side千鶴――自覚、そしてすれ違う心
本日2話連続更新(1話目)
Side○○とかって言って、おんなじ会話を二回も三回も繰り返すのって、むなしくない?
と、やっぱり思うこむるであった。
ヒロイン力とは、鈍感力と見つけたり。
いかにイケメンたちからのアプローチに鈍感になれるか、
いかに周りからの好意に鈍感になれるか、
いかに自分の容姿、才能その他に鈍感になれるか、
いかに「周りの評価から総合して自分を客観視する」という発想に鈍感になれるか、
いかに「このような距離の詰め方をすれば野郎は勘違いするよね」という常識に鈍感になれるか、
といったことが求められるのです。
だって、気づいちゃったら逆ハーの完結した世界なんて維持できないゲフンゲフン
わーにん、わーにん!
ポエム警報発令中!
(あれは……誰――?)
白いドレスを身に纏ったその女性とアルスさんは、穏やかに、でも楽しそうに言葉を交わしている。
(あれは、本当にアルスさん、なの……?)
だって、あんなアルスさん、わたしは知らない――
わたしの知ってるアルスさんは、滅多に笑顔なんて見せてくれない。言葉数だって少なくて、クールを通り越してむしろ素っ気ないくらいで。
……それなのに。
今わたしの目線の先にいるその人は、端から見ているだけでこちらが赤面してしまいそうなくらいに、甘く蕩けそうな目でドレスの女性を見つめ、始終笑みを湛えていた。
何故だろう、胸の奥がざわざわする。
ドレスの女性は、東屋の柱の陰になっていて、どんな人なのかはよく分からない。今日の夜会で、白いドレスを着ていた人達について思い出そうとしたけど、わたしの記憶力に期待するだけ無駄だった。
でも、時折見え隠れするほっそりした手と、途切れ途切れに聞こえてくる鈴を転がすような声に、華奢で可愛らしい人なんだろうなと思う。
そう。きっとわたしなんかよりもずっとアルスさんにお似合いの――
その親密そうな様子から、昨日今日知り合った、という感じでないのは確かだった。
王城で開かれる夜会に出席するような相手と旧知の仲――以前キースさんが、アルスさんはどこか別の国で身分ある家の出身ではないかと言っていたけど……。
もしかして、アルスさんはこの国の――?
「ドラゴン」「鱗」という単語が耳に入って来て、はっと顔を上げる。
自然と、いつも肌身離さず身に付けているドラゴンの鱗製のアミュレットを、ショールの上からなぞるように手が動いていた。
これは、もしかしたらわたし一人が勝手に思っているだけかもしれないけれど。
このアミュレットはわたし達パーティーの絆の証で。
あんな嬉しそうな顔で、アミュレットについて話しているということは、アルスさんも同じようにアミュレットを大事に想ってくれていたということで。
今アルスさんと相対しているのが自分でないことはちょっと、……うん、ちょっとだけ残念だけど。
わたし達はやっぱり仲間なんだって、素直にそう、嬉しく思えた。
「もうあと――……ふた月もすれば、こんな――――…………って、魔の森に入るのよね」
「ああ、――……」
風向きが変わったのだろうか、二人の会話が良く聞こえるようになって来た。
「そうしたら、こうやって夜に会うこともできなくなるわ」
ドレスの女性の声は切なげだ。
ああ――そうか。この女性はアルスさんのこと……。
(分かってた……分かっては、いたんだけど……)
――胸が、ざわざわする。
「なんとか隙を見て、少しでも会いに行けたらとは思うんだけどな」
こんな、覗き見のような真似はよくない、すぐにこの場を離れなきゃ――とさっきからずっと頭では思っているのに、身体はこの場に縫い付けられたように動かない。
アルスさんとドレスの女性の関係が気になって……ううん、二人が恋人同士でない証拠をどうにか探し出したくて……――?
(なんでわたし、こんなことを考えて……?)
だって、アルスさんに恋人がいようといまいと、わたしには関係のないことでしょう……?
わたしは、自分でもよく分からない感情は一旦端に置いておくことにして、思考を無理矢理別の方向に転換させた。
(それにしても、この声どこかで聞いたことがあるような気がするのよね……でも、一体どこで……)
そう、ずっとこのことが引っ掛かっていたのだ。会話がはっきり聞こえるようになってからは、尚更気になっていて――
う~むむむ、と眉を寄せて記憶の海を渡り歩いていたわたしは、しかし、耳に飛び込んできた次の台詞に、そんな疑問も吹き飛んでしまう。
「魔王討伐なんて茶番、さっさとなくなってしまえばいいのに」
(なっ――!?)
茶番……って、今、そう言った……?
「なんで、なんでそんな酷い、こと……」
思わず、小さな呟きが漏れる。
アルスさんが、エドガー達が、一体どれだけの想いでこの旅に臨んでいると思ってるの?
どれだけ真剣に、この世界の――人々のことを考えていると……
(その、アルスさんが救いたい人達の中には、貴女も入ってるんだよ?)
なのに、それをあんな風に言う、なんて……
「できるだけ早く終わらせるようにするから」
だけど、当のアルスさんは苦笑混じりにそう答え、大して気にした様子はなく。
アルスさんの落ち着いた声音に、わたしも冷静さを取り戻していく。
考えてみれば、魔族は人々の思っているような存在ではなくて、わたし達はどちらかというと、魔族との和平、共存を目指していのだ。
むしろ、魔王討伐なんか茶番にしてしまえ、位の気持ちでいるべきなのだろう。
それに、ただ待つ側には待つ側なりの辛さというのもあるのだろう。そう思えば、彼女の一見無神経な発言も、仕方のないことなのかも知れなかった。
「早く“勇者さまたちの”アルスじゃなくて、“わたしの”アルスに戻ってね」
どこか諦めの混ざった、切なげな声で訴えかける彼女の左手を掬い上げたアルスさんは、
「約束する――この指輪にかけて誓うよ」
とその手に唇を寄せ――
(っ…………)
声が漏れないように両手で口を覆う。
それは、つまり……この女性は、アルスさんにとって指輪を贈るような相手ってことで……
「――指輪にって、大げさだわ。ドラゴンの鱗に誓うほどのこと?」
(ドラ、ゴン――……)
アルスさんが贈った指輪は、ドラゴンの鱗で出来ている――?
彼女が笑い混じりに言った言葉を聞いたわたしは、二人がお互いを大事に想っているのだと気付いた時以上に動揺していた。
アルスさんは最高ランクの冒険者なんだから、ドラゴンと戦って鱗を手に入れる機会もあったのだろう。全くの無関係だと分かってる。
でも、何でだろう、わたし達だけの“絆”に割って入られた、そんな気がしてしまったのだ……。
そんなわたしの気持ちなど当然知る由もなく、彼女は追い討ちをかけるように続ける。
「どうせなら、永遠の愛でも誓ってよ」
(……!)
――“嫌だ”、と思ってしまった。
だって、左の薬指の指輪はとても神聖なもので。そこに誓う愛は、こんな、冗談みたいな調子で言っていいものではなくて。
アルスさんは軽々しくそういうことを言うような人じゃない筈だから、と。
こんな女性、アルスさんに相応しくない、と――。
「それはちょっと誓えないかな」
だから、アルスさんが困ったような顔でそう言った時、自分でも大袈裟な位ほっとして。
だけど……
「今の気持ちを永遠にするなんて、そんなもったいないことできるわけがない。昨日より今日、今日より明日――今この瞬間にも、どんどん好きになっていくんだ」
どくん、と心臓が大きな音を立てる。
……
(だめ……)
目の前の女性に手を差し伸べ微笑むアルスさんは、その声も眼差しも、まるで熱に浮かされたようにどこまでも甘くて……。
(言わないで……お願い……)
「いや、好きなんて言葉じゃ全然足りないな――愛し(っ――――!!)」
わたしは、無意識の内にぎゅっと耳を両手で塞いでしまっていた。
最後まで聞きさえしなければ、全てが“無かったこと”になるという訳でもないというのに……。
(……もう、これ以上ここに居ちゃだめだ……)
人のプライバシーを覗き見するのはよくない、という良識に漸く身体が従う気になってくれたから――という建前で――地面に張り付いた足をどうにか持ち上げる。
――そう。覗き見はよくないから、それだけ。それだけなの。
池に背を向けようとする視界の端で、寄り添う影が重なるのが映った……。
「――……あっ」
地面の小石に足を取られてたたらを踏む。
音を立てないようにゆっくりと移動していたのが、段々早足になって。
気が付けば木々の間を結構なスピードで走っていた。
何故わたしは、こんなにも動揺しているのだろう――?
弾む息を整えながら自問自答する。
アルスさんに恋人がいるのなら、仲間として二人を祝福し、応援すべきで。
アルスさんを無事に彼女の元に帰すという、今回の旅を絶対に成功させないといけない理由が増えたと奮起しなければならないところで。
だから、この動揺はきっと思いがけず二人の逢い引きの場を目撃してしまったことへの後ろめたさの筈で。
――アルスさんの選んだ人が、人類の存亡を賭けた戦いを小馬鹿にしたり、誓いの指輪を冗談の種にするような発言をしたことに失望と怒りを感じたのは。
仲間。……そう、大切な仲間をないがしろにされたような、そんな気がしてしまったから。そうに違いない筈で……
ぽろり、と目から玉のような何かが零れ落ちた。
「――え?」
それは、後から後から溢れて頬を伝い、服に、地面に落ちて行く。
「あ、あれ……? おかしいな、どうして……」
動悸も息切れも止んだというのに、一向に治まる気配のない胸の痛みが、もう“気付かない振り”など出来ないと、心の奥にある感情を、容赦なく暴き立てる。
「――そっ、か…………。わたし……アルスさんのこと、好きだったんだ……」
もうずっと前――二人で月を見上げたあの夜から――違う、初めて名前を呼ばれた、呼んで欲しいと願った時にはきっと好きになってしまっていた。
声を聞くのが嬉しかった。そのペリドットの瞳に自分の姿を映るのが嬉しかった。
時々、……本当に時々見せてくれる笑顔に胸が高鳴って、もっと見せてくれたなら、それがわたしに向けてくれたものだったらどんなに良かったろうと思った。
その笑顔を惜し気もなく与えられるドレスの――指輪の女性に嫉妬して。無理矢理この女性はアルスさんには相応しくないなんて決め付けようとして――。
ううん、彼女にだけじゃない。
偉そうに説教染みたことを言ったけど、冒険者としてアルスさんの隣に並び立てるだけの実力を持つクレアさんが羨ましかった。
気に掛けてあげないと、なんていい子の振りをして、本当はアルスさんが妹のように大事に想っているサキちゃんにまで嫉妬してた。
(わたしは、なんて浅ましい……)
そんな醜い心を、アルスさんへの気持ちごと“仲間として”、“勇者として”なんて綺麗事で塗り潰して。
失恋して、全てが手遅れになって、初めてその事に気付くのだ。
「は、はは……馬鹿だなぁ、わたし……」
自嘲の声が漏れる。
空に瞬く本物の星なのか木々に吊り下げられたランプなのか、境目も分からなくなるような庭園の中。
そこに月は見えなかった。
なんか、ブーメランが飛び交ってる気がするけど大丈夫ですか、千鶴さん。
焼きそばのお話
お好み焼きとか鉄板焼屋さんで食べるような……とまではいかなくても、おいしい焼きそばがお家でも食べたい!
わかります。
でもフライパンで作るとなんだか水っぽくなるの!
なるほど。では、焼きそばの具に何を入れていますか?
豚肉にキャベツ、ネギ、うんうん。ニンジン、タマネギ……あ、はい。モヤシ……そうか、モヤシか……。
結論から言うと、我々素人が水っぽくない焼きそばを作るためには、なるべく具をシンプルにすることが大事だとこむるは考えています。
なので、まずは豚肉とキャベツ、ネギのみで作ることから始めましょう。
材料(二人分):
・焼きそばの麺 2玉
・豚肉 100グラム程度
・キャベツ 大きめの葉2~3枚(100グラム程度)
・ネギ 適当
・焼きそばソース
・塩こしょう お好みで
作り方:
・キャベツ、豚肉は食べやすい大きさに切る。ネギは小口切り。
・熱して油をひいたフライパンにキャベツを入れてさっと炒め、色が変わってきたら豚肉を追加して炒める。
・塩こしょうもしくは焼きそばソースで軽く味をつけ、麺を入れる。
・炒め合わせてソースで味をつけてネギを散らして完成。
メモ:
・よく熱した油でキャベツをコーティングしてぱりっと炒める感じで。
・麺をレンジに20~30秒ほどかけてあたためるとほぐれやすくなる。
・野菜から出る水分で蒸し焼きにする感じで。足りなかったら水少々を足す。
・多めに作る、フライパンが小さい、麺を炒めている間にキャベツがしなしなになったり焦げるのがいやだ、という場合はいったん別のお皿に移しておいて、最後に戻して混ぜ合わせましょう。
・具の種類を増やしたい場合も、別皿に移しておくとやりやすいでしょう。
・モヤシは水っぽくなりやすいので、ネギを入れるタイミングくらいで時間をかけずにさっと炒めるのがよいでしょう。
・こむるは麺をわざと焦がしぎみに作るのが好き。
・隠し味にケチャップを少々入れてもおいしい。ただし、ケチャップ味がするほどに入れてはいけない。
・甘口が好きな人は焼きそばソースではなくてお好みソースで作るといいでしょう。ミックスするのもあり。




