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5.

「ロ、ロレイン様ああああっ!!」


 荷解きが終わる頃、ティオンの叫び声がした。


「どうしたんですか?」


 いきなり部屋の扉が開いたので、ロレインは急いで顔をあげた。ティオンは背後に女官を二名従えている。


「皇帝陛下が……ジェサミン様が、三時間後にこちらにお渡りになります……っ!」


「お、お渡り? 謁見ではなく?」


「私ももう何が何だか。こんなことは初めてです。と、とにかく急いで身支度を始めましょう。お前たちは、ロレイン様の入浴をお手伝いして」


「「はい!」」


 二人の女官はすっかり頭が混乱しているらしい。彼女たちは右と左からロレインの腕を引っ張った。


「さあロレイン様、お召し物をすべて脱いでくださいっ!」


「それからこの布を体に巻いて、蒸し風呂に入って頂きます。汗を流して、体から不純物や毒素を取り除くのです」


「ラベンダー水で汗を流し、次に石鹸で体を洗います。ローズマリーの葉から抽出されたエキスで髪を洗い、卵でヘアパックをします」


「最後に、三種類の香油を使って全身マッサージです。一分一秒も無駄にはできません!」


「わ、わかりましたから、せめて同じ方向に引っ張って……っ!!」


 専用の浴室に連れていかれ、ドレスをひん剥かれた。ロレインは小さく抗議の声をあげたが、興奮しきった女官たちは聞く耳を持たない。

 蒸し風呂で強制的に汗を出し、冷たい水を浴びた。温かい湯につかった後は、女官たちの手で体中を洗われた。羞恥心から何度も叫んだが、やはり無視された。

 洗髪が終わり、マッサージに移行する頃には、ロレインは悟りの境地に達していた。せっかく最高級のバスグッズが揃っているのだから、開き直って楽しむしかない。


「さあ、全身ピカピカになりましたよ。お肌が柔らかくなって、いい匂いがして、敏感になっているのがわかりますでしょう?」


「お部屋で休みながら、髪を乾かしましょうね」


 居間に戻ると、見知らぬ女官がひとり増えていた。彼女はテーブルの上に冷たいハーブティーや果物を並べてくれた。


「こちらのハーブティーは、お風呂上がりの水分補給に最適です。リラックスしたせいで空腹を感じておられるかもしれませんが、陛下のお渡り前ですので。クエン酸が豊富な果物を、少量食べるだけにしておきましょう」


「はい……」


 ロレインは言われるがまま、ハーブティーに手を伸ばした。

 風呂係の女官たちは、ロレインの髪をあっという間に乾かしてくれた。タオルと紙を駆使していたが、どちらも抜群の吸水力があるらしい。


「あと一時間しかありません。ヘアセット、メイク、ドレスの着付け。ここからは怒涛の勢いで行くわよ!」


「「はい!」」


 ハーブティーの女官が言い、風呂係の二人が答える。どんどん高まっていく彼女たちの興奮に煽られて、頭がぼうっとしてきた。


「どうせ『お前を愛することはない』って言われるのに、ここまでする必要あるのかなあ……?」


 ロレインの声は、誰にも拾って貰えずに宙に溶けた。

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