。

 「発動まで一分ね」

 由美はそう言って地面に手をつく。

 「今右サイドを守っている人には作戦は伝えてある」

 俺と〈空間把握〉の少女は左サイドに走りながらそう伝える。

 「この様子なら皆協力してくれるみたいだね」

 作戦を言った時は渋い顔をされたが成功しても失敗しても効果的に働くと説得したことで乗ってくれた。

 「召喚(アポート)!」

 由美が呼び出したのは作戦を事前に話していた〈力の凝縮〉の能力を持つ少女で、わざと正面に突っ込んでもらっていた。

 「相手のクラスから白い目で見られたんだけど」

 この少女は普段は自陣側で臨機応変に対応しているタイプで〈力の凝縮〉という肉体の一部に力を集中させる能力で強化系の能力を一撃で倒せる威力を出すクラスのエース的ポジションだ。

 「五分は耐えるよ!」

 クラスのエースが現れたことで右サイドに戦力が流れていく。

 その隙に左サイドをゆっくりと進んでいく。

 「君は警戒しろと直哉から聞いている」

 「これは手厳しい」

 左サイドに残ったのは〈忍者〉という能力者だった。

 素早い動きと投擲、火を噴いたり分身したりとかなり強敵だ。

 「二人共下がっててくれ」

 俺は〈爆弾の設置〉と〈空間把握〉の二人にそう言って敵と相対する。

 「いざ参る」

 そう言って投げられた暗器を最小限の動きで避けて正面に突っ立ってる忍者に突っ込む。

 「後ろ!」

 〈空間把握〉の少女の叫びを聞いて反射的に振り向くと影武者が寸前まで迫っている。

 目の前に迫る拳を首を捻って受け流して手首を掴んで正面にいた本体にぶつけるように引き寄せる。

 「すっー」

 本体が息を吸い込む音を察知して即座に距離を詰める。

 「悪手ではないか?」

 本体を隠すよう立つ分身がそういうがこれは作戦通りだ。

 「今だ!やれ!」

 「起爆(ファイヤ)

 俺が叫ぶと同時に身体が光ってエネルギーを解放するような感覚に襲われると爆発音が鳴り響く。

 「はぁはぁ、思った通り強い能力だな」

 地面に倒れる忍者を見てそう呟く。

 この威力に対して爆弾になった人間へのデバフは極度の疲労だけで30分動けないのも見方を変えれば利点でしかない。

 「後は任せるぞ」

 俺は二人にそう言って倒れてしまいたい衝動に駆られる身体に鞭を打って能力を維持した。

 

 「左サイドが突破されたか」

 〈霊感〉で索敵していると幽霊らにその報告を受ける。

 幽霊は基本的に平等を重んじていて相手の作戦を教えるような無粋な真似はしない。

 だから毎回相手の作戦を読んで指示を飛ばす必要があるのだが今回は何が目的なのか分からない。

 「どうするの直哉君」

 「とりあえずは正面と左翼は止まってるから兄さんがいる右翼を止めないとね」

 〈機能の固定〉は触れないと発動出来ないから遠距離攻撃がいいな。

 「あ、いいところで戻って来たね」

 右翼から戻って来たのは正面を足止めする為に先陣を担ってもらった三人の生徒だった。

 能力は攻撃と攪乱まで幅のきく能力だ。

 「あれ?何で右翼から――」

 そんな疑問を口にした瞬間身体が光る。

 「っ!マジかよ!」

 真っ先に反応した直哉はギリギリで回避できたが人が多いところで爆発されたせいで多くの生徒がダメージを受ける。

 作戦は何を隠そう人間爆弾だ。

 「やってくれるね兄さん!」

 思わずそう叫ぶと爆発で発生した土煙の中に人影が映る。

 「大丈夫、怪我はない?」

 回復系の能力者が急いで駆け寄ると人影の正体は〈忍者〉だった。

 「逃げろ!」

 僕は咄嗟に叫ぶが無常にも身体が光ってそのまま爆発する。

 「……まずいな」

 この一連の流れでクラス全体が大きく混乱して疑心暗鬼になっている。

 「ま、また来たぞ!」 

 今度は二つの人影がやって来る。

 「っ!走った!?」

 さっきまでのゆっくりとした歩みではなく急に人がいる方に突っ込んでくる。

 「あれは兄さんのクラスの!」

 そう呟いた直後二人の身体が光って爆発する。

 「思ってた以上の効果だったね」

 指揮系統が崩壊した直哉のクラスは上手く機能しなくなって由美達の突破を許して初黒星となり俺達のクラスは初白星を刻んだ。

 今思えばこの時点で俺の警察としての役割が決まった気がする。

 だって警察になってもやる事は本物の爆弾を付けた敵で同じことをするだけだから。

 

 能育の日々はとても楽しかった記憶しかない。

 でも警察での日々はいい記憶は全くない。

 思い返すと泣いている由美の姿しか思い出せない。

 「……どうした!?」

 ある日仕事を終えて家に帰ると寝室ですすり泣く由美がいた。

 「……お母さんとお父さんが」

 由美は私の胸に身体を預けながら話した。

 〈記憶の勇者〉の発現が確認されて早急に拉致をすることを命じられたこと。

 それを拒んだ結果両親が不審な死を遂げたこと。

 そして次は俺だと言われたことを嗚咽混じりに漏らした。

 「これから由美はどうしたい?」

 「分からない、分からないの」

 由美は首を横に振りながら服を掴む力を強くする。

 「え、あ、え?」

 俺は由美の手を押さえて上に覆いかぶさりながら言葉を続ける。

 「私は今日、国家転覆を計画していた未成年の集団の捕虜を解放してあげたんだ」

 もちろん身体には化学兵器、毒ガスを付けてだ。

 「その結果まだ高校生の子供を24人殺した。まだ作戦を実行しているわけでもなく計画の段階でだ」

 本当に殺す必要があったのだろうか?対話の余地はなかったのだろか?

 そんな疑問が頭をよぎる。

 「どうして私はおとなしく従ってると思う?」

 私がそう言うと由美は目を見開く。

 「私は由美を守りたい。自分の手を汚してでも君と一緒に生きていたい」

 私はそう言って自分の興奮を満たすために思いをぶつけた。

 由美の苦しんでいる表情に抑えられない衝動に駆られた。

 この日を境にお母さんは腹を括った。

 〈記憶の勇者〉の拉致に始まり必要な人材と犯罪者の捕獲を担った。

 すれ違いざまに触れてマーキングを付けて本部で大勢に囲まれた状態で呼び出して捕獲する。

 捕獲ならいい方だがそのまま殺すことの方が多かった。

 でもお母さんは淡々と仕事をこなしていった。私と夏美を守る為に。

 これがこの国の闇のほんの一部だ。

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