黒猫隊のデイブレイク
また今日も変わらずに朝が来た。
最近、俺は朝が嫌いだ。
まぁ早起きしてマラソンするのは習慣だとして、だ。
朝と言うと輝かしいイメージがある。
俺は鼻摘まみ者、日陰者だ。
輝かしい光に包まれて自分の価値を暴かれてしまいそうで…眩しいのは嫌いだ。
下賤な者は下を向けと言い知れぬ強制力が俺に命じるのだ。
だが、俺は恥を抱えながら生きよう。
そう決めた。
愛すべき夜を待つ生活が始まっていた。
「あ、れ、レイちゃん」
「何だセルファ?俺に何か用か?」
「…何で女の子にカッターを突きつけたの?僕はそう言うの…嫌だな」
人にどう思われようと関係ない。
「セルファ、お前は今誰を見てる?」
「え、何言ってるのレイちゃん。僕はちゃんとレイちゃんを…」
違うな。
セルファ、お前が見てるのは今の俺じゃない。
お前にナイツ・ゲームと言う救いを与えたヒーローとしての俺、過去の美化した記憶だけを見ている。
それは最早偶像崇拝でしかない。
現実に即していない。
「…セルファ、教えてやるよ。人は変わるんだぜ?」
「でも、レイちゃんは暴漢にも立ち向かったし、勇気があって優しいままだよ。レイちゃんはレイちゃんだよ」
「立ち向かった?違うな。俺は逃げたかったんだよ…。でも状況がそれを許さなかった。俺は竦んで、殴られただけだ。外聞を気にしたパフォーマンスの一種って言えば分かるか?」
「そんな…」
セルファは涙ぐみ女子は殺気立つ。
セルファは傲慢にも無自覚に俺を抉るのだ。
そんな女子の殺気には笑顔で返した。
その笑顔はまるきり偽物で、果たしてその裏にはどんな顔があるのか。
修羅か?それとも隠し切れない憎悪に濡れた瞳か。そんなことを考えさせるような歪な笑顔に女子は一切の口を閉ざす。
「…アスレイ。良かったのか?」
「ああ。これで良い」
リューザスは一応互いに気まずいが話している。
何度も謝罪されたのは困りものだったが。
結局、リューザスは部活に残留した。
メギア先輩が頑固なリューザスの祖父に直談判をして勝ち取ったらしい。
金銭面はセルファ個人ーなんとセルファは株で儲けていたのだ。ーから捻出された。
リューザスは固辞したが、セルファが自分のエゴから始まった事だと一切譲らずにリューザスが折れたのだ。
そして、今回ナイツ・ゲーム部を辞めた人間はー。
「辞めて良かったのか?アスレイ」
「二言はないな」
俺だった。
俺は初心に立ち返ったのだ。
俺はエースになりたかった。
他にも上級生のイジメが始まった事も理由の一つだが。
◆◆◆
あの日からテンプレートになったもう一つの俺の日常。
「よぉ、黒スケ」
「気安いな、しけ面」
夜の暗い河川敷。
俺たちは二人で他愛無い事を話した。
互いに過去は詮索しないし、互いに上部だけの話をする。
とても空虚な時間。
だが、本音しか語らない。
上部でありながらその実は本質にも遠巻きに繋がっているのだ。
だから、楽しいし、苦ではない。
「辞めたのか。部活」
「ああ、清々したな」
キチガイ同士の傷の舐め合いではない。
「じゃあ、これで正式に行けるな」
これは野望。
俺がエースに返り咲く為のイニシエーション。
自販機で買った二本の炭酸飲料の片方を黒スケの額に当てる。
黒スケは乙女らしからぬくぅー冷てえな!という声を出しながら受け取る。
「んじゃ、俺たちのチーム。『黒猫隊』結成に…」
「「乾杯ッ!」」
ブシュゥ!!
プルタブを捻ると茶色みがかった泡が勢いよく噴出して俺たちの顔を汚した。
「あはは!!しけ面だっせえ!!」
「煩いな!大体黒スケだって人の事言えねえじゃねえかよ!!」
こうしてこの日、たった二人のナイツ・ゲームのチーム、『黒猫隊』が結成されたのだ。




