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狂愛の魔王  作者: ラー油
2章:ストーカー

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29/117

29.引き返せない

 「ガチャ!」

 昨日言われた通りの時間に凛さんの家の前にいると玄関の扉が開く。

 「出雲君、少し助けてもらえないかしら?」

 なんだか疲れている凛さんに手招き受けるまま近づく。

 「これは?」

 かなりの大きさの氷の蕾?のような物が玄関に置かれている。

 「悪いのだけど運ぶの手伝ってもらえるかしら」

 息を切らして限界そうにしているを手で制止して20キロはある氷を持ち上げる。

 「……外までお願いしてもいい?」

 「了解です」

 僕は返事をしてから蕾を外まで運ぶ。

 「……時間も無いし始めるわ」

 凛さんは緊張した様子でそう言って蕾を触ると氷とは思えないほど柔らかい動きで中心が紫の綺麗な薔薇が開花する。

 「す、凄いですね!」

 「もう一つ」

 凛さんがそう言うと氷が弾けて中心の紫が露出して青と紫のあじさいに変化する。

 「綺麗です!」

 「……そう」

 凛さんは小さくそう呟いて顔を隠すように違う方向を向く。

 「出雲君、私はもう平気よ。本当に感謝するわ」

 「そうですか、それはよかったです」

 僕はそう言って手を振る。

 「それでは、またどこかで」

 「ええ、また会いましょう」

 僕は凛さんと別れを済ませて人気の無い森の中に向かった。


 「ふ、ふざけるな!」

 なんだあのガキは!俺の凛に何をする!?

 「あんな顔は凛じゃない!」

 凛は泣いているところが、劣等感で沈んだ顔が美しいのにあのガキは!

 俺は怒りで手に持った怪文書をくしゃくしゃにする。

 「なんて不愉快な文章だ!凛の一番の魅力は笑顔だと?ふざけるな!」

 イキッたクソガキに凛を汚させるわけにはいかない。

 「殺さないと、もう一度凛の涙を流させるんだ」

 凛さんを賭けて勝負しましょう。の文言の下に記されている場所へと向かう。

 凛はあのガキは能力が無いって言っていた。無能の分際でイキッたガキだなぁ。

 「……いた!」

 椅子に吞気に座って本を読んでいる!バカめ!俺は透明人間だぞ!

 俺は慎重に音を立てないように近づく。

 「……死ね!」

 そう心で叫びながら後頭部に殴りかかるが頭を下げて避けられた。

 「……?」

 どういうことだ?俺の姿が見えているのか?

 「……んーあ~」

 なんだ立ち上がって伸びをしただけか、驚かせやがって。

 もう一度慎重にゆっくりと背後に回り込んで勢いよく後頭部に殴りかかる。

 「……ぐは!」

 どういうことだ?なんで俺が倒れている。

 「死ね」

 クソガキは冷たい声でそう言うとピンポイントで俺の顔の側面を蹴る。

 そして俺はもう二度と目を覚ますことはなかった。

 

 「コンテニュー数は25回。時間かかったな」

 後ろからの攻撃を避けるタイミングが難しくて何度もやり直しさせられた。

 「さてと埋めるか」

 この4日間で小さいスコップで掘り続けた穴に佐藤透斗を入れる。

 そして頭をブルーシートで包む。

 「……もう引き返すつもりはないだろ出雲大成!」

 僕はそう言い聞かせながら何度もハンマーを振り下ろす。

 「能力を一つ強奪しました。発現しますか?」

 「発現する」

 僕がそう言うと僕の全身は透明になって服が宙に浮いている状態になる。

 「〈透明化〉……自分自身〝だけ”を透明にする能力」

 足音や匂いといった要素を消すことはできない。

 この機械音によって僕は人を自らの意思で殺したことを理解する。

 「さてと、埋めていくか」

 僕はそう言って自分の服と靴を脱いで透明な状態で埋めていく。

 そして約2時間ほどで完全に埋めることに成功する。

 「……帰るか」

 僕は服と靴を着て〈透明化〉を解除してハンマーとスコップを持って帰宅する。

 「お帰り大成」

 「ただいま母さん」

 「今日もかなり汚れているわね」

 「いろんな場所を走ってたらこうなっちゃって」

 僕はそう答えて自分の部屋に戻って凶器を机の中に入れて鍵をかけてから風呂に入る。

 「ここからは様子を見る段階だな」

 まだセーブするには早い。一週間は様子を見たい。

 「……こんな日々を続けると危険かもな」

 母さんはここ最近の行動を不信に思っているように感じる。

 「だったらいっそのこと」

 〈透明化〉が手に入れれば誰かを殺すのは容易になるだろう。

 僕は考えをまとめて湯船から出る。

 「母さん、来週から学校に行くよ」

 「……本気?」

 「本気だよ。もう逃げたくないんだ」

 僕はなんとか父さんと母さんを説得して来週から学校に行くことが決まった。

 

 「ほ、本当に行くの?」

 「うん、カウンセリングでも問題なかったからね」

 僕は母さんにそう言って玄関に手をかける。

 「それじゃあ行ってきます」

 僕は心配そうな母さんから視線を外して通学路へ出て学校に向かう。

 学校に着くと随分と前のデータの時のような展開になる。

 少し違うのは僕が〈重力の勇者〉を刺さずに穏便に済んだ点だけだろう。

 そして過激さを失った無視やこずかれる程度の楽な日々が2週間過ぎる。

 「ニュースになってないな」

 毎日ニュースを見ているが頭を潰されて埋められた死体についての事件については音沙汰はない。

 「これでもう本当に引き返せない」

 〈透明化〉の能力を得た。凛さんを守れた。これでいいだろ!

 「……あいつは何も反省していない僕がいない間に別のいじめられっ子がいた!」

 今そのいじめられっ子は僕をいじめる側にいるが結局のところ〈重力の勇者〉は多くの人を利用して傷つけたことを反省も後悔もしていない。

 「ダメだろ。そんな奴が生きていたら」

 「ピコン」

 セーブは完了した。もうこの殺人はやり直せなくなった。

 僕は完全に殺人鬼になった。


 「……ん?……ここは?」

 目が覚めると見知らぬ白い天井が視界に映る。

 「……点滴ってことは病院?」

 ああ、そうだ私は倒れたんだった。

 「どれだけ寝ていたんでしょうか?」

 そう思って時計に視線をやるとだいたい1ヶ月経っていた。

 「1ヶ月も経ったの!?」

 私は驚きを隠せずに大きな声を出してしまうと看護師さんがやって来て症状を説明してくれた。

 極度の疲労で倒れて救急車で運ばれたらしい。 

 あとはリハビリを少しすれば学校に復帰できるとも言われた。

 「……早く学校に行かないと」

 そうしないと大成君に会えないのだから。


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