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32.

 三つ子のおかげで勇気を得て、ロレインは皇后として目覚めた。ヴァルブランド宮殿が我が家だと思えるようになったのだ。

 八歳から十年、ずっとマクリーシュ王宮の女主人となるべく教育を受けてきた。思いがけずヴァルブランドの皇后になったものの、ずっとお客様状態で。

 楽しいことだけやって、ぶらぶらしているのは気が引ける。とはいえ、いきなり権力を行使し大きな顔をするのも図々しく思えた。宮殿の人々に不愉快な思いをさせるのが怖かったのだ。

 しかし三つ子を守り導くためには、環境を整える必要がある。単に守り役を増やすだけではなく、宮殿内の各方面をロレイン自身の目で点検しなくてはならない。


(私は皇后。唯一、皇帝と対等な立場の女性。職務上の責任を果たすために、大胆にならなくては)


 宮殿内の『正妃の部屋』には、立派な執務室も用意されている。ヴァルブランドの紋章入りの便箋や封筒、封蠟を施すための印璽、最高級のインクペン、書類の決裁に使う印章なども、きちんと準備してあった。

 ロレインは意を決し、執務室に各方面の責任者を呼び寄せた。

 まずは皇族専属の医師に、三つ子の体の状態について事細かに説明してもらう。


「──よくわかりました。最新医学だけでなく、古代から受け継がれる生薬も取り入れているのですね。弟たちの体調を細やかに気遣ってくれて、とても嬉しく思います。ところで、体調が安定しているときの運動療法をどう思いますか? カルは日に日にわんぱくになっていますし……」


 皇族居住棟の料理長には、先月のメニュー表を提出してもらった。


「弟たちの食事ですが、よく考えて準備していますね。三人が食べたがらない食材は、栄養学的に代替しうるものを使っていることがわかります。これからは、少しずつ食わず嫌いを直していくつもりです。来月のメニューのたたき台ができたら、私のところへ持ってきてください。それからお忙しい陛下のために、手早く食べられる栄養食を充実させましょう」


 次に知恵の宝庫である書庫の司書長。


「歴史の感じられる素晴らしい書庫ですね。膨大な量の書物を維持管理するのは大変な作業ですから、ヴァルブランドの知識を守る司書の皆さんは尊敬に値します。ところで、シストは本の中の知恵を探求するのが大好きで、すでに聡明さを発揮していますね。西のマクレア王国には、子供向けの図鑑が充実しているとか。マクレア語なら私が読んで聞かせられますし、書庫に取り入れてみてはどうでしょう?」


 そして宮殿の各ブロック管理をしている責任者たち。


「宮殿はどこも素晴らしい状態に保たれていますね。手入れの良さから、宮殿を支える役割を担うあなた方の誇りが感じられます。ただ、目につかない部分の点検間隔が長すぎますね。エイブは想像力が豊かで、衝動に素直に従うタイプなので、うっかり隠し扉や秘密通路に入ってしまう可能性があります。手間をかけますが、鍵に緩みがないか再点検してみてください」


 ロレインは新たな自分に生まれ変わったかのように、真摯に皇后としての務めを果たした。いや、自分らしさをようやく解き放つことができたと言うべきか。

 考えるべきことは多いし、新しいルールを浸透させるのは大変だ。しかし臆することなく自分の意見を伝え、使用人たちの意見にも耳を傾ける。彼らの要望を検討し、熟慮の上で決断を下す。かつてないほどの充足感だ。

 使用人たちはロレインを信頼することを覚え、執務室に活気がみなぎるようになった。問題があればすぐに伝えてくれるし、意見を求めに来てくれる。

 三つ子たちとの出会いから二週間が経つ頃には、宮殿は『新時代』に突入していた。

 久しぶりに会った四人の親友が、ロレインを見て目を丸くする。


「私たちが婚活で忙しくしている間に、ロレインってば神々しいまでに美しくなってる……」


「元から綺麗だったけど、いまはオーラがあるっていうか。すごく存在感があるわね」


「ええ。ひれ伏したくなるような威厳が、陛下にそっくり」


「宮殿の人たちが、敬愛に満ちた目で見ているものね。居心地がよくなって、活気に満ちているのは、ロレインがリーダーシップを発揮しているからなのね」


 ロレインが宮殿に入ったばかりの時期に、精神的に支えてくれた彼女たちの言葉が嬉しい。


「すべて弟たちのおかげなの。あの子たちの笑い声が響く宮殿にしたい、幸せな姿が見たいって、誰もが協力してくれるし。三つ子はみんなから愛されているから」


「愛されているのはロレインもよ。陛下のオーラに耐えられるからだけじゃない、結ばれるべくして結ばれたんだって、宮殿のみんなが言っているもの。本当なら絶対に出会わないはずの二人だったのに、人生って不思議ねえ」


 シェレミーの言葉に、残りの三人がうなずいた。

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