4話でも死にゲー
お読みいただけますことまことにありがとございます。
こうして僕は、何の訳も分からないまま、大抵は真っ暗闇の何処かに、たまに青白い月明かりの下に、見慣れない岩場や船の甲板の様な場所に、飛ばされては骸骨に噛みつかれて死に、死んでは花畑で目を覚まし、また飛ばされては、押し潰されて死に、落っことされて死に、溺れて死に、様々な形で「死んだ」
花畑に戻る度に湧き上がる疑問や苦しみ、悲しみや絶望を訴え出るが、セフラと名乗る掌女は無表情のまま何も応えず、地獄のループを仕掛けてくるだけだった。
「死ぬ気があれば何でもできる!」
ふと、いつだったか会社の上司がそんな事を捲し立てて、僕たちを叱りつけていたことがあった。
死ぬ気があれば何でもできる?
僕は思う。
生きて、一体何をしろというのか。と。ま、仕事だろうけど。
僕にとっては物心ついた時からいつだって、頭にへばりついて離れない疑問の一つだった。
「何のために生きるのか?」
学校に行って勉強に励めば、それがわかるかも知れないと思った。
だが、終ぞ学校で教わる勉強の中で「何のために生きるのか」という「生き甲斐」を学ぶことは出来なかった。
部活動に励めば、それがわかるかも知れないと思った。
だが、終ぞ部活動の中で「何のために生きるのか」という「生き甲斐」を学ぶことは出来なかった。
仕事に励めば、それがわかるかも知れないと思った。
だが、終ぞ仕事の中で「何のために生きるのか」という「生き甲斐」を得る事は出来なかった。
お金を沢山稼げば、それがわかるかも知れないと思った。
だが、お金を稼いで得たものは「何のために生きるのか」という「生き甲斐」ではなかった。
率直に言おう。僕の人生はどん詰まりだった。
38歳にもなって独身で、もちろん彼女もできず、うだつの上がらない毎日を過ごし、不摂生と運動不足で肥満体に成長し、ぶよぶよの腹が強調され、年中ヌルヌルした汗が顔中・体中に噴き出し、髪はボサボサに加え油でテカテカし、脇の下は黄色いシミで不潔感漂う、人生終わった感満載の中年キモオヤジが僕という人間だった。
姓を「あららぎ」名を「このは」という。
「僕っ子などという一部の人間に高く評価される女の子」ではなく、純然たる男の肥満デブこそが僕である。そんな僕がある日、足を踏み入れた居酒屋を出てみると、そこは恐らく「異世界」と呼ばれる場所に変わっていた。
その異世界では「死ぬ気で頑張れば何とかなる」などという曖昧な観念を嘲笑うかのように、何の躊躇も遠慮もなく命を落とす。あまりにあっさり過ぎて「死」がコンビニで売られてるんじゃないかって思うくらいだ。
そうそうレジの隣にあるショーケース、唐揚げの隣くらいにね。「死」0円みたいな感じで・・・。
青じそドレッシングかけのサラダなんてもんじゃない。梅茶漬けとか目じゃない!あっさりだ。あっさり。あっさりすぎる死がすぐ傍にあった。
一例を挙げるならばこうだ。
花畑から飛ばされた最初のあの日・・・。転移した先が何故か海中で、丁度巨大なサメが大きな口を開けていた。そこへ僕が転移して出てきた。わかるだろう?一瞬だよ。バクン!って。
転移してものの3秒。もしかするともっと短かったかもしれない。
僕はまさに魚の餌食になってあっという間に息絶えたんだ。
また別の時にはこんなこともあった。まだ死んだ回数を数えていた時の事だから覚えている。40回目の死だ。転移先が雲の上だったんだ。
皆知ってるか?異世界の雲は上に乗れるんだぜ?
・・・・・・なんて嘘だ!!
でも、最初だけ、ほんのわずかだけどそんな期待をしてみたんだ。あっさり裏切られて墜落死した。
「あああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
バキィ!って感じだった。
はっきり言ってこれってただの無駄死にだよな?大体なんだよ40回目忌念って・・・。誰得なわけ?
死にながらそんなことを考えていた。
大体僕がそんな目にあった時のセフラって女は、無表情のくせして滅茶苦茶嬉しそうなのがわかるんだよね!目が笑ってんだよね!一生懸命笑うのを堪えてる感じ、ビンビン伝わってきてましたよ!
死んで甦って、甦って死んでをもう何度繰り返したかわからない。
50回目くらいから数える事自体馬鹿らしくなっちゃって・・・。
でも悲しいかな・・・僕は何回死んでも強くもならなければ、事態に慣れることも震えがなくなることもなかった。
はっきり言おう。
何の成長もないデッドループをひたすら強いられ続けた。
そして今回は、落下?してきた大きな棚におぞましい骸骨ごとサンドイッチ、圧死である。
まぁ、多分、潰されなくても頸動脈食いちぎられて死んじゃっただろうけどさ・・・。
そうそう、もう一つ聞いてもらえないか?
いや、聞いてくれよ!実は僕、ずっと裸なんだ!
・・・・・・「なに?どうせそういう性癖の人なんでしょ?」みたいな視線はやめてくれ!
実際ちょっと興奮しちゃった事実は認めるから!
そうじゃなくて、全裸なんだ!3回目のトリップから。2回目までは服があったんだ。
最初は、仕事着で着ていた半そでのシャツに黒のスラックス。
2回目は見たことはないが、よくファンタジー系のゲームで出てくる「ぬののふく」ってやつか?
何だこの粗末な生地は?って思ったことがいけなかったのだろうか?
2回目死んでしまった時には、もうスタイリッシュゼンラだった。下着すらなかった。
38歳全裸キモデブおやじにランクアップ・・・いや、この場合ダウンになるのだろうか?
もう、いい加減夢なら覚めて欲しい。夢じゃないのはわかっているけど。
ならせめて、ぼろきれでもいいから服が欲しい。僕にだって恥じらいくらいは残ってるんだ。
さっき会ったばかりの骸骨が着ていたというか、貼りついていたぼろ布でさえ、ちょっとだけうらやましいと思っちゃったくらいなんだ。
「おー、勇者ゲテモノよ。死んでしまうとは情けないーーーーーーーー」
花畑でいつもの台詞を聞きながら意識を取り戻す。
ゲテモノって・・・名前入力意味ないやん。と思うのはもう諦めた。
今現在名前は「コノハ」と姓もつけずにシンプルにしてある。
それでも「キモブタ・デ・ブリーン」とか「アセックサ・チカ・ヨルナ」とか罵詈雑言系の呼び方をされてしまう。ただ、今日はいつもと違う点があった。
「・・・勇者コノハよー。レベルアップでーす。チャララララッチャッチャー」
・・・何言ってんだ?こい・・・危ない危ない!
こちらの方を見下すようなことは、思ってもいけない!思う筈がない!美しい!女神さまサイコー!
「・・・気持ち悪いですよー。コノハ。次のレベルに上がるためにはー、あと35億の戦闘能力が必要でしょー。さあ逝け!コノハよー。楽しみに待っておるぞー!」
・・・35億の戦闘能力て、どこの宇宙の帝王ですかね?いつまでたっても絶望的なこの状態に、セフラは軽く微笑んだ・・・様に見えた。
「・・・レベルアップにつきー情報開示をー、一部ですが許可しまーす。訊きたいことはありますかー?」
「へ?」
まさに「へ?」である。訊きたい事?そんなの山ほどある!
ここは何処なのか?
なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないのか?
僕は夢を見ているのか?
死んでいるのか?
世界がおかしくなったのか?
セフラの今日のパンツの色は何なのか?
そもそも履いてない人なのか?
お金を出せば触らせてもらえるのか?
あーーー!!もう!一杯おっぱいである!!
光の弾がキラッと輝いた気がして、そこで思考を止めた。
「まずー、自分のステータスを確認してくださーい」
よくわからないが、セフラが言う通りに、あのブラウン管テレビの音を立ててステータス画面を開く。
コノハ
レベル2
38歳 男(キモデブ不潔野郎)
体力 :2
精神力 :2
力 :2
防御力 :2
すばやさ :2
賢さ :2
魔力 :2
スキル :ダイエット(死ぬごとに1ミリグラムずつ体重が落ちる)
・・・・・・。
泣いて良いですか?
「泣いて良ーのはー、お金を落とした時とー、蜂に刺された時とー、冷蔵庫のプリンを食べられてしまった時だけー許可しまーす」
「何なんですかっ!?その偏り方!キモデブ不潔野郎ってただの悪口、嫌がらせですよね!?
しかも、ダイエットって何ですか?1ミリグラムとか、このお腹の肉を落とすのに何十年かけたら良いんですか!?しかも死んだ時って、死ぬの前提ですか!?
大体、異世界召喚系の待遇って、もっとチートで俺tueeeeで、ハーレムで、うはうはで、変化球あってもレベル2から超チートとか、女神様のスーパーご加護とか、どじっこ女神様の温情とか、色々とか、何とかとか、トリアエズナマとか、!!!!とかあるじゃないですか!?」
言いすぎただろうか?でも、ここぞとばかりに自分の欲望をゲロってみた。
「はーい。まず自己紹介をー。私はこの現実と幽界の間ー、「サテフ」の管理を担当していまーす。フェアリー族のセフラと申しまーす」
ス・・・スルーですか!?僕の全身全霊の訴え、まさかのスルーですか!?
「キモデブ不潔野郎はー、勇者コノハを見たままのー的確な表現であるとー、巷のフェアリー族から多くのファボを頂いておりまーす。」
え!?ツイッターやってんの?フェアリー族ってツイッターで繋がってんの!?
「ステータスはー、レベルアップ上昇と共に加算されていきまーす。オール2の基準を説明するならばー、膝小僧を擦り剥いたくらいでー死にまーーーーす」
ですよね!?だって、僕、何度か指切っただけで死んだり、小指を机の角にぶつけただけで死んだもん。ちびマ○オとかグラデ○ウスみたいな気持ちで生きてきたよ!?
「スキルに関してはー、日頃の思念の根本にある想いがー、スキルとなって表われるようになっていまーす。ですからー、今回のよーに全くの無価値・無意味なものがー出現する場合もありまーす」
人の根本思念を無価値とか言わないで下さいませんか!?
「基本的にー召喚された勇者はー極めてチートなものでーす。正直に申し上げましてー、あなたは何なのですかー?」
いきなり絶対零度の視線!?生ごみを見つめるような目で僕を見ないでぇ!!!
「しかしー、今回、運よく魔物を巻き込むことが出来たようでー、レベルアップに成功しましたー!この調子で頑張ってくださーい。永遠にーーー」
永遠にって!終わらないってことですか!?無理無駄無謀て事ですよね!?
いやぁ!手を胸元に組んで祈らないでぇ!!
「勇者コノハー。あなたはどういー訳か、何かの間違いに間違いないでしょーが、間違いなくー間違えられて召喚されてしまったー、くそ気持ち悪いキモオタデブ勇者ですー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
死んでいい?いや、また戻って来るんだろうけどさ。
何で見ず知らずの他種族にそんなに罵倒されないといけないのさ・・・。
「表の勇者はー既に多くの民を救う為、立ち上がりましたー。裏の勇者コノハはー表の勇者では出来ない勇者の仕事を遂行していただきまーす。その間コノハは幽界に行くことは出来ませーん。このサテフに召喚される事になっていまーす」
表の勇者?
裏の勇者?
「煌びやかな人生を送るー爽やか青春バージョンの勇者とー肥溜めう○こ掃除担当のー来世幸せになってくれ勇者ーみたいなものでーす」
不条理だ!!!!!!!
異世界勇者でも格差社会!?不公平です!!!断固抗議します!!
「レベルが上がったー勇者コノハの次のミッションにはー、とても残念ですがー私もついていくように命じられておりまーす。それでは向かいましょー」
とても残念って、おい!・・・え?まだ聞きたいことが山ほど・・・。
無駄なのだろう。
相変わらず有無を言わさぬ転移が始まった。
お目汚しのほどを深くお詫び申し上げます。ありがとうございました。