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リジルと深愛の空  作者: 夜長
28/29

おわり


 教会の門の外、緊張しつつも、リジルは前を向く。


「緊張してるかい?」

「はい。でも、嬉しいです」

「私も緊張しているよ。何せ、娘の結婚式など、初めてだからね」


 にこやかにそう話すのは、リジルを養女に迎えてくれた、宰相、ミハエル・ヴィーネンド公爵だ。腕にかかったリジルの手をポンポン叩く。


「入場するだけだ。参列者は芋か何かと思ったらいい」


 まさかの発言に、リジルはポカンとする。


「うん、その顔も可愛いよリジル。あー、嫁にやりたくない」

「ふふ。式直前にブルーですか?」

「そうだよ。男親なんてものはみんなそうらしい。今まで分からなかったが、今はよくわかるよ」



 婚約から3か月、慌ただしく過ぎた時間の後、今日リジルはノアルと結婚する。


「思えばこの1年ちょっと、いろんなことがありました」

「そうだね。でも、それらは今この時に繋がっているんだ。君に出会えてよかったと私は心から思うよ」

「私も、こちらに来て、本当に良かったと思います」


「そろそろお時間となります。こちらまでお願いいたします」


 係りの者に言われて二人は門の前まで移動する。


「リジル、これからが人生だ。幸せになりなさい」

「はい。ありがとうございます」


 開かれた門を通り抜けると、両サイドにたくさんの参列者がいた。ジェイドやアレクが軽く手を振ってくるのに微笑みを返しつつ前に進む。


 ミハエルからリジルの手を受け取ったノアルは、笑顔で迎えた。

滞りなく式は進み、証明書にサインをする。


「ここに、ノアル・ジルベールとリジル・ヴィーネンドの婚姻を証明します。皆さま暖かい拍手を」


 司祭より告げられ、二人は夫婦となった。会場は暖かい拍手に包まれる。


「リジル、一緒に幸せになろう」

「はい。貴方の隣で、幸せを一緒に作っていきたい」


 ノアルが急にリジルを横抱きにしたので、周囲もリジルも驚くが、より一層の喧騒に包まれる。

 フラワーシャワーが降り注いで、二人の門出を祝った。


 たくさんの笑顔と、幸せの中、ノアルとリジルは二人で作る人生を歩み始めた。

  






‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐





 いい天気が続いている。息子が嫁と子供たちを連れて遊びに来た。

たくさん笑って、美味しいものを食べて、隣に愛する人がいて、とても幸せ。


ああ、この幸せがあとどれくらい続くかしら。


 思えば、あれからもう20年近く経った。子宝にも恵まれて、一番下の子が、今年ようやく独り立ちした。


 貴方も医者を引退して、今はこの静かな家で、私と二人で暮らしている。

 白髪が混じり、顔に皺も増えたけれど、優しい眼差しはあの頃と変わらない。

 老後の楽しみで、二人で近くの丘に白い花を植えた。元々そこに植わっていた花を株分けして、少しずつ増やしている。兄さまや両親のお墓がある丘にはもう参ることができないから、せめてこちらで花を植えて、ここから毎日祈りを捧げるようになった。


 あの頃と変わらず、貴方はいつも私を支えてくれる。私も支えになっていればいいのだけど。


 私たちが結婚して、新居に移った時に、エルダさんもサンティエさんもそのまま一緒に移ってくれて、仕えてくれた。

 そんな二人はあーだこーだ言いながら、いつも着る服を選んでくれた。二人には感謝しかない。


 穏やかな時間の中に、笑いが絶えない。

 今日も平和な時間が過ぎていく。


 ありがとう、愛をくれて。

 ありがとう、優しさをくれて。

 ありがとう、人を想うことを教えてくれて。


 だから今日書くこれが最後の日記になったとしても、

 私は明日もあなたの傍で、貴方と共に生きていたいと思うの。



 親愛なるノアル()へ    

リジル




 母が書いていた日記をそっと閉じて、彼女の腕の中へそれを置いた。

むせ返る花の匂いの中、その顔には微笑みが浮かんでいる。


「母様、寝ているみたいだ」

「本当。良いお顔だわ」

「おばあ様起きないね」

「ヨハン、おばあ様はね、もう起きないんだよ」

「どうして?」

「それはね、命を燃やし尽くしたからだよ。命を燃やしつくしたらどうなると思う?」

「わかんない」

「ずっと覚めない眠りにつくんだよ。今まで頑張ったご褒美を神様がくれるんだ。よく頑張ったね、ゆっくりお休みって」

「じゃあ、おばあ様は頑張ったんだね。いい子いい子」


 ヨハンがそっとリジルの額を撫でた。

その光景に、夫婦は薄っすら涙を浮かべる。


「おじい様の隣に寝かせてあげようね」

「そうだね。おじい様も喜ぶね」





 セルフィーユの郊外の丘には毎年小さな花が咲く。それは年々数が増えて、今では辺り一面が白い花で包まれた。

 それは、その近くで暮らしていた夫妻が、毎年株分けをして、少しずつ増やしていったものをその死後、息子や孫が引き継ぎ、毎年見事な花を咲かせている。

 

 今ではすっかり花の名所としてその名を国内外に知らしめている。


 近所に住む人々はその場所をこう呼んだ。



 リジル(祈り)の丘と。 



           完





本編完結となります。

拙い文章および趣味投稿をお読みくださりありがとうございました。

リジルとノアルがまじめな分、周りがちょっとはっちゃけておりました。それを書くのが楽しかった。

モルダーでの王位争いは書くと長くなりそうだったので、省略いたしました。

今後番外を書くかは未定です。

夜長

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