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終わりと始まり、幼女と聖剣

「ダック! おいダック!」


「いけない、ユウキ。ここは逃げるんだ」


 後からジョニーが俺を羽交い絞めにする。俺の肘がジョニーの乳首に触れると、『あふん』と何やら痙攣して床にうずくまった。


「ジョニー、姉貴を頼む!」


「NO! いけない死ぬぞユウキ!」


 ジョニーの言葉を背に受け、俺は爆炎の中を駆ける。煙で前が見えず、今一体自分がどこにいるのか前も後も右も左も解らなくなる。


「どこだ、ダック! 返事しろ!」


「しま、たにくん……」


 目を凝らして良く見る。すると、赤と黒の何かが覆いかぶさった物体が煙の中に浮んできた。あれは……。


 オヴァ2号機と3号機だった。ダックはオヴァシリーズに抱きかかえられるようにして守られていて、無傷であった。


「待っていろ、今助ける!」


 オヴァ2号機と3号機は無残な姿になりはてていた。ダックを抱き起こし、お姫様だっこをすると、煙と爆発と炎とジョニーの喘ぎ声の中を走り、外を目指す。


「何で、来たの? 私、死にたかったのに……」


「死にたい奴は、そんな風に笑わない。それに、お前には……生きててもらわなくちゃ困るんだ、俺には、その、お前が必要だから……」


 ダックが顔を真っ赤にして、目を背けた。


 あれ? 俺何かヘンなこと言った? 


 『人妻24時』と『放課後倶楽部』のDVD返してもらわなくちゃいけないんだし、死なれたらもろに困る。


 体育館の外に脱出すると、大爆発が起きて、体育館は木っ端微塵になった。


 俺はダックを地面に降ろすと、肩を後から叩かれて振り返った。ジョニーだ。


「終わったな、ユウキ。あとは、その少女を引き渡せば私の任務は完了だ。大丈夫、私に任せてくれれば悪いようにはしない」


「……本当だな? ダックに何かあったら、許さないからな」


「島谷くん、私のことそんなに心配してくれて……ありがとう」


 ダックは顔も目頭を真っ赤にして、シャ○専用モビルスーツみたいになっていた。


「見てくれ、ユウコも無事だ。あとは――」


「勇気くうんーーーー!」


 学校の校門から元気にやってきたのは、美羽ちゃんだった。美羽ちゃんは、俺の目の前にやって来ると、俺を優しく包み込んだ。


「大丈夫だった!? 勇気くん! 美羽ちゃんを心配させるなんて、いけない子。こんな危ない目にあわせたのは一体誰!? 綾小路家の権力でブタ箱に入れて、手足もぎ取って、毎日クソみたいな飯を無理矢理くわせてやるわ、そして、そして、爪をはいで、ハアハア、歯の神経を一本一本抜いて……クククク」


 美羽ちゃんの目はなんというか、鬼というか、悪魔というかなにやら邪悪なものが宿っていて、目が合ったら呪い殺されそうだった。まさしく豹変だ。


「ちょ! 美羽ちゃん、キャラが違うよ!」


「あ、あら、私ったら、ごめんなさい。興奮すると、もう一人のダーク美羽ちゃんが人格を支配しちゃうの。勇気くんはいい子だから、私をダークにさせないでね」


「う、うん」


「で、そこの女ね。私の勇気くんをこんな姿にしたのは」


 美羽ちゃんとダックの視線が交差した。間にいたジョニーは火花の餌食になって、ネクタイさえも焼け焦げ、ゴールデンタイムには放送できないような状態になっている。


「残念だったわね、島谷くんはさっきこう言ったわ『お前が必要だから』ってね、あなたのような二重人格者の出る幕じゃないの、解る? お・ば・さ・ま」


「おばさま!? ざけんじゃねえぞ、この小娘、ションベンとクソ撒き散らしながら、ハアハア。『殺してください』と。ヒヒヒ、な、泣き叫びながら、生殺しにしてやる、クククク」


 なんか恐ろしいことになった。ていうか、美羽ちゃんがヤバイ。


 もう完全に目が……目が……表現フカノウだ。


「あーちょっとなーにー? 人が気持ちよく昼寝してたってのに。騒がしいったら、ないわ」


「姉貴!?」


 姉貴は目覚めると、一つ大きな伸びをしてでかいあくびをした。


「優子ちゃん、聞いて! この女が、私から勇気くんを奪おうとしているの! 許せないでしょう! 神を恐れぬ鬼畜の所業だわ!」


「島谷くんは私を必要としてくれたの! ヤンデレババアは地獄に落ちてくたばれ!」


 激突した。美羽ちゃんとダックが拳と拳を交わし、蹴りと蹴りを交差させる。


「ちょ! やめてよ2人とも!」


 止めようとした俺に二人から同時に拳と蹴りが飛んで来る。


「うがああ! オヴァシリーズより強い!?」


 それを横目で見ていた姉貴は、ポケットから一本ナイフを取り出すとそれを2人の間に放り投げた。


 何だ? ナイフデスマッチでもさせようというのか?


「あんたたち、うるさい。そんなに勇気が欲しいなら、仲良くはんぶんこなさい」


「は?」


「そうね……それもいいわね」


「そっか。半分にしちゃえばいいんだ」


 そして何故か2人とも納得している。は? 何をどうするっていうんだ?


「じゃあ、美羽ちゃんは勇気くんの下半分をいただきまーす」


「ちょっと! いつ上下半分にするっていう話になったの! ここは仲良く左右に半分でしょう!」


「まったああああ! 昭和のロボットアニメみたいに、俺の体を上下左右に分割して、またくっつけれるとか思ってないだろうなあ!?」


「できるでしょ、あんたなら」


 姉貴はさらっと言って見せた。


「できるか、死ぬわ!」


「だーいじょうぶ。木工ボンドでくっつけりゃ直るって、あんたは頑丈だから大丈夫よ」


「んなわけがあるか!」


 俺は逃げた。ひたすら逃げた。このままでは殺される!


 10キロほど走ったところで、ようやく安心して振り返る。


「は、はあ、はあ、はあ。ここまで、来れば……もう大丈夫だろう」


「おそーい。5分もまたせるんじゃないわよ、このノロマ!」


「げ!? 姉貴!?」


 全速力で走り抜けたにも関わらず、姉貴は涼しい顔して、俺を追い抜いていた。しかも、5分も早く。バケモノか!


「さあ、覚悟なさい。あんたを差し出せば、美羽に借りた借金チャラにしてくれるって約束とりつけちゃったんだからね」


「弟を売るのかよ!」


 俺は後ずさりした。しかし背中が壁に当たって、そこが行き止まりであることを知ると、悟った。


 ――もう終わりだ。


『見つけた』


「え?」


『ようやく、見つけた』


 頭の中に響く声。そして、何か光の玉のような物が上空から迫ってきた。何だ?


「なにこの光?」


 姉貴が光を見上げ呆然としている。逃げるなら今か?


 そして、光は俺と姉貴の間に舞い降りると人の形を取って、具現化する。


 ピンク色のドレスに身をまとい、キレイなアクセサリーをまとっていて、どこかのお姫様のようだったが……彼女の顔には見覚えがった。


「アミちゃん!?」


 そうだ。この子は俺の悩ましいセクシーポーズを見て、俺にハートをブロウクンされた、小学校2年生の女の子だ。


「私の本当の名前はアミール・セレイネルと申します。故あって、こちらの世界でとある宝具と、とある人物を探していました」


「あ、そうなの?」


「はい。そして、今日ついに見つけました、それはあなたです。お兄ちゃん」


「へ?」


「私達の世界を助けてください。魔王ガムランが世界を闇の霧に包み、私達の世界『ヴァーンガルド』は危機に瀕しています。この事態を打開できるのは、異世界の勇者のみ」


 なんだろう。最近こういう遊びが流行っているんだろうか?


 しかし、アミちゃんの眼差しは真剣だ。少なくとも、中二病の邪気眼というわけではなく、真剣な中二病の邪気眼らしかった。


「お兄ちゃんは伝説の勇者様なのです。そして、その手に持つブラジャーこそ、伝説の宝具『エクスカリバー』。さあ、勇者よ、その宝具を持ちて、魔王を討ち、ヴァーンガルドに光を!」


 こんないたいけな少女をがっかりさせてしまうのは、なんというか、かわいそうだ。ここは一つ合わせてあげるのが大人の対応だろう。


「よし、任せてくれ! このエクスカリバーで俺が魔王をブっ倒す!」


 俺はおかんのブラジャーを天高く掲げ、勇者らしくナイスガイに笑ってみた。うん、決まった。


「お兄ちゃん! いえ、勇者様! ありがとう! では、ゲートを開きます。さあ、いざヴァーンガルドへ!」


 アミちゃんはそう言うと、手を空高く振りかざした。そして、何やら呪文を唱え始める。


 うーん。なかなかやるな。アミちゃん。呪文の内容もなかなか凝っている。しかも、ホログラムかなんかで、アミちゃんの足元に幾何学的な模様が現れ、どこかに設置されているのであろう扇風機かなんかで風が巻き起こっていた。


 そして、目の前の空間にぽっかりと黒い穴が開いた。いやしかし、よくできてるな、この立体ビデオ。アミちゃんのお父さんの趣味だろうか?


「さあ、参りましょう。勇者よ。この世界に別れを告げる覚悟はできましたか?」


「俺の覚悟はこのエクスカリバーを手にしたときから決まっている。迷いは無い、行こう、アミちゃん……いや、アミール姫!」


「はい、勇者様!」


 アミちゃんの満開の笑顔。これを見れただけでもこの三文芝居に付き合った甲斐があったというものだ。さて、そろそろ帰るか。


「勇気~。逃がすとでも思ってんの? いい子だからこっちに来なさい」


 気が付くと、姉貴に背後を取られていた。まずい。まずい!


 俺は目の前立体ビデオに飛び込んだ。


「あ、勇者様! お待ちください!」


 しかし、どういうことか。真っ黒い空間が走っても走っても、ずっと続いていて出口が見えない。ていうか、もう5キロは走っているはず。


「勇気~~!」


「勇気くん~~」


「島谷くん!」


「OH、ユウキ。君の功績を称えて賞状を送ることになった。受け取りたまえ!」


「え!? 何で、姉貴だけじゃくて、美羽ちゃんも、ダックも、ジョニーもいるの!?」


 後方には姉貴、ダック、美羽ちゃん、ジョニーがいた。俺はなおも走り抜ける。


 やがて限界がきたのと同時目の前に光が満ちて、気が付くとどこかの部屋の中だった。


「あれ?」


 あたりを見回すと、いつの間にかたくさんの人がいて、後ろには姉貴たちが俺と同じ様に呆然と立ち尽くしていた。


 部屋の調度品なんか見る限り、かなり豪勢な部屋だ。どこかの外国の金持ちの家なのだろうか?


 いや、それ以前になんでこんな所に俺はいるんだ?


「よくぞ参られた勇者ご一行よ」


「は?」


 人の群れの中から、頭に王冠をのっけた中年のおっちゃんが品のいい笑みを浮かべてやってきた。


 そして、その隣にはアミちゃんがいた。


「アミールよ。お手柄だったな。これで、このヴァーンガルドは救われる。さあ、勇者よ! 旅立つのだ! そして、魔王ガムランを討ち! この世界に光を!」


 どうやら、俺達は異世界ヴァーンガルドに召喚されたらしい。そして、俺たちと魔王の戦いが始まった。






 おかんのブラジャー異世界にとんでゆく


 に続くかもしれない

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