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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
フリギア王国編
30/33

第30曲 鼠刈り 後編

 

 メイビスは身体を圧縮させるように身を屈め、引き絞られた弓弦に番えられた弓矢のような体勢になった。そして、身体を限界まで引き絞ると、思い切り地面を蹴った。その衝撃で地面が抉れ、コンクリートらしき床材が砕けている。

 メイビスの身体は一気に加速し、まさに放たれた一条の弓矢となり、敵勢に向けて突っ込んだ。激しい風圧の中、メイビスは片手で鎌を振り上げ、突っ込むと同時に大きく薙ぎ払った。その衝撃で前方に固まっていた十数名は吹き飛ばされ、衝突した壁にめり込んだ。

 敵が面食らっている間に鎌を巧みに操り、目の前の数人を薙ぎ払い、鎖分銅で背後に回り込んだ敵を撃破する。



「ひ、怯むな!」


「殺るぞ!」



 ここで漸く敵勢は動き始め、各々が自身の得意な武器を手の中で弄び、メイビス目掛けて突貫してくる。

 初めに、三人ほどやってきたので、二人を鎌で刈り、懐に潜り込もうとする一人の頭を空いた手で掴み、力任せに地面にめり込ませる。



「少数で挑むな!纏めてかかれ!」


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 さらに今度は、刀を武器とした者達が十人ほどやってきた。男達は瞬く間にメイビスを囲み、刀を振り上げ、メイビス目掛けて一斉に振り下ろした。はたから見ていた者達は、何処からどう見ても殺ったと感じた。しかしその刹那、それは間違いだったと知ることとなった。振り下ろされた全ての刀は、メイビスの鎌と鎖により防がれていた。十本もの刀を一つの武器で防ぎ切ったことに驚愕する十人を、メイビスは一瞬の間に鎌を円を描くように振り、吹き飛ばした。


 そして、次は私の番だと言わんばかりにメイビスは敵の集中している場所に向かい、鎌を振るう。その凶刃に何人、何十人もの敵が刈り取られた。


 その後も、幾人もの敵が押し寄せ、メイビスの命を刈り取らんと凶器を向けて来た。

 弓や吹き矢などの飛び道具で攻撃してくる者は遠距離からの鎖分銅で仕留め、刀やナイフなどの近接武器を持つ者は鎌で吹き飛ばし、壁に現代アートとして埋め込んだ。何十人もの敵が一斉に飛びかかって来た時もあったが、鎌と鎖分銅を駆使し、ほぼ同時に全員に武器による打撃を加えた。まるで、中心から突風が吹いたように吹き飛ばされていく彼らの姿は傑作だった。そうして敵を刈り続けていると、いつの間にか随分と人数が減っていた。


 一段落着くように、メイビスは目の前にかかった邪魔な前髪をかきあげる。隠れていた顔が露わとなり、その酷く冷めきった瞳がこの場に残る全員を射抜く。



「つ、強い…強過ぎる……」


「くそ、こんな奴どう倒せっていうんだよ!」



 それを見た敵勢は足を止め、冷や汗を流し、完全に怖気付いている。暫く、互いの間に膠着状態が訪れた。



「ハッ!何を怖気付いてんだよォ。テメェらそれでもタマついてんのか?腰抜け共が行かねぇなら俺様が行かせてもらうぜ!」



 すると、一人の男がその膠着状態を打ち破った。世紀末のような服装と髪型をした男だ。

 よく見ればこの男、先程メイビスに向けて「殺す」と言っていた男だ。



「だ、誰か殺るみたいだぞ!」


「ま、待て!一人は無謀だ!」



 一人で挑もうとする男を止めようとするが、男は制止を振り切って、メイビスに向けて駆け出した。



「ヒャッハァー!喰らいな、《モヒカッター》!!」


「「技名ダサッ!!」」



 男が飛び上がり、己のモヒカンごと頭突きをしようと頭を振り上げているので、がら空きの首に鎖を巻き付け、そのまま地面に叩き付けた。



「「モヒカン─────ッ!」」



 地面にクレーターが出来る勢いで叩き付けられたモヒカンだが、ボロボロになりながらも立ち上がった。彼は諦めなかった。この程度の攻撃では自分を倒すことは出来ないと言うように震える足を抑え、地に足をつけ立ち上がった。



「ヒャッハァ!まだまだこれか」



 メイビスは鎖を掴み、モヒカンを思い切り地面に叩き付けた。



「「モヒカン─────ッ!!」」



 死んでも可笑しくないほどのダメージを負ったモヒカンだが、それでも地面に手をつき、立ち上がろうとする。彼は何があろうとも諦めない。諦めてしまえば今までの努力が無駄になってしまうから。両親も居ない捨て子だった彼は裏社会で生きるしかなく、そこでは命を落とす者などざらにいた。生き残る為に今まで腕を磨き続けた彼だが、漸く自身に月がまわってきたのだ。だからこそ彼は諦めない。この絶好の好機(チャンス)を掴み取る為に。



「ヒャッハァ……まだま」



 メイビスはモヒカンを地面に叩き付けた。



「「モヒカン─────ッ!!!」」



 メイビスはモヒカンを地面に叩き付け続ける。モヒカンが地面に激しく接する度に地鳴りが起こる。それでもメイビスはモヒカンが二度と立ち上がれないよう念入りに地面に叩き付け続けた。最早モヒカンが立ち上がることは無かった。



「やめろぉー!!もうとっくにモヒカンのライフはゼロだぁー!!」


「それ以上はもうやめたげてよぉ!!」



 敵の皆はそのあまりの仕打ちに涙を流し、メイビスにやめるように訴えるが、メイビスはその手を一向に止めず、寧ろ力を強めていく。



「なかなか取れないな。この頭についてる埃」


「いやそれモヒカンゥ!!」


「それ誇りだけど埃じゃないよ!!そいつの象徴(シンボル)みたいなもんだから!!外しちゃ駄目なやつだから!!」



 すると、メイビスは唐突にモヒカンを叩き付けることをやめた。それを見た敵もほっと胸をなで下ろし、安堵の息をついた。しかし、彼らは知らない。これは、嵐の前の静けさだということに。



「そうか。ならばこのまま武器にするか」



 その言葉に、敵の皆が絶句した。思えば何故彼はあそこまで執拗に彼の頭の(モヒカン)を取ろうとしていたのか。その答えが、新品の武器についた汚れを落とす為だったとしたら?もしそうだとしても何故そんなことをするかは不明だが、何人かがこの試験の始まる直前にモヒカンが標的(ターゲット)に向けて直接「殺す」と言っていたのを聞いていた。もしそれが彼を怒らせる、とまでは行かなくてもイラッとさせてしまったなら?

 そんな皆の疑問に答えるように、敵の群れにモヒカンが突っ込んで来た。



「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」



 メイビスは鎖を振るい、分銅の代わりにモヒカンを敵に叩き付けている。モヒカンが縦横無尽に宙を舞い、敵をばったばったと薙ぎ倒す。

 偶然にも彼らの推測は当たっていた。メイビスはこの心無い若者(モヒカン)の言葉に傷付いた。故に、メイビスはこのモヒカンだけは何かしらの制裁を加えようと思っていたのだが、なんと幸運なことに獲物の方からやってきたのだ。とりあえず地面に叩き付けたが、どんな制裁を加えるか考えていると、彼の頭の中に人の姿を持つ武器であるジャダが思い浮かび、ここで一つメイビスは名案を思い付いた。


 ────そうだ、こいつ武器にしよう。


 そういった理由でメイビスはモヒカンという名の武器を手に入れたのだ。


 皆さんお気付きかも知れないが実はこの男、馬鹿である。


 そんな経緯でメイビスは鎌の代わりにモヒカンを振るう。鎖をヨーヨーのように弄び、回転するモヒカンを敵に叩き付ける。さらには、モヒカンを上空に振り上げ、敵もろとも叩き付けた。そして、メイビスは大技を出す為の構えを取る。



「喰らうがいい」



 メイビスは鎖を振るい、モヒカンをブーメランの要領で放った。超高速で横回転するモヒカンは(モヒカン)で敵を斬り付けながら手元に戻って来させた。



「思い知ったか鼠共。これが本当の《棟髪刈り(モヒカッター)》だ」


「「「いや何でお前が使えてんだあぁぁぁぁぁぁ!!」」」



 皆の心が一つなった瞬間だった。



「ヤベーよ!本家より使いこなしてるよ!ルビ振っちゃってるよ!モノホンのモヒカッターだよ!」


「いや本家より使いこなしてるっていうか本人を使いこなしてるよ!あいつ自身がモヒカッターになってるよ!てかなんでモヒカンで人が斬れてんだァァァァァ!!」



 メイビスは鎖を振るう手を止めることなく、逃げ惑う敵をモヒカッターで刈り取っていく。最早モヒカンは人に非ず、ただ敵を刈りとる為の刃である。


 そのまま暫くモヒカンで遊ぼうと楽観視していたメイビスだが、その思惑は潰されることとなった。

 メイビスがまたモヒカンを敵に向けて放った瞬間、巨大な手にモヒカンが叩き潰された。モヒカンは地面にめり込み、鎖は分銅ごと砕け散った。



「くだらん。いつまでこのような茶番を続けているのだか」



 そう言って前に出て来たのは、三メートルを超える巨漢だった。銀色の甲冑がその男の全身を覆い、守りを確固たるものにしている。



「お、おい!何もそこまでしなくても良いだろ!そいつは仲間だぞ!」


「そうだそうだ!」



 そう叫ぶ二名を男は兜越しに睨み付け、その甲冑で覆われた大きな手を振り上げた。それを見た二名は自らに降り掛かる未来を理解し、逃げようとするも、抵抗虚しくその手に叩き潰された。



「ふん、この場に仲間などいるものか。周りにいる全ての人間が敵だということが分からぬ木偶なぞ早々に死んでしまえ」



 その男の言葉に異論を唱える者は誰も居らず、残った数少ない敵達は押し黙った。誰もこの男に叶わぬと悟ったからだ。大きさ、力、硬さ、全てにおいてこの男は間違いなく敵の中で最高だった。



「さて、貴様が強いことは分かった。そしてこの俺には適わぬこともな」


「………」


「貴様は確かに強いがそれは木偶共の範囲内での強さだ。俺のように大きく!硬く!強い!そんな圧倒的存在の前には無力という訳だ!!」


「……………」



 メイビスは何も言わず、ただそこに佇み、静かに目の前の巨漢を観察するように見詰めている。その様子を見て男は兜の中の口を歪め、大きな笑い声を上げた。



「ふはははは!!どうだ!貴様では俺に傷一つ付けられぬと知った絶望は!!怖くて声も出せぬか!!所詮貴様はその程度の木偶なのだァ!!俺こそが最強!俺こそが最高!俺こそが頂点なのだァァァ!!」



 驕り高ぶり、そう宣う巨漢を見てメイビスはあからさまな溜息をついた。



「つまらん」



 男の笑い声が響き渡っていた会場に、メイビスの静かな、それでいて迫力のある一言が静寂を呼んだ。



「どのような強敵かと思えばただの噛ませ犬ではないか。在り来りな台詞(セリフ)、在り来りな個性(キャラ)、在り来りな負けフラグ。これがつまらん以外の何で表せようか」


「な、なんだと貴様ァ!俺を愚弄しているのかァ!!」


「しているんだよ。なんだ?この程度の侮辱も理解出来ない木偶だったのか。知能の低さも在り来りだ。それにここにいるのは暗殺者や武闘家が主ではなかったか?その甲冑姿の何処が暗殺者だというのだ。入る組織を間違えているぞ。今すぐ王国騎士団にでも受験し直せ愚か者。これならばまだモヒカンの方が良い仕事をしていた」


「き、貴様アァァァァァァァァ!!」


「この程度の挑発で激情し、何も考えず無策で挑むか。全てが在り来り(テンプレ)だ。全く持ってつまらん男だ」



 メイビスの挑発を鵜呑みにした巨漢は、感情の赴くままにメイビスに向けて突進して来た。それに対してメイビスは鎖が砕け、ただの大鎌となった己の武器を両手で握り、後方へ下げ、左足を後ろに引いた。例えるならば日本刀の居合い斬りの構えだろうか。



「ハッ!どんな攻撃をしようともこの鋼の鎧には傷一つ付けられぬ!!そして貴様はこの俺の手によって死ぬのだァァァァァ!!」



 そう言いながら突進して来る男をメイビスは何も映さぬ虚ろな目で捉え、ただ男が自らの間合いに入って来ることを待った。男はその大きな足で大地を踏み締める。



 一歩、二歩、三歩、四歩、─────五歩。



 《鎧刈り(アーマーハント)



 男が五歩目を踏み込んだ瞬間、メイビスの無刃の鎌が甲冑を()()()()()。甲冑はパッカリと二つに割れ、中に仕舞われていた生身の人間が剥き出しとなる。その中身もメイビスの技の衝撃で意識を刈り取られており、白目を向いている。勢いそのままに突っ込んで来る男に対し、メイビスはその場から跳び、右足で男の頭を踏み付け跳躍し、軽やかに前方に着地した。



「寝ていろ、木偶が」



 意識を失った男は止まることも出来ず、そのまま地面へと倒れ伏した。

 そして、メイビスが着地すると同時に、大鎌が砕け散った。



「やはりこの程度の武器では技に耐えられんか。まぁ、ここまで持っただけでも良しとするか」



 メイビスは柄だけになった棒切れを適当に投げ捨てた。



「それに、もう必要は無さそうだ」



 そう呟くメイビスの目は、武器を捨て、両手を挙げ降伏の意を示す残った敵を映していた。先程の攻防を見てこの場にいる皆が悟ったのだ。この化け物に、適うはずがないと。


 それと同時に試験終了の合図が会場中に響き渡った。


《モヒカッター》

とあるモヒカンの必殺技。頭突きと共にモヒカンで相手の頭を斬り裂く恐ろしい技。


棟髪刈り(モヒカッター)

モヒカンを鎖で繋ぎ、ブーメランの要領で横回転させながら放つモヒカッターの改良版。メイビスの悪巫山戯とも呼ばれる。


鎧刈り(アーマーハント)

鎌系武器のスキル。防御無視攻撃の一つ。相手を防具ごと刈り取る力技。今回は無刃の為、衝撃で気を失う程度に収められた。


名も無き木偶(噛ませ犬)

今回のオチの為だけに用意された量産型噛ませ犬。全てがやられる為だけに作られたキャラ。作者の手抜きとも呼ばれる。


モヒカン(モヒカン)

モヒカン以外の何者でも無い。よってルビもモヒカン。名前もモヒカン。


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