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消えた弟  作者: しおやき
第三章 転

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46/73

8月8日 朝



 昨日の夜、あの後、お父さんは買い物袋を両手に抱え家に帰ってきた。お母さんが頼んでいたらしい。

 スーパーに行ったこと以外は特に何も話すことはなく、お風呂に入りご飯を食べてから、浮かない顔をして自室に向かいずっとこもっていたようだ。




「・・・おはよう」

「おはよう」

「・・・お父さん」

「ん?」


 顔色が悪い気がする。

交わした朝の挨拶は穏やかに返事をくれたように聞こえるけど、険しい顔に新聞を持つ手は少し痩せ細っている感じがした。

 微かに動く指に合わせて浮き出る骨が、俺の方に向いているその手の甲からはよく見える。


「大丈夫?」

「・・・・何が?大丈夫だよ」


 (ほんとに?)


 ふと合った目が不思議そうに俺の質問に反応して、喉元まで出かかった言葉は彼が続けて口を開いたことで打ち消されてしまった。


「そういえば、昨日何も話さずに部屋に行ったから・・・・ごめんね。けいすけの居場所が掴めなくて。別の人に・・・それとなく佐藤さんのことについて聞いてみようかなって考えてるんだ・・」

「・・・・そっか」


 ため息まじりに肩を落として新聞を置いたお父さんは、箸を持つ手に力が入っていなくて明らかに疲弊しているように見えた。


「・・・こうすけ・・・佐藤さんは誰と仲が良いが知ってる?久下さんとたまに一緒にいるのは見かけるんだけど」

「久下さん?・・・あ〜、確かに・・・」


(前にスイカ貰った時も久下の爺さんからって言ってたもんな)


 そういえば、スーパーで母さんと久下さんが話していたのをけいすけは横で見ていた。

 卵がなんとかって言ってたような。


  (・・・卵?)


 はて、そういえばお母さんはなんであの時嘘をついたんだ?卵は冷蔵庫にあったのを父さんも俺も確認した。

 後で聞いてみよう。そう思って一瞬浮かんだ疑問はすぐに頭のすみによせた。



「ん〜、でも正直おっちゃんの交友関係は俺は詳しくは知らんよ」

「そうか・・・」

「ねぇ、本当に大丈夫?」

「あぁ・・・大丈夫だよ」

「ならいいけど・・・今日は・・・・何時に帰ってくるの?」

「そうだな・・・、まぁ遅くはならないようにする」 

「・・・・分かった・・・けいすけ・・・ちゃんと見つかるよね?」


 せめて普通に外に出られる状況であれば、誰かに相談できるのに。父親の姿を見ているとまるで母親のようになりかねない。


 抜け出すことも可能だけど、前みたいに変なやつに会ってまた都合よく誰かが助けてくれるなんて、そんなことは起こり得ないだろう。


 そうなったらけいすけを探すどころじゃなくなる。そもそも不審者なんていないと言い切ったお父さんの言葉はどこまで信じていいのだろうか。



 「・・・大丈夫だよ」


 力なく笑ったその笑顔は、光の加減なのか、顔の骨に皮膚が貼り付いてるだけのような顔に一瞬見えて、くぼんだ目の下にできたクマは余計に俺を心配させた。


 

「気を付けて、行ってらっしゃい」 

「うん。行ってくる」


 結局お母さんが作った朝食にさほど手を付けることなく仕事へと出掛けて行く父親を俺は玄関で見送った。




 (・・・・あと2日間・・・)



 父親が夜すぐには家に帰ってこないことを確認したかったけど、曖昧な返事に具体的な答えを求める質問を再度するのもおかしくて、そのまま流してしまった。


 「・・・時間・・・今回は気にして動かなきゃな」




======





 

「母さん」

「・・・ん?なにかしら?」 


 週末が来るまであと2日。

 お父さんが外に居る時でないと、彼の部屋に入り込めない。


「朝ごはん俺も手伝うよ」

「あら、ありがとう」


 お父さんの残りはお母さんが食べるらしい。

 俺の分を作ってくれようとして、台所に立って調味料を探している母親の後ろをとおって、冷蔵庫を開けた。


「あのさ・・・そういえば、覚えてたらでいいんだけど」

「うん?」

「すき焼き食べた次の日、卵買いに行くってスーパーに行ったろ?」

「・・・・」

「冷蔵庫に卵あったんだけど、なんでまた買いに行ったの?」

「・・・・え?」


 体を起こして俺のほうに向いた目は、なんのことたが分からないと言わんばかりに俺を見つめてきた。

 でも、俺が首をかしげて冷蔵庫から卵を取り出した瞬間、母親の視線がその卵に移り、数秒してから顔を背けた。


  

「・・な、なんのことかしら」

「・・・・・ごめん、なんでもない。ちょっと気になっただけ。覚えてないならいいや」

「・・・・」


 (あんまり・・・刺激すると良くないかもだけど)


 彼女の様子を伺うに、多分思い出したのだろう。あえて聞かないのは別に優しさでもなんでもない。

 


「・・ごめん、もう1つ聞いてもいい?」

「・・・えぇ、なにかしら」

「お父さんの部屋って何が置いてあるの?」

「・・・・・お父さんの部屋?」

「うん」

「・・・・え〜・・・特には・・・普通のものよ。机と、棚と・・・あと・・・ん〜それくらいかしら」

「・・・棚って机に引っ付いてる?」

「それもあるけど、大きな本棚が壁のほうにあるのよ。どうかした?」


 (この質問は大丈夫なのか?)


 「え、いや・・・前に入るなって言われたから・・・ちょっと気になって。それに物置の鍵、父さんの部屋にあるって言ってたから。母さんは父さんの部屋入ったりしてもいいんだと思って」

「あぁ、そういうことね。えぇ、掃除を頼まれてるから、週に2回ほど入ってるわよ」

「へー・・・引き出しの中とか見たりとかもするの?」

「見てないわよ。引き出しの中に用事はないし、それに鍵がかかってるから」


 (・・・・また)


 普通に質問に答えてくれている。


 ということはけいすけが見たものを彼女は見たことがないということか。そして引き出しの中身は何が入ってるかももちろん知らない。


「・・・・そっか」

「そんなことより、朝ごはん食べましょう。こうすけは目玉焼き食べたい?」

「ん?あぁ・・・・目玉焼き・・・にしようかな。ごめんちょっと先にトイレ行ってくる。ご飯は自分でよそうから」

「分かったわ」



 用を足したあと、少ししてからリビングに戻るとお母さんが先に席についていた。そして何故か俺の分も準備してくれていたらしい。


「・・・ごめん、ありがとう」

「いいのよ」


 向かい合わせになるように彼女の反対側に座り、準備した朝ごはんをテレビを見ながら食べた。

 夏休みだから普段とは違う番組をしてるようだけど、学校がある日は朝からゆっくりテレビなんて見ないから違いがよくわからない。


 会話もそこそこに食べ終わると、すぐに片付けて俺は宿題をすると言って2階へと上がっていった。


 


 

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