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温和な魔王はお嫌いですか?  作者: シリコンババア
第一章 復活
9/12

新たなスタート

「私はこの後畑に行かなきゃだけどあなたはどうする? ここで休んでてもいいし」


そう言いながらアリスは朝食の食器を流しで洗う。


「いいや、俺にも手伝わせてくれ。これ以上君に負担をかけるわけにはいかない」


「別にそんなに気を使わなくてもいいのに…… でもそういうことならまずはあなたに仕事を覚えてもらわなくちゃだね」


「それとすまないが帽子を貸して頂けないだろうか、どうにも小さい頃から日光が苦手でね」


「たしかに色白いもんね。それならお父さんの帽子を使ってちょうだい、服も自由に着ていいわよ」


「ありがとう、何から何まで。君には本当に感謝している」


「それと、そろそろ君じゃなくて名前で呼んだらどうなのよ」


「あ、ありがとう、アリス」


「どういたしまして」


するとアリスはにっこりと微笑み、それから困ったように首を傾げた。


「あなたのことは何て呼んだらいい? いくらなんでもベースティアはちょっとまずいでしょ」


「偽名か……」


たしかに魔王の名前を騙る無職の男など目立ちすぎるからな。


「ドラクルなんてどうだ?」


「いいじゃない! なんだか爽やかな好青年って感じがするわ。そもそもベースティアって長くて言いづらいのよ」


アリスははっと口を押さえそんなつもりじゃなかったのとばかりに舌を出す。


「それじゃあ行きましょ、ドラクル。仕事はたくさんあるんだから」





というわけで現在、アリスから農作業を教わっているわけなのだが……


「ちょっと、バカ! これはまだ熟れてないでしょ! トマトっていうのはね簡単に枝からとれるぐらいじゃなきゃダメなのよ」


「ちがうちがうちがう! キュウリは早朝に収穫するの。いまとっちゃうと実が傷んじゃうでしょうが!」


「だーかーらー、ナスは乾燥に弱いから直射日光にあんまり当てないでって何回言えばいいのよ!」


ドサッ。

帰って早々、床に座り込む。

疲れた。

弱ってはいるが少し外に出ただけでこのざまか。帽子をかぶっているというのに情けない。


「今からたくさんとれた野菜を近所に配りに行きたいんだけど、大丈夫? やっぱり無理そうだったら……」


「いや、行かせてくれ」


アリスの言葉を遮るように立ち上がる。

村人たちには早いうちに挨拶回りをしておかないといけない。見知らぬ奴がいると怪しまれては困るしな。良好な関係を築くには第一印象が大事。ここは多少無理をしてでも村人たちに顔を覚えてもらわなければならん。


「でも無理は……」


「行かせてくれ!」





半ば強引に押し切ってしまったが恐らくこの選択は正しかった。


「最後が叔父さんと叔母さんの家ね。いとこのロウリーの家でもあるのよ」


ロウリー? ああ、さっきの短髪の青年か。


ドンドンッ。


「すいませーん、アリスでーす。畑でとれた野菜を持ってきましたー」


ガチャリと音を立てて扉が開く。そして中から歳は50ぐらいといったところの金髪の女が出てきた。


「アリスちゃん、いつもありがとね。お礼と言っちゃなんだけど、はい、これ小麦。パンでも作ってくださいな」


そう言うとおそらく小麦が入っているであろう大きな袋をアリスに手渡した。


「ありがとう、メリル叔母さん」


するとメリルは俺を不思議そうな目で見つめた。


「そちらの方は?」


その質問に出来るだけ社交的な笑顔で答えるよう努力する。


「私はドラクルという者です。アリスの父上に用があって参ったのですが兵役でいらっしゃらないということなので帰って来られるまでの間、アリスの家で世話になることになりました。しばらくこの村に滞在します。よろしくおねがいします」


よし、噛まずに言えた。

アリスは横でよくやったとばかりにウィンクした。

ついさっき二人で考えた作り話にしては良く出来ていると思う。


「あらあら、そうだったの。こちらこそよろしくね」


すぐさまメリルはアリスを側に寄せ、耳元で何か呟く。

それを聞きアリスの耳が真っ赤に染まる。


「ち、違うわよ!」


「そんなこと言っちゃって。時間は限られてるのよ。とにかく押して押して押しまくりなさい!」


メリルはガッツポーズとった。


「それと叔母さん、昨日はほんとにごめんなさい」


「あら、いいのよ別に。あなたにも色々あるんでしょうし。そうだ! 今夜の誕生パーティーにドラクル君にも参加してもらいましょうよ」


「私なんかがいいんですか?」


「もちろんよ。それに私もあなたについて詳しく聞かせて欲しいし。特にアリスとの関係について」


「ちょっと叔母さん!」


アリスは頬を膨らませ腕を組む。


「それじゃ楽しみにしてるわ」


そう言うとメリルは家の中に入っていった。


「いったいメリルに何を言われたんだ?」


率直な疑問をぶつける。


「べ、別にいいでしょ、そんなことは! それよりもこれ持ってよ」


アリスから渡された小麦の入った袋を肩に担ぎ、夕日の沈みかかった道を歩き出す。

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