第74話 まさかここでもメンタルが削られるとは思わなかった
「かんぱーい!
「「「「「かんぱーい!!!!」」」」」
どこかの知らない大人の音頭によって揃えて周りが手に持ったコップやジョッキを上に上げていく。
そんな今日はコミケが無事に終わった打ち上げといったところで、俺がボロボロのメンタリティで気が抜けてる時にいつの間にか決まっていたらしい。
ちなみに、打ち上げの今とて俺のメンタルが回復したことはミリ単位でない。
なぜかって? そりゃ、その原因ともいうべき沙由良が目の前にいるからだ。
「学兄さん、せっかくの宴で何故一人この世の終わりみたいな顔をしているのですか?」
「何故って......お前に全てを知られたからだろう」
「確かに学兄さんの箱入り息子をお世話していたとなれば羞恥心もありましょうね」
「言い方考えろや......」
なんでこいつはもう気にしてないみたいな顔が出来るんだか。
確かにそういった悶えからのメンタルの回復には個人差があって、俺は特に回復が遅く引きずるタイプだとしても!
もう少し気まずい空気にならんもんだろうか。
そんな俺の思考を読み取ったように沙由良は目の前で焼けていいニオイを放つ肉をトンぐでひっくり返しながら告げた。
「私としては嬉しいのですよ」
「人の息子をお世話してることがか?」
「それではただの変態ではありませんか。
単純に学兄さんが一人のファンとして長い間追っかけてきてくれたからですよ」
沙由良は焼けた肉を小皿に取り分けていくとタレをつけてご飯と一緒にパクリ。
そんな沙由良を見てあまり食欲が湧いてるわけではなかったが、同じように頬張っていく。うん、美味い。
「私としては、周りにどう思われてるか知るのが怖かったんですよ。
私のような年齢で実は裏で二次創作......しかもR18のを描いているなんて知られたら、周りから白い目で見られるのは火を見るよりも明らかなんです」
「なんとも暗い考えだな。好きなら好きと言えばいいのに」
「どれだけ今ヲタク文化がサブカルチャーとして広く浸透した世の中であろうと、結局そういった漫画やアニメを主軸としたヲタクは全体で見れば少数派です。
やはり学校でもそう言った話をするグループと普通にアイドルや俳優をかわいいとかカッコイイとか言ってるグループでは大きな差がありますし」
確かに、学生間でのそう言うネタというのは一種の恥ずかしさとは一線を越えたものだということはわかる。
それは友達に「~さんが好きだ」と自分の秘密を明かすよりも圧倒的に相手の受け止め方に影響されるからだ。
女子間では恋バナは密の味って感じで、男女についての性の意識が強くなる思春期も相まって特にそういった話は好まれる傾向にあると思われる。
だが、それでも行き過ぎた性の暴露は返って痛い目を見ることになる。
大抵の人はそれについて――――特に女子に関してはそういったネタはNGに入るだろう。
それを受け止めるキャパが小さいからな。
恐らく、沙由良はそういった意味で「白い目で見られる」と言ったのだろう。
実際、雪だって似たような感じだ。乾さんに自分のことを話せているのかはわからない。あえて確認も取ってないしな。
だが、あいつは少なからず俺という一人の理解者がいる。
それが依存理由になっているわけだが......っとそれは置いといて、ともかく沙由良と雪の違いは俺がいるかいないかってことか。
ということは、俺は沙由良に理解者を作らせるということか。
だがこの場合、下手に手助けして万が一雪のように依存されても困るからな。
となると、我が血縁者である沙夜に沙由良の理解者として差し出すか。
うん、俺というヲタク兄貴を持ってるあいつなら沙由良とも仲が良いはずだし上手くいくはず。
「確かに、そういった秘密は人には明かしにくいものだ。
だが、そんな隠すのがいつまでも上手くいくとは限らない。
もし自爆ったらそれをフォローしてくれる奴がいないってことだからな。仲間を作るのは大事だ」
「沙由良んにその秘密を誰かに明かせということですか?」
「そゆこと。で、ご紹介するのが俺の妹でもあり、お前の親友でもある沙夜だ。
あの子はいいぞー、ノリがいいし、ヲタクにも教養がある」
「シスコン乙。しかし、そういうことならご心配なく。沙由良んはすでに沙夜殿とは協力者な故」
「そうなの?」
「はい。とっくの昔に沙夜殿が学兄さんの持っている私の作のR同人誌をバラした時についでに私もバラしました」
ちょっと待って? 別の問題が発生したんだけど?
え、沙夜......あいつ、俺のエロ本の所在知ってんの?
なんか一気に変な汗かいてきた。
わかる、わかるぞ。俺のメンタルが再び削られていく感じが。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。沙夜は......あいつはいつから俺が同人誌持ってることに気がついてる?」
「そうですね~。私が中学一年の時の丁度二作目の私が内容を作った同人誌だったような。
その時には本棚の二重壁に隠してある私の同人誌を私が近くにいる時に『はぁ~エッロ』と言いながら流し読みしてました」
そ、そんの時は俺の完璧だと思った本棚の二重壁はバレていたの? しかも妹に?
あ~~~~~、あ~~~~~~~~~~~死にてぇ。
「それ以降は学兄さんが毎年調達してくる私の作品を沙夜殿も読んでいたみたいですよ?
なので、兄妹揃って私のファンということですねブイ」
「ブイ」じゃねぇよ。もうどうすりゃいいんだよ、俺のメンタリティ。
ライフゼロからの追い打ちが酷過ぎるよ。
あぁ、これから家に帰る時どういう顔で妹に会えばいいのか。
......がんばれ、そん時の俺。希望は捨てるなよ。
「酷いお顔ですね。あ、こういう時ってお姉さん系のヒロインの一般同人誌って『どうしの? そんなしょげて。胸揉ませてやるから元気出しなさい』的なこと言いますよね」
「言わねぇよ......とは言い切れないが、俺が知ってる中では少ないな」
「そうなのですか? 案外多いだろうから前に学兄さんが家に訪ねてきた時に、少しアレンジ入れて言ってみたのですが」
あれってそういう意味なのかよ! っていうか、そんなどうでもいい伏線回収はいいよ!
「にしても、お前......俺がお前の同人誌持ってることを知っているだったら、あんなに恥ずかしがることなかったんじゃないか?
表情が出ないお前が珍しく顔を赤くしてプルプル震えてたし」
「そ、それは......」
沙由良は手に持っていたお椀と箸を置き、手をひざ元に持っていくと再び顔を赤らめて俺に向けていた視線を外した。
そして、僅かに震えた声で言葉を続けた。
「し、仕方がないじゃないですか。
私が作った同人誌をあんな楽しそうに読んでくれたなら、『あっ、そんなに楽しみに待っててくれたんだ』って思うのは。
そう思うととても嬉しくて、でも内容が内容だけに妙に恥ずかしく感じてきちゃってそれで感情の整理がつかなくて......本当にこんな気持ちにさせた学兄さんには責任を取ってもらいたいです」
「......そっか。そういうことか。
だが、それだったらその気持ちは作家冥利に尽きるんじゃないか?
もう今更隠すことも無理だろうし言うけど、俺はお前のファンなんだからさ」
「......っ!」
沙由良は俺の目を見る。その顔は依然として赤いままだ。
しかし、妙にその瞳に釘付けになる気がする。
「学兄さん、一つ提案があるのですがよろしいですか?」
「なんだ改まって」
「私と一緒に海に行きませんか?」
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