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消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

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8月8日 夕方



  

  突然何処かから聞こえてきた声。


 (・・・・・え、は?)


 咄嗟に動きを止めたのはもはや条件反射で、固まってから数秒して息も殺した。

 

 声の出どころが分からず、何が起こってるのかもすぐに判断がつかなくて、とりあえず手を机の先に伸ばす。ただ机の上の電気を消したその行動は、暗闇に戻った部屋の怖さを余計に増殖させるものでしかなかった。


  (・・・・え?誰?父さん?嘘だろ?)


  もしかしたら空耳だったのか。


 というか本当にそうでなければやばい。今更すぎるやばい事に気が付いた。確か鍵をかけていない。差し込まれたら開いていることにすぐに気が付くだろう。


 (・・・や・・・やばい・・やばいっ)


 心臓がバクバクとなる音が妙に大きく聞こえてきた俺の手は新聞を持ったまま。引き出しも開いた状態で、入られて電気をつけられたらもうそこで終わりだと思った。


  (・・・・)


 だけど聞こえてきた声の次は、何故か無音で何も聞こえてこず。

 

 しばらく動きを止めていた俺は、もしかしたらと淡い期待を抱いたけど、数秒して聞こえてきた焦ったような声でそんな願望も秒で打ち砕かれた。

 


 『お父さん、・・・はぁはぁ』

 『ん?あぁ、母さん。どうかした?』

 『・・・ごめんなさい、人が来たみたい。私出たほうがいいかしら』

 『え?人?・・・誰だ?』

 『分からないわ。ドアを蹴られてるみたい、怖いから早く行ってちょうだい』

 『なんだって?分かった。こうすけは?姿が見えないんだが』

『こうすけなら部屋に居るわ。夏休みの宿題してるはずよ』

『そうか、分かった。ちょっと行ってくる』

『えぇ』



  (・・・・・母さん・・・?)


 息を殺し、耳に神経を集中させて聞いていた部屋の向こう側の会話。

 せわしなくすぐにバタバタと遠のいていく足音がして、また静かになったその時、急激に鳴り出した自分の心臓の音が、浅く震える呼吸と重なり体中から汗が吹き出した。

 


 「・・・・はっ」


 なんだか良く分からないがとりあえず難を逃れたらしい。 すぐに部屋から出ないと戻ってきた父親と鉢合わせしそうだと思った俺は、新聞を引き出しに戻して立ち上がろうとした。

 

 (人が来たってなんだよ、しかもドア蹴られてるって・・・そんなことより早く出なきゃ・・・・)


 そして、ポケットの中にヘアピンがあることを確認しようとして手を突っ込んだ瞬間、『あっ』と思い出したように口が開いた。



 「・・・・・あれ」


 (あれ・・・・なんか)



 ここに来て、大切な何かを思い出しかけた。



  「・・・やば・・・え・・・」 

 

 

 一瞬ごちゃごちゃになった頭。でも冷静に考えると最初から気にしていなければいけないことだった。


 そしてどうしようと考えたところでこればっかりはどうしようもない。入ることばかりを考えていて、出る時の事を一切考えていなかった。

 厳密に言うと、出る時のことはただ見つからないように出ればいいとしか考えておらず、それ以外のことをまるっきり失念していた。

 


 「・・・鍵・・・・って閉めないとだめだよな」

 


  泥棒ではない。


 中に侵入してそれで終わりなんてあり得ない。入る時はかかっていた鍵を出る時も同じ状態にしておかなければいけない。

 ヘアピンで鍵穴に差し込んで鍵をかけることなんてできるとは思えなくて、ここでも頭を抱えた。

 

 せっかく過ぎ去った緊張感に、今度は後を追いかけるようにして後悔がやってくる。今更焦ったってしょせんは後の祭りだ。



 このまま出て見つからないように部屋に逃げ込み、知らない振りをしてお父さんの前に現れて、最後まで白を切りとおすか。


 「・・・とりあえずここから」



 物理的に無理なことを考えても答えなんか出ないことに、俺は焦りながら止まらない汗で濡れた服に体温を奪われ体が震えだしそうになってしまった。

 

 「どうしよ・・・っ」


 

 待て、落ち着けと、一旦冷静になれと、自分に言い聞かせてから、ぐちゃぐちゃになった思考で手を口元に当てた。


 (・・・・そうだ、鍵)


 部屋の何処かに鍵があるかもしれない。

物置の鍵もこの部屋から取ってきたという母親の言葉を信じれば、変な話引き出しの鍵も棚かどこかに隠されているかもしれない。

  

  「・・・早くしなきゃ」


 そんなことを思いながらも、正直鍵を探してる時間なんてないと思っている自分が居て、頭の大部分は見つかった時の言い訳を考える方に思考が持っていかれていた。

 


 だけどそんな体たらくな考えもどうせ無駄に終わるだろう。

 自分の計画性のなさというか、浅はかな考えで突撃して首を絞めることになるなんて。

 

 父親に怒られるだけならまだしも、けいすけの事があるから正直ストレスも溜まってる父親に何をされるかなんて分からない。


  「はぁはぁ・・・・っ」


  臭いが鼻について、気分が悪くなったのもあってしゃがみこんで引き出しに手をついた。

 それにしてもなんでこんなものを。お母さんが掃除に入ったら驚愕するというか、びっくりしすぎて気絶するんではないかと思いながら、引き出しの鍵穴を指で触った。

 

  (・・・こんなんでどの鍵かなんて分からんか)



 そして深呼吸して少し慣れてきた暗闇に目を動かそうと、顔を上げたちょうどそんな時。


 (ここから出ないと)



 今度ははっきりと、空耳ではなく俺を呼ぶ声が、顔を上げた先に見えた暗闇に入り込んでくる光の方向から耳に届いた。

 


 「こうすけ・・・?こうすけここにいるの?」

 

 (・・・・え?)


 

  ガチャと突然開いたドアに小さな声。

 気が付く暇もなく、躊躇なく開かれたその扉からは今までにないほどの切羽詰まったような囁く声が部屋に響き渡った。 


 (・・・・・は?)



「こうすけ!!いたら返事して、お父さん戻ってきちゃうから、いるなら早くここから出てきて!!」


 聞こえてきたのは女の人の声で、さっき走り去って行った足音の主のうちの一人のはず。

 

 「こうすけ!」

 「・・・か、母さん!?」

 「あ、こうすけ!!いた、良かった。早く!お父さん戻ってきちゃうわ!」

 「・・・・」


 聞き慣れた母親の声に思わず返事をした俺は、怒られるかと思った彼女の呼びかけに戸惑った。


 「な、なにしてんのっ?!」

 「こっちのセリフよ!そんなこと!それより早く!」

 「でも、引き出しの鍵を」

 「いいから、いいから出てきて!」


 頭の中がごちゃごちゃしたまま、お母さんの焦る声に咄嗟に意味の分からない行動をとってしまった俺は床に散乱した紙のことも気にせずに立ち上がりドアのほうに向かった。

 

 「鍵・・・早く閉めなきゃ・・・こ、こうすけ、あなた手に何持ってるの?!」

 「え?」


 開いたドアから抜け出すと、うろたえながらも鍵をかけようとして手をもたつかせている母親がそこに居て、俺はその彼女の様子を気にしながらも、今にも階段から上がって来るかもしれない父親が怖くて階段の方をチラチラと見ていた。

  

 「何って何が?」

 「それよ!!何?袋?」

 「え?あぁ、これは・・・・父さんの机に」


 しまった。

 軽くパニックになり思わず手につかんでいたらしいお父さんの机上にあった袋。


 「・・・・えっと・・・・布?」

 「あぁ、もうどうしよう、お父さんすぐ戻っできちゃうから戻してる暇なんてないわよ」

 「え、っていうか訪ねてきた人って誰?」


 人が来たのなら話し込んでるはずだ。間違えであるのならすぐに戻ってくるだろうが、こんなとこに知らない人なんて訪ねてくるわけがない。


 「いないわよ、そんな人!」

 「・・・はぁ!?え?何?どういうこと?!」

 「こうすけが部屋にいないから、もしかしてって思ってよ。とりあえず部屋に戻って!それは後で母さんが戻しとくから」


 そんなことを言う彼女に気圧されて、手に持ったものを呆然と渡そうとした時、リビングから声を出しているであろう父親が大きな声で叫んだのが聞こえた。


 「母さん!!誰も人が居なかったよ!!念のために家の周りを見てくるから、ちょっと出てくる!」

「わ、分かったわ!!」


 母親を呼ぶお父さんの声で緊張感が走り、彼が話す内容を聞いてふたりしてホッと肩を撫で下ろした。このときばかりは彼が用心深い性格で有り難いと思ったが、それと同時に別の疑問がわいてくる。


「・・・・・ねぇ」

「なに?」

「父さん、帰って来るの早くない?まだ6時にもなってないよね?」

「あぁ、それは」



ピーンポーン 


 

 「・・・・・え」

 「だ、誰?」

 「・・・わ、分からないわ・・・お父さんと入れ違いかしら」

 「入れ違い?さっき出ていったばっかだろ?」

 

 

 お父さんが家を出ると言ってから、一分も経たないうちに、誰かが訪ねてきたことを知らせる呼び鈴が鳴った。

 


 

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