第13曲 地獄の王
今回は皆お待ちかねの魔法戦だよー
※ネーミングセンスの苦情は一切受け付けておりません。
メイビスとカーデットは睨み合う。二人は現在拮抗状態にある。どちらかが動けば、戦闘は避けられない。先手か後手か。その拮抗を先に崩したのは─────
─────メイビスだった。
《殲滅の光線》
《四重障壁》
カーデットは障壁を展開し、メイビスの魔法を防ぐ。しかし、メイビスは止まらない。
《氷山の一角》
巨大な氷の槍がカーデットの障壁を突き破る。カーデットは両手でそれを掴み、防ごうとする。
「ぬおおおおおお!!」
氷槍の勢いでカーデットは後方へ飛んでゆく。積み上げられた人骨が音を立てて崩れ行く。カーデットは氷槍を抑えているが、その隙をメイビスが逃すはずが無かった。
《蒼穹の爆炎》
蒼い炎が爆炎として燃え盛る。メイビスが今まで使ったのは全て上位魔法だ。中ボスクラスなら灰も残さず消えている。
────だがそれは目の前の者には通用しない。
「ふはははははは!!予想以上だメイビス!やはり戦いはこうでなくてはなぁ!」
カーデットはあれだけの魔法を喰らっておいて傷一つ付いていない。それどころか高らかに笑っている。だが、それはメイビスも同じだ。彼も同じように笑っている。
「その通りだとも。この程度で死ぬような塵に私の相手は務まらない」
「嬉しいことをいってくれるじゃあないか。ならば我もそれ相応の礼をくれてやろう!」
カーデットは鎌を両手で握り、後ろに引く。その動きがこれから起こる攻撃の予備動作なのだろうと当たりをつけ、防御魔法を展開する。カーデットの障壁よりも一枚分厚い《五重障壁》だ。だが、
《黒刈》
障壁はいとも簡単に破られた。黒い鎌の斬撃が襲いかかるが、既のところで身を捩り躱した。すると飛んで行った斬撃は次元の彼方へ消えた。
「ほう、なかなかの一撃だ」
「黒刈。我の技の中でも上位に位置する強力な技だが、貴様相手では役者不足のようだな」
「何を言う。思わず私も避けてしまったぞ」
「服を切られたくなかっただけ…そうありありと貴様の顔に書いてあるよ」
「バレてたか」
メイビスは先程の攻撃が障壁をいとも容易く破壊する程の力を持っていようと、問題無かった。
メイビスの纏っている「漆黒の死装」はAROでも最高クラスの防御力を誇る。どんな攻撃でも一撃で突破されることは無い。
だが、それでも先程の一撃はローブを切るだけの威力があった。故に避けたのだ。
「しかし、私はてっきり魔法使いだと思ったのだがな」
そのなんということは無い一言が、カーデットの動きを止める。
「……何故だ?」
「四重障壁を展開すれば誰でもそう思う」
「ククククッその通りだともメイビス。我は魔法使いだ。貴様と同じな。そしてこれは《魔鎌・死神の鎌》、魔法使いの為の武器だ」
「ほう、気になるな、その鎌」
メイビスは興味深く死神の鎌を観察する。魔法使いが使用する武器は相場が杖である。だが、この男は魔法使いでありながら、近接戦闘武器を持っていたのだ。それに何より、カーデットが魔法使いであると決めかねていた理由はこれなのだから。
「しかし、いささか長話が過ぎたなカーデット」
「何?……!?」
カーデットの頭上を魔法陣が浮いていた。黄色い光を放つその魔法陣は文字を組み替え、魔法を完成させる。
《聖なる驟雨》
白き光の雨がカーデットを襲う。
「くっ!」
「話している間に仕掛けさせてもらった。アンデットには堪えるだろう」
「舐めるな!」
カーデットは鎌を振り払い、魔法陣ごと光の雨を消し去る。硝子の割れるような音と共に魔法陣が破壊される。
《不浄なる突風》
メイビスに向かって突風が吹く。風は周りを腐らさせながら向かって来る。
「腐食魔法か。ならば焼き尽くしてやろう」
《黒炎》
炎は風を呑み込み、その勢いを増してカーデットへと襲いかかる。しかし、炎は届かない。
《絶対氷結》
黒炎は氷塊となり、音を立てて崩れた。ここまでの戦い、両者互角。一歩も譲らぬ魔法の応酬。
「ふむ、埒が明かないな」
「ああ、全くだ。いい加減その剥き出しの頭蓋にひびくらいは入れたいのだが」
「ならばどうする?」
「そうさな。なら────叩き割ってみよう」
《瞬間移動》
メイビスはカーデットの背後に魔法で回り込む。そして、カーデットが気付く前に、右腕に強化魔法をかける。
《身体能力強化》
《物攻強化》
《付与・黒炎》
そして、カーデットの頭に向かって手刀で突きを御見舞する。物理防御力の弱い魔法使いが当たれば、痛いでは済まない。メイビスは手を振り抜く。しかし、カーデットの身体は霧のように霧散して消えてしまう。
《蜃気楼》
すると、真横から黒い斬撃が飛んでくる。メイビスの身体は今空中にある。よって躱すことは出来ない。ならば相殺させるまでだ。
《絶斬》
白と黒の斬撃がぶつかり合う。そしてそれは衝撃波を生み出し、消滅する。狙い通り相殺する。しかし、その瞬間メイビスに向かって凄まじい速さでカーデットがやってくる。カーデットは懐に入り込むと手に持つ鎌を素早く振り払おうとする。
だが、メイビスの掌のあるものに気付いた。それは小さな球。朱い光を放つ朱玉。カーデットは危機を感じ、咄嗟に飛び下がるも遅い。メイビスはニヤリと笑い、それを発動させる。
《朱の崩玉》
崩玉は爆ぜる。全てを呑み込みながら視界を朱色に染める。光が消える頃には辺り一帯焼け野原になっていた。そこに悠然とメイビスは立っている。
「やれやれ、この魔法は範囲も威力も絶大だが自分にもダメージが来るから厄介だな」
朱の崩玉は本来自爆魔法だが、メイビスの魔法防御力が高いが故、成せる魔法と言える。本来ならば防御魔法を自分にかけるのだが、ジルバにかけていた為、自分にまで気が回らなかった。
「うーむ、これは流石に死んだか?」
周りは煙が立ち込めているので、よく分からないが、向かって来る影は無い。暫く待ってみるも姿は見えない。そして、立ち込めていた煙が消え、それは顕となった。
そこには、身に纏っていたローブが焼け焦げ、左半身の骨が砕け、満身創痍で立ち尽くすカーデットの姿があった。
「くくっ……まさか……これ程とは……」
カーデットは息も絶え絶えに喋る。ここまで損傷すればもう戦えまい。喋ることもやっとだろう。
「流石だ……メイビス・クライハート……」
「貴様もなかなかだったぞ、カーデット。楽しませてくれたことに感謝する」
そう言い、メイビスはカーデットに背を向ける。あれでは半刻もせず死ぬだろう。ジルバに目撃させることは出来なかったが、奴の死体を見せれば証拠にはなるだろう。
「……ああ……これで……これで漸く…………」
そして、カーデットは息絶える───
「本気で戦える」
────ことは無かった。
「何?」
ふと気付けばメイビスの左腕が無くなっていた。いや、左腕は目の前を舞っている。切り落とされたのだ。メイビスは振り返る。
そこには鬼がいた。それは、五メートル程の大きさで、三つの顔を持ち、九本の腕を持ち、下半身が骨の集合体で形成されている。
「成程、これは確かに地獄の王だ」
メイビスはその巨体を見上げる。それはまさに王。悪鬼羅刹の住まう地獄の王に相応しい姿だった。
『サア、シンノタタカイヲハジメヨウ』
三つの声が重なる。地獄の王が動き出す。それはまるで、亡者が死神に反旗を翻すようだった。これを見れば誰もが絶望し、許しを乞い、平伏すだろう。だが、メイビスは─────
────笑っていた。
前回よりも気になる展開で終わらせてやった(悪)