表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
219/596

019

「くぁ……」


 大欠伸を浮かべながらも、既定のルートに沿って見て回る。


 三章で手を止めておくべきだったと後悔しても、もう昨夜に戻る術はない。

 読書のために削られてしまった睡眠時間が戻ってることは決してない。


 せめて人通りの多い店内であれば眠気も覚めたかもしれないが、自身の今日の担当はそちらではなかった。

 立ち入り禁止の表示を無視するような人物も、これまでと同じようにどこにもいない。


 朝、入口の方で見掛けた賑やかそうな四人組のような話し相手も今はいない。

 あの落ち込んだ様子の少女がどうなったのかだけが、気がかりだったが。


 たまの通信も、最低限の確認だけ。その程度の事で、今更驚ける筈もない。

 土日にしては客入りの少ないこの日、異常が見つかる筈もない。


 幸い、もう少しで休憩時間。


 その時間を最大限活用して休ませてもらうことに決め、自らの背中を押す。

 こんなところで眠りこけては上司に大目玉を食らってしまう。それだけは何としても避けなければならない。


 何か少しでも変わったことがあればいいのにと、思わずにはいられなかった。

 退屈なあまり、思わず刺激を求めてしまった。


(……んっ?)


 ――まるで、そんな願いが叶ったように異変が現れた。


 物陰から偶然聞こえてきた、小さな物音。

 気を付けていなければ聞き落としていたかもしれない、微かな音。


 そちらに近付くにつれ、物音は次第に大きくなっていく。

 おかげで、小動物が紛れ込んだわけではないことだけはすぐに分かった。


 聞き間違いなどではなかった。確かに、そこに何かがいる。


 一体誰が、どうやってこんなところまで。

 在庫補充にやって来たにしてはどことなく不自然な――身を隠すような動作に、不信感は強まる一方。


 得体の知れない存在への恐怖と、好奇心。

 せめぎ合う二つの感情が、ますます足を前へと進ませる。


 決して、物音を立てることのないように。

 これではどちらが侵入者か分かったものではないと思いながらも、足は止まらない。


(……うわぁ……)


 ――そうして、段ボールの影に蠢く人影を見つけた。


 しゃがみこんで、地面を何度も叩いている。

 それが一体どのような意味を持っているのか、まるで分らない。


 どれだけ低く見積もっても、中学生――いや、高校生。背格好からして男だろう。

 足の長さから見ても、小学生ということはまずあり得ない。


(……っ……?)


 しかし、そこにいる彼から、並々ならぬものを感じた。


 辺りに明かりはほとんどない。元から、そういう場所として使われている。

 今日初めて訪れたわけでもない。この場所の暗さに恐れる筈がない。


 その薄暗さを差し引いても、やはりおかしい。

 そこにいる彼にこれ以上は近付いてはならない――そう、何かが訴えかける。


 馬鹿馬鹿しいと切り捨てることもできそうにない。

 怪談の中に出てくる妖怪たちが、目の前に現れた。その表現が、最も的確。


「駄目じゃないか。ここは関係者立ち入り禁止だよ」


 ――それでも、意を決して身を屈める人物に声をかけた。


 声をかけてはならないと思う一方で、声をかけなければならないとも感じていた。


 そこにいる彼を放置してはならなという確信めいた予感が、そうさせた。

 声をかけて、ここまでの使命感があったのかと、自分で自分に驚いた。


「君、どうやってここに入ったのかな? このお店の人じゃないよね?」

「……違う……」

「やっぱり。……そういうことなら、一緒に出ようか。少し、詳しい話を聞きたいから」


 ――……こっそり忍び込んだにしては、素直な子だ。


 ゆっくりと立ち上がって、彼は静かに振り返った。

 その時やっと、彼の表情をはっきり見ることができた。


 落ち着き払っているように見えても、顔立ちにまだ子供らしさが残ってる。

 年齢も、多分あの子達と同じくらい。


「……違う……」

「違う? 何が違うのかな。さっき、このお店の人じゃないって言わなかった?」


 ……それなのに、どうしてここまで身体が震えるのか分からない。


 私服姿ではあったけど、見た目はどこかの高校生。

 その筈なのに、そうとは思えない威圧感。こんな息苦しさ、今まで感じたことがない。


「さっきの話が『違う』なら、このお店の人? 悪いけど、それなら見せてくれるかな。カード。持ってるよね?」

「……違う……」


 よくよく考えてみれば、さっきから、同じ単語を繰り返してばかり。

 だけど、そのことへの苛立ちよりも、恐怖が大きい。


「――オマエ、違う」


 まるで、得体の知れない化け物に見られているような。


 ――暗く靄がかかっていく視界に、二つの紅い点が映った気がした。






「ったく、天条もスミに置けねーよなぁ。ちゃっかり同棲してやがるなんてよー」

「同棲なんかじゃないっての。まだ言うか」


 小城が頼み過ぎてしまったポテトも、なんとか食べきることができた。


 もう少し時間がかかっていたら、人ごみに巻き込まれた。

 さすが休日。ここから更に人も増えるんだろう、きっと。


「っつーかさ、俺だけ仲間外れって酷くね? 東雲も知ってたんだろ?」

「う、うん……天条くん達が来た次の日に、お姉ちゃんと……」

「そのくらいで仲間外れも何もあるか」


 そもそも、東雲先生が話そうとしなかったんだから。


 何度か確かめてみたけど、どこまで知っているのか未だによく分からない。

 橘さんも、どういう情報を伝えたのかこれっぽっちも教えてくれない。


 それでも、いずれは話していたんだろうけど。


「仲間外れって言ったら、私の方が……私だけ、元からここに住んでたんだし……」

「それを言ったら……俺の場合は、初期値が最悪だったとか?」

「アレに鍛えられていたというだけでも十分でしょう。いい意味でも……悪い意味でも」


 その割には、『いい意味』らしさを感じない。

 あんな言い方をしているのに、これっぽっちも感じない。


 デタラメエピソードばかりを思い出しているのが手に取るように分かる。……俺も同じようなものだけど。


「最悪だったって……それ、さすがに冗談だろ? んなわけねーって」

「あるんだよ、これが。……まあ、その話はまたいつか」

「いつかっていつだよ」

「一週間、小城が朝食を抜くことなく、一度も遅刻しなかったら」

「こんにゃろ、ここに来てそれ掘り返すか……!?」


 お返しだよ、この野郎。

 あれからもう一時間経ったのに、あの話題を掘り返すから。


「別に? 俺はあくまでチームメイトの体調を気遣っただけだよ」

「嘘つけ。その顔、絶っ対ロクでもないこと考えてんだろ」

「いやいや、まさかぁ」


 あとから期間延長をしてやろうとか、そんな姑息なことはこれっぽっちも考えてない。


「一週間やれば済む話なんだから。こっちにも色々と準備があるんだよ」

「……言ったな? 絶対だかんな?」

「もちろん。嘘だったらポテトでもなんでもかかって来い」

「それオメーが得するだけじゃねーか!!」


 残念、外れ。

 食べ切れない量を押し付けてやればいいんだから。


 ……押し付ける側の財布は大変なことになるだろうけど。


「へーんだ、そこまで言うならやってやんよ。即行で終わらせて――」


 それでも小城が挑戦状をひったくろうとした、まさにその時。



「――だ、誰かぁああああっ!!?」



 つんざくような悲鳴が、辺りに響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ