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第3話「本当の母」

 殺される寸前で怨霊を祓ってくれた女性が微笑みながら告げる。


「良かったじゃない。貴方にも妖術が扱えて」

「だ、誰なんだ……?」

「ふふっ。きっと驚くでしょうね」


 すると、発光して本来の姿に戻る。戻った彼女は俺がよく知る人物だった。


「か、母さん……⁉︎ 今の姿は何だよ⁉︎」

「これは『妖術』よ。人が妖怪と化して強大な力を得られる。異術の中でも凄い切り札かも」

「き、切り札?」


 取り敢えず色々と説明してもらった。今回は母さんが救ってくれたんだと知ってぎこちない気持ちだ。


 でも、母さんは俺の命を救い出している。だから、感謝しているのは事実だった。


 俺が遭遇した怨霊は怪奇に憑依された女の子みたいだ。最終的に取り殺されてしまったらしい。


 なので、本人は罪じゃないと母さんは述べていた。可哀想な被害者だったんだと知る。


 取り敢えず怨霊から殺されないで済んだ。これから人生は続きていくと分かって気持ちが晴れた。


「一旦、帰って話がしたい。貴方が授かった力を確かめるから」

「え? まさか、あの時……⁉︎」


 確かな感覚と目撃が可能性を示している。あの一瞬で俺は光の塊を解き放っていた。それは記憶に残っているんだ。


 それが気になり始めた。あの力はどこから来たものか分からない。だから、引き出し方は微妙である。


「そう言えば『妖術を授かった』とか言ってなかったか?」

「そうね。言ったかも。私と同じ力が発揮されていたのは確認済みだから間違いない」

「確か俺は異術が扱えなかったはずだろ? それじゃあ何で妖術を使えたんだ?」


 どんどん疑問が浮上していく。これでは一向に謎が解けない。だが、必ず答えは出て来るはずだ。


 取り敢えず理屈を説明してもらった。色々と母さんが教えてくれる。


「まず貴方は“天霊”と接触したのかも。あれは一種の“神の使い”と呼ばれるもの。天霊は不思議な力で何かしら施してくれると聞いている」

「なるほど。それで妖術に目覚めたのか?」

「ええ。それしか説明がつかないわ」


 母さんから“天霊”の存在を聞いて納得した。それなら妖術は授かれるんだと理解が及ぶ。


「––––って、つまり俺は妖術を使えるのか?」

「そうなるわ。でも、私みたいな力は最初から発揮できるものじゃないでしょう。修行を積んでいけば出力が上がるんじゃないの?」

「マジか⁉︎」


 つい驚いてしまった。俺にも異術が扱えるんだと心は躍る。


 ただし、次の発言で少しだけがっかりしてしまった。


「でも、そう簡単に扱える力じゃないでしょう。きっと修行しても怪奇を相手するのは無理だと思う。そんな甘い世界じゃないわ」

「––––え? やっぱそうなるの?」

「当然よ。貴方は駆け出しなんだから」


 修行は想定の範疇に留まっていた。けど、すでに交戦できる状態でもないことは予想外である。


 これから自分は怪奇と対峙するため、どれだけの期間を有して修行しないといけないか疑問だった。


 それでも俺だって異術師としての道を歩みたい気持ちはある。だから、努力していくしか方法はないんだ。


「とにかく鍛え上げてあげる。それと智成さんたちにも話はつけておくわ。当分はみっちり指導してもらうと良いね?」

「う、うわぁ……。凄い厳しそうじゃん……」

「当たり前でしょ。それが異術師を極めるってことよ」


 俺はイメージするだけで身震いした。けれど、その道が俺を誘っている。あたかも誘い込んで彷徨わせようとする魔物みたいな道筋は未知なる領域だ。


 これから手探りで辿りながら進んでいく。それが俺の選ぼうとしていた道だったんだ。


「取り敢えず帰ろう。仕事から帰る途中で私も休みたかったんだ。早くしないと置いていくぞ?」

「あ、待って! すぐ行く!」


 俺は母さんを追いかけた。


 いつの間にか嫌悪していた母さんが尊く見えて来る。これは必然と憧れている証拠かも知れなかった。


 当然ながら智成さんと関係を作っている事実は別にしたい。でも、母さんを捨て置かなかった。


 ––––だって、命を繋いでくれた人だから。


 帰宅して玄関で靴を脱いでいると急に誰かが抱きついて来た。確かな柔らかい感触を味わうと嫌な予感がする。


「お帰りなさい。遅かったじゃん!」

「り、凛奈?」

「ふふん。お母様と二人で帰宅するとか珍しいね? どうしてなの?」

「バカ野郎。偶然だよ。通りかかったから並んで帰って来たんだ」


 こいつは武藤凛奈と言う女子中学生。現在は三年生だった。


 どこかで母さんが拾った捨て子である。凛奈は妖怪に取り憑かれていたが故に捨てられてしまったみたいだ。


 額に呪印が微かな跡として残っている。これは妖怪を寄せつけないお呪いのようなものだ。これがないと今度こそ妖怪は食い殺して来る。


 そもそも妖怪が取り殺そうとした寸前で救っていた。それも相手は凄まじい呪いを扱う『呪猿』と呼ばれる妖怪だと言う。


 とにかく呪印を残して再来させないための跡だった。大抵は破れたりしないんだが、月日を重ねて緩くなっていく。その度に呪術を行使するんだ。


 そんな俺たちは仲の良い兄妹みたいな関係だった。だから、俺としては凛奈が大事な存在である。


「今日は一緒に勉強しよっ! この間、めっちゃ凄い点数でさ! これも兄さんと勉強して来たからだよ!」

「それは良かったな? でも、今度から忙しくなりそうなんだけど……」

「え〜? 何でぇ? 兄さんは帰宅部でしょ?」

「色々と事情があってさ」


 そうやって一言だけ断っておくが、凛奈は凄く甘えん坊だから簡単に引き下がらないだろう。


(どうしたもんか……)


 すると、話を聞いていた母さんがやって来て説明してくれた。優しい表情でゆっくりと引き剥がすように。


「凛奈? お兄ちゃんを困らせたらダメだよ? 今度から凛奈は一人で勉強できないと」

「えー! 母様は厳し過ぎるよぉ! 少しぐらい頼ったって良いんだってば!」

「お兄ちゃんは私と鍛錬するの。実は異術師になれるかも知れないんだから」

「––––え?」


 凛奈が驚いた表情を見せた。何が何だが分かってない様子である。


 すると、凛奈はキョトンとしながら尋ねて来た。


「あれ、兄さんは非異術師じゃなかったっけ? いつから使えるようになったの?」

「ついさっきかなぁ……」

「へぇ⁉︎ 本当に⁉︎ 兄さんってば凄いじゃん!」


 満面が喜びに満ちた表情で溢れていた。それだけ歓喜するような内容だったんだろう。


 でも、そこまで喜んでも凛奈はメリットがなかった。なのに、凛奈は喜んでくれている。


 凛奈が瞳を輝かせながら告げて来た。それは感激を伴っているみたいだ。


「それじゃあ珠美姉さんと並べるんだね! 良かったぁ〜。凄い期待感で爆発しそうだなぁ〜」


(それほど大袈裟に言うことないだろ。でも、本当に喜んでくれるなど、これまで夢にも思わなかったよ)


 きっと奇跡が起きたんだ。不運に見舞われて夢を追えなくなった者など、二度と這い上がれないのが当たり前だと思っていた。


 今、それを覆すような運命の光が俺を照らしてくれている。これは二度とないチャンスだった。


「英助は裏庭に来なさい。まだ貴方は立ち入ったことがないでしょ? 案内するわ」

「は、はい……!」


 母さんから呼ばれ、すぐ駆けつけた。


 多分、案内される先は珠美たちが扱っている修行ばだろう。そこは俺の立ち入りを禁じていた場所だ。


 今から立ち入るんだと考えるたら、凄く緊張して来る。

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