第11曲 信者と道化師
メタ注意な回です。というよりもメタいパンドラさんです。
館内に侵入したメイビス、ノア、ジルバの三人だったが、三人共その内装に感嘆の声を漏らした。
館の中は、真っ黒の壁に窓を隠す紅のカーテン、床いっぱいに敷き詰められた赤い絨毯、天井にはシャンデリア、扉の真正面に二階へと続く階段、その両端に飾られた斧を装備した西洋甲冑、といった感じで外見とは正反対の内装だった。
それを目にして、メイビスはニンマリと微笑む。
「いいぞ、実に私好みだ」
館の内装に見惚れる三人だったが、そんなことをしている場合ではなく、館内を散策する。と、見せかけてジルバをラスボスの間に案内する。
実を言うと、この館の構造は全て把握していた。メデューサの魔眼を使って館内の見取り図を作ってあるのだ。勿論、その全てを頭の中に入れてきた。準備は万全ということだ。しかし、館の内装は見ていなかったので、あれには素直に感動を覚えた。あれ程までに素晴らしい館は見たことが無い。もうじきこの館の全てが自分のものになると思うと興奮が止まらない。
暫く、三人で進んでいるとジルバが問い掛けてきた。
「お、おい、こんなに大胆に散策して問題無いのか?もし敵に見つかれば戦闘は避けられんぞ。それにここは奴らの本拠地だ。どんな罠があるかも分からない」
ジルバは忠告を告げるように言った。その目は警戒の視線をあちらこちらに飛ばしている。
「問題無い」
メイビスは自信満々にそう告げる。それもそのはず、自信満々で当然なのだ。何故なら、罠が無いことはメデューサの魔眼で確認済みであり、ジルバの言う敵は彼等が相手をしてくれているのだから。
◆
ー死の館・一階廊下ー
そこには巨大な腐肉の塊がいた。太った成人男性のような体型をしているが、その身体は腐敗しており、辺りに腐臭を振り撒いていた。
その肉の塊は食屍鬼と呼ばれる種族であるが、通常の食屍鬼とは違い、明らかに太っている。体重が約二百キログラムもあるその巨体は明らかに異常であった。
食屍鬼は館内を巡回する。侵入者の排除が彼の仕事なのだ。そんな彼の背後に人影があった。
「ほう、貴様が食屍鬼か。確かにだらしない身体をしている。信念が無い証拠だ。」
背後の侵入者に気付いた彼はその巨体を振り返らせ、侵入者を確認する。神父のような服装の眼鏡を掛けた男だった。すると、重々しく片手を振り上げる。そして、振り上げた手を男に向けて思い切り振り下ろす。
その力は凄まじいものだった。岩をも軽々と壊せるだろう。そして、その一撃は男に確実に当たった。避けた様子は無い。しかし、男はそこにいた。頭からその一撃を喰らったというのに直立不動のままだ。
「この程度か、貴様の力は。そんなものでガーゴイルのあの方への信仰を閉ざせると思ったか?」
彼は驚愕する。自らの一撃を受けて今まで倒れなかった者はいなかった。どんな奴でもこの一撃で倒してきた。しかし、目の前のこの男には効かなかった。ならばと彼は、もう片方、左の手を振り上げ、叩き落とす。そして、右の手を振り上げ、左同様叩き落とす。これを交互に繰り返す。ズシン、ズシン、ズシン、ズシンと攻撃が繰り返される。余りの衝撃に館が揺れる。
しかし、その連撃は止められた。男は彼の両手首を掴み、握り潰した。
「ぶもおおおおおおおおおお!!!」
余りの痛みに思わず叫び声が上がる。後ろに下がり、尻餅を着く。何度も攻撃を繰り返した。その全てが当たっていた。しかし、目の前の男には傷一つ付いていなかった。
「鳴くな豚、やかましい。」
男は静かに近付いて来る。彼の心を恐怖が支配する。
「冥土の土産に良いことを教えてやろう。俺の名はオルフェウス、眷属“最硬”の男。憶えておけ。」
そう告げると男は片足を自分の頭まで上げ、食屍鬼の頭に向けて振り下ろした。男の放ったかかと落としは頭を破壊するに飽き足らず、食屍鬼の身体を真っ二つに引き裂いた。返り血が男の衣服を汚す。それを煩わしそうに男は顔を顰める。
「ああ、全く、眼鏡が汚れてしまった。」
男はポケットから十字架柄の白いハンカチを取り出し眼鏡を丁寧に拭く。眼鏡の洗浄を終えると、改めて眼鏡を掛けた。
「チッ、それにしてもここにアイツもいると思うと吐き気がする。早々に出るとしよう。」
そして、男はその場から去っていった。
◆
ー死の館・地下一階ー
薄暗いコンクリート造りの地下に先程まで聞こえていたズシン、ズシンという衝撃音が止んだ。
「おやおや、音やんじゃったねー。ねえ、君のお仲間負けちゃったんじゃない?アハハ」
そう言ったのは若い青年だった。マジシャンのような巫山戯た格好の彼の目の前には満身創痍の死霊が地面に伏していた。その身体は骨で出来ているが、下半身が魚の尾ひれを持ち、両手が鎌のようになっている。
「な、何故だ……何故…我の攻撃が効かない…」
「え?え?攻撃?そんなの無駄だよ無駄無駄。僕にそんなの効くわけないじゃん。馬鹿だなー」
青年は煽るように喋るが、顔は本当に驚いているようだった。まるで当たり前のことを問われたような、驚きと呆れを含んだ表情をする。
「貴様は……一体……」
「何者かって?死神メイビス・クライハート様の眷属であり眷属“最狂”の男、パンドラさんだよん」
青年は茶目っ気たっぷりに答える。舌を出し、左目でウインクをし、顔に横ピースを添えている。今更だが緊張感の欠片も無い。
「あっ、ちなみに眷属は全員で九人で、僕ことオシャレでイケメンなパンドラさんは省くとして、ノアちゃんはメイビス様と一緒、メデューサちゃんはこの館の不可視化を無効化しててリーベの姉さんはその護衛、ホルホルとファナちゃんはこの館から溢れたアンデットを排除してる。テレサさんとカオスっちはコボルトの村を護衛してるよ。え?あと一人はって?さっきまで上でやられてたんじゃない?そのまま死ねば良かったのにあの眼鏡…。ああ、ごめんごめん、君には関係ないよね。それなのにこんな長話しちゃって。読者の皆様も疲れちゃったよね。え?何の話かって?僕はこういうキャラだって話さ」
青年は一人延々と喋った。その話の大部分は死霊には理解出来なかった。そして、何よりこの青年が分からなかった。ただ、パンドラと名乗るこの青年が型破りな男だということと、恐ろしい存在であることだけは理解出来た。
「さてさて、宴もたけなわでは御座いますが僕の出番はここまで!パパっとこのカマキリもどきをやっつけたら皆さんお待ちかねのメイビス様の出番で御座います!」
青年は手をパンっと合わせ音を鳴らす。そのスマイル満天の顔は敵ではなく、どこか別の場所を向いている。
「巫山戯るな!この我を倒すことなど出来るものかあぁぁぁぁぁ!!」
死霊は最後の力を振り絞り、青年に鎌で斬り掛かる。青年まであと一メートルといった所で青年は指をパチンっと鳴らした。すると、死霊の身体に無数の刃に切り裂かれたように斬撃が走った。死霊は倒れ込み、そのまま動かなくなった。
「はいおしまい。それでは皆さん、メイビス様のご活躍をお楽しみください。さようなら」
そしてまた、青年は指をパチンっと鳴らす。すると、青年の姿はその場から消えていた。
次回、メイビス様大活躍!のはず…
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