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消えた弟  作者: しおやき
第四章 結 消えた弟

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 「すいません、お待たせしました」


 話がひととおり終わって、予定していたとおりご飯を食べに行くことになった。少し緊張が解けた俺は急にお手洗いに行きたくなったため先にトイレへ。


 「大丈夫だよ。お腹減ってる?」

 

 トイレから出てきた時、真っ先に目に入ったのは塚内さんの顔だった。妙に険しい、何かを考えるような表情で眉間にしわが寄っていた気がする。

 

 「多少は・・・そうですね」

 「そっか。じゃあ食べに行こう。お金は気にしなくていいからね」

 「・・・はい」

 

 思ったけど、財布も何もかも俺は持ってない。スマホだって取り上げられてる。外との連絡手段がない俺に、付き添いの警察官の人の携帯を借りるのもなんか気が引ける。


 (というか、そもそも貸してくれるものなのか)

 

 今は話をする相手がいるからいいけど、夜になって部屋で一人になったらどうなるのだろか。テレビでも見て過ごすしかないけど、夜という時間帯が酷く怖くて仕方がない。


 (・・・電話・・どうしよう)


 あの時、別室で14年前のことを聞いた後、部屋を出る手前で俺の兄の秋人という人に電話番号が書かれた紙を渡された。


 『何かあったらかけてこい。絶対だぞ』

 

 何もないからかけなくてもいいとは思うけど、逆にこれから()()()()()のか?不安になりながら足立さんに続いて部屋を出た俺は、後にいる塚内さんに見つからないようにポケットにしまった紙切れを少し握りしめた。

 

 「・・・あの、すいません」

 「ん?何かな?」

 「足立さん・・・か塚内さん、どちらでもいいのですが、兄の秋人って人・・・どんな人か分かりますか?」

 「秋人くんかい?」

 「はい。俺・・・ずっと自分が兄だと思ってたんで、まさか自分が弟で、兄がいるなんて知らなくて・・・」


 一番上だと思って過ごしてきた自分の上に兄がいると言われても、接し方がわからない。というか・・・。

 

 「さっき警察署で会った時、かなり怖い印象受けたんですけど・・・いつもあんな感じの人なんでしょうか」


 終始相手を威嚇するような言動だった彼。

 怒りっぽい人なのか、もしそうだとしたらめちゃくちゃ関わりたくない。はっきり言って俺とまるっきりタイプが違うから、会うたびに萎縮してしまいそうだ。俺の質問に、エレベーターに乗り込んでから足立さんと塚内さんは考えるように少しだけ首を傾げた。


 「・・・多分普段は違うと思うけどな〜、如何せん彼が学校で友達といる時の姿を知らないから僕は何とも言えないかな」

 

 (それは・・・そうか)


 関わる相手で態度が変わるのは当たり前だから、こんな質問しても意味がないのかもしれない。塚内さんが話した内容を聞いてそう思った。


 「秋人くんは、昔はあんなんじゃなかったよ。確かに友達といる時と、我々と接してる時は態度が違うけど、昔はあんなに尖ってなかったかな」

 「そうだったんですね。僕が初めて会った時は彼は既にあんな感じでしたからね〜。時間がそうさせたんですかね」

 「・・・尖ってなかったって、どういうことですか?」


 足立さんは秋人という人のことをよく知っているらしい。確か、警察署で初めて会った時、足立さんのことを『おっさん』とか言ってたような。


 「塚内が言うように、時間の経過がそうさせてしまったのもあるかな。あとは我々警察の態度もかもしれん。昔は、思いやりがあって優しい子だった。僕達と話す時もあんな感じじゃなかったよ」

 

 ため息混じりに話し始めた足立さん。

 その声色には罪悪感が見て取れた。

 

 「一人で悶々としてただろうな。竹川に様子を随時聞いてたんだが、小さい時はおじいさんの家に行くようによく言われてたから竹川とはあんまり時間を過ごせてなかったようだね。中学生になってからは、夜は一人で竹川の帰りを待ってたらしい。夜ご飯も一人が多かったって聞いた」

 

俺達が乗ったエレベーターは、1階に着くまで止まらず誰も乗ってくることはなかった。


 「部活もせず、お母さんが入院してる病院に、おばあさんとほとんど毎日かよって」


 そして思ったよりもすぐに到着した1階。

 

 「おばあさんが亡くなられてからは、一人で学校帰りにお母さんに会いに行っていたらしい。事が事だっただけに同級生に相談することも、弱音を吐くこともできなかったからね。きっと・・・一人でずっと戦わせてしまってたんだと思う」

 

 足立さんが話し終わった数秒後、扉が開いたエレベーターの中は、虚しくも静寂に包まれていた。

 

 

 

 




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