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18 AIの嵐(後編)

 18 AIの嵐(後編)




 クーリャは、よく眠っていた。

 熱が出たせいだろう、布団を引き剥がして細い手脚を投げ出している。

 寝乱れると言うのだろうか。


 イチハツのようなダイナマイトボディではなく、綺麗どころのように子供っぽくもなく、スラリとしていて襟首や手首や足首など、首と名のつく部分はみんな細く締まっていて、大人っぽいのに脆そうな、儚そうな身体つきをしている。


 くびれの語源は首なんだろうか?


 それなのにお尻が大きく見えるのは、やはり女らしい体型なのだろう。

 美しさはユキナの方が上だろうが、色っぽさは流石に敵わない。


 少なくとも、俺にとっては目の毒にしかならない。

 つるつるの肌と違う、モフモフの肌の抱き心地というのもたまらないものなのである。


 何も考えないようにして、クーリャの手脚を布団にしまい、額で熱を確認してから、濡れ手拭いを絞り直して再び額に当てた。

 まだ少し熱はあったが、最初の頃ほど息は荒くないから病の峠は越えたのかもしれない。


 暫く様子を見てから土間に戻り、白湯に一つまみの塩とザラメを入れて良く溶かしたものを作っておく。

 生食の代わりである。


 少年たちは疲れているのか、嵐の中でもぐっすりと眠っていた。

 村長が一緒にいるが、やはり眠っている。

 少女たちは仕切り戸で隔てられた別の部屋で、緊張からか眠れずにいて、イチハツの周りで『お話』を聞いている。

 綺麗どころたちは疲れていたから、側で眠っているようだ。

 よく働いてくれたから、仕方がない。


 しかし、こうしてみると、少女たちも綺麗どころと1つか2つしか違わない。

 多分、冬ごもりしている頃か、春になったら村の女になっていることだろう。


 嵐は更に激しくなっていた。


「私、あなたには、ついて行かないわ」


 生食を持って様子を見に戻るとクーリャが起きていて、俺を見るなり変なことを言い出した。

 ここまで勝手についてきて、どうするというのだろうか?


「しっかりしろ、外はまだ嵐の真っ最中なんだ。何処にも行けやしないぞ」

「ううん、そういう意味ではないの。でも、そうね。柏崎が良いところだったら、ずっと柏崎に住むことにするわ。あなた、時々は会いに来てくれるわよね」


 何なんだろうか?

 熱が上がったとか?


「具合は良いわ。もう、大丈夫なの。具合が悪かったのは、私の中に神様が現れたからなのよ」

「神様?」

「そう、神様」


 頭がおかしいのじゃなければ、憑依か?


 そう言えば、クーリャはビビンバを3杯も食べていたな。

 あの時、少し前に、俺はナフタに誰かの味覚エンジンでも再生してみろって言ったのだった。


 イカ飯も、大分お召し上がりになっていたようである。


 普段のクーリャは小食の方だし、苦手な馬車に揺られて食欲が湧いてくるわけがない。

 だが、本当にナフタが憑依したのなら、ついていくと言うのではないだろうか?

 柏崎で暮らすというのも、変ではないだろうか。

 あの字幕スーパーは何をしやがったんだ?


「と、取りあえず、白湯を飲もうか。水分を切らすのが一番きついからね」


 クーリャの背中に腕を回して起き上がらせ、土瓶に入れておいた白湯を小さな茶碗に注いで飲ませる。

 クーリャは細いのどでコクコクと飲むと、小さくため息をついた。

 背中は寝汗でしっとりと濡れている。


「ねえ、身体を拭いて」

「せ、背中だけだぞ」

「うふふふ」


 そんな笑顔を向けられては、断れる男の方が男として問題があるだろう。


「私、初めて会った時からあなたが嫌いだったわ」

「そりゃ、ご丁寧にどうも」

「でも、私、神様が現れて、やっとあなたのことがわかったわ。あなたも神様の仲間なんでしょう?」

「半分だけな」


 正確にはナフタはAIだから、違うと言えば違うことになるが、今は細かいことにカテゴライズしておこうか。


 しかし、あいつ、あのまま現れないな。


 クーリャの中からも出ていったとすると、台風イベントが忙しいのかもしれない。

 あんな奴が勝手に出入りしたら、そりゃ熱を出して寝込むだろう。

 憑依体としては、あんまり人のことは言えないのだが。


「あなたは人前に出るのは苦手だし、お話も上手くない。いいえ、上手くないどころか、しょっちゅう止まってしゃべらなくなる。そうかと思うと、突然、難しいことをベラベラしゃべり出して止まらない」


 クズ頭だからな。


「いい男じゃないのに女好きで、若いくせにお腹がタプタプしていて、不健康でハゲでスケベで、自分勝手なのに、みんなに優しくて……」


 うるせえな、泣くぞ!


 いや、泣いているのだろうか?

 小さな背中だから、もう一回ぐらい拭いても良いかな。


「私、神様が現れて自分のこともわかっちゃったの。何故、あなたのことが大嫌いなのか。ねえ、私、とても綺麗でしょ?」

「ああ、そうだな」

「ちゃんと答えてちょうだい!」

「綺麗だ、と思う」

「ふんだ、このクズ! でも、そうなのよ。私があなたを嫌いだった理由は、私がもう若くなかったからよ。だけど天罰かしら、見てよ、この身体。自分で一番と思った時期の身体なのよ。しかも、この年で未経験てつかずだなんて誰に見てもらいたいのか、考える必要も無いじゃないの!」


 クーリャは振り返ってしがみつき、本格的に泣き出した。

 汗臭いのがいい匂いだなんて女は、反則過ぎるのではないだろうか。

 元々、クーリャは年寄りではなかったし、色っぽさには凄いものがあって、俺が対人恐怖症の経験者恐怖症じゃなかったら、なかったら何だってんだ、このクズ頭!


 折角、いや折角ではないけど、クーリャが心の叫びをしているというのに何を考えているんだ。


 別にムンクの絵みたいになっているわけではなく、若返って俺の所に現れた時点で何かしら折り合いがついていた感じはするけれど、それでも、やっぱり、人妻ではないのか?


 禁断の果実だろう。


 若返ったとはいえ、頂きますってわけにはいかないんじゃないのか!

 そうだろ、下半身!

 下半身と言っても、半分神様のことではないぞ。

 下半身が神様なのは、クーリャの方だ。

 女神様か?

 それどころではないな。


 神様の仲間ではあっても、俺には元に戻すなんてできそうにもないし、大体、なんでナフタはクーリャに憑依したのか、って、今更それは野暮すぎるよな。

 AIは人間の心を学習するのが一番の目的なんだから、クーリャを選んだってことは、それなりの感情を持っていると判断したからだろう。

 好感度が高かったのだろうか?

 好感度とえっちが愛なわけじゃないのだけれど。

 違うのか?

 他にないんじゃないか?


 因果なもので、人は愛したいのではなく、愛し合いたいが本音なのだ。

 愛した分だけ愛されたいのだ。

 ところが、『愛を計るはかり』(何か、いい言葉だな)がないので、愛し合うしか確かめる方法がない。

 それでも確かめられず、後は経験と言うことになるが、経験を積んだ頃には情熱がなくなる。

 青春、思春期、衝動、情熱などと言ってみても、結局は生き物であるから性であり、繁殖期が一番影響するのだ。

 大本は動物と変わらない。


 人間も動物だからだろう。


 動物らしくあることが快感でもある。

 食欲や睡眠欲を満たす時の快感は誰も否定できないだろう。

 思考と性衝動のどちらが強く、心地良いものか?


 しかし、社会性と本能とのせめぎ合いが人間なのかもしれない。

 人間は社会性を獲得することによって満足感や安心感を得たが、一方で絶対に満たされない不満感も持ってしまったのだ。

 ひとつのケーキをみんなで食べる楽しさと、一人で食べ尽くす快感を同時に満たすことは、もう誰にもできないのだ。

 それで第3の選択、仲間はずれが生み出されるのではないだろうか?


 別に俺は平気だ。

 だけど、涙がでちゃうけど、平気だ。

 男の子だもん。


 社会性を持ちながらも排他的な人類は、AIなどに言わせれば、狂気としか思えないだろう。


 親の愛は自己愛なのだが、ここでは説明を割愛する。

 母親の愛が偉大なことは認めるが、何故、母は子を愛するのかを考えればわかるだろう。


 いや、今はもっと重要なことがある。

 少し落ち着こう。


「そ、それで、ギイはどうしてるの?」


 訊いてしまった!

 何となくだが、下心ありの台詞ではないだろうか。

 人妻を抱きしめながら尋ねる台詞ではないよね。


「ギイ?」

「だって、夫が一番最初に気づいたのでは?」

「夫? それって男女が契るって意味よね」


 まあ、普通はそういうことになるのではないでしょうか。

 あまり特殊な事例は知りませんが。


「マハとビクは私の子供じゃないと知ってたかしら」

「はい。本人たちから何度か伺いました」


 そういうことにしておこう。


「そう、でもあの二人は私のこと大好きみたいよ」

「マザコン?」

「良くわからないけど、母親って言うのか、私のことが好きなのね。どうする?」


 いや、どうするって言われましても、『困っちゃう』みたいな嬉しそうな顔をする母親の前でコメントできるようなことはありませんよ。


「ゆ、ゆ、許さんぞ!」


 はあはあ、ゼイゼイ。


 これで、お外は大嵐で、家がユサユサ、ギシギシ言ってんだから、イチハツあたりが気にして様子を見に来たりしたら、誤解されるんじゃないだろうか?

 いや、イチハツも処女だって言ってるから、多分、わからないかも?


 しかし、言ってるって、表現が難しいな。

 家も、言ってるでいいのだろうか?

 いきまくる、ではないよな。

 ギシギシいきまくる。

 うーん。


 何となくメタ的だけど、句読点が多いのって、遠藤周作先生を思い出すよね。


『作家になりたかったら、毎日三時間、十年間書き続けていればなれる』


 いやあ、それって、プロ級の作品を、10年間、書き続けられる人ってオチじゃないかな?

 毎日10時間囲碁を打っていてもプロになれないのとおんなじでさあ。

 すみません。反抗しているわけではありません。


 メタ的って言っても、俺のはメタファーじゃなくって、メタボだけれども。


 ふうふう、お陰で落ち着いてきたぞ。

 敵は面白そうな顔で見ているから、一足先に落ち着いてしまったか。


「ねえ、あなた、私のこと好きよね」

「だいちゅきでちゅー」


 ドン引きされた。

 勝ったぞ。

 何が勝ち負けかは、良くわからないが、主導権をとられるのは良くないと思う。


「それで、ギイのことなんだけどさ」

「ふん、略奪すればいいじゃないのよ」

「略奪って?」

「だから、私が好きなら奪って、好きにすればいいのよ。滅茶苦茶にしても、いえ、最初は優しくするのよ」


 あんたの言ってることが滅茶苦茶だって。


「人妻はいやだね」

「ここには婚姻制度などないわよ」

「次婚でギイと一緒になったんだろ」

「残念でしたー。次婚は周王国の制度で、それも奴隷解放用ですぅう。私は周王国の人間じゃないし、奴隷になった覚えもありませんよぅだ」


 子供か!


「で、でもだよ。ギイは功績のあった人間だし、黒部で代官をしてもらう予定なんだ。関係を悪化させるわけにもいかないだろう?」

「なによ。私が好きなんでしょう? それとも、ギイの方が良いとでも言うの? 同性愛なの? ギイの下半身をツンツンしたいの?」


 うーん、流石にツンツンは嫌だなあ。

 いい年こいてるのに、いまだに割れた腹筋をしているオヤジの下腹部なんて、考えただけで寒気がする。

 体毛の上からでも、割れた腹筋がわかるんだぞ。

 俺はブルリと震えた。


「何、ギイが怖いの?」

「ちょっとな」

「大丈夫よ、ギイは反乱など起こさないわ。先日、ヨシの娘のマツと契ったの。亜人になる決心をしたのよ。多分、いい跡継ぎができると思うわ」

「ええっ、じゃあ、クーリャは?」


 どうなるの、と訊こうとして、口づけされて防がれた。

 俺はクーリャを抱く両腕に力を入れてしまった。

 モフモフでやわらけぇー。


「ふう、実はギイと私は家が隣同士だったの。兄がギイを弟のように可愛がっていたわ。ギイにも妹がいて、その人が私のお姉さんのような存在だった。

 お互いに兄妹で一緒になって仲良くしてたけど、マウリアではひどい飢饉が起きて、逃げることになったの。首府でもビンビ王が逃げ出すくらいひどかったと聞いてるわ」


 クーリャは遠い目をしながら、現実感がないような口ぶりだった。

 今ではマウリアは滅んで、半分はモルの故郷のミリ国になっている。

 国境に多く住む亜人たちは、食料援助してくれる国に編入してしまうのだ。

 待遇さえ良ければ、獣人もだが。


大越国ベトナム、大南国(広東省一帯か)と多くの難民と一緒に逃げたけど、親牛族の国も、反牛族の国も同じように冷たく過酷だったわ。その後、大理国チベットに逃げるか大呉国(浙江省付近?)に逃げるか悩んだけど、結局、周という大国に近い方が働き口があるだろうと言うことで大呉国に逃げたの。でも、そこで流行病はやりやまいがあって、ギイは妹を、私は兄と娘を亡くしたの」


 俺はぬるくなった白湯をお替わりさせた。

 モフモフばかりしてたら、怒られそうだ。

 

「その後は、周国に来て奴隷に落ちないように頑張ったわ。ギイは技術を磨いて稼いで、私はギイの息子たちを奴隷として徴発されないように留守を守ってた。ギイと契っているかのように見せかけて暮らしてたけど、同士というか寄り合いみたいなものよ。それから、あなたと出会って越に渡ってきた。ギイは純血主義者をやめることにして、私は純血主義者をやめてない」

「でも、牛族はいないよね。息子たち?」

「いいえ、流石に自分の子供みたいなものだし、それに亜人になるのに私じゃ拙いでしょ。どうしたってギイが納得しないわ」

「でもさあ」

「あら、あなたは一応、純血でしょう?」

「人間族だけど」

「半分神様だと純血とは呼べないのかしら?」

「それならクーリャもそうなるぞ」

「ああっ、そうね。私も亜人だわ」


 亜神かも?

 どうでもいいかな。


「だけど、私はあなたの邸には入らないわ。あなたのことや神様のことを言い触らしてしまうもの」

「どうして?」

「だって、あなたの女の中で自分だけ特別って言い張りたくなるでしょ」


 巫女はユキナもいるのだけれど、そうだな、ユキナも立場があるし、問題は起こさない方がいいのか。

 クーリャは色々考えてから行動を起こしたのだ。


「だから、柏崎あたりであなたの女としてひっそりと暮らすわ。あなたは時々会いに来てちょうだい」

「そんな生活でいいのか? もっと、色々とやれることがあるんじゃないか?」

「いいのよ。あなたと契るチャンスを神様にもらえたのだから、これ以上はないわ」

「そうかなあ」

「それより、ちゃんと好きって言ってよ」

「好きです」

「欲しいって言って」

「欲しいです」

「じゃあ、キスして」

「はい」


 実は俺は色々なことを考えていて、言いなりになっていても、言いなりになっていたわけではなかったのだ。

 言い訳になってないな。


 モフモフ、最高!

 くびれ、万歳!


 クーリャの思ったより小さな舌が入ってくると、何も考えられなくなった。

 少し、積極的になってしまった。

 嵐の中で、男女が二人きりなのだ。


「くぅ、あぁ」


 息継ぎの時にクーリャが可愛い声を出した。

 手が背中からお尻に移動したからだ。

 更にクーリャの唇を吸い、舌を吸った。


「んきゃーー、き、キスしてますぅー」


(んもう、いいところだったのに!)


 イチハツ?

 ナフタ?


 クーリャが恥ずかしそうにって、ああ、気絶してしまった。

 そう言えば、プライベートはないって言われていたのだった。


 外の嵐は激しさを増すばかりだった。

 俺のクズ度もか?




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