第75話 夏と言えば、そう海!
ラブコメの話として、主人公に一番近くにいる親友とて所詮はモブにしか過ぎない。
もちろん、割にかかわる系のモブ親友もいるがそれはごく稀で、当然ながら結局焦点に当てられるのは主人公なのだ。
そして、ラブコメの主人公は一種の巻き込まれ系主人公と言ってもいい。
つまりは主人公に起きるイベントは大抵自分以外によって結果的に発生するものだ。
「煌めく太陽! 輝く砂浜! 押し寄せる波! そして眼福ともいえる水着姿!」
そう例えば――――海イベントとか。
「海だあああああーーーーーー!」
「おいおい、はしゃぎ過ぎだって」
すでに海パンの俺は両手を天に突きあげながら如何にもテンション上がったモブらしくはしゃいだ。
まぁ、どっちにしろ海は少し心が騒ぐけど。
そんな俺に同じく海パンにパーカーを着た光輝がなだめるように声をかけてくる。
ふふっ、甘いぜ親友。海を目の前にそんなテンションじゃこの先やっていけないぜ。
「それにしても、随分と唐突な誘いだったな」
「どうせ暇だったろ」
「いやまぁ、暇っちゃ暇だったけども......」
「まぁまぁ、なんだかお堅いことを言おうとしているが、どっちにしろお前と乾さんの仲が疑われないようにするだったら絶好の配慮だろ。それに――――」
「おまたせー」
乾さんの声が聞こえてきた。
俺はすかさず振り返って如何にもモブが言いそうなセリフを使う。
「我が学校の美少女たちの水着姿が見られるんだぜ」
「そんなドヤ顔で言われても」
「冷めてんな~。ま、一目見ればすぐに気が変わるはずだぜ」
そう言って、光輝の顔を両手で挟むと無理やり顔の向きを変えていく。
そこには光輝の偽彼女の乾さんに幼馴染の結弦、金髪ギャルの生野、血のつながりのない妹の沙由良、後はモブの姫島と雪である。
あ、ちなみにマイシスター沙夜も来てる。
そんな彼女らはそれぞれが思い思いの水着を着てやって来ていた。
正直、どんな水着を着てるかなんて紹介するだけでしょうもなく時間かかるので省かせてもらおう。
にしても、なんだろうなこの......圧倒的女子率は。男子2に対して女子7て。
しかし、その約半分は光輝ズハーレムとなるとなんとも考え深いものだ。
「ほほぅ、皆さん。随分とお似合いですな。な、光輝っ!」
「あ、あぁ、うん......そうだね」
返答が若干上の空だが、それは光輝が見惚れているからだ。
誰のどの水着に見惚れてるかはわからないが、少なからず順調な滑り出しと言えよう。
そこからは至極ラブコメにありふれた予定調和のモブ行動をしていった。
ま、俺はラブコメの鉄則である過干渉すぎないモブという意味で浮き輪の輪っかに尻をはめてプカプカ浮きながら遠くから眺めていただけだが。
いや~、絶景かな絶景かな。
海という特別な場所で発生するラブコメというのは実にオツなものですな~。
光輝達が海に移動していったので、逆に俺は予め設置してあるビーチパラソルへと向かっていった。
ラブコメに夢中になりすぎてこまめな水分補給は忘れちゃいけない。
そんなパラソルの下には日陰で休む姫島の姿があった。
「どうした? 暑いの苦手なのか?」
「いえ、別に......ただ当然こうなる結果であったのに少しでも期待した自分がバカみたいと自己嫌悪してたところよ」
察した。こいつは俺が純粋に海に誘ったと思ったわけだ。
「あるわけないだろ。少なからず俺は自分の興味あることで人が関わらなくちゃいけないこと以外は一人でいたい人間なんだ。
だが、少なからず協力者であるお前らを誘っただろ?」
「......ま、少しは前進したということかしら」
姫島はふと笑みを浮かべてそう言うと突然シートの上にうつ伏せになった。
そして、手を首に回してリボン結びの結び目外していく。
すると、姫島の白くきめ細かい横乳が見えた。
「少しでもお詫びの気持ちがあるならサンオイル縫ってくれないかしら」
「まさか......ここに待機してたのってこれを待っていたとか言わないよな......?」
「そのまさかよ。それとあんまり胸をガン見されると恥ずかしいのだけど」
見れるものは見ておく。俺とて男だぞ。
だがしかし、こいつ......さてはバカだな?
学校成績では俺よりも上なのに、今までそれをやってもらうためだけに海に来てからの数十分を無駄にしていたなんて。
それになんだあの期待する目は。俺はあくまでやらんぞ。
これ以上お前らとの仲を深めると返って面倒になりそうだからな。
とはいえ、放っておけばどうせ拗ねながらも一人で塗り始めるだろうが、今も俺に好意を寄せているという無駄に粘り強い奴だ。
俺が放っておいてもしばらくこいつはこのまま動かないだろう。
そこからまた十数分と海を無駄にするのはもったいなかろう。
故に、すぐ近くで可愛らしくお砂遊びをしている麦わら帽子をかぶった雪でも呼ぶとするか。
「雪、こっちゃ来い来い」
「影山さん、どうしました?」
軽く手招きすると満面の笑みで軽くスキップをしながら近づいてきてくれた。
うん、可愛い。癒されるぞ、この圧倒的小動物感。
「姫島、目を閉じてろ。さすがに俺もハズいからな」
「そ、そう! わかったわ!」
俺は雪に向けて自分の唇に人差し指を立てながら姫島にそう指示をしていく。
そして、姫島が目を閉じた所で俺は雪にあるお願いをした。
「雪、姫島にサンオイルを塗ってあげてくれ。
ただし、一言も声を出さずに。そうすれば、後日いいものをあげる」
「いいもの?」
「それを言ったらサプライズ感がないだろ。
お前が持ってるか持ってないかはわからないが、少なからずいいものは確かだ」
「......わかりました」
よし、これで完了。後は雪に全てをお任せしよう。
その後、姫島は「あ、意外と遠慮ないのね影山君♡」とか「い、意外と手が小さいのね♡」とか言っていたが無視。サンオイル塗ってるの雪だもの。
そして、俺はというと日差しの下で遠くにいる海に入って遊ぶ光輝達を眺めていた。
その時、横からふと声をかけられる。
「随分としてくれやがりましたね」
「おいおい、言葉遣いが酷いぞ」
「今の沙由良んはエクストリーム激おこぷんぷんモードですから」
その割には表情が変わっていないが......にしても、こいつパレオなんてこじゃれたものをつけるんだな。
「むっ、沙由良んズビキニアーマーに見惚れましたか?」
「防御値あんのそれ?」
「防御値はゼロですが、特性として特定の異性をメロメロの状態にします」
「効いてないみたいだがな」
「......全くです」
光輝は乾さんに結弦、生野とビーチボールをトスしまくってる。
ま、自分の妹を異性として見るってのは難しいだろうしな。
そもそも光輝が沙由良と血の繋がりがないことを知っているか怪しい。
ふ~む、そう考えるとまず最初に光輝の沙由良に対する意識調査をする必要があるな。
さすがに自分の妹が実は血の繋がりはありませんでしたってことを知らにゃ、第4ヒロインとしての確率は難しいだろうし。
ちなみにどうでもいい話だけど、さっきからチラチラと生野と目が合ってるような気がするのは気のせいだろうか。
「で、そう言えば沙夜は......ってなんでこっち見てんの?」
「さ、なんででしょうね。鈍感系には難しい問題だと思いますが。
沙夜なら丁度兄さんのグループに突撃してると思いますよ、ほら」
「あ、ほんとだ」
マイシスターは何やら光輝達に話して数秒後には一緒にグループの輪に入ってる。
まぁなんてアグレッシブでコミュ力高めなの! 兄ちゃとは大違いだわ!
「で、お前は何してんの?」
「私は休憩もとい学兄さんに私の決死の提案をこんな形で消化してくれたことに文句を言おうと思っていましたが......間近で見る学兄さんの肉付きはいいですね。そそりますじゅるり」
「お前......俺以外でその変なスイッチ入れんなよ? 周りが困るから」
「なるほど、つまりは『俺だけに本当の自分をさらけ出せ』ってことですね。沙由良ん了解です」
「いや、違うから。どんな思考したらそんな結果になるの」
お前が好きなのは兄の光輝だろが。
俺にこれ以上な茶々を入れるんじゃない。
そこから少しだけ会話が途切れる。
別に会話を続けようと思っていたわけじゃないが、なんか中途半端な終わり方でこっちが気になって仕方ないな。
「お前、肌が雪女みたいに肌白いんだから気をつけろよ?
サンオイル塗っても多少は焼けるんだからな」
「褐色沙由良んはそれはそれでオツなものだと思いますが」
「ま、健康的な日焼けにしとけ――――」
「それで、どうして学兄さんはこんなことをしたんですか?」
声色が違った。随分唐突な沙由良のマジトーンだ。
どこか凍てつくような他人に興味がなさそうなそんな感じの素っ気なさ。
「私は提案こそしましたが、その後は全て学兄さんがここまでセッティングしました。
ですが、私が本来望んでいる形とは程遠いものですよ――――これは」
「それはすまなかった。てっきりこうして皆で楽しもうとしてたかと思って」
「......なるほど、そういうスタンスですか」
そう言うと沙由良はパレオをレジャーシートの上に置くとそのまま光輝達の方へと歩き出した。
ある程度進んでいくと突然振り返り、どこか冷めたような顔で告げてくる。
「思い込みは悪とは言いませんが――――学兄さんの思い込みは悪い方に転じますよ」
それだけ告げると沙由良は光輝達に向かっていった。
その言葉がなんだか見透かされてるような気がしてならなかったのは気のせいだろうか。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')