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転生死神と眷属による異世界奇想曲  作者: 田中 てんまる
フリギア王国編
29/33

第29曲 鼠刈り 前編

期末考査が終わった。

風邪が治った。


ならば投稿だ。


(訳)投稿遅れてごめんなさい。

 


 ◆



 メイビスが控え室に入った直後、二度、手を叩く音が訓練室に響いた。殺し合っていた研修生の彼等もその動きを止め、音の発信源の方へと顔を向けた。



「はーい、皆さんちゅーもーく」



 そう言い放ったのは自分達をスカウトし、この組織へと招き入れた鼠達のボスだった。この場にいる全員が彼に注目し、一体何事だと思案を巡らせる。



「これから皆さんには殺し合いを……じゃなくてある方を殺していただきまーす」



 常にさせていたのは殺し合いばかりだったので少し間違えた窮鼠だが、すかさず言い直した。

 彼の申し出自体は何も可笑しくはない。ここは非合法の闇組織。殺す殺されるは普段の何の変哲もない日常に過ぎない。だが、彼の口振りからするとまるで、()()()()()()()()()()()()()。というように聞こえるのだ。それは、はっきり言って異常だ。五百人あまりの人間が一人を狙うなど荒唐無稽が過ぎるというものだ。



「はい、その通りです。ここにいる全員で彼を殺してもらいます」



 だどいうのに、窮鼠が出した課題はまさしく荒唐無稽なものだった。

 皆の頭に何故、どうして、といった疑問が浮上する。そんな、困惑する研修生達の疑問に応えるように窮鼠は一方向を指差した。そこは訓練室に備え付けられている控え室で、ついさっきまで研修生は全員ここで殺し合っていたので控え室には先程窮鼠が連れてきた背の高い男しか居ない。



彼処(あちら)標的(ターゲット)がいるので、彼が彼処から出て合図が出されたら殺してください。尚、彼を殺した方は即正規採用、そして一千万のボーナスを与えます」



 その場がざわついた。それもそのはず、たった一人を殺せば正規採用と一千万の大金が手に入るのだ。それはまさに、目の前に人参を吊るされた馬同然。棚から牡丹餅が降ってきたかのような幸運。この時点で多くの研修生達が参加を決めた。


 しかし、警戒心の強い研修生達はこの申し出に裏があるのではないか、罠ではないのかと疑い、参加を渋っていた。

 それを見かねた窮鼠は彼等に向けて最後の駄目押しをした。



「うーん、全員乗り気という訳ではないですか。仕方がありません。駄目押しで、更に一千万プラスと『僕に一日中何でも言うことを聞かせる権利』をあげましょう」



 その言葉に研修生の一部が強い反応を示した。彼等の目が草食動物を見付けた肉食動物のソレに変わっていく。



「一千万プラスは言わずもがな、そして僕の方についてですが、宣言通り何でも聞きますよ。ボスを代われでも金を寄越せでも女を寄越せでも……或いは────」



 すると、窮鼠は徐ろにその着物をはだけさせ、白い肌と美しい鎖骨を晒す。柔らかそうな唇が強調され、頬が赤らんでいる。その様子は饒舌に尽くし難いほどに官能的で、見るもの全てを魅了するようなものだった。そして、彼は首をコテンと傾げ、皆に告げる。



「────僕を好きなように弄ぶでも、ね♡」



 その瞬間、彼らの士気は極限へと至った。この場には最早安全を重視する臆病者など居ない。皆が皆、一騎当千の武士(もののふ)である。


 故に誰も気付かない。この空間に満ちた興奮作用のある薬品の匂いに、三日月のような笑顔で酷く楽しげに、それでいて残酷に笑う窮鼠の姿に。



 ◆



 メイビスは困惑していた。会場中に散らばっていると思われていた人々は、今まさに目の前で此方に向けて尋常ではない殺気を向けている。さらにその一部は血走った目で此方を捕捉している。

 耳をすませば「フヘヘ、殺す」「奴は我の獲物だ」「二千万をみすみす逃がすかよ、へへ」「窮鼠たんハアハア」などの殺意に満ちた言葉も聞こえる。一名可笑しいが捨ておこう。


 何故だ?何故こうも俺に視線が集まっている?

 皆もっと平等にいこうよ。俺だけ贔屓は良くないよ。

 ほら、そこのモヒカンくんに分けてあげよ?

 あ、目が合った。「殺す」って言われた。悲しみ。


 などと現実逃避しながらも会場内の様子から原因を脳内で探る。気になるのは、彼等の不可解な言動、「獲物」「二千万」「窮鼠」という単語、会場に充満している甘い香り、恐らくこれらが深く関係しているはずだ。仮定するなら、『窮鼠の策略で俺に二千万の賞金がかけられ、この香りに当てられた彼等が俺を狙っている』といったところだろう。実際はこんなに単純ではなく、もう少し何かしらの要因があるのだろうが、俺如きの推測ではここまでが限界だ。

 全く、窮鼠も余計な真似をしてくれたものだ。これで俺の『いのちだいじに』作戦は水泡に帰し、五百人を纏めて相手にするという馬鹿げた状況になってしまった。更に挙げるなら今の俺は魔法を禁じられ、本来向いていない近接戦闘に持ち込まれてしまった。


 一対五百という絶望的な戦力差、加えて魔法の封印、状況は絶体絶命と言わざるを得ない。


 だが、それでも、メイビスは不敵な笑顔を浮かべた。



 ◆



 試験が始まる直前、窮鼠、タナカ、パンドラの三名は訓練室の二階の観客席に移動していた。そこからは一階の会場の様子が良く見え、彼等の戦いを見るにはうってつけの場所だった。



「へー、ここだと下の様子が良く見えるねー」


「そうなんですよ。下にいると巻き込まれそうですし、此方の方が良いでしょう?」


「うん、メイビス様の活躍を間近で見ることは出来ないけど邪魔しちゃ悪いからね」


「……」



 楽しそうに下の様子を眺めるパンドラだが、その隣に座る窮鼠は何か言いたげな顔をしている。そして、思い切って窮鼠はその疑問をパンドラに突き付けた。



「貴方は怒らないんですか?」


「何が?」



 窮鼠の言葉にパンドラは本気できょとんとした様子を見せる。その様子に窮鼠は更に疑問を覚える。



「僕は貴方の()()を窮地に追いやったのですよ。ここは、『なんてことをしているんだ!』とか『今すぐやめさせろ!』とか言うべきではないですか?」



 窮鼠の言葉に、パンドラはピクリと反応する。



「アハハ、なーんだ、そんなことか。それなら大丈夫、だってメイビス様が負ける訳無いんだから」


「何故そう言えるんです?彼は今頼りの魔法を封じられ、不得意な近接戦闘に持ち込まれている。しかも、敵の数は五百人あまり、これでも()()()()()()()と言えますか?」



 窮鼠がここまで言うと、パンドラは不思議そうに首を傾げた。そして、少し考え込むと唐突にぽんと手を叩いた。まるで、全ての疑問が解けたかのように。



「ああ、そっか。君はメイビス様が不得意な近接戦闘で窮地に追いやられていると思ってるんだ。あまりにも論外過ぎて気付かなかったよ」


「事実ではないですか?」


「アハハハハ、馬鹿だなぁ。メイビス様がその程度の窮地で負ける訳無いじゃん」



 窮鼠が次の言葉を言おうとした時、「ああ、それとね」とパンドラは付け足した。



「僕らは()()じゃない。僕らは()()だ。そこを間違えないでよ」



 その瞬間、パンドラから漂う空気が変わった。無邪気な子供のような空気から一転、狂気を孕んだ悍ましい空気が周りを支配する。窮鼠は本能的に理解した。自身が知らぬうちに彼の琴線に触れてしまったことに、そして、これは触れてはならぬものだ、と。



「ねぇ、まだー?もうそろそろ始めちゃおうよー」



 だが、それも一瞬。パンドラから発せられていた空気は霧散し、そこには無邪気な子供がいるだけ。しかし、一瞬だというのに、窮鼠の頭には先程の狂気が、それに対して抱いた恐怖が、こびりついている。



「……ええ、そうですね」



 窮鼠はここが引き際だと判断し、それ以上の追求をやめた。そして、硬直状態にある会場に向かって、その均衡を壊す合図を送る。

 そしてついに、会場に試験開始の音が響いた。



 ◆



 試験開始の音が会場に響き、メイビスは目の前の状況を冷静に読み取る。


 五百人の群れの中から飛び出したのは五人。いずれも武器はナイフや短刀などの刃渡りの短いものだ。恐らく彼らはメイビスの武器を見て接近戦が有利と考えたのだろう。距離は後約十メートル、これ以上接近されれば首か心臓を一突きで終わるだろう。無論、その程度では死なないが彼らはそれを知る由もない。


 分析を終えたメイビスは片手でそれを構え、五人が飛び掛ると同時に、()()()()

 五人の内、四人がそれを躱せずその身を吹き飛ばされ、一人が躱した。五人の中でも最も素早かった者だ。彼は最早これで勝ったと確信したことだろう。しかし、その慢心がいけなかったのか、彼は意識の外からやってきた衝撃に意識を刈り取られた。


 開始から五秒にも満たない時間で、四人が吹き飛び、一人が地に落ちた。それを見た参加者達は余りの速さに呆然としていた。

 何も、脱落者が出ることの()()に呆けたのではない。その巨大な鎌が振るわれる()()に呆然としているのだ。


 そう、メイビスの武器は、()()()。通常の大鎌が、柄が百七十センチ、刃渡り六十から九十センチなのに対し、これは、柄が長さ二メートル、刃渡りは百二十センチと常人が扱うには大き過ぎる。メイビスはそれを片手で軽々と、それも目視できるかどうかの瀬戸際という速さで振るったのだ。

 更に、柄の先端には鎖分銅が付いており、メイビスはこれを手足のように扱い、一人を迎撃している。



「ふむ、急拵えにしては存外使えるではないか」



 メイビス自身、想像よりも手に馴染む大鎖鎌に若干の高揚を覚えた。通常、使いにくいとされる鎌系統の武器だが、メイビスにとっては己の象徴(シンボル)とも言える武器だ。扱えないはずが無く、寧ろ鎌という武器を扱うにあたり、メイビスは無敵と言っても過言ではないだろう。



「さて、私としては無駄な戦いは好まない。貴様等が降伏するならば危害は加えないと誓うが、どうだ?」



 ここでメイビスは降伏勧告を提案した。メイビスが圧倒的に強いと言っても魔法抜きでは些か数が多い。今の内に減らしておけばそれだけ負担も減る。そういった考えで発言をしたが、メイビスの言葉に賛同する者は誰一人として居ない。寧ろ、此方に向ける殺気が増幅してすらいる。

 人数を減らす作戦も失敗。最後の頼みの綱も切れ、こうなってしまえば打てる手はただ一つ。



「そうか。ならば慈悲は必要あるまい」



 ()()()()。一匹残さず刈り尽くす。


 後悔してももう遅い。死神の鎌からは、逃れられない。



《大鎖鎌》

大鎌に鎖分銅が付けられた武器。メイビスが扱えば変態的性能を発揮する。オサレ武器の一つ。

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