第20曲 フリギア王国
意外と書けたので投稿します。
太陽の光が差す晴天、肌を撫でる心地良い風、そよ風に揺れる草花、とても気持ちの良い気候だ。
ここ、フリギア王国の門で門番をしている青年はその気候の良さに欠伸を禁じ得ない。
「眠てぇなぁ」
「ははっこの天気だからな」
もう一人の門番も同じように眠たげにしている。門番をやり始めてもう三年程経つが、やはりこれだけは慣れない。それもこれもただ突っ立っているだけの退屈な仕事が悪い。何か衝撃を与えるような出来事でも起こらないかと邪な考えに至るのも仕方がないと言える。
だからこそなのかもしれない。
彼が現れたのは。
「ん?」
門番に向かって歩いてくる男がいた。漸く仕事かと二人の門番は目を合わせ、頷き合う。二人の門番は手に持つ槍を傾け、斜めに交差させる。
「止まれ!」
門番はそれ以上の前進を阻み、男を観察する。
男は黒いコートを全身を覆い隠すように着こなし、フードで顔をも覆い隠している。どう見ても怪しい、というよりこれで怪しくない訳が無い。
「入国許可証は?」
「おや、ここは出入り自由の国では無かったのかな」
「ああ、だが怪しい人間まで入国させる程懐が深くもない。他国からの推薦状などは有るか?」
「……ああ、ここにあるさ」
すると、男はフードを外した。そして、闇を具現化したような、底のない濁った瞳が此方を覗き込んだ。
そこで、門番の意識は消えた。
◆
メイビスの目の前で門番は倒れている。息はしているので死んではいない。
「もういいぞ」
すると、何も無い空間に裂け目が広がり、裂け目から十人程現れた。メイビスの眷属、基《九つの人格》と《魔鎌》ジャダだ。
「ヒュー、《失神》とは、鮮やかな手際っスねぇ」
「それと、《忘却》もだ」
リーベが態々先程の魔法を説明してくれたので、それにもう一つ付け加える。これで、門番は目が覚めても居眠りしてしまったと思うだけだろう。
「何はともあれ、漸く入国だね!」
「ふふっドラちゃんはとりわけ楽しみにしていたからねぇ」
「まったくだよ!そう言うテレサさんはどうなの?」
「私も楽しみだよぉ、くふふふふふ」
「そうだよね、アハハハハハ!」
口を三日月のように歪ませ、笑いを漏らすテレサに狂ったように顔を歪ませ笑うパンドラの両名にメイビスは悟った。こいつらを止めれるのは自分しかいない、と。
かくして、暴虐の限りを尽くさんとする眷属二人と、その暴走を抑えんとするメイビスの戦いが水面下で始まった。
「では、これより入国する。各々、やるべき事は分かっているな?」
その言葉に全員が口を三日月のように歪ませる。メイビスはこれを肯定と捉え、同じように不気味に笑い、眷属達に背を向け、門の正面に立つ。
「さあ、始めようか」
メイビスの合図で眷属達は歩み始める。それが何を意味するか、何を巻き起こすか。
今まさに、フリギア王国に“最悪”が侵入した。
「お買い物を!」
………ショッピングをする為に。
◆
──昨日──
メイビスは前回同様、会議室にて眷属達を集めていた。
「まず、皆に伝えておこう。我々は明日、フリギア王国に進出する」
その言葉に眷属達もざわつき、それぞれの顔には動揺が隠す気もなく表されている。
「メイビス様……それは…まさか……」
震えながらも問い掛けるパンドラに、メイビスはただ、静かに首を縦に振った。
「皆でフリギア王国に行こう」
「やったアァァァァァァァ!!!」
フリギア王国に行くという事実にパンドラは大声を上げて喜んだ。それも仕方ないことと言える。フリギア王国進出の話が出てからパンドラはずっと心待ちにしていたのだから。
「へー、皆でとは随分と豪勢なことだねぇ」
「確かにそうっスね。まぁ、嬉しいことだから別に良いんじゃないっスか?」
「楽しみですねーえへへー」
「おいしものたべれる!」
「人混みは……苦手だ……」
「私も目が疲れるから苦手だぜ……」
「ZZZZZZ………」
各々の反応に性格が出ている。パンドラ、カオス、ファナはアウトドア派、ホルン、メデューサ、ノアはインドア派、テレサ、リーベは中立だな。ノアが答えていないがあの寝顔が全てを物語っているから問題ない。
そういえば、オルフェウスが何も言っていないな。と、そこまで考えを至らせた時、ガタリと椅子から立ち上がる音が聞こえた。
「静粛にしろ貴様等!これは遊びではないのだ!」
ざわついていた会議室が静まり、オルフェウスの声が響いた。やはり、オルフェウスは他よりしっかりしている為、この程度でははしゃがないのだろう。
「まずメイビス様が引率、俺が班長だ。午前中は観光スポット巡り、昼食は各自弁当持参、午後にお土産を買う。先に言っておくがおやつは三百Gまで、そしてバナナはおやつに含まれる。後はこの旅のしおりに書いてある」
そう言うオルフェウスの右手には青い表紙の旅のしおりが握られており、机に十冊程置いてあったものを配っている。
一番楽しんでんじゃねえか!いつ用意したそれ!後で俺にも下さい。あ、カオスありがとう。
「これはどういうことかな眼鏡……」
「かくごはできてる?」
すると、話を聞いていたパンドラとファナが立ち上がった。その顔には不満と憤怒の混じった感情が現れている。不味い、オルフェウスが仕切っているのが気に入らないのか二人が怒りを露わにしている。
「「バナナはおやつに含まれないだろ!!」」
「そこなのか!?」
純粋に驚いた。確かに含まれないと思う。だけど君らそこなの?ファナは良いとして、パンドラはどうした。
「ふっ、貴様等ならばそう言うと思ったぞ。旅のしおり十二頁を見てみろ」
十二頁に何かあるのだろうか。そう思いメイビスも旅のしおりを開いた時、二人から声が上がった。
「なっ!?」
「こ、これは……」
パンドラとファナの顔から驚愕がありありと読み取れる。何か重要なことでも書いてあるのだろうと思い、十二頁を開くとそこには弁当・おやつについて記されていた。そして、メイビスは見つけた。頁の下の方に太字で書いてあるそれを。
【なお、林檎はおやつに含まれない。】
「「よくやった」」
「抜かりは無い」
「何が解決されたのだ、それで!?」
サムズアップと共に二人は腰を下ろし、オルフェウスは誇らしげに眼鏡を光らせている。
何故林檎は良いのだろうか。やはり死神の眷属だし林檎が好きなのかな。別に俺は林檎を食べないと禁断症状の出る殺人ノートを持った死神ではないのだが。
さて、そろそろ話を続けても大丈夫か。
「オルフェウスの言う通り、フリギア王国への進出には理由がある。情報収集、王国の視察、拠点の設置など色々あるが、最優先事項はただ一つ」
メイビスはここで話を区切り、眷属全員を見渡す。その真剣さに眷属達も息を呑む。そして、メイビスの口が開かれる。
「お買い物だ」
「「一番楽しいやつだあぁぁぁぁぁぁ!!」」
叫んだのは何処の道化師と食いしん坊だったか。確かに楽しいが、勿論それだけの理由では無い。
「我々には物資が足りていない。武器に食糧に家具に他にも色々と必要なものはある。それを今回買いに行こうと思う」
「軍資金は?」
「宝物庫に有り余る程度だ」
「なら安心だねぇ」
金はここの宝物庫に大量にあったので問題ないし、場所もジャダが知っている。要するに、必要なものは全て揃っているという訳だ。
「明日には行動を開始する。各々準備を怠らず、明日に備えよ。それでは会議を終了する」
こうして、会議は締め括られ、フリギア王国への入国が決定された。
「またアタシは忘れられてんのね……」
ジャダの存在を忘れられたまま。
存在を忘れられたジャダさん。
そしてお気付きだろうか。テレサのパンドラの呼び方が某猫型ロボットと同じことに。




