靴さえ汚してやることもできないただの泥
二度目に響いたのは二日後の、やはり朝の事で実は曇り空が続いていました。今度の音ははっきり聞こえたので、ぞっ、としたことをよく覚えています。もともと凍っている背筋が、さらに凍るほどでしたが、逆に身体の中心の辺りが燃えるような偽物の熱さを感じました。また白い光よりも白い身体でしたが、頭の中は文字通り真っ白くなりました。そのことに気が付いたとき、ユーモアある彼女はしかし全く笑えませんでした。
スノーホワイトは二度目の水滴が響いたとき、本当にわたしは溶けてしまうんだ、ということを実感しました。自分がどのように終わるのかを知ったのです。
彼女は当然に動揺しました。水滴の垂れた彼女は、たとえば満天の星空が美しいその理由を知ったときのようには、自分自身と向き合うことなど出来なくなり、確かに持っているはずだった覚悟は微塵もなくなってしまいました。これまでの自分を見失った彼女はどこかにいる友達を恨みさえしたのです……
お前のせいだ、お前がわたしを生んだせいで、わたしは溶けてなくならなければならなくなったんだ。友達がいないなら作る努力をしろ、布団のなかでつまらない空想ごっこばかりしやがって、そのお陰でどうだ!! わたしは徐々に、一滴一滴と内側から溶けて水になっちまうんだぞ、汚い泥になっちまうんだ!! こんな僻地じゃ、お前の靴さえ汚してやることもできないただの泥になっちまうんだぞ!!
小さな彼と過ごす楽しい冬の夜は、二度目の一滴により一変してしまいましたが、それは彼女だけのことで、笑ったり、怒った振りをしたり、からかったり……表面上では何も変わらぬよう十分に注意しました。
どうしてでしょうか?
小さな彼に心配をかけたくなかったから? 狼狽える姿を見られるのは嫌だったから? 告白したところでどうにもならないことを分かっていたから等々……実感を伴う想像は、想像だけのときよりも遥かに怖かったから、ということだったのでしょう。
朝になり彼と別れるスノーホワイトは誰もいないところで「友達」を罵り、垂れ落ちる間隔の早くなってきている水滴の音に怯え、ときに激昂しときに泣きました。当たり前ですよね?