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三十三話:親しき仲にもなんとやら

 さて、とルピアとルパートは揃って互いの服装を確認する。

 クア王国にやって来て、三日。

 国王が謁見の日程を調整し、ついに今日が謁見の日となったわけだ。


「はー…」

「まぁ、緊張するわよね」

「姉さん普通にしか見えないんだけど」

「慌ててもどうしようもないじゃない」

「…そうだけど」


 ルピアは長い髪をサイドでまとめ上げつつも全て上げずにサイドテールにしていた。編み込みをしてもらい、小さな宝石が付いたヘアピンをさすことで華やかさもプラスしている。

 選んだ首飾りは中央にサファイアのあしらわれたチョーカーペンダント。プラチナで作られているそれは、ルピアの首周りに合わせて作られているオーダーメイド品。イヤリングも揃いのデザインにしてもらっていた。

 ドレスはルピアの長身を活かし、スラリとした体形が強調されるようなマーメイドラインだが、正面がふくらはぎ辺りの丈で後ろにいくにつれ長くなっているというフィッシュテールのデザインも含まれているもの。ドレスの色は淡い水色だが、装飾品も含めると全体的に銀色と青を基調とした色でまとめられている。


 ルパートは淡いクリーム色を基調とした騎士服を身に纏っている。

 本来であれば、きっと今頃は祖国の王国騎士団の一員として職務に励んでいたはずだが、こうなってはそれも叶わない。というか、ルピアが王太子妃にならない時点ですぐさま進路変更を決めたのでさして問題はないのだが。


「ルピア、ルパート、準備はできていて?」


 扉をノックして入ってきたのは二人の母親、ミリエール。

 この人年齢詐称していないか、というくらいには子持ちに見えない我が母を双子はじっと眺めている。

 普段は腰まである髪が、とても複雑に編み込まれ、綺麗に、だが重たすぎないよう工夫されてアップにされている。髪飾りはシンプルなものだが細やかな宝石が散りばめられ、動く度に光を浴びてキラキラと光っている。ひと目で質のいいものだと分かるし、ドレスに使われている生地も、繊細なレースや刺繍も、ミリエールのためだけに仕立てられたもの。オフショルダーでルピアと同じくマーメイドライン。色は、ルピアの父の瞳の色で、よくミリエールに似合っていた。


「準備はできたよ、母さん」

「お母様、もう王宮へ向かうお時間ですか?」

「ええ。基本的にはあまり緊張しなくて良いけれど…気をつけなさいね。恐らく国の高位貴族たちはわたくしたちが大嫌いなはずだから」


 ふふ、と笑ってミリエールは何でもないように言った。

 それもそうかと双子は頷く。


 周りから見れば、ミリエールの伝手を辿り、うまいこと王家に取り入って爵位まで貰い受けた図々しい貴族だろう。

 しかも長女のルピアは婚約解消をされ、王太子妃教育を受けていたにも関わらずそれらが無駄になった傷物令嬢。双子の弟ルパートは、公爵位を継ぐには足りなかった欠陥品。


 大方、周りの評価はこんなところか。


 表立ってミリエールとアリステリオスに対して文句を言う輩はいないだろう。

 しかし、不満は間違いなく出るはずなのだ。


「さ、行きましょう」


 にっこりと微笑んだミリエールが促す。

 先に馬車の前で待機していたアリステリオスがミリエールをエスコートし、ルパートはルピアのことをエスコートする。

 護衛騎士も連れていきたかったが、場所が場所だ。今回はアルフレッドは待機させることとした。


「向かってくれ」


 御者に合図を出して、馬車はゆっくりと走り出す。

 目的地は言わずもがな、クア王国の王宮。

 今回の国王への挨拶には様々な意味が含まれている。隣国からの移住者として、国王の親戚として、更には叙爵までも。まとめて一気にやってしまえ、という国王からの言葉のために、貴族たちも集められていると聞いた。


「お兄様らしいというか」


 ぽつりと呟いたミリエールに、双子が視線をやった。


「どういうこと?」


 どこか呆れたような母の表情を見てルパートが問いかければ、家族の前だからか呆れた顔を隠さないままミリエールは溜め息をついた。


「叙爵なんて、別日にしてくれればいいものを…って思ったのよ。わたくしたちを晒し上げたりするつもりはないんでしょうけど、余所者ながらもこのくらいの逆境には耐えられるよな、っていうお兄様からの試練、ってとこかしらね」

「あー…」

「おじさまらしいんじゃないでしょうか。一国の王としてのご判断ですもの」

「だろうな。親族付き合いをする分には問題ないが、それはそれ。これはこれだ、ミリエール」

「分かっていますとも。ちょっと愚痴っぽくなっただけですわ」


 理解はしている。ルピア達は平民ではないが故、貴族ならば仕方ないことだ。

 溜め息をいくら生み出しても、文句をどれだけ並べても、馬車は無情にも王宮へと到着した。

 案内係としてやってきていた宰相が、カルモンド家に対して頭を下げる。


「ようこそお越しくださいました、陛下がお待ちでございます。さ、こちらへ」


 促されるままに長い廊下を歩く。

 王宮の造りは似て非なるものだなぁ、とルピアはぼんやりと考えていた。

 あの国の王宮も、来賓として向かった時はこのように長い廊下を歩いたものだと思い返す。いい思い出ばかりではないが、楽しい思い出も少なからずあった。


「(やめましょう。…考えるだけ、時間の無駄だわ)」


 歩きながら緩く、ほんの少しだけ首を横に振るとルパートが心配そうにルピアに小声で話しかけてきた。


「姉さん、大丈夫?」

「えぇ、大丈夫。…ちょっとだけ、向こうの王宮を思い出していたのよ」

「そう?ならいいけど…」


 無茶はしないでね、そう付け加えてルパートは改めて背筋を真っ直ぐにして歩き始めた。


 あぁ、どこの国でも王宮というものは息苦しいのだろうか。

 そう思いながらルピアは背筋を真っ直ぐに伸ばして歩いていく。

 隣を歩くルパートは、思っていたよりも平然としている。あれ?と思いルピアが見ていると、エスコートしてくれているルパートと視線が合った。


「大丈夫だよ、姉さん」

「…え?」


 にっこりと微笑んで、しっかりとした口調でルパートは続ける。


「俺は、どんなことがあっても姉さんの味方だ。大丈夫、自慢の姉さんなんだから」


 些細な一言。

 ルピアを励ますために言ってくれた言葉が、じんわりとルピアの心に染みわたっていく。

 大丈夫、と自分に言い聞かせ、到着した扉の前で一家は止まった。


――さぁ、始めよう。


 ぎぎぎ、と音を立てて扉が開かれた先。大勢の貴族が並び待ち受ける更に奥。

 親戚の顔ではなく、一国の王の顔で、ロッド=リ=クアが待ち受けていたのだった。

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