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狂愛の魔王  作者: ラー油
1章:僕の能力

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21/117

21.異質

 「いったいどうしたらいいのよ」

 大成が部屋から出なくなって3日目に突入していた。

 「朝は元気そうだったじゃない」

 夜の9時頃に帰ってきたと思ったら意識は無いし泣くは吐くはで本当にわけが分からない。

 「学校も分からないの一点張りだし」

 絶対に何か知っているはずなのに。

 「もういっそのこと記憶部隊を動かせば……」

 「ピンポーン」

 職権乱用を防ぐかのようなチャイムに出るために玄関に向かう。

 「はーい」

 そう返事をして扉を開ける。

 「こんにちは」

 「こんにちは。えっと……」

 制服から見ておそらく大成と同じ学校の子なんだけど少々疑問が残るフォルムの子だ。

 「私は大成君と同じ高校の柊雫と申します」

 「えっと……ごめんね」

 雫ちゃんの礼儀正しく品がある態度に思わず謝る。

 「……?」

 「それで雫ちゃんはどうしてここに?」

 キョトンとしている雫ちゃんに慌てて尋ねる。

 「大成君は3日休んでいるということでプリントを届けに来ました」

 「わざわざありがとう」

 お礼言って差し出されたプリントを受け取る。

 「えっと、その……大成君はどうしたんでしょうか?」

 「す、少し体調が悪くてね」

 心配そうにする雫ちゃんにそう答える。

 「あの大成君と会わせて貰えないでしょうか?」 

 「えっとごめんね風邪をうつしちゃ悪いし」

 とても会わせられる精神状態じゃないので遠回しに断っておく。

 「私は気にしませよ」

 雫ちゃんは可愛らしい笑顔を作って食い下がる。

 「そう?でもごめんね気持ちだけで十分だから」

 今の状態で会わせても大成にも雫ちゃんにもいい事が無いから通すわけにはいかない。

 「どうしてもダメですか?」

 「本当にごめんね」

 食い下がってくるな。そう思いながら手を合わせる。

 「そうですか、では扉越しに話しかけてもいいですか?」

 「それもごめんね。今大成は寝ているのよ」

 「これぐらい許して欲しいものなんですけどね」

 そう答えると雫ちゃんは可愛らしい笑顔を崩さずそう言い放つ。

 「大成君は体調不良ではないでしょう?」

 雫ちゃんの穏やかだった雰囲気が一変して異質な雰囲気になる。

 「そんなことはないわよ」

 ドキッとしながら普段通りに返答する。

 「三日前の夜の9時頃にインターホンが鳴って玄関を開けると気を失った大成君がいたんですよね?意識を取り戻すと頭を押さえて叫びながらトイレに駆け込んだんですよね?」

 「……随分詳しいのね?」

 そう言って一歩下がる。何かしら雫ちゃんが関与している可能性が高い。

 「扉越しに話をさせてもらえたら何が起きたか教えて差し上げますよ」

 こっちがゾッとするような生気が全く無く光が欠落した目を向けられる。

 「いや結構よ」

 わざわざ大成が傷つくリスクを取る必要はない。

 「また同じ過ちを繰り返すのですか?」

 「……何が言いたいの?」

 心当たりのある話に思わず反応する。

 「今回も気づいてあげれないんですね」

 「……………………」

 思わず黙り込む。さっきまでの穏やかな雰囲気は消え失せ柊雫はただただ異質を放っている。

 柊雫からは子供らしさを感じない。何を考えているかを全く読めない。

 「まあいいです」

 柊雫はそう言って右手を前に差し出す。

 「マーキングしてください。その方が安心できるでしょう?」

 「……私の事も知っているの?」

 ピンポイントで言われ思わずそう尋ねる。

 「もちろんですよ響香(きょうか)さん。大成君に関わることなら何でも知ってますので」

 そう答える少女は始めて嬉しそうで誇らしげな年相応な様子を見せる。

 「……扉越しに話すだけよ」

 異質ではあるが悪意は感じないので差し出された手のひらに鉄球を乗せる。

 「マーキングは出来ましたか?」

 「……ええ」

 私はこうして柊雫という疑念を家に招き入れる。

 「先に大成君と話しても?」

 「どうぞ」

 この提案には乗っておく。仮に変な事をしたなら強引に話を聞ける。

 「大成君、こんにちは柊雫です」

 「………………」

 柊雫は私に見せた時より数段と穏やかな笑顔を浮かべて優しい声で話しかけるが帰ってくるのは沈黙だけだ。

 「体調不良とお聞きしましたが体調は大丈夫ですか?」

 「………………」

 この子は何なのだろう?私に対して見せる感情は無だったのに大成に向ける感情は手に取るように分かる。心配の気持ちはもちろんあるがどこか楽しそうだ。

 そして何より私に生じた疑念を完全に消し去る程慈愛に満ちた表情をしている。

 「あの……少しだけ一人にしてもらえないでしょうか?」

 「それは……」

 玄関の事だけなら即座に断っている。だが今見せた表情が私を迷わせる。

 「ほんの少しの間だけでいいんです。お願いします!」

 追い打ちをかけるように勢いよく頭を下げられる。

 「わ、分かったわ。私は下にいるから」

 私は柊雫を信じてみることにした。


 「さて、ここまでは想定通りですね」

 響香さんが二階からいなくなると鞄から必要な物を取り出す。

 「……我ながら手慣れてますね」

 鍵穴を覗きながら両手を動かす。

 「これで――」

 「ガチャ」

 私が道具を鍵穴に入れて五秒程度で鍵が開く。

 「久しぶりに会えますね」

 最近は水曜日の委員会でしか会えていないので浮足立ってしまう。

 「失礼します」

 気持ちを落ち着けて大成君の部屋の扉を開ける。

 「こんにちは大成君」

 「え?……何で柊さんが?鍵閉まってたでしょ?」

 私が笑顔で改めて挨拶するとベットの隅っこで体育座りをしていた大成君は理解の及ばない様子を見せる。

 「ごめんなさい勝手に扉を開けてしまって」

 「どうやって開けたの?」

 「ピッキングをさせてもらいました」

 私はピッキングの道具がたくさん入っているケースを見せる。

 「何でそんな物を持っているの?そもそも何でピッキングができるの?」

 明らかに警戒の色を見せる大成君は取り乱した声を出す。

 「大成君に会うために練習しました」

 私は正直に伝えるが大成君は露骨に嫌な顔をする。

 「帰ってくれるかな柊さん」

 「私は大成君とお話したいです」

 「ごめん、僕は今そんな気分じゃないんだ」

 いっさい視線を合わせてくれずにそう言われる。

 「……そうですか」

 大成君の気持ちは理解したのでやる事をやるために大成君のお部屋に一歩侵入する。

 「入ってこないでもらえるかな?」

 すぐさま察知した大成君に睨まれるが気にせずもう一歩進む。

 「入るなって言ってるんだけど」

 語気を強める大成君に私はさらに一歩進める。 

 「来るな!!」

 私達の距離が半分程縮まると今まで聞いたことが無い怒声が静かな家全体に響く。

 これで響香さんの耳にも入っただろう。

 「……大成君、私はいつまでもあなたを待っています」

 私は笑顔で最後にそう伝えると体の自由が奪われる。

 「ちょっとちょっと何事!?」

 しばらくすると右手を前に突き出した響香さんが慌てた様子で開いたままの扉の前に現れる。

 「……母さん。その子を部屋から出して」

 「わ、分かったわ」

 怒っているとも言えない独特な雰囲気を放つ大成君に響香さんは返事をして私を少し宙に浮かしてリビングまで運んだ。

 

 「……説明してもらうわよ」

 「何をです?」

 私は煽るようにキョトンとして返答する。

 「……まずはどうやって大成の部屋に入ったの?」

 「大成君が開けてくれたんですよ」

 少し苛立ちを見せる響香さんにそう返答するとさらに苛立ちを膨らませる。

 「どう見てもそうは見えなかったけど?」

 「それは響香さんだからですよ」

 私は声の節々が強くなっている響香さんに追い打ちをかけるように誠心誠意の笑顔を向けて言い放つ。

 「どうゆうことかしら?」

 「息子のことを全く分かっていないダメな母親だからですよ」

 私がそう言い放つと響香さんは私に明確な敵意を見せる。

 「あなたは大成と会ってたかだか1ヶ月――」

 「だって何で大成君が学校に行かずに部屋に引きこもってしまったか分からないのですよね?」

 響香さんに被せるようにそう尋ねると言葉を止めて睨まれる。

 「母親なら分かって当然ですよね?自分の大切な息子が机を隠されてクラスの全員から無視されて理不尽な暴力に晒されていることぐらい」

 「噓付きね、大成は三日前までは元気そうだったのよ」

 私の言葉に響香さんは呆れた様子を見せる。

 「ところで響香さん。爪を剝がす、電気ショックこの二つって何だと思います」

 「……質問の意図が分からないわね」

 「え!?分からないんですか!?」

 私がそう煽ると露骨に睨まれる。

 「ごほん。では正解を発表したいと思います」

 私は気を取り直して笑顔を作る。

 「正解は大成君が学校で受けたいじめでした~」

 「あなたそれ本気で言っているの?」

 両手を叩く私に響香さんは呆れた様子を見せる。

 「本気ですよ?大成君のクラスには〈放電〉と〈細胞分裂の加速〉という能力者がいますので」

 「もう十分分かったわ、もう帰ってちょうだい」

 「信じていただけませんでしたか?」

 私がそう尋ねると悪さをした小学生に向けるような呆れを通り越した表情を向けられる。

 「そんな事をされて元気そうでいられるわけないでしょ?」

 それはそうだ、いじめを受けている人は誰しも表情が暗くなり生気が抜けていく。

 明るく振舞ったとしても綻びが生じる、ましてや拷問を受けていたのなら不可能だろう。

 「それはごもっともですが、ここで終わったら意味ないんですよ」

 大成君は狂っている。愛に飢えている。

 誰にも受け入れてもらえなかった人間は依存という形で募りに募りきった感情を爆発させるのだ。

 「響香さんはさっき元気ではいられないと言いましたよね」

 そう言って私はポケットからペンチを取り出す。

 「では私が元気でいられたら響香さんは噓つきですね」

 響香さんにそう言って私は左手の人差し指の爪を剝がす。

 「な、何をしているの!?」

 「証明しているんですよ」

 大きな声を出す響香さんにそう答えて次は中指にペンチを向ける。

 「やめなさいこんな事!」

 叱るような声が上がると体が動かなくなる。

 「では信じて貰えでしょうか?」

 私が笑顔でそう聞くと悲しそうな顔をされる。

 「何で笑っていられるのよ……」

 「私も依存しているからですよ」

 「……どうゆうことよ?」

 本当に意味が分からない様子の響香さんに再度とびっきりの笑顔を向ける。

 「ところで響香さん、大成君には彼女がいるらしいのです」

 「……は、初耳ね」

 響香さんは自分の息子に彼女がいたことに驚いたらしく目を見開く。

 「その子は大成君と同じ無能だそうです」

 「無能……」

 そう呟くと明確に表情を曇らせる。

 「そしてその子は心に大きな傷を負わされて学校を休んでいます」

 「噓……」

 なんとなく察してしまったのか頭を押さえる。

 「私がダメなお母さんに教えられるのはこれだけです」

 ペンチをポケットにしまって頭を下げる。

 「ねえ雫ちゃん最後に一つだけ聞くわ」

 そう言う響香さんはまごうことなき母親の顔をする。

 「あなたは大成を傷つけたの?」

 「はい、私は大成君を傷つけました」

 「そう……教えてくれてありがとう」

 軽く会釈して大成君の家を後にする。

 「これで上手く進むといいな」

 私は全く痛みを感じなくなってしまった左手の人差し指を見ながらそう呟いた。


 「ただいまー。ってあれ?リビングの電気がついてないな」

 帰宅した父さんは真っ暗な家にそう言葉を発する。

 「……あらら」

 父さんの口からリビングの電気をつけて目に入ってきた光景にそんな声が漏れる。

 「起きて母さん」

 「……うん?はっ!!今何時?」

 肩をゆすられて勢いよく起きた母さんが焦った声を出す。

 「どうしたのそんなにお酒なんて飲んで?」

 「……仕方なかった」

 母さんは視線を逸らして弱々しくそう言う。

 「何があったの?」

 そう聞くと母さんは頭を抑えて渋い顔をしながら今日起きた事を説明する。

 「なるほど……狂ってるな」

 父さんは一連の話にそう呟いて顎を手に乗せる。

 「自分の爪を剝がすのもそうだが大成が無能力者ってことが周知されてるのもおかしい」

 自ら言うとはあまり思えず何か裏がありそうに思える。

 「それに大成がああなった原因は――」

 「ガチャ」

 言いかけるたところで玄関が開く音がする。

 「……大成?」

 二人で同時にそう言うと勢いよく玄関に出る。

 「いつのまに出かけたの!?」

 そう母さんが尋ねると大成は今まで見たことのない表情でトボトボ二階に上がっていく。

 「……ねえあの顔」

 「不味いね」

 父さんは息子の顔中に染まった狂気にそう呟いた。









 

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