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ピーマンの肉詰めとラズベリーパイの攻防

ルーマー・ゴッデンの『台所のマリアさま』は感動的なお話ですよね。映像が目に浮かんでくるような描写に、素晴らしい挿し絵。特に、完成したマリアさまの絵を見ると、こむるはいつも涙が出そうになります。



そうですねえ、『台所のマリアさま』以外にも定期的に読みたくなる児童書ってのがいくつかありまして、エクトル・マロの『家なき娘』(鶴ひろみさんのご冥福をお祈りします)、バーネットの『秘密の花園』、スピリの『ハイジ』、C・S・ルイスの『ナルニア国物語』――いやぁ、読書って、本当にいいものですねえ。

 台所の窓際に置かれた小さなテーブルには、群青色の布と白いレースが重ねて敷かれていて、そこにはサキが作った料理が少しずつとお茶が置かれている。


 これはいったい何なのかと侍女さんたちにきかれて、サキは


「神さまにご飯やお菓子のお裾分けをしてるの」


 と答えた。この家で快適に暮らせているのと、アルスと引き合わせてくれたことへのお礼である。

 ほんとうは神殿にお供えしに行った方がいいのかもしれないが、この方が小まめにお供えできるし、神さまとは一応茶飲み友だちのようなものなので許してもらえるだろう。


 それを聞いた侍女さんたちは、毎日小さなコップに庭の花を活けて置いてくれるようになった。


 さて、そのお供えされた料理はというと、テーブルに置いて一時間もすればいつのまにか器が空になっていて、サキは神さまがちゃんと受け取ってくれたのだと思っている。


 ある日夕食に作ったピーマンの肉詰めをお供えしたら、なぜか一時間たっても二時間たってもお皿は空にならず、翌朝、干からびたピーマンの肉詰めがそこにあった。

 サキは少し腕を組んで考え、余分に作って“収納”しておいたピーマンの肉詰めとそっと取り替えておいた(干からびた肉詰めはサキがおいしくいただいた)。


 それを朝昼晩と繰り返すこと三日――ついに根負けしたかのようにお皿は空になり、サキはよくできましたと慈愛の表情でラズベリーパイを乗せた小皿を置いた。


 パイは一瞬でなくなった。


 それ以来、ハンバーグに添えたニンジンのグラッセが残ったときも、ナスとトマトのグラタンが手付かずだったときも、ちゃんと食べましょうとの気持ちを込めてラズベリーパイを隣に置くことにしているのである。








「えーっと、つまり?」


 サキは紅茶の入ったカップを片手に首をかしげた。


「どうして最近水しかくれないの、料理をくれたとしても肉と竹の子抜きの青椒肉絲とかピーマンのおひたしとかピーマンの味噌汁とか! ラズベリーパイもついてないし!」


 ふくれっ面でぺしぺしとテーブルを叩く、白い空間の主――要するに神さま。


 紅茶をひと口飲みながら、サキはここに来るまでのことを思い返してみた。


 確か肉とキャベツ抜きの回鍋肉を神さまと一緒に食べて――ラズベリーパイなしでも、ちゃんとお皿は空になった――いつものようにアルスとナタンのお仕事に付き合ってからアルスにぐりぐりくっついて、いつものようにお風呂にヤシのような実でできた豚と胡桃の殻の子豚たち(雑貨屋のおまけでもらった)を浮かべて入り、いつものようにベッドに横になったはずである。


 自分の格好を見てみれば、ゆるく編んだお下げに寝巻きにしているチュニックとズボン……前回と同じパターンだ。


 しょんぼりと神さまは項垂れる。


「そろそろ普通のご飯とかお菓子とか食べたいよ……」


「でも神さま、わたしの作った料理なんかより、もっと豪華なお料理が神殿に供えられたりはしないんですか?」


 とサキは素朴な疑問を口にする。


「まあねぇ」


 神さまは相変わらずお菓子が山盛りのテーブルからミルフィーユをひとつ取り、ぱたりと横に倒してナイフを入れた。


「そりゃそうなんだけど、でも実際には見たことも会ったこともない神さまに捧げられたものより、お茶友だちが他でもない僕のためにお裾分けしてくれたものはやっぱり違うんだよ」


「はぁ……なるほど」


 気のない相槌を打ちながら、サキもカスタードとイチゴのはさまれたミルフィーユを切り分けた。


 しかし、内心では勝手に自分だけが友だちだと(まことに不敬なことに)思っていたのが、向こうもそう思っていてくれたのを知ってうれしく感じている。


「一応ね、君の気持ちもわからなくはないんだよ。ただ、僕が“その誰か”を決めるんじゃなくて、完全にランダムだからさ――ああでも、召喚される子の近くにいるとどうしても余波が飛びやすいってのはあるけど……」


 申し訳なさそうに眉を下げる神さま――なんだかしょっちゅう神さまにこんな顔をさせている気がする――につられるように、サキもしょんぼりと眉を下げた。


「……いろいろ考えてしまうんです。あの日、外で食べようなんて言わなきゃよかった、ああ、でもあの事故にあうことは運命で決まっていたのだからどうしようもなくて――じゃあなんでわたしたちが巻き込まれてしまったんだろうって、でも、それも“こっち”と“あっち”のふたつの世界をまとめて考えるなら大きな運命の流れで、なるべくしてなったのかもって」


 ミルフィーユがぱらぱらと分離していく。


「だからこのこと自体は受け入れないといけないと思ってるし、文句を言うつもりもないんです。ただ……」


 言葉を濁すサキのかわりに、神さまが続けた。


「まあ、巻添えになった召喚の、当の本人たちからあんな風に言われたらねえ……」


 目の粗いパン粉のようになったパイ生地をぐるぐる集めてフォークの背で押し潰しながらうなずく。


「なんて言うのか、あんな人たちのために母さんは犠牲になったのかと思うと、ちょっと、その――あの人たちがなんにも知らないってことも、わたしたちのことを心配してあのお姉さんがああ言ったんだってことも、頭ではわかってるんです。でも、そんなうまく割り切るのは今のわたしにはまだ無理で……」


 つい、そんな風に世界を作り調整する神さまにまで怒りがむいてしまったのだ。


「とはいえ、神さまに八つ当りするようなことじゃなかったですよね、ごめんなさい」


 口に入れたパイのかけらたちは、なんだかしっとりと塩辛かった。


 神さまは優しげな目で微笑む。


「気持ちはわかるって言ったでしょ。大丈夫、僕は神さまなんだから君の八つ当りを受け止めるくらいなんともないんだから――お茶を新しく入れようか、しょっぱい紅茶なんておいしくないもんね」


 サキの前にあったカップを取り上げ、神さまは新しいカップにミルクと紅茶、砂糖を入れ――ついでにミルフィーユのお皿も取り替えてくれた。


「――ふふっ。神さまったら、さっきと言ってることが違いますよ」


 思わずくすりと笑って、サキは改めてテーブルの上を見た。アップルパイにスコーン、チョコレートがけのケーキ……はじめて見るお菓子ももちろんあるが、神さまとのお茶会でサキが気に入って食べたものが網羅されているし、紅茶もサキの好きなミルクティーによく合う銘柄を選んでくれている。


「――そろそろピーマン以外のものが食べたいのはほんとだもん」


 ふいっと神さまはそっぽをむいて口をとがらせた。


「“だもん”って、神さまのくせに、“だもん”って……」


 紅茶を持つ手が震えてこぼれそうになる。


 しかも、神さまのくせにピーマンやニンジンを残す……子供の姿をしているからって、見た通りそのままの歳であるはずもないのに。


 ひとしきり笑ったあと、姿勢を正して、サキは神さまに深々と頭を下げた。


「どうもありがとうございます」


 神さまはそしらぬ顔でマドレーヌを食べながら、


「なんのことだかよくわからないな。あ、でも僕、明日はハンバーグがいいかも」


 などと言う。


「じゃあ明日は特別にニンジンのグラッセじゃなくて、ほうれん草のバターソテーにしましょうか」


「皮つきのフライドポテトもつけて」


 サキは苦笑を浮かべた。


「いっそチキンライス付きのプレートに旗でもつけます?」









「――ってことがあったの」


 ハンバーグのお子さまプレート風の夕食を食べて仕事終わりのお茶の時間、アルスの膝に乗せられてサキは神さまとのお茶会の顛末を語った。


「迷惑をかけちゃったから、しばらくはデザート多めでお供えしたほうがいいかしら……アルス、どうしたの?」


 なんだかアルスが難しそうな顔をしているのに気づいて首をかしげた。


「相手は神さまだってわかってるけど……他意はないって、わかってるけど……」


 大きくため息をついて、アルスはサキを抱き寄せた。


「サキが元気になってくれたのはもちろんうれしいに決まってるけど、それが神さま自らってのは恐れ多くもありがたいことだってわかってるけど」


「うん、ほんとにありがたいことよね」


 なんというか、前置きが長い。


 アルスはもうひとつため息をついて、ちょっとすねたような顔で言った。


「――だけど、俺以外のやつにサキが慰められるってのは、なんかいやだ」


 とっさにサキは両手で胸を押さえ口を引き結ぶ。どこかから心臓が飛び出してはいないだろうか、押さえるのは間に合っただろうか?


「サキ? 顔があか――」


 流れるような動作で作りおきのプリンを取り出し、ひとすくい口に押し込んだ。


「いきなりなにす――」


 ごっくんと飲み込んで、抗議の声をあげるアルスに、さらにもうひと口スプーンを突っ込む。


「そんなに照れなくてもい――」


 無言でプリンをたべさせながら、やっぱりデザート増量キャンペーンは実施しようときめた。

 そのついでにお願いするのだ。今度お呼ばれするときは、アルスもいっしょに招いてくださいと。




真冬でも食べりゃいいじゃないかわらび餅(字余り)



食べたくなったときが食べ時なのです。食べたいだけ練って冷やしてきな粉と黒蜜をぶっかけるのだ!



材料:

・わらび餅粉 50グラム

・白砂糖またはグラニュー糖 50グラム

・水 200cc

・きな粉

・黒蜜


作り方:

・わらび餅粉と砂糖をボウルに入れ、水を加えてよく混ぜる。

・鍋またはフライパンに入れ、ヘラで底をまぜながら中火にかける。

・手応えが重く、透明になってきたら弱火にして練るように混ぜ、全体が透明になったら火を止めそのまま1分ほどよく練る。

・水でさっと濡らしたバットなどに移し、乾かないようにふわっとラップをかけて氷水につけてよく冷やす。

・または、氷水を入れたボウルに水をつけたスプーンですくって落としていく。

・食べやすい大きさに切り分け、きな粉をまぶして器に盛り、黒蜜をかける。

・できたてを食べる。



メモ:


・わらび餅粉がないときはかたくり粉でも可。


・ダマが気になるなら、ざるなどで濾すとよい。水を少し残しておいて、鍋に移したあとのボウルをゆすぐようにして鍋に入れるともったいなくない……かも。


・色を気にしないなら、きび砂糖を使っても別にかまわないと思う。茶色っぽい仕上がりになるけど。


・こむるの好みによりちょっと柔らかめ。固いのが食べたいときは水を25~50ccほど減らしてみればよいのではなかろうか。ゆるっゆるのとろとろがいいなら250ccに、強気の300ccもまたよし。


・かたくり粉、わらび餅粉(混合)、わらび餅粉(100%)を比べると、おいしいけどなんとなく金気を感じるような気がするのがわらび餅粉(混合)、雑味みたいなものはないけどなんとなく物足りないのがかたくり粉、雑味なし、ふおおぉ、これがわらび餅……!となるのがわらび餅粉(100%)。ただしお高い。


・まじり気なしのわらび餅粉は色が黒いので、火を止めるタイミングは透明感のある黒色になったら。あと、ちょっと固めの仕上がりになるので水を少し多めにするのもあり。作った瞬間から風味が落ちていくらしいので、昼に作って夜のデザートに、とかしないですぐ食べよう。


・テフロン加工のフライパンとゴムベラ(ていうか今どきはシリコンよね)を使うと始末が楽。


・抹茶と黒蜜もおいしい。


・少量作りたいときは、

わらび餅粉10グラム、砂糖10グラム、水40ccで軽く一人分。

1:1:4または1:1:5と覚えよう。

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