表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リジルと深愛の空  作者: 夜長
29/29

番外編 エルダの場合

サブキャラ視点。侍女魂たくましいエルダさんの邂逅。


 私の名前はエルダ。ここ、ジルベール家にお仕えする侍女の一人。


 ここ本邸には旦那様と奥様、次男のアレク様が住んでいる。長男のセオ様は中央に勤務されていて、別邸に住まわれており、こちらにはいらっしゃらない。また、三男のノアル様は密命にて現在は国外におられる。

 

 その日は朝から小雨が降っていた。雲行きから午後には上がるかしらと、侍女のサンティエと共に仕事をしていたら、執事のクロードが来てノアル様が帰ってくるとの報告を受けた。


 帰っていらっしゃるのは実に何年かぶりで、しかももう一方、女人を連れてくるというのだ。


「あのノアル様が女人を?」


「本当ですか?ああ、だから今日は雨が⁇」


 驚愕を隠せない私たちに、クロードは受け入れの準備を伝えると、自らも準備のためにその場を去っていった。


「サンティエ、大事よ?」


「エルダ、明日は嵐かしら」


 失礼極まりないことを二人で話しつつ、とにもかくにもお部屋を準備しなければといそいそと廊下を歩く。

 ノアル様の部屋に近い客室をサンティエと二人であれでもないこれでもないとメイキングしていると、奥様のリリアン様が鼻歌を歌いながら入ってこられた。


「エルダ!庭から花を摘んできたの。これを活けて頂戴」


「まあ。奥様自ら積んでらしたのですか?」


「だって、私嬉しくて。あのノアルが、女の子を連れて帰るんですよ?奇跡よ。奇跡としか言いようがないわ!」


 可愛らしい色とりどりのしっとり濡れた花たちを受け取ると、奥様は顔に両手を当てて、うっとりと明後日の方向を見ていた。


「ああ。どんな子なのかしら。名前はリジルというらしいわ。今から楽しみね。早く帰ってこないかしらあ」


 ワクワクが止まらない奥様が1人妄想の世界へ旅立たれたのを横眼に、私は渡された花を花瓶に活けていた。


「エルダ、ちょっと来て」


「どうしたの?サンティエ」


「クロードの話では、連れて来られる方は病院からという話でしたわ。水差しなども準備した方が良いですよね?」


「気が利くわね。お願いできる?私は少し厚めの毛布を準備して来るわ」


 二人でああでもない、こうでもないと午前中いっぱいをかけて準備しおわり、わずかな休憩に昼ご飯を詰め込む。しばらくして、お出迎えの準備をと声がかかり、私はサンティエと共に、玄関へと急いだのだった。




「お帰りなさいませ。アレク様、ノアル様。連絡を受け、既にご家族お揃いでお待ちになっておりますよ」


「クロード、久しぶりだな」


 久しぶりのノアル様は薄汚れていて、髪も髭もぼうぼうだった。山越えをしてきたからか、白かったであろう白衣は薄汚れて、まるで浮浪者である。


「ノアル様、お元気な様子で安心…と言いたいところでございますが、先に入浴とお召し替えを。さすがにそのままでお会いにはなられますまい。そちらのお嬢様も。エルダ、サンティエ、こちらのお嬢様を」


 準備は万端。いざ、お嬢様とご対面。ノアル様に腰を抱かれて立っていたのは、小柄な、こちらもノアル様に負けず劣らずな汚れた格好の少女だった。痩せこけた頬に、青白い顔。すぐに休養が必要だと判断するには、十分だった。そして…


 磨けば光る。


 侍女の感がそう告げている。うずうずする体をどうにか抑え、サンティエと共に、クロードの前へ出た。


「お任せください」



彼女は1,2歩後ずさった。サンティエと共に、脇を抱え、あれよあれよという間に奥の客室へと連れて行く。あまりの軽さに、眉間にしわがよるが、それよりもまず、綺麗にしてベッドへと連れて行くという使命感が先立ちいっぱいだった。

部屋に入り、そのまた奥の浴室に入ると、身ぐるみをはがし、そして、風呂へと連れ込む。

彼女は状況についていけないのか、ぼんやりと辺りを見渡していた。私は腕まくりをしながら、手ぬぐいを持って彼女の目線に自分の目線を合わせたのだった。


「お嬢様、お初にお目にかかります。ジルベール家侍女ナンバー2のエルダにございます。すべてお任せくださいませ。サンティエ!」


「同じくジルベール家侍女ナンバー3、サンティエです。お嬢様をこれから、磨きに磨きをかけ、最高のレディにしてみせます」


「リ、リジルです。あの、お手柔らかに…?」


最初は人に手伝ってもらう風呂に抵抗を示していたが、途中から体の力が抜ける。見ると、彼女は気絶していた。


「エルダ、大丈夫かしら」


「そうね。体を洗ったら、ベッドへ連れて行きましょう」


風呂に浸けるのは危険と判断し、私は彼女の体を洗っていく。青白い素肌に胸から腹部にかけて大きな傷があるのを見て、私もサンティエも思わず息をのんだ。


「エルダ、これは」


「まだ、きちんと治っていないようね。とりあえず綺麗に流しましょう。あとでノアル様が処置に来るでしょうから」


帰ってきたときに、ノアル様がリジル様を大事そうに抱えていたのを思い出して、私はそうサンティエに言う。サンティエも頷いて、その後はもう素早く素早くリジル様をベッドへとお連れしたのだった。



「サイモン様、奥様、リジル様はお疲れもあり現在は寝ておられます」


「まあ、大丈夫なの?」


用事で帰りの遅くなった夫婦に、私は状況をお伝えする。風呂で見た傷のことも報告した。


「それはノアルから聞いたよ。ユダーで、内戦に巻き込まれてノアルの病院に運び込まれたって。一時は危なかったらしい。そうだな、ノアル」


今には夫婦の他に、アレク様とノアル様もいた。ソファに座って、眉間にしわが寄っている。風呂と着替えをしてきたためか、先ほどの浮浪者感はなくなり、年相応に見えた。


「まだ傷が完全に治りきっていないし、本当はもう少し休ませたかったんだが、昨日の火事で仕方なくな。しばらくは静養だ」


ノアル様の言葉に、その場にいた全員が頷いた。


「で?」


リリアン様の一言に、ノアル様が目を上げた。


「あの子はノアルのお嫁さんになってくれるのかしら?」


口に含んでいたお茶を噴きそうになって、ノアル様はゲッホゴッホと咽ている。


「そうだよなあ。普通、患者だからって、彼女一人連れてくるのはおかしいものな。お前、その気があって連れてきたんだろ?」


サイモン様も奥様に便乗するように言った。


「もしその気があるなら大歓迎よ。きっちりばっちり私が磨いてみせるわ!」


「母上、俺はそんな気で連れてきたわけじゃ」


「じゃあどういう気で連れてきたの?同情?憐れみ?そういうの、良くないと思うわよ?」


リリアン様の言葉に、ノアル様は、うっ。と詰まっている。


「まあ、ノアルの気持ちがどうあれ、せっかくリジルちゃんが来たんだから、精いっぱいおもてなししましょうよ。母上」


アレク様が助け船を出して、追及は終わった。結局ノアル様の気持ちはよく分からずじまい。ノアル様の困惑した表情をみながら、きっと、まだ自覚してないのだろうなと私は思う。


時間はまだたくさんあるのだ。これから、ノアル様の気持ちも、リジル様の気持ちもきっと育つだろう。


そう、この侍女である私が、磨いて磨いて、磨きまくって、ノアル様に自覚させてやる。

この時、私はそう誓ったのだった。





「エルダ、ボーっとしてどうしたの?」


ハッとして見ると、彼女はきょとんとした表情で私を見ていた。ノアル様と結婚されて十数年。リジル様は、本邸から少し離れた一軒家に住まわれている。私とサンティエは侍女として、お二方の結婚後、本邸を辞してお仕えしていた。


「いえ、奥様がユダーから旦那様に連れられてきた時のことを思い出しておりました」


「懐かしいわね。あの時は私、かなりあなたとサンティエに怯えていたのよ?」


「怯えていたのですか?」


「だって、クロードの後ろから出てきたあなたとサンティエの目が、まるで獲物を狩る猛獣のように光っていて、びっくりして後ずさったもの」


思い出したようにクスクス笑って、奥様はなおも続けた。


「でもね。すごく感謝してるの。エルダにもサンティエにも。ジルベール家の人たちがいたから、今の私があるわ。本当にありがとう。まさか、結婚してからもこうやって支えてくれるとは思ってなかったわ」


「奥様を輝かせるのは私たちの使命ですから」


私が力の限りをこめてそう告げると、奥様は私の手を取って言った。


「本当に。ノアルに会って、生かされて、こんなに素敵な侍女にも巡り合えて、嬉しい」


涙を浮かべた奥様はそれはそれは本当に綺麗で。


お仕えして良かったと心から思える瞬間が、生活の端々にあって。私はこれからもこの方をお支えするんだと、誓いを新たにしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ