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18.

 呼び出しを受けたことをマクリーシュからの一行に伝えるため、すぐにケルグの部下が呼ばれた。

 ケルグがいくつか指示を与えているのを聞きながら、ロレインは目を閉じた。


(エライアスは、やはり面子にこだわるのね……)


 自ら婚約破棄を言い渡したロレインが、サラとの結婚式の直前に格上の存在になってしまったのだ。語り草となるはずの男爵令嬢との恋物語は、この一大ニュースの前に霞んでしまう。

 一週間後の結婚式には、諸外国からも大勢の賓客を招いているはずで──幸せを見せつけるためのイベントなのに、このままでは恥を晒すための場に変わってしまうだろう。

 好ましくない状況に対処するため、代わりとなる娘たちを送り込んできたのも無理はない。


 ロレインはプラチナブロンドと緑の瞳、そして抜けるように白い肌の持ち主だ。ヴァルブランドの人々と比べると、かなり色素が薄い。マクリーシュは冬の日照時間が極端に短いせいか、皮膚や髪の色が薄くなるようだ。

 エライアスもやはりプラチナブロンドで、瞳は青い。サラは少し暗めの金髪だが、瞳はロレインと同じ緑だ。


 つまりロレインと似たような色合いを持つ娘が、マクリーシュにはたくさんいる。ロレインが気に入られたのだから、他の娘も気に入られるだろう──王族たちがそう考えたことは、推して知るべしだ。


(私ですら、ジェサミン様のオーラのことは知らなかったから。粗野で獰猛で残忍なお方で、気に入らなければ容赦なく追い返す。ただそれだけだと思っていたし)


 目を開けると、ちょうどケルグの部下が出ていくところだった。


「ロレイン様。御尊父様であるウェスリー・コンプトン公爵について、ご報告させていただきたく存じます」


 ケルグが姿勢を正して口を開く。

 ロレインは背筋を伸ばし「ええ」と答えた。


「公爵の身が危険に晒されることが無いよう、我らと共に出国してはどうかとご提案したのですが。領民に対する責任があるので、それはできないというご返答でした」


「そうですか……とても父らしい言葉です」


 父は公爵であることをとても誇りに思っていた。コンプトン公爵領の民も、父のことを心から慕っている。

 ウェスリーはロレインに残された最後の家族だ。母が病気で命を落としたとき、ロレインはまだ五歳だった。

 公爵位は遠縁の青年ジェイスが継ぐことが決まっているが、彼はいま隣国に留学中だ。他に領民たちを守れる者がいないのだから、父が出国を断ったことは意外ではなかった。


「父はいつも言っておりました。領民が懸命に働いているから、我が家が潤っているのだと。自分の肩には領民や家臣の生活がかかっていて、彼らを幸せにしなければいけない責任ある立場なのだと」


「はい。ご尊父様からは、決然とした意志が感じられました。王族が信用できず、誠実さも感じられないからこそ、マクリーシュに残って領主としての責任を全うすると……」


 ケルグの言葉を聞いて、ジェサミンが小さく唸った。


「さすが、お前の父親だ」


 ロレインはつい気が緩んで、目に涙がこみあげてしまった。慌てて手で目元をぬぐう。


「公爵が不利な状況に追い込まれないよう、連れて行った皇の狂戦士の半分に当たる三十名を残してきました。公爵が駆け引きの駒に使われることも、領民に悪い影響が及ぶこともないでしょう」


 賢明な判断だ、とジェサミンがうなずく。


「皇の狂戦士を攻撃することは、ヴァルブレイン帝国皇帝たる俺への、言わば宣戦布告だからな!」


 ジェサミンははっきりと力強く、尊大な口調で言った。なんとも頼もしい言葉だ。


「ロレイン。マクリーシュの連中が来るまで少し時間がある。もっと華やかな衣装に着替えてこい。お前には、堂々とした姿で俺の隣にいてもらわなければ!」


 公の場で本音を顔に出さない訓練を受けているのに、このときばかりは泣き笑いのような顔になってしまった。

 涙で少しばかり化粧の崩れたロレインに対する、ジェサミンの思いやりが嬉しい。


「ありがとうございます、ジェサミン様」


 ロレインはしとやかに席を立ち、謁見室の外に出た。廊下で待っていた三人の女官が寄ってくる。彼女たちがあっという間に美しくしてくれることは、十分すぎるほどわかっていた。

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