番外(流星2)
ふと、それに気がつく。何時からあるのか。小さな目印だった。
言葉ですらないその言伝。
仲間内で使っていた、手っ取り早くその意志を伝えるに何時からか使い出した記号だった。
確か大元は彼女だった筈だ。思い出すのは僧侶の服を着込んだ彼女ではなく、幼い頃の姿だった。
今となってはもう遠い過去にしか過ぎず、あの頃を懐かしむかのように記された言伝に嘗て此処に立ったのであろう友を思う。
時を経てなお消えぬようにと岩を削り、その上からあの小さな隣人が末期に施したのであろう精霊魔術。
友人と共に在ったあの精霊は此処で最後を迎えたのであろう。この小さな目印の為だけに恐らくはその生命を懸けた。
此処に己が立つはただの偶然、行動を共にする人狼の鼻を頼りに訪れただけの事。
間違えようもなく己に当てたであろう友が残した言伝に首を傾げるは当然の事であろう。
そこでふと気がつく。
最初は三人で行動などしていなかったのかも知れぬ、と。
己一人ならば今、此処に立つ事など無かった筈。
背後でブツブツと不満を呟く人狼を見やる。
何の因果か、魔王とヴァンパイアハンター、元とはいえ勇者である己が共にあるなどと当時を知る者であれば目を剥こう。
それがあの友人が時を捻じ曲げた結果によるものか、それとも遍く因果など捩じ伏せる存在によるものか。
どちらでも構わぬ。運命に抗ったその先にこそ本当の運命がある。
神の導きに従いかくあれかし。
剣を抜く。己の技量に付いてこれる剣とは貴重なものなれど。之を捨てるに躊躇は無い。
遥か向こう、微かなその気配を確かに捉えた。
何が居るのかは知った事ではない。
友が道を示す、そして其処にあの禍ツ神の気配も在るならば。
神剣紅薔薇、その嘆きは今この時に為に在ったのだ。
どのような者達がこの剣の為にその魂を捧げられたか、己が与り知る所ではないが。
彼方に在る光の気配に喰らいつけるならば本望であろうと信じた。
投擲した流星の一撃、その先に未来が在ることを誰よりも信じている。