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10 妹の資質

 10 妹の資質




 しかし、ユキナが選ぶ嫁候補は、良く見ると感じが違った。


 俺は、書生たちは大好きだったし、よく風呂を覗きに行ってはユキナに叱られていた。

 羊人のリーメなんかは可愛いし知的だし、話しやすくてずいぶんと親しくなった。


 俺が選ぶなら彼女みたいな娘とか思っていたが、こうしてマリーたちを見てしまうと自分のセンスに自信がなくなってしまった。


 クラスにいた親しみやすい娘と、親たちが厳しく選びぬいたお見合い相手ぐらい違う。


 そんな相手は、どちらもいなかったけれど。


 妄想の中で、


『ちょっと浮気をしてみたいな』

 

 などと思う相手ではなく、


『妄想では止まらないのでは?』


 と思えるぐらいに魅力的な相手だった。

 普段は気づかずにやり過ごしてしまっていても、改めて紹介されると確かに存在感がある。


 ドキリとすると言うか、ズキリとくるというか。

 ふえへへへ、なのだ。


 勿論、紋章のことがあるから浮気など許されないのだが、紋章を浮かび上がらせたいと妄想しそうな相手ばかりだった。


 リーメとマリーが並んだら、何となくマリーが先に前に出てくる気がする。

 押しの強さではなく、決めたら悩まない、みたいな感じである。

 クズは決断力も行動力も欠けるから、恥じらったりするよりいい感じになる。


 同じ知的で幼い感じでも、書生として優れた資質を持つリーメよりも、マリーの方が(クズ相手では)女として何か優れた部分を持っているとしか形容できない。

(紋章が色っぽいからかも?)


 それが何なのかは俺には巧く説明できないのだが、お家の事情で色々と妻を持たなければならなくなるのなら、こうした女の子を選ぶべきだという雰囲気がマリーたちには存在する。


 クズでも安心、ということかもしれない。

 

 それは、色恋というよりも、長い時間、家を守り続ける感じがあるからだと思う。

(それとも、単純に何度もしたいからか? クズリピーターとか?) 


 まあ、女の子はみんな可愛いけれど、みんなというわけにもいかないしなあ。

 みんなでもいいけど……

 みんなは拙いよね。


 てか、最近は性欲まみれで、そればかり考えていて、キモいくらいなのだが、気のせいか女の子たちが集まってくるような気がする。

 需要と供給というけれど、以前のクズには供給などあり得なかった。


『アレはないでしょう』

『いくら何でもねぇ』

『無人島でふたりきりでもいや』

『最後の生き残りでも?』

『死んだ方がマシ』

『鳥肌級よね』


 何だよ、鳥肌級って!

 本気で泣いたぞ!

 男は見た目じゃないんだぞ。

 根性はないし……

 性根は腐ってるし……

 アレは自信ないし……

 やっぱ、駄目じゃん。


 クズは人見知りであり、顔見知り以外とは仲良くできないが、そもそも仲良くしてくれる人がいなかった。

 

 そんなわけで、こっちの世界は天使ばかりである。

 その天使から3人も合格者を出して、うへうへへと、多分気持ち悪い顔をしていたら、


「甘いですよ、クズ兄様《にーさま》!」


 ユキナがそう言って、面白そうな顔をする。

 本当は意地悪な顔なのだろうが、ユキナは美少女なのでそう見えないのだった。


 候補の3人が出て行って3人が入ってきた。


 ほえっ?


 実は面接試験に続きがあったのである。

 しかも驚いたことに、漆原3姉妹である。


 ウエは真っ赤になって俯《うつむ》き、モジモジしている。

 ナカは少しだけ、緊張しているようだ。

 シモはわかっているのか、わかっていないのか?


 それに、兄貴の漆原は知っているのだろうか?

 ちょっとだけ、冷や汗をかいてしまう。


 再び質疑応答があってから、ユキナたちのシンキングタイムがあったが、ウエがふらふらと俺に近づいて来て、倒れかけた。

 思わず抱き留めたが、ウエは涙目で『契ってください……』と言うとキスしてきた。

 俺は驚いたが、視界の端でユキナがうなずくので、条件反射ではなく、危機回避ではなく、何だろう、お許しがもらえた犬か何かのように、ウエの舌を味わってしまった。


 とても可愛かった。


 しかし、それからが大変だった。

 まだ14歳だというのに、いや、冬場で閉じこもっていたから、もう15歳か?

 ウエは限界に来ていたのだ。


「うあああんん」


 モルの時以上に暴れて跳ねて、床を水浸しにして気絶した。

 ユキナとモル以外は驚いている。


「このつらさは、経験しないとわかりませんね」


 モルがそう言って、先ほどの新人3人を使って後始末を始めた。


 俺がウエを隣の寝室に運んで寝かしていると、ユキナが来て、俺の濡れた両腕を丁寧に拭ってから、ウエの介抱を始めた。


「まったく、2度目があるなんて」


 とはいえ、ユキナは自分が痛みを覚えるような経験はしていないから、文句を言いながらも優しくしている。

 モルの時だって優しかったよな。


 既に、ウエの紋章を確認したのだろう。

 勿論、そこには新しい手拭いをかけてしまい、俺には見えないようにしたのだが。

 俺の両腕は、ウエのくらくらするいい匂いがしたが、叱られるのでわざと嗅いだりはしなかった。


 ウエをユキナに任せて部屋に戻ると粗方片付いていて、モルが苦笑していた。

 部屋はひどく女臭く、新人5人がみんな赤くなってモジモジしていた。

 どうやら、匂いはウエのせいだけではないらしいが、原因はウエだろう。


「お兄様はとても良いことをしました。久しぶりにあの感覚を思い出して、何だか嬉しい気分です。変ですか?」

「いや、でも、俺は」


 そうなのだ。

 漆原がどういうつもりなんだかわからないのだ。


「お兄様はクズですね。漆原ではなく、ウエの気持ちの方が大切でしょう?」


 言われてみると、そんな気がする。

 苦しんだのは妹のウエなのだ。

 漆原は何とかしなくてはいけなかったのだ。

 例え、童貞だとしてもだ。

 いや、本当に童貞かも?


「それが妹の資質です。お兄様を大切に想う気持ち、慕う気持ち、そのために我慢すらできる。ですから、ウエの妹たちも大事にしないと」


 モルは恐ろしいことをサラリと言って、サリを連れて出て行ってしまった。


 妹ではなく、妻ではないのだろうか?

 我慢するって、この世界の女の子には拙いことなのでは?


 しかし、ウエは俺のために我慢したのだ。

 本当は、兄の漆原がへたれかどうかなど関係無いのだった。

 苦しいなら、村の誰かを選んで奴隷紋を身につければいいだけなのだ。

 それで、女の集団に入って気楽に暮らしていける。

 ある意味、ルーチン化された女の生き方である。


 しかし、ウエは我慢し続けた。

 そこに価値があるのだろう。

 それは、ウエの妹たちも同じことを繰り返す、同じ資質を持っていると言うことなのか?


 後に残されたのは、5人の赤くモジモジしている新人たちと、俺だけである。

 対人スキルゼロの俺に、5人の少女をどうしろと言うんだ?

 俺には『妹の資質』などは見えないけどねえ。


 すると、多分最年少のシモが寄ってきて、腕を後ろに組んだ。

 いや、最年少はマリーか?

 それにしても、普段は可愛いだけのシモであるが、今日は可愛いだけではない。

 覚悟のようなものが透けて見えるようだった。


「契ってくださいませ」


 白い肌を真っ赤にして、笑顔でそんなことを言われたら、俺はフリーズするしかないではないか!

 キスされて、拒むことってできるのでしょうか?

 それから、漆原兄!

 ちゃんと妹たちを教育すべきではなかったか?

 知らないぞ。


「あっ、ああぁ」


 シモは顔に似合わないほど色っぽい声と仕草で、紋章を浮かび上がらせた。

 流石に床を濡らすようなことはなかったが、真っ赤に色づく『クズの紋章』は、期待以上に美しかった。

 その紋章に触ってみたかったが、クズっぽいので我慢した。

 それは、女の子の身体の中で、一番柔らかいところにあるからだ。


 頭がくらくらしてきた。

 女の子の匂いが更に濃厚になっている。


 いや、おっぱいの方が柔らかいんだっけ?

 しかし、シモにおっぱいを見せてもらうわけにもいかないじゃないか!


 俺が混乱していると、シモより更に白い肌のマリーが来て耳をピクピクさせながら真っ赤な唇を開いた。


「伯爵様、マリーと契っていただけますか?」


 疑問系なのに、答える前にキスしてきた。

 答える前に、応えてしまった。


「うああぁぁんん、いいですぅ」


 マリーは両腕で自分を抱きしめながら、下半身を捩って腰を左右に振った。

 太股に光るスジを見つけたような気がする。

 錯覚だろう。

 マリーは11歳と言ってたではないか!


 がしっ。


 少しふらふらしている俺は、両肩を掴まれた。


「伯爵様。イナと契ってくださいま、うっ」

「ううっ」


 イナは返事どころか、言い切らないうちにキスしてきて、俺は余裕もなく引き摺り込まれていった。


「はあ、はあ、とても、とっても、はあああぁん」


 イナは俺の肩を掴んだまま腰を振り、錯覚ではないものを流した。

 俺はそれを見て嘗めたいと思ったが、劇薬なので何とか我慢してイナの唇を再度奪った。

 もう、自分が正常ではないのだという自覚すらなかった。

 とにかく、柔らかくて熱く火照った身体が欲しくて止まらなかった。

 肉にかぶりつきたいという部分が食欲に似ているから『肉欲』と表現されるのだろう。

 火傷しそうな熱い肉である。


「あっ、伯爵さまぁ」

「はあはあ、もう少し」

「ううぅ、うう」


 イナを力一杯抱きしめてから放すと、崩れ落ちた。

 だが、次のポヌがスタンバっているのだ。

 俺はポヌを捕まえた。


「は、伯爵様、ポヌと契って、うっ,ううぅ」

「ポヌ、ポヌ」


 俺は強引にキスしながら、ポヌの狸耳を撫で、それからお尻を撫で、ついでに柔らかい尻尾までしごいてしまった。

 暴走している自覚はあったが、それは別人格のような気がした。

 都合が悪いことは、別人格の責任でもいいだろう?


「あぁ、うぅ、ああぁ、うぁぁ」


 ポヌは生まれて初めてであろう快感に戸惑いながらも、俺の求めに応じようと涙目で頑張っていた。

 これは、何と可愛らしい。

 俺はポヌをテーブルの上に押し倒し、ポヌの短衣の下から手を入れて、発展途上のおっぱいをまさぐった。

 本当に別人格か?


「んんん、んんん、うぁぁぁん、ひぃぃ」


 ポヌは混乱しているのか、興奮しているのか、どうして良いのかわからないようだった。

 俺はテーブルの上に横たわるポヌの両脚を持ち上げて……


 がきん!


 俺の視界は一瞬暗転した。


 気づくと、世界が二重に見えて聞こえた。


 白衣を着ている美加先生が、ソファで変なことをしている様子が見える。

 ゴーグル型のウェアラブルコンピュータをかけているから、俺を見ているわけではない。

 俺の方も目線が限られていて、美加先生の上半身しか見えない。

 見えないが、何をしているのかは想像できる。


「はぁぁ、伯爵様ぁ、くぅ」


 伯爵?

 美加先生は、凄いことをしていた。


 一方で、同時にユキナの声も聞こえるし、姿も見える。

 それどころか、ポヌの柔らかな腹の上に顔を埋(うず)めていたようだった。


「そこまでよ、クズ!」


 ユキナは、くノ一用の黒いバチを持っていた。

 恐ろしい形相で睨んでいる。

 既に、殴られたのだ。


 あれっ?

 俺は混乱して、いや、暴走していたのだ。

 初めて、この世界の性欲に染まってしまった。

 いや、初めてじゃないかも?

 委ねてしまったと言うべきか。

 それで、ユキナに殴られて気絶したのだろうか?


 でも、身体を捩る美加先生が確かに見えるし、テーブルの上で、ポヌが両脚を開き気味にして、横を向いて涙を流しているのも見える。

 あちらは薄暗いが鮮明で、こちらは明るいが半透明というか解像度が粗いのがわかる。


「優しく、優しくしてください、お願いします」


 ポヌが、口に出しているのもわかる。


「怖かった? ポヌ?」

「えっ! あの、ええ、いいえ、ユキ姫様。ポヌはきっと我慢できます」

「良い子ね、ポヌ。でも、今日は紋章だけで我慢してね」

「えっ、ああ、はい、ユキ姫様」

「さあ、みんな、ポヌとイナを2階に連れて行ってあげて」

「はい、ユキ姫様」

「はい」

「はあい」


 シモとマリーがイナを助けながら出て行き、ナカがポヌに肩を貸して出て行った。

 ナカは不満そうだった。

 そう言えば、ナカはまだだったような?

 テーブルの上には、ポヌの作った小さな水溜まりができていた。


 しかし、美加先生のひとり遊びも見えているのだ。

 それも、美加先生だとわかるし、場所は俺の部屋であることがわかる。

 カーテンは違っていたけど、焦茶色のソファは、俺の日光浴用のやつである。

 普段は思い出せもしないのに。


 俺は2つの場所に同時に存在している。

 正確には、あちらが覗けるだけだが、あちらのことも現実だと理解できる。

 一体、どうなってしまったのだろう?

 しかし、頭の混乱はいつも通りだった。


 美加先生の口にしている『伯爵』とは俺のことなのだろうか?

 いや、特殊なゲームか何かをおかずにしているのだろう。

 きっと、そうだ。


「何かご不満ですか、クズ兄様」


 ユキナがテーブルを拭きながら睨んでいる。


「ユキナ、異常事態が起きているんだ」

「確かに。ポヌにあんなことをして!」

「途中からわけがわからなくなって…… ユキナのお陰で正気に戻ったと思ったら別世界が見えるんだ」


 うーん、ユキナに向こうの話をして、通じるだろうか?


「そうですか? 興奮してポヌのあ、いいえ、水を嘗めようとしていませんでしたか?」


 あ、って何だろう?

 ユキナの顔も赤い気がする。


「いやあ、ユキナ信じてくれ! 良くわからないんだが、俺が、俺の世界にいる」

「ふん、クズは往生際が悪いですね」

「ほんとなんだってば!」

「なら、欲求不満ですね。それはそれでユキナたちに対する侮辱ですよ。さあ、こっちに来てください」


 俺はユキナに手を引かれて部屋を出た。

 階段の上には、下の様子を伺う少女たちが何人かいた。

 書生たちだろう。

 彼女たちは領地の技術発展のために、教育係として領民に嫁ぐことになっている。

 まあ、不満な連中が多いのだが、教育制度の拡充のために必要なのだ。


 伯爵邸は1階に土間があり、他に大きな食堂兼会議室兼執務室があり、奥に4部屋あるが、一つは風呂場とトイレだった。

 その風呂場の方でユキナに裸に剥かれて、水を何度もかけられてから、手拭いで拭われて、寝室に連れて行かれた。

 それでも、俺の意識の半分はあっちにいて、美加先生が満足して居眠りするのを眺めていた。


 左のおっぱいを出したままだぞ。

 結構、大きいのだ。


 あちら側の俺は、声は出せず、身体はピクリとも動かなかった。

 見えるのと聞こえる以外の感覚もまるでなかった。


 えーと、いつもの怖い人はいないのかな?

 彼女なら、この事態を何とかできそうなんだが。

 誰だっけ?


 片方の俺は、あちらが見えることによって、いつもより落ち着いている。

 もう片方は、いつもより興奮しているようだ。

 まだ、暴走中なのだろう。


 ユキナは裸の俺の前で裸になると、俺を押し倒した。

 こんな時でも、ユキナはいい女だった。


 俺はユキナに興奮し、美加先生の痴態にも興奮していたので、異常事態にも係わらず励んでしまった。


「あぁ、クズ兄様ぁ、今日は激しいぃ」


 終わると、すぐにモルが入ってきて、目の前で下半身を振った。

 俺の弱点はよく知っているのだ。

 当然、続きがあって、ユキナが風呂へ行き、モルと交代した。

 モルは、太股を俺の目の前に晒して指先でなぞり、その指を俺の口に入れてから『モルの分』と言い出した。


 俺はモルの劇薬にもの凄く興奮し、モルと励んだ。


 美加先生は居眠りしているが、その前でしているような錯覚もあることはあった。

 興奮して、クズであることを再確認してしまった。


 その後、ユキナとモルは左右で眠ったのだが、俺は眠れぬまま、美加先生の居眠りを見続けていた。

 

 俺はあちらでもクズだったし、こちらでもクズだ。

 だが、どうしてこんなことになっているんだろう。

 分裂しているクズ頭は、あちらのクズと合わさっているからだろうか。

 こちらに来たのではなく、あちらと混在していたのだろうか。

 では、やり直しというのは、死んだクズのやり直しではなかったのだろうか?

 つまり、一回目自体が、やり直しではなかったのだろうか?

 ひょっとすると、何度も何度もやり直しているのだろうか?

 世界征服(グランドスラム)を達成するまで帰れない設定なのだろうか?


 帰る?

 ユキナを置いて帰れるわけがない。

 少しずつだが、大事な人が増えてきている。


 もっと、重要な人物がいたような気がするのだが、考えてもユキナとモル以外に思い付かなかった。

 モルは普通に見えるが、ユキナは俺と同じ症状があるように思える。

 時々、記憶が混乱したり、天啓を授かったりするのだ。


 ということは、俺はユキナと二人でこちらに来たのだろうか?


 二人で生きるために来たのだろう。

 理由は思い出せないが、それだけはわかる。

 正確には、愛し合い、子作りするためだ。

 何故、向こうではできなかったのだろう?

 うーん、わからない。


 きっと、俺が何か不都合なことをやらかしたのだろう。

 だが、思い出せない。

 頭の半分は、両隣のユキナとモルに興奮しているだけだ。

 邪魔なのだが、追い出せない。


「美加、はしたないわよ。また、クズのデータで遊んでいたのね」


 視界の外から声が聞こえた。

 悦子先生だ。

 誰だっけ?


「うー、寝不足なの。もう少し寝かせて」

「まったく、クズなんかでなく、外に出てちゃんと男とお付き合いしなさいよ」

「面倒だし、そんな時間もない」

「そんなこと言って、本当はクズが気に入ったんじゃないの」

「あ、あくまでも、患者です」

「そうならいいけど」


 やがて、目の前に美女が現れた。

 柔らかい笑顔で俺を見つめる。


 誰だ、この人?


 だが、すぐに険しい表情に変わってしまった。

 それで誰だかわかった。


「何で片目が開いているの! 美加、起きて! 早く調べて!」


 悦子先生は眼鏡をかけて端末を叩き出した。

 すぐに美加先生が寄ってきて、俺の右目にペンライトを当てる。

 ひどく、まぶしかった。


「右目は普通に反応している。レム睡眠でもないわ」

「ああ、僅かだけどログアウトしかけた記録(データ)があるわよ。一瞬でも戻ってきたのかもしれないわ」

「ええっ、まさか見えていたなんてことは……」

「何をしていたのよ?」

「えっ、ちょ、ちょっとだけ、その……」

「ああ、言わないでいいわ。ラインの一部が混線しているの。ここのデータが流れてる!」

「それって、もしかして?」

「見られたかもね」

「きゃあぁぁ」


 ドタバタと走っていく音が聞こえた。


「クズ、見えてるの?」


 悦子先生が俺の目の前に立っている。

 だが、俺は何の反応もできない。

 見えてるのに、目玉も動かせないのだ。

 だが、俺の名前はクズだったのだ。

 そして、あちらでもクズだったのだ。


「クズ、美加のことは見なかったことにしてあげなさいよ」


 それは恐ろしい笑顔だったので、俺は素直に言いつけを守ることにした。

 しかし、対人スキルゼロではバレるかもしれない。


 悦子先生が眼鏡で何かを操作した。

 悦子先生も、ウェアラブルコンピュータを導入したのだろう。

 両方の俺は、そのまま眠りについた。

 すべて夢だったことにしとこう。




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