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偽りの悪女ですが末永く幸せになりましょう~お望みの"恋多き女"を演じているのに夫の様子がおかしい~  作者: 柊 一葉


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番外編:旅の休憩

クラッセン公爵領から王都へ向かう途中、馬たちの休憩のために湖へ立ち寄った。

散歩でもしようかと思っていたら、グランディナさんが「釣りをしませんか?」と提案してくれたので私もマイラも初めての釣りに挑戦することに──。


「餌は虫や食材の余りを使います」


グランディナさんは手際よく針に虫をつけると、釣竿を渡してくれた。


「えっ、わっ」


受け取るところまではよかったけれど、虫の動きにつられて糸が揺れるから慌ててしまう。


「ぴょんぴょんしてる!」

「リネット様、早く水の中にそれを!」


グランディナさんの助言で私はどうにか湖の中に針を垂らすことはできた。でもイメージよりも随分と手前にある。


「これ……釣れるのかしら?」


マイラと共に困り顔で竿の先を見つめる。

本当にこれで合っているのか、正解がわからない。


「はい!マイラも」

「あっ……ありがとうございます」


グランディナさん、私、マイラの3人分の糸が青い湖に並ぶ。


ときおり水が跳ねる音がして小さな波紋が広がるから、魚がいることは間違いない。

ただ、しばらくしても私たちの竿に反応はなかった。


「ここの魚は警戒心が強いですね~」


グランディナさんが苦笑いでそう言った。


「公爵領では貴族令嬢も釣りを嗜むんですか?」


私が尋ねると彼女は首を横に振る。


「いえ、私くらいです。我が家は自由な家庭でして、幼少期は剣と乗馬の稽古が終わればアルフレイド様やダナンと遊んでいました」


夏は釣りや木登り、冬はソリで雪遊びをしていたらしい。


「すごく楽しそうですね!」


「はい、楽しかったです。でもそのせいで淑女教育が進まずダンスも楽器も語学もさっぱりで……アルフレイド様とダナンは何でもできるので私みたいなことにはなっていないんですけれど」


ちょっと悔しがるグランディナさんがかわいくて私とマイラはくすりと笑う。


「そういえばグランディナさんってダナンさんと恋人同士なんですか?」


私たちのお披露目のときも一緒に踊っていたので「もしかして?」と思って聞いてみると、グランディナさんはぎょっと目を見開いて強く否定し始めた。


「いえいえいえ!!あり得ません!!ないですないです!!」


「そんなに」


声音も表情も本当に嫌そうで、私の勘違いだったらしい。


「私はかわいい系の男性が好きなんです。守りたくなる、笑顔に癒される感じの!」


「かわいい系ですか?それってアルフ……」


「アルフレイド様のことがかわいく見えたことは一度もありません」


先に言われた!

うん、グランディナさんからアルフレイド様への恋心を感じたことはまったくないけれど……それはいいことなんだけれど……。あんなにかわいくてかっこいい人なのにどうして?

私の頭には疑問が浮かぶ。


「リネット様!竿が!」


「!」


マイラが湖の方を見ながら突然大きな声で叫ぶ。

私もその目線の方向を見てみると、釣竿の先端が上下に揺れていた。


「えっ!?これって魚が」


「奥様、軽くあおって!竿を立てて!」


どういうこと!?私はどうすれば!?

慌てふためいているとグランディナさんが私の手に自分のそれを重ねて支えてくれる。


「リネット様がんばってください!」

「んん~!」


懸命に吊り上げようとするのに魚は激しく抵抗する。


「初めての釣りだし……!絶対に釣りた……きゃあ!」

「リネット様!」


私の願いとは裏腹にぷつんと無情な音がして、私の体はゆっくりと後ろに倒れていく。

これはまずい。

そう思った瞬間、グランディナさんが自分の持っていた竿を放り投げて私を抱き締めるようにして支えてくれた。


「奥様、大丈夫ですか?」


「は、はい」


「魚は残念でしたね。けれどきっと次はうまくいきますよ」


グランディナさんの笑顔が輝いて見える。

かっこいい!!素敵な人だって知ってたけれどこんな風に助けられると物語の王子様みたい!


思わずきゅんきゅんしていると、背後からアルフレイド様の困惑気味な声が聞こえてきた。


「釣りをしていると聞いて来たんだが、この状態は一体……?」


今やって来たアルフレイド様には私がどうしてグランディナさんに丁重に抱えられているのかわからないみたいだった。


グランディナさんは少し誇らしげにアルフレイド様に言う。


「奥様をお守りするのが私の使命ですから!」


「なぜだろう、妙にイラっとする」


私はグランディナさんの手を借りながら体勢を整え、笑顔でアルフレイド様に提案した。


「さっき釣れかけたんですけれど糸が切れてしまって……アルフレイド様もご一緒にいかがです?」


危うく転ぶところだったなんて恥ずかしい。

照れ笑いをする私を見て、アルフレイド様は優しく微笑んだ。


「様子を見るだけのつもりだったんだが、リネットがそう言うなら」


「ぜひ!」


アルフレイド様は私とグランディナさんの間に並び、休憩時間が終わるまで一緒に釣りをしてくれた。

結局、一匹も釣れなかったけれどとても楽しい思い出になった。


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