41.自宅訪問
「……おはよう大成」
「おはよう母さん」
昨日の今日で気まずい雰囲気の中あわあわする父さんを無視してまずは挨拶をする。
「えっと、大成?昨日は……その」
「昨日はごめんなさい母さん」
僕は口ごもる母さんにそう言って頭を下げる。
「母さんが全面的に正しいのに八つ当たりしちゃって」
「いや、いいのよ。母さんも一方的に言っちゃったし」
「でも僕にも事情があるんだ、だから柊さんと関わるのは絶対に止めない」
僕は顔を上げてしっかりと母さんの目を見てそう言う。
「……そう」
まだ少し不満がありそうだけど納得はしてくれたらしい。
「それと、母さんと父さんのおかげで僕は優しくあれたらしいよ」
僕はそう伝えて家族三人で朝食を食べた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そして朝食を食べ終えると僕は早めに学校に行く。
昨日の話だと僕と柊さんは早めの時間に図書室に集まっていたらしい。
「……先走りだったかな?」
図書室に着いたが室内には僕以外の人はおらずそれは朝のホームルームまで続いた。
そして昼休みになっても柊さんは姿を見せることはなかった。
「……あれ?何で柊さんは学校に来ていないんだ?」
僕は職員室の前で嫌な汗が全身に滲むのを感じながらそう呟く。
「ピロン!」
そんな僕の心とは真反対な気の抜けた音が鳴って携帯を取り出すと僕はその画面を注視する。
「ごめんなさい大成君。体調を崩してしまったので学校を休みました」
「そうだったんだ。お大事に」
僕は一息ついた後そう返事をする。
「大成君、一つわがままを聞いてもらえませんか?」
「僕に出来ることなら何でも言ってよ!」
「それでは、お見舞いに来てもらえませんか?」
「……どうしたものか」
お見舞いに行きたい気持ちはあるが女の子の家に入るのは少し抵抗がある。
「熱がある日に一人なのは心細くて……」
「分かったよ柊さん。今すぐ行くよ」
また学校をサボることになってしまうが出来るだけ柊さんに不安を感じてほしくない。
「学校はいいんですか?」
「うん大丈夫。すぐ行くね」
学校に来る理由なんて柊さんがいるからだけだ。
僕はそう思いながら担任に早退する旨を伝えて柊さんの家に向かった。
「ピンポーン」
柊さんの家に着いた僕はインターホンを押して待つがいっこうに返事がない。
「柊さん!出雲です!」
試しに扉の向こうにそう言うが返事は返ってこない。
「……寝ちゃっ――」
「ピロン」
再びメッセージが届いた音がして携帯を取り出す。
「鍵は開いているので入ってください」
「鍵は開いてるって……」
僕はそう呟いてドアノブを捻ると玄関の扉が開く。
「……不用心だよ柊さん」
僕は思ったことそのまま口にして柊さんの自宅に入ると少し不気味な雰囲気を感じる。
なんだか室内は霧がかかったように薄気味悪くて酸っぱい匂いが少しする。
「お邪魔しまーす」
僕は靴を脱ぎながら小さい声でそう言って中に入っていく。
まずはリビングに行こうと玄関の横に置かれていた無邪気に笑っている柊さんに似ている女性の写真を横目に見てから短い廊下を歩いていく。
「……は!?」
リビングの手前にある洗面所を通り過ぎるところで刺されたような傷のある手を伸ばす見覚えのある大柄な男性が現れる。
「っぶな!ってこの手はなんだ?」
手を無造作に真っ直ぐ伸ばして僕の頭を少し触れたところで手首を体勢を崩しながらも掴む。
「君が大成君かい?」
感情を感じない笑みを浮かべた男は優しい声でそう聞く。
そんなことより柊さんは無事だろうか?
「そうです!……が?」
返事の流れで反撃しようと思ったが身体が全く動かない。
「娘と仲良くしてくれて本当にありがとう」
「……むす、めぇ?」
信じられない言葉に思考停止した後復唱すると首を掴まれる。
「がぁ!誰、だ。何で、この……いえに…………いる」
首にかかる力が強くなるにつれて糸目だった男の目が開いていく。
「え?……は?」
僕の意識は呼吸困難の苦しみよりも男の猫のような黄色い目に吸い込まれていく。
どういうことだ?何で柊さんの家の中に傀儡殺人鬼がいるんだ?
「……は!?」
この男はもしかしてだけど柊さんの父親か?となると柊さんのお父さんは殺人鬼ってことか?
「ふ、ざけっん……なぁー!」
ただでさえリセットという苦痛を味わってきた柊さんに向けた更なる理不尽にそう咆哮して固まった指先を、腕を無理矢理動かす。
「止めときなさい大成君、血管が切れるぞ」
「あぁあああ!」
「……合格だ大成君」
男は目を大きく開いて嬉しそうすると僕の顎をピンポイントに打ち抜いた。
「く……そ」
僕は薄れていく意識の中で恍惚な表情を浮かべる柊さんの父親である傀儡殺人鬼に恐怖を超越した殺意を抱いた。




