side千鶴――いただきますの布教はもはや常識
みんな、違和感を“感じ”てはいけないよ!覚えるや抱く、持つなんかが適当だね。違和だったら、感じても大丈夫だよ。
といっても、これは“違和感”という単語を、“違和”を“感じた”状態であると捉えたときの主張であって、“違和を感じている”ような“感覚”であるとするなら、違和感を感じても間違いではないとする主張もあるよ。
ただ、“違和感を感じる”と文字にしたとき、“感”の字が重なって字面的に美しくないので避けるのが吉ではないかなとこむるは思っているよ。こむるみたいな思考回路がレトロなやつからのいちゃもん回避にもなるしね。
似たような案件に“生き様”という言葉があるね。“死に様”から派生した言葉だとは思うんだけど、そもそも死に様の“様”という単語が、“様を見ろ”みたいなあまりいい意味でない“様”を連想させてそこまで美化するのに適した言葉だとは思えないんだ。従って“生き様”も同様であり――っていうか、“ざま”という音が綺麗な響きじゃないんだよね。
わざわざなんかかっこよさげな言い方をしようなんて気取らずに、“生き方”とか“人生”みたいに素直に言えばいいのにね、とひねくれもののこむるは思うんだな。
あれからアルスさんは夕食の時間になっても帰って来ず、朝マリアさんから、夜中遅くに帰って来たらしいと聞いた。
――サキちゃんの家でご飯を食べてしばらくそこにいたのかな? それともギルドに寄って話し合いがあったとか?
「夕べ遅かったんですね、ずっとサキちゃんのところにいたんですか?」
「――ああ、まあそうだな……」
朝食の席で訊いてみると、少し間が空いてそんな答えが返ってきた。
……んん?
何となく、そう、何となくだけど違和感を感じたような気がした。
「アルスは随分と、あの娘のことを気に掛けているのだな」
「ふふ、我々神殿の目が行き届かない所にこうして差し伸べられる手があるというのは、とても有り難いことです」
と言っても、いつも通りのクールな表情で綺麗にナイフとフォークを操るアルスさんの、一体どこにそんなことを思ったのか、疑問は会話の中に流れて消えていく。
「旅から帰って落ち着いたら、皆でまたサキちゃんに会いに行きたいですねっ」
だって、アルスさんの妹(のような存在)ってことは、わたし達仲間にとっても妹みたいなものだから。
アルスさんに笑いかけると、パンを持つ手が一瞬止まり、
「……機会があれば」
と言葉少なに答えてくれた。
「あ、じゃあさ! 今度は俺達がお菓子持ってってやろうぜ。俺、あれがいいなチズルが前に作ってくれたクッキー」
確かにあれは色とか形とかも可愛いし、サキちゃん喜んでくれるかも。材料を持って行って、一緒に作るのも楽しそう。
「レオン。それはお前が食べたいからじゃないのか?」
呆れたようなエドガーの突っ込みが入り、食卓に明るい笑い声が上がる。そんな中、眉ひとつ動かさず食べ続けるアルスさん……う~ん、クール。
それが、昨日のことだった。
「あ。わかった――」
アルスさんの何に違和感を感じたのか、唐突に理解した。
「……? どうしたんだ?チズル」
今わたしは依頼を受けに行ったアルスさん達を待って、レオン君と一緒にギルドで壁に貼ってある依頼を眺めている。
「ああ、ううん――何でもないの」
そう、クール過ぎるのだ。
何て言ったらいいのだろう、無表情さに磨きがかかっているっていうか……。
普段から淡々としていてそんなに表情を動かしたりはしないし、よく喋るって方でもないからちょっと分かりにくいんだけど。
何かあった、のかな。
二人で少しずつ横にずれていって、とうとう端の方まで来た時。
「――ねえ、あんた」
あれ、なんかこのパターン前にもあったような――
声の方に向き直れば、そこには三人の若い女性の冒険者がいて。
「アルスさんとパーティーを組んでるの、あなたよね」
「はい、そうですけど……?」
わたし、この人達に睨まれるようなこと、何かしたっけ?
彼女達は、わたしを壁に押し付けるように取り囲んで来た。うぅ、西洋系の人って女の人でも背が高めだから威圧感が……。
「あなたちょっといい気になり過ぎなんじゃない?」
降って来たのはそんな、棘しかない言葉。
一瞬訳が分からずぽかんとしたあと、遅れて言葉の意味がやって来たけど、今度は何故そんなことを言われるのかが分からず戸惑う。
「え? あの……?」
この人達とはわたし、初対面……だよね……?
「とぼけないで! あんたの所為でクレ「あ! 皆帰って来た、チズル行こうぜ!」アさんは――」
訳が分からないまま、レオン君に手を引かれて囲みを脱け出す。
「レ、レオン君――?」
「あんな奴等の言うことなんて聞かなくていい」
「でも、アルスさん達はまだ」
「いいから」
向かいの壁際に移動して、改めてアルスさん達を待つ。幸いあの女性冒険者達も、鋭い視線は感じるけど追ってまで話し掛けようとはしなかった。
「あの人達、クレアさん……って言い掛けてたよね」
クレアさん。ギルド初日に会った、アルスさんのことを想ってる――
レオン君が小さく舌打ちし、噂で聞いただけだけど、と前置きして教えてくれる。レオン君、この人懐っこい性格で他の冒険者の人達ともさくっと打ち解けて、よく色んな話を仕入れて来るんだ。
「昨日おととい辺りから、あのクレアって女がアルスに振られたって話が流れてるみたいなんだよ。タイミング的におとといのことなんだろうな。で、あのクレアって奴はなんか取り巻きが多いらしいから、あいつらも多分それだ」
「振られ、た……? でも、それとわたしに何の関係が……」
あんな綺麗な人でも見向きもされないの? じゃあ尚更――
……尚更、なんなんだろう? あれ?
苦々しげな顔でレオン君が説明するところによると、
「俺達、アルスとパーティー組んでるだろ? それでチズルが原因で振られたんだって逆恨みしてるらしいんだ」
「ええ……濡れ衣だよ……」
でも、そっか。そんなことがあったから、アルスさんの様子が何となくおかしかったのかな?
「心配すんな、チズルは俺が守るから」
ニッと笑ってレオン君はわたしの頭をぽふぽふする。
「守るって、大袈裟だよレオン君……」
赤くなって俯く視界の隅で、アルスさん達がこちらにやって来るのが見えた。
森の深層には危険な魔物が棲息している。
シカ型の魔物の、まるで梢のように広がる角や時折放ってくる土属性や植物属性の魔法は厄介だし、トラ型の魔物の鋭く伸びた牙や爪、素早い動きには注意が必要だ。わたし達が今倒したイノシシ型の魔物も、その突進力は侮れない。
――とはいえ、王都のギルドで要注意とされるこれらの魔物が入ってすぐの辺りからうようよしていて、奥の方には、それこそSランク冒険者でもなければ太刀打ち出来ないようなドラゴンとかフェンリルなんてのが、普通に出てくるのが魔の森なんだそうだけど。
「それにしても……」
森に生えている食べられる香草や木の実を採取しながら思う。
「随分と食料の現地調達にも慣れてきたよね」
少し離れたところではエドガーとレオン君が、アルスさんの指導で仕留めた魔物の解体作業中。
「魔の森では王宮で昼食を作って貰うわけにはいきませんからね」
隣で一緒に採取中のキースさんが苦笑する。
王都の森での戦いに余裕を持って臨めるようになったわたし達は、魔の森での野営に備えて狩りで仕留めた獲物の解体や焼いたりスープにしたりといった簡単な料理の練習も行うようになっていた。
アイテムボックスの魔法が使えるアルスさんやレオン君が、沢山食料を持って行けば大丈夫じゃないかなんて考え方もあるけれど、向かう先で何があるのか、魔の森を抜けて魔王を倒し、再び帰って来れるまでにどれくらいかかるかも分からないので、食料は勿論持って行くにしても現地調達出来るに越したことはないのだ。
最初は兎や魚、鳥などから始めて、今ではこんな大物でもなんとか自分達で始末出来るようになった(一応、だけど)。
女性がやるには気分のいいものではないからと、エドガー達はわたしにはあまりやらせてもらえないけど、山で猟師をやってるお爺ちゃんなんてのがいたわけでもない(異世界転移あるあるだよね)現代日本人なわたしには、確かにちょっときついものがあるわけで。
だから、せめて周囲の警戒や採取なんかを頑張ろうと思っているのだ。
魚の内臓を取るとか鳥の羽をむしるのがいいところ、兎の皮を引っ張るのにはまだ躊躇いを捨てきれないようなわたしが言えたことではないんだけど、“命をいただく”って、こういうことなんだな――って。
トレイの上に綺麗に切り揃えられてスーパーで並んでいるのではなく。肉って生き物の形をしてるんだって、否が応でも思い知らされる。
やがて、塩と香草で焼いた串焼き(魔物って食べられるんだよね……! 初めて知った時は驚愕だったよ)とパンという簡単な昼食が完成する。
「「「「いただきます」」」」
わたしとエドガー、キースさんにレオン君の声が重なる。
日本にいた時のようについ手を合わせてしまうわたしの癖が移ってしまったのか、いつの頃からか三人も食事の前に手を合わせるようになっていた。
ばりばり白人系統の顔の三人が日本風の挨拶をするのが何となく不思議だ。手を組んで神に感謝の祈りを――とかしてる方がしっくりくるのに。
「チズル? 何を微笑っている?」
そんなことを考えていたわたしに、エドガーが首を傾げる。
「あ、ごめんね。なんか、皆いただきますって言うようになっちゃったなあって……」
そう言うと、三人も互いの顔を見合わせて笑った。
「チズル様に教えて頂いた“作って下さる方やいただく命に感謝を”という考え方は素晴らしいと思ったものですから。神殿の教えとしても広めたい位ですよ」
いえいえ、そんな。キースさん、大袈裟ですって。
「そうなんだよな。特にさ、最近自分で捕った獲物を自分で捌くようになっただろ? それでこの言葉の意味を実感したっていうかさ」
と、少し照れ臭そうなレオン君。エドガーも横で頷いている。
確かにその通りなんだよね。前に、エドガーとマリアさんに“いただきます”の由来を得意気に説明したのが恥ずかしくなってしまう位に実感してる。――日本にいたなら絶対に理解できなかったろうな。
そんな会話の横で、一人静かに食べているアルスさん。……そろそろ、もう少し打ち解けてくれると嬉しいんだけどな……う~ん、クール。
わたしは、鬱蒼と繁る森の木々を仰いだ。
――旅立ちまで、あと少し。
とっても日常回。
いよいよネタも尽きてきたので(堂々たる宣言!)今回はものすごく真面目にパパンのカレー(16話参照)を作るよ!
え?カレーネタが多いって?しょうがないじゃない、好きなんだもの。
材料:
・タマネギ 2~3個
・ニンジン 3分の2~1本
・ジャガイモ 3~4個
・トマト 1個
・ニンニク ひとかけ
・カレー用角切りの牛肉 4~500グラム程度
・ジャワカレーまたはディナーカレー 一箱
作り方:
・タマネギ、ニンジンをみじん切りにする。ニンニクもみじん切り、トマトは皮をむいてみじん切り。ジャガイモはひと口大に切って軽く水にさらしておく。
・熱して油をひいたフライパンでタマネギを最低20分、できれば40分じっくり炒める。
・平行してニンジンもしっかり炒める(15分~20分くらい)。
・フライパンに油とニンニクを入れて弱火にかけ、ニンニクの香りが移ったら取り出してにくにしっかり焼き色をつける。
・タマネギとニンジンを合わせてトマトを入れて炒め、取り出しておいたニンニク、肉、水を加えて煮る。できれば2時間以上。
・火加減は蓋をしてコトコトいうくらい、あくをていねいにすくい、水が少なくなったら足す。
・火を止める10分くらい前にジャガイモを入れる。
・火を止めルゥを割り入れて溶かしたら中~弱火で少し煮込む。
メモ:
・我が家ではジャワやディナーだったけど、お好きなメーカーのものをどうぞ。
・具材や水の量は、使用するカレールゥの表示に合わせて加減する。
・炒めたり煮込んだりする時間は、正直ここまでがんばらなくてもじゅうぶんおいしくはなる。でもがんばるとやっぱりおいしい、気はする。
・タマネギとニンジンは一緒に炒めても可。
・ジャガイモを入れたくないならそれもよし。こむるは付け合わせにフライドポテトにしてしまうこともある。
・ちょっとしたアレンジ?として、タマネギを炒めるときにローリエの葉っぱを1枚放り込む、肉を炒めた最後に酒や赤ワイン、果実酒などを少々入れてじゅじゅっとやる、そのあとのフライパンに少量の水を入れて火にかけ、鍋肌についた旨みを有効活用、あれば生クリーム少々、なければコーヒーフレッシュをひとつ入れてちょっとまろやか風味になどがお手軽でしょうか。
・チョコレートとかコーヒーを入れるのは、やったことがないからわかんない。
ではみなさんよいカレーライフを!




